TFCC損傷に対する治療戦略とアプローチ【トレーナーマニュアルvol.178】

今回は前回に引き続き、TFCC損傷に関するお話になります。前回は病態の説明をさせていただきましたが、実際に対峙した時にどういった対応をとっていけばいいか考えていかなければなりません。そこで今回は、TFCCに対峙した際の治 … 続きを読む

投手のための肩外旋トレーニング【トレーナーマニュアルvol.177】

CIBトレーナーマニュアルについて

①野球現場でのトレーナー活動
 チームトレーナー、育成年代への関わり、パフォーマンスについて

②臨床現場での選手への対応
 投球障害への対応、インソールからの介入

③ゲストライターによる投稿
 バイオメカニクス、栄養…など各分野の専門家の方が執筆しています

④C-I Baseballメンバーによる投稿
 2020年からC-I Baseballへ加入し育成メンバーとして活動していたメンバーがライターとして情報を発信しています。
C-I Baseballで学び、成長していくメンバーの投稿もぜひお楽しみにしてください!

はじめに

先行研究において、野球選手は肩の回旋筋力が重要であることが報告されています。

コッキング期においては肩関節は最大外旋のポジションを通過し,関節前面にかかる力が約350Nを超え,フォロースルー期においては肩甲上腕関節に500N以上の牽引力がかかり,過度な伸張ストレスが加わる.

柳川 竜一ほか:野球部員における肩甲骨位置,および肩甲骨位置と 肩関節内外旋筋力との関係 .理学療法科学 27(4):363–366,2012

そのため、肩関節内外旋筋群の筋力が低下していると,投球動作によって傷害が生じやすくなる.

Bruner P, Khan K: 臨床スポーツ医学. 医学映像教育センター,東京,2009,pp59-100.


また、肘障害の予防の観点からも肩関節挙上位での外旋筋力を上げておくことが重要です。

肩挙上位での外旋筋力の低下が,不良な投球フォームの代表例である肘下がりの原因の一因となりうる.

千葉慎一,嘉陽 拓,三原研一ほか:小・中学生の野球肘患者におけるゼロポジション外旋筋力評価の意義.日肘会誌.2005;13:73-4.
嘉陽 拓,田村将希,千葉真一ほか:野球肘症例における肩甲骨肢位の違いによる肩外旋保持能力について.日肘会誌.2014;21:S58.

肩挙上位での外旋はテイクバックからlate cocking までに重要で,この肢位を保持できないと加速期以降で生じる肘伸展運動のための準備を行えない.

山口光圀,筒井廣明:投球障害肩におけるゼロポジション外旋筋力評価の意義-ボール投げ挙げ動作にみられる特徴との関連- . 肩関節.2004;28:611-4

投球障害の予防や治療の観点だけではなくパフォーマンスを上げるという点においても、肩関節挙上位での外旋筋力を向上させる事は非常に重要であると考えています。

トレーニングの実際

ここからは、私が投球障害肩の選手に対する理学療法で行っている運動療法やパフォーマンスを上げるための肩外旋トレーニングについて、いくつかご紹介させていただければと思います。

TRXを用いた肩外旋トレーニング

TRXを用いたトレーニングになります。
肩外旋筋群の筋力で身体を起こしていきます。

スタート時の足の位置を前にすればするほど負荷が高まるので自身で調整して実施してみてください。

腹臥位肩外旋エクササイズ

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打撃動作とコレクティブエクササイズ【トレーナーマニュアルvol.176】

こんにちは!
野球トレーナーの野坂光陽です!

現在は整形外科のクリニックに勤務しながら
休日の時間を使って野球現場に赴き、野球選手の
トレーニング指導やフィジカルケアなどを行なっています。

CIBの一期生兼サポートメンバーとして、今回も記事を
描かせていただく機会を頂きました!

今回は、「打撃動作とコレクティブエクササイズ」
ということで記事を書いていきます

前回は「投球動作とコレクティブエクササイズ」というテーマで
記事にしております!

このトレーナーマニュアル内で記事が読めるようになっているので
そちらも合わせてご覧ください!

コレクティブエクササイズとは?

