【2025年7月版】 AIを活用した投球動作解析の現在地【トレーナーマニュアルvol.210】

C-I Baseball 3期生メンバーの三好航平です.

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さて,本日の私の担当記事ですが,タイトルにもある通り「AIを活用した投球動作解析の現在地」について2025年7月現在の情報を整理してお伝えできればと思っています.

1.はじめに

1.1 野球×AI革命の流れ

従来,投球動作を詳細に可視化するには数千万円弱のマーカー式モーションキャプチャーやハイスピードカメラが必要でした.ところが近年はAIの進化により,スマートフォンやクラウドAIさえあれば,実験室並みの3D解析が臨床やグラウンドでできる時代に突入しています.また,テレビ中継の映像から動作解析が可能になる技術が生まれるなど,「映像・動画から3次元動作解析」という流れは加速しているように感じます.

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医療機関から野球現場へ向かう理学療法士が知っておくべきこと-臨床と現場のギャップ‐【トレーナーマニュアルvol.209】

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今回のnoteでは、私が医療機関から野球現場に出たときに感じたギャップや苦労した経験を中心にお伝えしていきます。
これから野球現場に関わっていきたいと考えている理学療法士の方、またはすでに医療機関で選手を診ているものの、現場での経験が少ない方へぜひ読んで頂き内容です。

■はじめに


私は、専門学校卒業後、都内の整形外科クリニックに就職しました。 当時、都内では有名なクリニックであり、1日の来院数も非常に多く、技術力の高さでも理学療法士界隈で注目されていました。私も「臨床力・技術力を磨きたい」と思い、入職を決めました。

日々の臨床の中では、スポーツ選手を担当することも多く、特に野球選手の怪我に触れる機会がありました。しかし、私が関わる選手たちは、すでに状態が悪化していたり、翌日の試合に出るのは難しいような状態であることがほとんどでした。

「ここまで悪くなる前に、もっとできることがあったのではないか?」そんな思いが出てきました。
私には野球をしている弟たちがいて、彼らも同様に怪我をする可能性があります。彼らが怪我をせずに野球を思う存分やってほしいと思い、4年間勤めた整形外科を辞めて野球現場に出ることを決意しました。縁あって理学療法士5年目からは「大学野球部のトレーナー」として勤務することになりました。

■野球現場に出た感じたギャップ


整形外科クリニック時代の4年間では、小学生から大学生までの野球選手の投球障害や腰痛、膝・股関節の痛み、捻挫など、さまざまな症状に対応してきました。
特に投球障害肩、肘については症例も多く経験し様々な勉強会へ参加、著名な先生の臨床見学に研修を自分のできる限りの勉強を積んでいました。
投球障害なら診れる、治せると自信満々で出た、大学野球現場でしたが、その自信は早々に崩れ落ちました。
いざ大学野球の現場に出てみると、そこには医療機関とは全く異なる”文化”や”スピード感”が存在していました。グラウンド内で評価、外傷への対応すぐに状態を見極め、プレーを継続できるかどうかを即座に判断しなければならない。何十人もの選手を一度にトレーニング。医療機関では経験しなかったことがたくさんありました。
そして、
経験が少ないトレーナーは指導者の方や選手からの信頼も薄いです。なにも期待されず、頼られずの1年は苦しかった記憶が強いです。
念願の野球現場での仕事を素直に楽しめず、ただ1日が終わっていく感覚がありました。

ここからは、私が1年間苦しんだ理由をお伝えしていきます。

■選手や指導者とのコミュニケーション

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現場に出て、最初につまずいたのが「選手や指導者とのコミュニケーション」でした。

クリニックでは基本的に1対1のやり取りで、選手は治療を受けに来ている患者さんで信頼関係も比較的築きやすい環境でした。

しかし、野球現場では状況が大きく異なります。

チームに入ってすぐのころは、”知らないトレーナー”がいる。という目で見られていました。選手も私になにを伝えるべきなのか、どんなことができるトレーナーなのかわからなかったと思います。
選手からも話かけられず、自分から話にいっても反応が薄い状況でした。
今考えれば、知らないトレーナーに急に「今の肩の状況どう?どのあたりが痛い?」と聞かれても急になんだ・・・と思いますよね。


指導者の方とのコミュニケーションも苦労しました。
監督やコーチはチーム全体を見ながら「試合でどの選手を起用するか」という視点で動いていて、医学的な理屈だけでは納得してもらえない場面も多々あります。

