野球選手における機能的可動域獲得のポイント【トレーナーマニュアルvol.145】

C-I Baseball「トレーナーマニュアル」をご購読頂きありがとうございます。

はじめに

前置きが長くなりましたがここから今回の内容に入ります。
今回はポイントを3つに絞っておりますので是非最後までお読みいただき、少しでも参考になれば幸いです。

今回は野球選手の投球動作において可動域を獲得するときのポイントを解説させていただきます。

スタビリティー・モーターコントロール機能不全

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FMSが提唱する概念の中で、スタビリティー・モーターコントロール機能不全という言葉があります。

”動作を実施する潜在的なモビリティーはあるが、入力または処理に機能不全があるために動作のコーディネーションが示されていない時に存在する。
ある部位の完全なモビリティーが自動的にまたはスタビリゼーションの要求度が変化した時または他動的に示されたときにSMCDと言う所見へと至る。”

このように記されています。

例えば他動SLRは90°上がるのに、ASLRだと70°しか上がらない場合はこのSMCDに該当します。

筋・関節の可動域としては確保されているが、自分でコントロールして操作できる可動域に制限がある場合、
他動可動域と自動可動域のラグがある場合、機能的可動域の制限があると言えます。

投球動作においては自動と他動の可動域の差異を減らすことに加えて、遠心性収縮でも最大可動域をコントロールできる機能が大切になります。

これは投球動作に限った話ではないですが、スポーツ動作においては特にこの機能的な可動域が重要になると考えています。
肩甲上腕関節を例に挙げると、他動的な可動域と自動で動かせる可動域に差が大きくある場合、自分でコントロールできる可動域の制限があるということになるため、関節内で骨頭が暴れてインターナルインピンジメントや腱板損傷などのリスクが高くなると考えております。

投球動作における機能的可動域のポイント3選

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①上肢挙上

野球選手に限らずオーバーヘッド動作を用いるスポーツでは必ず肩関節の屈曲可動域を評価すると思います。
基本的な動作にはなりますが屈曲の仕方によっては出力低下を招いているケースも多く見られます。確実に評価できるようにしておきましょう。

|ポイント
●出力が出る上肢挙上と出力低下を招く上肢挙上

挙上最終域で出力低下が生じるパターンとしては胸鎖関節主体の肩甲骨上方回旋が生じるケースです。この場合、上肢を挙上した際にシュラッグ動作が大きく入り、三角筋と耳の距離が他の2パターンに比べて接近します。
肩鎖関節と胸鎖関節がそれぞれ調和をとりながら上方回旋が行われている場合、最終域で上肢に抵抗をかけても出力が保たれます。

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●過度な肋骨外旋(リブフレア)を伴う上肢挙上運動

続いては、過度な肋骨外旋パターンです。
ウエイトトレーニングなどの影響で胸を開く意識が日頃から強く残っている場合、胸椎の伸展や肋骨の拡張が過剰に生じた上肢挙上運動となります。
そのため、腹圧機能が十分に働かず体幹が不安定になり上肢の出力低下を招くと考えます。
肩関節の屈曲制限がある場合も、代償的にこの部分の可動性を出して挙上可動域を確保しているケースがあるため、評価していきます。

|獲得方法

肩甲上腕関節の可動域改善
まずは肩甲上腕関節でしっかりと屈曲可動域を確保できるようにアプローチをしましょう。評価方法としてはCAT(Combined Abduction Test) 、HFT(Horizontal Flexion Test) などを用いて可動域を評価し、拘縮があればそれに対しアプローチします。
また、背臥位で万歳をしたときにどの程度肋骨が浮いてくるのか、 下位肋骨が拡張してくるのを抑えた状態でどの程度肩関節が屈曲できるのかを見てみるのも良いと思います。

肩鎖関節を軸とした肩甲骨上方回旋運動の獲得

肩関節屈曲最終域での出力低下が生じている多くの選手は肩甲骨の上方回旋を胸鎖関節軸で起こしている傾向があります。
獲得のためのアプローチとしては鎖骨を押さえた状態で肩甲骨の上方回旋をさせ、肩鎖関節を軸とした肩甲骨の上方回旋運動を繰り返します。

