投球動作における鼠径部痛へのアプローチ -Groin pain syndrome 鼠径靭帯周囲・腹筋編-【トレーナーマニュアルvol.194】

投球動作における鼠径部痛へのアプローチ -Groin pain syndrome 鼠径靭帯周囲・腹筋編-【トレーナーマニュアルvol.194】

トレーナーマニュアルにて定期的にnoteを投稿させていただくことになりました。
C-I Baseball サポートメンバーの 久我 友也 と申します。
私は整形外科クリニックで勤務しており、メディカルな視点でお話しさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。

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今回の記事は
以前に投稿させていただきました
投球動作における鼠径部痛の病態とアプローチ
①「Groin pain syndrome編」
②「Groin pain syndrome 内転筋編」の続編となります。
Groin pain syndromeや内転筋由来の症状について、病態と病理解剖学的な評価方法を解説しておりますので、まだご覧になっていない方はぜひ下記のリンクからどうぞ!


本シリーズの記事では
野球選手の投球動作中に発生する鼠径部痛について、
現場で実践しやすい評価・実用的なアプローチ方法を解説していきます。

細かい病態や画像所見などは成書をご覧ください。
可能な限りのエビデンスや解剖に基づいた話をメインにさせて頂きます。

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はじめに

野球の動作においては
投球動作:コッキング期の軸足側
守備・走塁動作:側方への切り返し
走行動作:全力疾走
に関与してくるところかと思います。

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本記事では、Groin pain syndrome(鼠径部痛症候群)のなかでも、特に「鼠径靭帯周囲の鼠径部関連痛」に着目し、解剖学的特徴から臨床的評価・治療アプローチまでを整理して解説します。

Groin pain syndromeは疼痛範囲が広く、
以前紹介したDoha agreement meetingによる分類では

今回扱う「鼠径靭帯周囲の痛み」は
「鼠径部関連の鼠径部痛(Inguinal-related groin pain)」に分類されます。

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1. 秋田 功・仁賀 誠・大和 勇・宗田 剛・佐藤 毅. 慢性鼠径部痛の解剖学的基礎―特にスポーツヘルニアを中心に―. Surg Radiol Anat. 1999;21(1):1-5.

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鼠径部関連の鼠径部痛の病態

内転筋由来の場合は、主に内転筋の筋損傷・付着部症などが原因となります。

鼠径部由来の場合は以下のような病態が考えられます。

  • 鼠径管の損傷(後壁である横筋筋膜の伸展・膨隆、前壁である外腹斜筋腱膜の断裂など)
  • 周囲を走行する腸骨鼠径神経・腸骨下腹神経の障害

臨床現場では聞きなれない用語も出てくるため、まず解剖学的な整理から行います。

鼠径管とは

鼠径管は腹腔内と外部生殖器を連絡する構造物で、生殖器関連の神経・血管が走行しています。ただし、「管」と言っても明確な管腔構造があるのではなく、筋膜・腱膜で囲まれた空間構造となっています。

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図の緑で示している部分が鼠径管

1. Hopkins JN, Brown W, Lee CA. スポーツヘルニア. JBJS Rev. 2017;5(9):e6.

鼠径管
上壁:内腹斜筋・腹横筋の共同腱
下壁:鼠径靭帯
前壁:外腹斜筋の腱膜
後壁:横筋筋膜

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これは発生過程で精索が腹壁を貫通した際に形成されます。

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1. Zhou Z, Yan L, Li Y, Zhou J, Ma Y, Tong C. 胎児発生過程と腹膜前筋膜の臨床解剖およびその臨床的意義. Surg Radiol Anat. 2022;44(12):1531-1543.

腸骨鼠径神経、腸骨下腹神経とは

右の鼡径部を示しています。
黄色で示している
①が腸骨下腹神経
②が腸骨鼠径神経

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コーハン L、マッケンナ C、アーウィン A. 腸骨鼠径神経障害。 Curr Pain Headache Rep. 2020;24(1):2

両方の神経ともに鼠径靭帯の上方を通過しており
以下が重要なポイントです。

  • 支配筋:腹横筋、内腹斜筋の下方部
  • 腸骨鼠径神経:鼠径管内を通過する
  • 腸骨下腹神経:鼠径管内を通過しない

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