野球現場で生じるケガは、肩や肘がといった
投球障害が主な印象が強いと思いますが
肉離れを初めとする筋肉のトラブルも多く発生します。
肉離れは試合中や練習中に突発的に発生するため
急性期の対応から競技復帰までのサポートが
野球現場のトレーナーには必要です。
今回の内容は
野球の肉離れで発生件数の多い
ハムストリングス・腹斜筋の
「受傷直後から競技復帰までの段階的なトレーニング」
を紹介していきます。
【マガジン紹介】
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肉離れの段階的復帰プログラムとは
野球現場では肉離れの受傷直後から試合復帰まで
トータルでサポートしていきます。
そのため、受傷直後からの対応、
損傷の重症度、治癒過程に合わせたプログラム立案が必要になります。
肉離れの段階的復帰プログラム
肉離れの段階的復帰プログラムのゴール
最終的なゴールは競技復帰です。
しかし、肉離れの再受傷率は高く、
復帰後2週間以内での再受傷率することが多いとされています。
復帰直後の再受傷は
・復帰時期の誤り
・筋肉が競技負荷に耐えきれない
・伸張性が残存している
などの原因が考えられます。
以上のことから
肉離れから競技復帰を目指すためには
・損傷部位の治癒経過
・筋肉の耐久性
・適切な筋肉の伸張性
などの要素を踏まえながら進めて行くことが必要です。
野球における肉離れ
野球におけるハムストリングスの肉離れは様々な状況で生じます。
主には走塁中や守備の切り返し動作や一歩目の対応時に
受傷することが多いですが
投手の場合には投球中に受傷することもあります。
野球におけるハムストリングス・腹斜筋の肉離れの
詳細については下記の通りです。
野球における肉離れの特徴
肉離れに与える影響
肉離れに与える影響として内因性と外因性がありますが
野球における肉離れの発生要因は
コンディションや身体機能などの
内因性によるものが大半であると感じています。
※奥脇透:肉離れの現状:臨床スポーツ医学:Vol34.No8(2017)
野球現場トレーナーに求められること
肉離れを起こすには、きっかけとなる動作が必ずあります。
そのため、受傷機転の把握が重要であり
・なぜ受傷したのか
・どんな動きで受傷したのか
・どの機能の低下が原因になって受傷したのか
原因を考えていき復帰への道筋を立てていくことが
野球現場で求められるトレーナーの役割になってきます。
野球における肉離れの受傷機転
復帰プログラムを構成する上で、受傷機転の把握は
原因を追求するために非常に重要になります。
トレーナーとして帯同パターンを理解しておくことは
プログラムの構成や受傷原因の究明に
とても重要な情報を得ることが出来ます。
今回は野球現場で遭遇する受傷パターンを紹介します。
ハムストリングスの受傷機転
野球におけるハムストリングスの肉離れは様々な状況で生じます。
主には走塁中(特に本塁ー1塁間)や守備の切り返し動作や
フライを追っている時に受傷することが多いです。
投手の場合には投球中やベースカバーの際に受傷することが多いです。
プレー中の受傷では
走塁中→守備→ピッチングの順で発生が多くなっています。
今回は野球現場で実際に起った
代表的な受傷シーンを紹介していきます。
走塁による肉離れ
走塁中の受傷で最も多いのが、1塁ベース付近です。
本塁から1塁ベース間と1塁オーバーランの減速時に発生します。
本塁ー1塁間での受傷
1塁ベースを踏む際に2つのパターン分類することが出来ます。
①ベース駆け抜けパターン
②ベースを踏みに行くパターン
肉離れの発生が多いのはベースを踏みに行くパターンです。
①ベース駆け抜けパターン
目標がベースよりも先にあることでベース直前で減速することなく
駆け抜けるため、肉離れのリスクが少ない。
②ベースを踏みに行くパターン
目標がベースであるために、膝関節を伸展させスライドを大きく広げベースを踏む。
膝関節伸展位で接地することで
Back Kneeが生じ、急激なストップ動作が起こるので
反動で上半身は前方へ回転する。
上半身の前方回転モーメントを制御するためにハムストリングスの
遠心性収縮が起こり肉離れを受傷する。
1塁オーバーランでの受傷
1塁をオーバーラン時の減速場面での受傷パターンです。
減速動作時に、速度をコントロールすることが出来ずに
急激な減速動作が生じることで受傷します。
減速時に下腿が地面に対して垂直に近い角度で減速することで
ブレーキングが出来ず上半身が前方へ回転し
ハムストリングス に伸張負荷が加わります。
守備による肉離れ
内野手外野手共に同程度の発症頻度です。
受傷シーンとしては、球際の打球処理の際に受傷することが多いです。
内野手の受傷パターン
内野手ではゴロの打球処理の際に受傷します。
特に左右方向の打球の際に受傷することが考えられます。
前方向での打球に対し、スッテプを合わせながら緩やかに
捕球態勢に入り重心が低い状態のため受傷リスクは少ないです。
左右方向では、前方の打球と比較し、ボールへ走る距離が長く