●デッドバグ

過剰な下位肋骨の拡張を抑制した状態で上肢挙上動作を獲得させるために有効なエクササイズになります。
鼻から大きく息を吸い、お腹に空気をため込みます。 その状態で息を止めて腰が過剰に反らないように万歳をしていきます。

バリエーションとしては、ストレッチポールやバランスボールなどを用いて腹圧をかけやすくしてあげると肋骨の開きを抑制しやすくなります。

●90-90ポジションでの上肢挙上エクササイズ

デッドバグで腹圧をかけた状態で上肢の挙上動作を獲得することができたら、プログレッションとしてダンベルを用いてエクササイズを行います。
膝関節と股関節を90度に屈曲し、90-90のポジションをとります。 呼吸はデッドバグと同じ方法で、鼻から大きく息を吸いお腹に息をためて腹圧をかけた状態でゆっくりと上肢を最大挙上していきます。ダンベルが地面とすれすれまで落ちたら息を吐きながら前ならえのポジションまで上肢を戻していきます。

肩関節2nd外旋

投球障害の選手の多くは最大外旋(MER)のフェーズで動作のエラーが起きます。
胸椎伸展可動域や肩甲骨後傾可動域、前鋸筋や僧帽筋といった肩甲骨を安定させる筋群の出力なども大事になってきますが今回は肩甲上腕関節に絞って説明させていただきます。

|ポイント
投球動作における肩関節2nd外旋の可動域のポイントとしては、
自動可動域と他動可動域のラグが少ないこと
・外旋最終域まで内旋筋による遠心性コントロールが可能であること
の2つであると考えております。

|獲得方法
腋窩神経へのアプローチ
腋窩神経への実際のアプローチ方法は小林先生のnoteをご参照ください。
腋窩神経への徒手介入後に挙上位での外旋筋機能(小円筋)が改善していればOKです。
Hornblower’s testが陰性になるように徒手介入を行なっていきます。

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今後、理学療法士に求められるスキル・能力について【トレーナーマニュアルvol.143】

いつもC-I Baseball「トレーナーマニュアル」をご購読頂きありがとうございます!

増田が担当するnoteテーマは「チームトレーナーとして働く理学療法士について」です!
1年間かけて皆様に4つの内容をお伝えしていきます

①チームトレーナーとして働く理学療法士の役割
②チームの障害を予防するために
③理学療法士がチームパフォーマンスにどのように関わるのか?
④今後、理学療法士に求められるスキル、能力について

4本目の今回は
今後、理学療法士に求められる
「スキル、能力」
をテーマに執筆していきます。

理学療法士やトレーナーを育成している中で、野球現場に必要な知識やどのような勉強をするべきかについての質問が多く寄せられます。そこで、今回の記事では私が実際に野球現場に出て感じた理学療法士に必要なスキルや知識について紹介します。

理学療法士としての必須スキル、能力について

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皆さんは、他業種と比較して理学療法士には「圧倒的なスキル・能力」があることにお気づきでしょうか?

理学療法士が持っている圧倒的なスキル・能力

私が感じる、理学療法士としての圧倒的なスキル・能力は「病態評価・機能評価・徒手技術」です。
皆さん当たり前のようにやっていることですが、理学療法士が持つこのスキルは、他の医療従事者やトレーナーと比較すると圧倒的な差があります。

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病態評価〜機能評価〜徒手介入のフローは理学療法士としての強みになります。
このフローは自信を持って良いスキル・能力です。
多職種からは「理学療法士ならできて当たり前」と思われています。
この部分の自信がない方は、第一優先として身につける必要があります。
特に評価スキルに関しては、野球現場では必須スキルになります。

今後、求められるスキル・能力について

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前述したように、理学療法士としての圧倒的なスキル・能力を兼ね備えることは重要です。
しかし、近年の野球現場における理学療法士の役割は大きく変化しています。理学療法士が関わる範囲が拡大し、選手のパフォーマンス向上やトレーニング、外傷対応などにも深く関わることが求められています。これに伴い、理学療法士には従来の治療技術に加えて、新たなスキルと能力が求められるようになっています。

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