私が現場に入って間もない頃、ある選手の肩の状態を見て「今日はスローイングを控えた方がいい」と判断し、そのままコーチに伝えました。しかし、選手は試合に出たく無理ありキャッチボールやノックに入っていました。
当然コーチからは「使えないのか?今日投げないって聞いてたけど?、でもノックできているよね?」と不信感を与えてしまったのです。

その時に痛感したのは、医学的な判断と現場の判断にはギャップがあるということ。そして、それを埋めるのが“コミュニケーション力”だということです。

指導者の目線(練習計画、チーム事情)
選手の目線(試合への想い、プレーを続けたい気持ち)
トレーナーの目線(安全性、再発予防)

この3者の視点を整理したうえで、「どう伝えるか」「誰とどのタイミングで共有するか」が非常に重要になります。

報連相をこまめに行うこと。 現場の空気を読むこと。 指導者の意図を理解する努力をすること。 そして、選手の声をしっかり聞き取ること。

これらを一つずつ積み重ねることで、ようやく信頼を得られるようになり、「あいつの言うことなら聞こう」と思ってもらえるようになりました。

コミュニケーションは技術です。現場では、医学知識と同じくらい、もしかするとそれ以上に「信頼される話し方・立ち振る舞い」が重要になるのだと、強く実感しています。


■タイムスケジュール

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現場に出てまず感じたのは、1日の流れや“時間の使い方”が、病院勤務時代とまったく違うということでした。

整形外科クリニックに勤めていた頃の1日は、以下のようなタイムスケジュールでした。

〈整形外科クリニック〉

8:00 出勤
9:30〜13:30 午前リハビリ業務
13:30〜15:30 休憩
15:30〜19:30 午後リハビリ業務
19:30以降 カルテ記入、勉強会、技術練習など
22:00前後 帰宅

1日に20〜40分のリハビリをじっくりと1人の患者さんに提供できる環境で、業務後は自分の技術力を高める時間にも充てていました。

一方、野球現場では時間の流れがまるで違いました。

〈大学野球部〉

5:00前 起床(自宅からグラウンドまで1時間以上)
6:30 現場入り
7:00〜9:30 朝練対応
9:30〜11:00 上級生の自主トレーニングサポート
11:00〜14:00 上級生のケア対応
14:00〜15:00 休憩
15:00〜18:00 下級生トレーニング、練習対応
18:00〜20:00 下級生ケア
20:00頃 帰宅

勤務時間だけを見れば、整形外科時代と大きく変わったわけではありません。
ただ、“生活リズムが大きく変化した”ということが身体的にかなりキツかった。正直、最初の数ヶ月は身体が全然ついていきませんでした。

さらに、1日を通して選手対応が何回転もあるため、同じトレーニングメニューを1日3回繰り返すこともありました。コロナ禍では少人数制だったため、同じ内容を午前・午後・夕方に分けて3回行うことが通例で、その度に同じ熱量を保ちながら指導する必要がありました。

こうした“繰り返し”もまた、医療機関時代にはなかった負荷のひとつです。

そしてもう一つ大きかったのが、“1人にかけられる時間の違い”です。

クリニックでは、1人の患者さんに20〜40分、しっかり時間をかけて対応することができました。しかし野球現場ではそうはいきません。
練習前後のわずかな時間に、選手が立て続けに来る。
ベッドでは20分以内、それも待たせてしまえば次の選手に対応できなくなる。
グラウンド上での状態確認や判断は、数分以内に決断しなければいけないこともあります。

つまり、野球現場では「瞬時に状態を見抜き、適切な対応を取る」ことが求められる環境です。

私自身、肩や肘の障害に関しては、クリニック時代からそれなりの自信を持っていました。
でも、現場ではその技術をフルに活かす「時間」すらない場面が多い。
そんなときに試されるのは、対応の引き出しの多さです。

徒手だけに頼るのではなく、エクササイズ、テーピング、物理療法
時間が限られていても、今この瞬間に選手のために“何をすべきか”を選び抜く判断力と準備力が必要だと痛感しました。

特にエクササイズや物理療法の知識は野球現場では”必ず必要”になります!

