中学生になる前の身体づくりで準備しておきたいこと-食事編-【トレーナーマニュアルvol.183】

中学生になる前の身体づくりで準備しておきたいこと-食事編-【トレーナーマニュアルvol.183】

はじめましての方も、以前の記事を読んでいただいた方もこんにちは。
福岡県でスポーツ栄養士×アスレティックトレーナーとして活動している後藤優子です。

福岡ではトレーナーやスポーツインストラクターを養成している専門学校での講師、こども食堂の運営サポート、市の離乳食教室&キッズクッキング教室、企業の健康支援でトレーニング指導、女性向けパーソナルトレーニングなどをおこなっていて、オンラインでは、千葉県のジュニアサッカークラブの食事サポートやダンスアカデミーの栄養学講座を担当しています。

また、食にまつわるイベント(農業体験、オリジナルスポーツドリンク作りなど)を開催したり、食育と運動をかけ合わせた遊びを考案してイベントに出店したりと、「楽しく学ぶ」をモットーに日々奮闘しているところです。

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自己紹介はこれぐらいにして、さっそく本題に入ります。

今回のテーマは「中学生になる前の身体づくりで準備しておきたいこと」を栄養学の観点からお伝えする、です。

中学進学、高校進学などのカテゴリが上がったタイミングでのケガや身体の不調が起こりやすく、それらをいかに防ぐことができるかは、選手としても長く野球を楽しんでいくためにもとても大切です。

トレーニングとあわせて食事にも意識を向け、皆さんの心身ともに健やかな野球ライフのお役に立てれば幸いです。

1.はじめに

身体づくりのお話しをするうえで必ず伝えていることがあります。

「なぜ食事が大切なのか?」

それは、野球の練習や持久力アップ、スピードアップのトレーニングをする前の段階までさかのぼります。

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厳しいトレーニングを支えるのは身体。
その身体をつくるための材料は食事(栄養)。

ケガや病気がない状態にする、体調や気分がよい状態を保つことを「コンディショニング」というのですが、食事はコンディショニングを支える土台になっています。

土台ということは、これをおろそかにすると、トレーニングや練習の成果が思ったように出ない状況に陥りやすくなります。

さらに、小学生から高校生の間は身体(見た目)が大きくなることはもちろん、からだの中も目まぐるしく変化している期間=成長期です。

そのため、食べているつもりでも食事量や必要な栄養素が不足しているなんてことも起こりがちです。

食事やトレーニングとあわせて忘れてはならないのが「休養(睡眠)」。
小学生は9~10時間、中学生は8~9時間の睡眠が必要とされています。

練習時間、塾などの習い事、ゲーム、動画視聴、スマホでのやり取りなど1日のスケジュールを見直して、まずは睡眠時間の確保を優先しましょう。


2.自分がとるべきエネルギー摂取量とは?

わたしたち栄養士は選手の食事サポートをおこなう際に、必ず「推定エネルギー必要量」というものを数パターン算出します。

その際に必須となる数字が体重です。
皆さんは体重をはかっていますか?

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成長が止まってしまった大人は、活動して消費したエネルギー量と食べ物や飲み物から得られる摂取エネルギー量を同等にして体重を維持することが求められますが、背が伸びる、筋肉がつくなど組織がどんどん大きくなる成長期にはそれではいけません。

では、いったいどれぐらい摂取すれば不足することがないのか、実際に計算してみましょう。推定エネルギー必要量の計算式は以下の通りです。

基礎代謝基準値×現在の体重×身体活動レベル+エネルギー蓄積量

用語の解説をしていきます。

①基礎代謝基準値
基礎代謝基準値とは体重1kgあたりの基礎代謝量の代表値のことで、年齢や性別で異なります。

※基礎代謝とは、ひとが生きるうえで必要な最小限のエネルギーのこと。

※数値は5年ごとに見直しがあり、現行は2020年版の食事摂取基準の数値を用いていますが、2025年版の食事摂取基準では、以下に紹介する数値が変わる可能性があります。

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②身体活動レベル
座位安静時を1.0としたときに、日常生活や運動、活発な活動が何倍にあたるかを示した数値のことで、年齢毎に数値が異なります。

ほぼ外出せずに家で座って過ごすことが多い場合は「低い」、通学や通勤、買い物、家事、散歩などはあるものの座っている時間が長い場合は「普通」、立ち仕事や頻繁にスポーツ活動を実施している場合は「高い」を選択します。クラブ活動や部活動をしているお子さんは「高い」に該当します。

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③エネルギー蓄積量
成長期には筋肉や骨などさまざまな組織が大きくなっていきます。そのために必要なエネルギーを「エネルギー蓄積量」といいます。

