C-I Baseballで投球障害についての記事を担当させていただきます新海 貴史と申します。
普段は整形外科クリニックで投球障害の選手のリハビリテーションを行い、競技復帰をサポートしております。私の記事では臨床目線でお話させていただければと思います。
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今回の記事では多くの野球選手が直面する肩関節後方タイトネスの改善方法について私なりの意見も交えながらご説明できればと思います。
最後までお読みいただけると幸いです。
初めに
一言で”肩後方タイトネスの改善”と言っても硬さを生み出してしまう原因因子に対するアプローチと生み出されたタイトネスに対する治療(結果因子に対するアプローチ)の両軸で捉えることが必要です。
今まで硬さに対して徒手的に後方をほぐして、肩後方のストレッチを処方するだけで終わっていた方々には新たな視点で選手を見るきっかけになるかと思います。
肩関節後方の解剖
肩関節の後方には三角筋後部線維、棘下筋、小円筋などの筋群が存在します。
これらの筋群が遠心性収縮を強いられることにより、野球選手の肩後方の筋群はタイトネスを引き起こしやすくなっています。
野球選手における肩後方タイトネスについて
投球動作ではリリースからフォロースルーにかけて上腕骨が水平内転方向へ高速で振り出されます。
肩甲骨がこの上腕骨の動きに追従してくれれば良いのですが、肩甲骨の動きが悪かったりすると、肩甲上腕関節に過剰に水平内転方向の負荷がかかります。
菱形筋や僧帽筋によるブレーキングが不十分である場合、肩甲上腕関節後方に存在する筋群に過剰に遠心性の負荷がかかるため、よりタイトネスが生じやすくなります
野球選手では上腕骨後捻角の増大、肩関節前方関節包の弛緩、後方関節包や腱板の拘縮などが要因となり、一般的に外旋可動域が拡大、内旋可動域が減少することが言われております。
この内旋可動域の減少が著しい場合、TRM(Total Rotational Motion:内旋+外旋の総和)が減少し、障害のリスクが高くなります。
また、後方タイトネスにより肩関節の求心位がとれていない場合、肩挙上可動域の制限を来す場合があります。
TRMが5°減少することにより肘障害のリスクが2.6倍になる.
Kevin E Will et al. Deficits in glenohumeral passive range of motion increase risk of elbow injury in professional baseball pitchers: a prospective study. Am J Sports Med. 2014 Sep;42(9):2075-81.
非投球側に比べ5°以上の肩挙上制限があると肘障害のリスクが2.8倍になる.
このように肩後方筋群のタイトネスは可動域制限だけでなく、肩肘の障害リスクを増大させる要因となるため、できる限り制限を取り除く必要があると考えます。
肩後方タイトネスの評価方法
臨床で実施する肩関節後方組織の柔軟性評価の方法をご紹介します。
CAT(Combined Abduction Test)
・背臥位で肩甲骨を固定し、他動的に肩外転を行い可動域の左右差を評価します。
HFT(Horizontal Flexion Test)
・背臥位で肩甲骨を固定し、他動的に肩水平内転を行い可動域の左右差を評価します。 正常であれば、検査側の肘が顎のラインまで到達します。
2nd内旋・3rd内旋可動域
上記2つのテストに加えて肩甲骨の代償や上腕骨頭の前方偏位に注意しながら肩甲上腕関節の内旋可動域を2nd、3rdポジションで評価し左右差を見ていきます。
これらのテストは一般的には肩後方組織のタイトネスを評価するテストになりますが、筋の柔軟性だけではなく肩甲上腕関節の求心位が取れているかどうかをチェックするためにも重要な検査となります。
💡POINT💡
HFTや2nd内旋の可動域制限は野球選手の身体特性とも報告されています。
HFTにおいて肩肘痛の既往があった群と既往なし群の比較では有意差を認めなかった。
鈴木智ほか:高校野球選手における投球障害とCAT・HFTの関連性.第8回肩の運動機能研究会誌.37.2011
肩肘痛で医療機関を受診した高校野球選手では有意にHFTが高値を示す.
Takamura T.,Satoshi S.,et al: Abduction, Horizontal flexion, and Internal Rotation in Symptomatic and Asymptomatic Throwing Athletes. 4th International Congress of Shoulder and Elbow therapist. 234. 2013.
野球選手の身体特性として可動域の左右差があるのはある程度は許容されるべきかと思いますが、その左右差が大きくなりすぎると投球障害を惹起する可能性が高くなるということになります。
肩後方タイトネスの改善方法
具体的な後方タイトネスの改善方法の例を以下に説明していきます。
肩甲上腕関節モビライゼーション(A→P)
筋群に対してダイレクトストレッチを行うのも良いですが、まずは上腕骨頭が後下方に移動できるための関節のゆとりを確保しておく必要があります。臨床上、野球歴が長くなればなるほど、肩後方組織の拘縮によってこの後下方のゆとりが無くなっている例を経験します。
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