■リハビリ・トレーニングの強度差

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熱中症予防について【トレーナーマニュアルvol.208】

はじめに

すでに梅雨入りもかなり湿度が高くなってきた今日この頃ですが、間もなく高校野球では夏の甲子園に向けた各都道府県での県予選が始まろうとしています(一部の地域を除いて)。

毎年この時期に必ず話題となっているのが「熱中症」です。
せっかく3年間頑張ってきたのに最後の大会で熱中症となり、満足いかないプレーしかできず引退してしまうのは本人もそうですが、サポートしている側としても悲しいですよね。

今年の6月より熱中症対策の強化について法律が改訂されました。

1 熱中症を生ずるおそれのある作業()を行う際に、
 ①「熱中症の自覚症状がある作業者」
 ②「熱中症のおそれがある作業者を見つけた者」
がその旨を報告するための体制(連絡先や担当者)を事業場ごとにあらかじめ定め、関係作業者に対して周知すること

2 熱中症を生ずるおそれのある作業()を行う際に、
 ①作業からの離脱
 ②身体の冷却
 ③必要に応じて医師の診察又は処置を受けさせること
 ④事業場における緊急連絡網、緊急搬送先の連絡先及び所在地等
など、熱中症の症状の悪化を防止するために必要な措置に関する内容や実施手順を事業場ごとにあらかじめ定め、関係作業者に対して周知すること

※ WBGT(湿球黒球温度)28度又は気温31度以上の作業場において行われる作業で、継続して1時間以上又は1日当たり4時間を超えて行われることが見込まれるもの

厚生労働省富山労働局HPより引用

このように今回の改訂にあたり対象となるのは、屋外での作業が見込まれるものです。
野球現場についても同程度であると考えられ、対策をしていく必要があります。
熱中症については年々関心が高くなり、熱中症に関する事柄についてはもうすでに社会通念であるという時代に突入し始めていると考えた方がいいと思います。
そのため「知らなかった」は通用しなくなってくると思います。

今回はその熱中症について紹介していきたいと思います。

熱中症とは?

「熱中症」は、高温多湿な環境下において、体内の水分及び塩分(ナトリウムなど)のバランスが崩れたり、循環調節や体温調節などの体内の重要な調整機能が破綻するなどして発症する障害の総称である。

厚生労働省 職場のあんぜんサイト

熱中症には以下の4種類があると言われています。

①熱失神
皮膚血管の拡張と下肢への血液貯留のために血圧が低下、脳血流が減少して起こるもので、めまいや失神(一過性の意識消失)などの症状がみられます。

②熱けいれん
大量に汗をかき、水だけ(あるいは塩分の少ない水)を補給して血液中の塩分濃度が低下したときに起こるもので、痛みをともなう筋けいれん(こむら返りのような状態)がみられます。

③熱疲労
発汗による脱水と皮膚血管の拡張による循環不全の状態であり、脱力感、倦怠感、めまい、頭痛、吐き気などの症状がみられます。

④熱射病
過度に体温が上昇(40°C以上)して脳機能に異常をきたした状態です。体温調節も働かなくなります。種々の程度の意識障害がみられ、応答が鈍い、言動がおかしいといった状態から進行すると昏睡状態になります。高体温が持続すると脳だけでなく、肝臓、腎臓、肺、心臓などの多臓器障害を併発し、死亡率が高くなります。

JSPO スポーツ活動中の熱中症ガイドブック

①が最も軽症で④が最も重症とされています。
①②は現場で対応し、③④は医療機関への受診が望ましいとされています。

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日本救急医学会熱中症分類2015(大塚製薬HPより)

熱中症の選手が目の前にいる場合、まずは意識障害を認めるか否かがわかりやすい判断基準になるのではないでしょうか。
少なくとも意識障害を認めない(JCS=0)場合はⅠ度に留まるため、現場での応急処置となります。

しかしよくよく選手や指導者に話を聞いてみると、

選手or指導者「熱中症にはなったことありません!でも夏場に立ちくらみを感じたことはあります。」
トレーナー「それ熱中症だから!!!」

みたいな会話はよくあります。
つまり熱中症についてこれだけ話題となり気をかけて対策を練るようにはなってきているものの、まだまだ熱中症についての理解は不十分であると言わざるを得ません。

熱中症のメカニズム

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投球障害肩に潜む「不安定性」を見抜く— 評価とリハビリテーションの視点から【トレーナーマニュアルvol.207】

はじめに

投球動作は、肩関節にとって非常に高い可動域と爆発的なスピード、そして再現性が求められる特殊な運動です。

肩の痛みを訴える野球選手の多くが、「腱板炎」「関節唇損傷」「インピンジメント」といった明確な構造的病変がなくとも、違和感や痛みを訴えるケースがあります。

こうした背景には、
“肩の機能的な不安定性”が隠れている場合が少なくありません。

再現性がはっきりしないような症状。このような症状には不安定性が隠れていることが多いと考えています。

病態と症状が同じにならないということは以前から報告されています。

病態がある方といって、症状があるとは限らないのです。

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明らかな既往障害のない14名の投手の非投球側含めた28肩中、79%に関節唇の異常所見が認められた。

※Miniaci A, et al.: Magnetic Resonance Imaging of the Shoulder in Asymptomatic Professional Baseball Pitchers. Am J Sports Med, 30(1): 66-73, 2002

本稿では、投球障害肩の「不安定性」に着目し、その評価と治療アプローチをエビデンスベースで記載、整理していきます。

「肩の不安定性」とは何か?