このラインより上のエリアが無料で表示されます。

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例をもとに推定エネルギー必要量を算出してみましょう。

例:12歳男子、体重40kg、身体活動レベル「高い(1.90)」
式)基礎代謝基準値×現在の体重×身体活動レベル+エネルギー蓄積量
31.0(kcal/日)×40(kg)×1.90+20(kcal/日)=2376(kcal)

いかがですか?案外簡単に計算ができたかと思います。
しかし、やや面倒ではありますね。

エネルギー蓄積量の付加はありませんが、簡単に計算してくれるサイトのリンクを貼っておきますので参考にしてみてください。

エネルギー必要量目標体重と身体活動レベルから1日に必要なエネルギー量を算出します。keisan.casio.jp


3.給食との比較

給食は地域や学校によって多少の違いが出ますが、文部科学省によって摂取基準が定められています。

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平均的な過ごし方をしている
小学校6年生では1食あたりおよそ830kcal。

先ほど計算した体重40kgの12歳男子の例では約2400kcal/日だったので、単純に3食で割ると1食当たり800kcalとなり、完食すれば不足していません。

しかし、スポーツをしている、平均より身長や体重がある、朝食が給食よりも少ない、お菓子の量が多く夕食が少ない、たくさん運動した後は食欲がないなどの状況にあるときは不足している可能性があります。

そのため、過不足を評価するために体重測定が重要になってくるのです。

体重測定はどんな時間でも構いませんが、条件をできるだけ統一しておく必要があります。

前日の食事量をもっとも反映しているのは朝なので、起床後に排尿を済ませてから測定するのが理想ですが、朝はバタバタしていてそれどころではないというご家庭も多いと思います。

例えば、帰宅後の夕食前、夕食も入浴も済ませた後、寝る直前でも問題ありません。併せて、体重計に乗る際の服装(Tシャツ&短パン、裸など)も統一しておきましょう。


4.基本の食事のそろえ方

身体の成長のためには、
エネルギー摂取量が充分なことに加え、
栄養のバランスがとても大切です。

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運動(スタミナ)や思考のエネルギー源となる主食=3。
筋肉、骨、血液、ホルモンの材料となる主菜=1。
疲労回復、ストレス緩和、感染症予防など体調をととのえる副菜=2。

主食、主菜、副菜を毎食そろえるのが理想ですが、難しい場合はタイミングをずらして食べる「分食(ぶんしょく)」や、おやつの時間に不足している栄養素を「補食」として食べるのもおすすめです。

食事の質を上げたい場合は、乳製品と果物をプラスするとよりいいですね。

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「食べているのに体重が増えません」という声を聞きますが、掘り下げてみると主食量が圧倒的に足りないことがよくあります。まずは主食がしっかりとれているか見直して実践してみましょう。

特に朝食で主菜や副菜を準備する時間がない場合は、炊き込みごはんで冷凍おにぎりを作っておくなどの工夫でカバーできるのでチャレンジしてみてください。

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5.成長期に不足しやすい栄養素

気にして摂っているつもりでも、成長のスピードに追い付かず不足しがちになる栄養素は鉄。

鉄は血液の材料となり、全身に酸素を運んでエネルギーを作り出すために重要な栄養素で、不足すると疲れやすい、スタミナ切れ、めまい、頭痛など鉄欠乏性貧血の症状が出てしまいます。

貧血になると食事だけでの回復には時間を要することもしばしば。重度になると服薬もしなければなりません。サプリメント摂取や鉄のフライパンでの調理に頼らず、鉄を多く含む食材を毎食取り入れられるといいですね。

鉄は単独で摂るよりも、たんぱく質とビタミンCを一緒に摂ることで力を発揮するので、様々な食材と美味しく食べるようにしましょう。

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また、骨の材料としても筋肉の収縮にも重要なカルシウムも、鉄と同様に不足しやすい栄養素です。小魚や乳製品、大豆製品、切干大根などの主菜や副菜になる食材とあわせて、様々な料理にちょこっとプラスするだけでカルシウムアップを図れる便利食材(ごま、チーズ、かつお節、のり)を常備しておくと調理の手間も省けますよ。

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6.大人の食事との大きな違い

体が成長していく際には、成長ホルモンや性ホルモンが分泌されます。
ホルモンの材料はたんぱく質と脂質。

特に脂質は大人にとっては厄介者あつかいされますが、成長期の子どもにとっては減らしてはならない大切な栄養素です。

炒め物や揚げ物は怖がらずに作って食べさせてください。ただし、大人は控えめでお願いします。

また、青魚やマグロに含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)は脳の発達に、EPA(エイコサペンタ塩酸)は持久力向上や疲労回復に役立つので、主菜のレパートリーに加えてもらえると嬉しいです。