重心も高くなります(俗に言う腰が高い)。
重心が高い位置から、捕球態勢に入ることで
股関節屈曲運動が生じ、ハムストリングス に伸張負荷が加わり受傷します。
外野手の受傷パターン
外野手においても内野手同様に左右方向の打球処理の際に
受傷することが多いと考えられます。
特にライナー性の打球の処理です。
フライ性の打球と比較し、ライナー性の打球では滞空時間が短く
落下地点まで素早く向かう必要があります。
外野手では走行距離も長いため、トップスピードに近くため
ストライドが広がり、接地時に受傷します。
投球による肉離れ
スッテプ脚ののFP~BRにかけての受傷が多く
投球動作時にステップ脚の膝関節を伸展し投球する選手で受傷しやすいと考えられます。
近年の投手ではステップ脚の伸展運動を使い
並進力を回転力へ変換し投球する選手が増えてきました。
伸展力により大きなパワーを生む反面ケガのリスクも高いと感じます。
①ステップ脚 膝関節屈曲位接地→伸展運動
膝関節屈曲位から急激に伸展することでハムストリングス の遠位部に
伸張負荷が加わり受傷します。
②ステップ脚 膝関節伸展位接地→伸展運動
膝関節伸展位で接地し、BackKneeによる上半身前方回転力により
ハムストリングス 近位部に伸張負荷が加わり受傷します。
腹斜筋の受傷機転機転
腹斜筋肉離れの受傷機転の詳細は
「肉離れの病態・動作分析」で詳しく解説されていますので
本noteでは紹介程度に留めておきます。
バッティングによる肉離れ
投球による肉離れ
腹斜筋の肉離れではバッティング・投球時に
共通する動きが生じます。
共通する動き
下肢→体幹→上肢の順で運動連鎖が生じることです。
同一方向へ回旋する際に、
どこか1つのポイントの連動性が低下することで
腹斜筋への過剰負荷が加わると考えられます。
野球現場での受傷後の対応
野球現場に帯同していると肉離れの受傷シーンに遭遇することは
多々あります。
試合中であればその後のプレーが可能かの判断も必要となり
受傷時の対応は非常に重要となります。
肉離れ受傷時の対応
グラウンド内で受傷した時の対応
①プレーを中断し選手の状況を確認する
(試合中は審判の判断により中断)
②体動可能か判断し、体動困難であれば担架を使用
体動可能であればグラウンドからベンチ裏へ移動させる
③評価を行う
受傷部位の評価
選手がプレー継続可能か不可能かは判断するには
SALTAPSを用いて評価します
・See 受傷機転:
・Ask 問診:
・Look 視診:
・Touch 触診:
・A-ROM 自動可動域:
・P-ROM 他動可動域:
・Strength 筋出力::
+α 歩行 ジャンプ
上記項目が全てクリアでプレー継続可能
肉離れ受傷後は、基本的にプレーの継続を中止し
処置を行うのが望ましいと考えます。
(SALTAPSの項目がクリア出来ないと継続負荷)
理由としては、
野球現場では、適切な損傷部位、損傷状況の判断が困難なこと
野球動作ではハムストリングスや腹斜筋の活動を抑制出来ないこと
パフォーマンスレベルが著しく低下すること
以上のような理由により、監督やコーチの報告し
プレー継続を中止します。
大会中やチーム事情でやむおえない場合は
テーピング+バンテージでの圧迫で
再度SALTAPSを評価しクリアできればプレーを再開させます。
(基本的には中断が望ましいです)
肉離れの急性期対応
受傷直後から約48時間はRICE処置を行います。
損傷部位の疼痛抑制および腫脹をできるだけ早期に解消するためです。
長期間におよぶ腫脹の残存は筋の滑走障害を引き起こしたり
二次的な問題を発生させる要因となりますので
急性期の対応は非常に重要になり、早期復帰の鍵になりますので
迅速かつ適切な対応が求められます。
RICE処置
受傷直後はまずRICE処置が鉄則です。
受傷後48時間以内は損傷部位の疼痛を軽減させる目的で行います。
最近では長期間のRICE処置は治癒の遷延させるため
疼痛がピークの時のみ行います。
アイシング方法
凍傷を防ぎながら行う必要がありますので
1回15分~20分を目安に間欠的に行います。
バンテージにて圧迫も同時に行います。
安静肢位
損傷部位の緊張が取れるポジションが望ましいです。
・ハムストリングス :膝関節屈曲位
・腹斜筋:側臥位(肩の下にタオルなど入れ軽度短縮位)
・処置方法
受傷直後の急性期対応後は、患部を処置し医療機関の受診を行います。
受傷部へはテーピング+圧迫にて損傷部位への負荷を最小限にします。
歩行困難の場合は松葉杖の処方を行うこともあります。
受傷部位へのテーピング方法
圧迫方法
肉離れの後は、損傷組織周囲の血腫が生じます。
また、筋の伸張短縮によって疼痛が増強するため
圧迫にて、血腫を最小限にし、筋の張力負荷を抑えることが
その後のリハビリテーションへ移行するためには重要です。
血腫が残存してしまうと筋の癒着による、制限が生じ
疼痛も長引きます。
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