肩関節の不安定性とは、肩甲骨の関節窩に対して上腕骨頭の位置保持がうまくいかず、動作中に「ズレる」「抜けそうになる」といった感覚が生じる状態を指します。

もしくは自覚症状が全くないものの、肩関節の不安定性があることから、肩関節内で骨や軟部組織がぶつかりメカニカルストレスが生じてしまうことで肩関節内の症状を誘発してしまうことがあります。

いわゆる、肩甲上腕関節の求心位が逸脱してしまうということです。

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外傷による明確な脱臼や関節唇損傷を伴うケースとは異なり、投球動作の繰り返しで徐々に関節包や靱帯が伸び、“マイクロインスタビリティ(micro instability)”という軽度な不安定性が生じるパターンが多く見られます。これは、特にコッキング期〜加速期にかけての最大外旋位において、肩関節前方に過剰な剪断力が加わることによって誘発されます。

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マイクロインスタビリティを起因とした病態として、関節内インピンジメントである、”後上方インピンジメント(PSI)”が挙げられます。

PSIの病態として、上腕骨頭が前方へ変位してしまい、後方の関節部分で衝突してしまい、後方の軟部組織を痛めてしまうという病態に繋がります。

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※ Walch G.,et al.: Impingement of the deep surface of the supraspinatus tendon on the posterosuperior glenoid rim: An arthroscopic study. J Shoulder Elbow Surg, 1992; 1: 238-245. 参考に引用作図

一見、肩の可動域は広く、筋力も保たれているように見えるものの、「投げると痛い」「肩が抜けそう」といった訴えが出るのが
肩の不安定を起因として病態の特徴です。

野球選手特有の肩の”緩さ”とは?

オーバーヘッド選手、特に野球選手における肩の緩さは数多く報告されています。

投球動作における肩関節のmicro instability(微細不安定性)は、主に外転・外旋の反復ストレスにより前関節包や靭帯が伸張されることで生じる後天的な現象です。

この理論はJobeらによって提唱され、特に野球選手のようなオーバーヘッドアスリートで顕著に観察されます。

以下では、このメカニズムを解剖学的・生物力学的観点から整理し、関連研究を基に補足します。

投球アスリートにおける前方型肩関節不安定性は、治療上の大きな課題である。

※Jobe FW, et al.: Am J Sports Med. 1991

前方の亜脱臼は、前方の弛緩性が多く報告されていますが、
そのほとんどが、2nd肢位での”外旋”の可動域増大のことを指しています。
緩さ=外旋ROMということです。
緩さ≠関節の前後移動量ではないということです。

外旋可動域増加と前方の関節包の伸張が関与。

※Grossman MG, et al.: J Bone Joint Surg Am. 2005
※Warner JJ, et al.: Am J Sports Med. 1990
※Mihata T, et al.: Am J Sports Med. 2004

野球選手における外旋可動域の増加( 5~12°増加)

※Crockett HC, et al.: Am J Sports Med. 2002
※Borsa PA, et al.: Am J Sports Med. 2005
※Borsa PA, et al.: Med Sci Sports Exerc. 2006
※Brown LP, et al.: Am J Sports Med 1988

これは外旋ROMの増大は後捻角の問題もあります。
野球選手は上腕骨頭の後捻角が大きく、外旋可動域の相対的に肩関節外旋角度が大きくなります。

野球選手において上腕骨頭後捻角は右投手左投手関係なく、右側の方が後捻角が大きい

※Takenaga T, et al.: J Shoulder Elbow Surg. 2017 Dec;26(12):2187-2192.

では、野球選手における外旋可動域の増大は、何が原因で生じているのでしょうか?

野球選手における外旋可動域拡大の要因

野球選手における肩関節の外旋可動域拡大の要因は、主に骨性の適応(上腕骨の後捻増加)と軟部組織の変化に分類され、これらが相互に影響し合うとされています。

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