最後に、いただいた質問にお答えします。


7.質問返し

①朝の栄養が不足しがち。
A.炊き込みごはんでおにぎり、ピザトーストなど1回の調理で数種類の食材をとれるような工夫をすると◎。分食や補食で不足した栄養素を別の機会に補うようにする。

②何をどのように食べさせたらいいかわからない。
まずは主食3:主菜1:副菜2を意識してそろえることからトライしてみましょう。

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③食が細くても無理やり食べさせたほうがいい?
A.1回に食べられる量が少ないからこそ、栄養価の高い食材を選ぶ。

3回の食事でなく5~6回に分けて食べる。意図せず摂取エネルギーを上げてしまう甘いドリンクやお菓子、牛乳の摂取量を見直してみましょう。

運動後に食欲がわかない場合は、クールダウンで心拍数を落ち着かせ、胃が食事を受け入れやすい状態をつくる、楽しい食事の雰囲気をつくる、茶碗を大きくすることもたくさん食べられるようになる秘訣です。

④簡単に栄養価アップできる方法は?
A.混ぜる、かける、茶碗を大きくするなど、栄養価だけでなく食べる量を増やす工夫を以下にまとめました。

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⑤試合間の補食とその効果とは?
A.試合間が短ければ短いほど、試合後すぐに糖質メインの補食(下図のエネルギー補給のカテゴリ)を摂ることで、失われた体内の糖質(グリコーゲン)が回復しやすくなります。

固形物よりもゼリー飲料や液体のほうが胃腸への負担が小さく吸収が速いですが、すぐに空腹を感じてしまうことも。
糖質にプラスしてたんぱく質と脂質が少量含まれているもの(ヨーグルトドリンクなど)もおすすめ。

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⑥試合間でラムネ(ブドウ糖)を食べさせるなら量は?
A.試合間に素早くグリコーゲンの回復をするには、体重1kgあたり1g程度の糖質を摂る必要があります。

ラムネ1粒に糖質が約0.6g。すべてラムネで摂ろうとすると40kgの選手なら70粒食べなければなりません。

また、ブドウ糖は吸収が速い分、血糖値が急激に上昇し、その後急降下する低血糖を招いたり、すぐに消費されて長時間効果が続かないなどの側面もあるため、運動直後の固形物が苦手な人でも食べやすいみたらし団子やカステラ、バナナ、ゼリー飲料やヨーグルトドリンクなどとあわせて食べるとよいでしょう。

⑦運動中の水分補給は何がいい?スポーツドリンクは1日にどれぐらい飲んでいいの?
A.運動中はスポーツドリンクがおすすめ(1時間に500~1000mlが目安)。運動中にスポーツドリンクを飲むのが苦手な場合は、運動前や休憩中に塩分タブレットを食べておこう。

ふだんの水分補給は水かお茶にして、食事量が減らないように注意しましょう。

⑧体重を増やしたいけれどお腹がゆるくなりやすい。
A.食べながら流し込むように水を飲んでいないか、よく噛まずに飲み込んでいないか、自分の食べ方の癖を振り返ってみましょう。水は食事の最後に口内をリンスする程度で十分です。
よく噛むことで唾液が分泌され、食物を飲み込みやすくなります。唾液が出にくい人は食べる前に唾液腺のマッサージをするのも有効です。

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また、食物アレルギーや乳糖不耐症、過敏性腸症候群などの可能性もあるため、病院での検査も解決の手段のひとつとして考えてみてください。

⑨プロテインは水で割るのと牛乳などの飲料で割るのはどれがいいのか?
A.基本的には水で割るのがいいですが、味に飽きたり、食欲がなくて食事代わりに飲む場合には、牛乳や100%の果汁ジュースなどで割って飲むのもおすすめです。

たんぱく質の摂りすぎは肝臓や腎臓を傷めてしまう原因にもなるので、本当に必要なのか食事内容を分析して、状況を見ながら取り入れるようにしましょう。(基本的には体重1kgあたり1~1.5gとれていればOK)

※プロテインが活躍する状況例
主菜を食べられなかった、間食(補食)として、運動後すぐに食事が食べられない、眠気に勝てない、寝る前の夜食など

さいごに

いかがでしたか?
やることたっぷりでどれからやったらいいかわからない!と感じたら、以下のステップを参考にして、1つずつできそうなことからチャレンジしてみてください。

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また、お子さんと保護者の方のやる気の足並みを揃えることも大切です。
必ず家族会議をして、やりたいこと、やれないこと、やってほしいことを明確にすることで思いのギャップが小さくなり、家族間のトラブルを最小限に抑えることができます。
せっかく取り組むなら全員が前向きに、楽しみたいですからね。

ここまでお読みいただきありがとうございました。
しっかり食べて、運動して、寝て、強い身体をつくって大好きな野球を長く楽しんでくださいね。

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