コレクティブエクササイズの大枠

コレクティブエクササイズというもの自体聞きなれない人も
中にはいらっしゃるかもしれません

コレクティブエクササイズの意味合いとして
そもそも「コレクティブ」という意味として辞書を引くと

☑︎是正
☑︎中和

そういった意味で使われる言葉になります

つまりコレクティブエクササイズというものは
ある動作を観察し、選手の目標やパフォーマンスアップのために
動作を「是正」するために実施されるエクササイズ
という意味になります。

コレクティブエクササイズの掘り下げ

通常のエクササイズやドリルと何が違うの?
といった意見が聞かれるかもしれません。

私はNASM-CESという資格を取得し
コレクティブエクササイズについての学びを深めてきました。
また、CIB内の勉強会においても、このコレクティブエクササイズを
学ぶ機会がありました。

結論から申し上げると、、、
巷に広まっているどのエクササイズを切り取っても
コレクティブエクササイズになり得るということが
言えます

エクササイズを行うということは、何かプレーで問題があったり
スキル面に問題があったりしたり、もっと向上させたい
能力がある中で実施されるものであると思います。

また、フィジカル(身体組成)に課題を抱える選手にとって
ウエイトトレーニングを行うということは
身体が弱いことをコレクティブしたい=是正したいという
結果から行われるものと考えることができます。

柔軟性が低下している選手にとってはストレッチを行うように
エクササイズの目的としては、何か劣っている部分であったり
補わなければならない能力を向上、補填するために実施されるので
大きな意味合いで言えばコレクティブエクササイズになると
考えることができます。

ただ、ストレッチやストレングストレーニングはどちらかというと
土台の部分の能力を向上させていると捉えることもできます
事実その能力がなければ必要最低限のパフォーマンスが発揮される
ことはないからです。

本記事におけるコレクティブエクササイズの定義

今回ご紹介する内容のコレクティブエクササイズは

主にパフォーマンスアップを目的に実施されるが
どちらかというとスキル向上に寄ったエクササイズ

と定義します。

今回の記事は、前回と同様に
「A Constraints-Led Approach to Baseball Coaching」
の内容を取り入れ、記事にしております

和訳すると、
「野球のコーチングにおける制約主導アプローチ」

最近トレーナー業界でトレンドになっている
制約主導アプローチという思考を用いて
選手の能力値を向上させ、パフォーマンス向上が
できるような内容を今回お届けできればと
考えています

前置きが長くなってしまいましたが、
これから詳細にエクササイズについて書いていきます!!

打撃動作のコレクティブエクササイズとバイオメカニクス

エクササイズを行う前に、、、

打撃動作のコレクティブエクササイズについても
投球動作と同じように

☑︎動作の何を定義して修正するのか?
☑︎どういった意図の中で修正を加えていくのか?

こういった意識的なところが必要になってきます。

今回も前述したように、
制約主導アプローチ(A Constraints-Led Approach)の思考法で
エクササイズを組んで行なっています

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人の動作というのは、身体と環境の相互作用によって
引き起こされるといった概念が、制約主導アプローチと言います。


また今回の記事で重要になってくるのが、バイオメカニクスの観点です

バイオメカニクスの観点からは
☑︎キネティクス(Kinetics)
☑︎キネマティクス(Kinematics)

この両者が重要になってくると考えています

トレーニングの原理原則の中に、特異性の原則というものがあります

バイオメカニクスと特異性の原則との関係性

特異性の原則とは、
☑︎トレーニング時に行われる動作と
実際のスポーツ競技における動作が類似していることが望ましい
☑︎トレーニングで培われた効果しか能力は向上しない

ということが定義としてお話しできます。

1つ目に関しては、、例えば打撃動作であれば
打撃動作というものを細分化してトレーニングをしたり
バットを振る動作に類似したトレーニング内容にしたりすることで
能力が向上するといったものです

2つ目に関しては、例えば長距離選手がパフォーマンスを
上げたいと考えた時に、短距離走のトレーニングはしないですよね?
長距離と短距離、二つの要素として動作が類似していないのと
代謝様式も異なるので、ここではトレーニング効果は薄れてしまうといったように、トレーニング内容はしっかりと考えられている必要がある
と考えています。

上記の説明をしたのには理由があります。

バットを振ることや、投げる、走るなど
身体が動く時には、必ず力学の原理原則に基づいてなされるからです。

キネティクスとは、身体のモーメントや床反力など
力学的かつ数値で表されるものであり
キネマティクスとは、実際の動作を観察できる「動き」のことを指します

キネティクスで表される数値や力の方向、タイミングも重要ですし
もちろんキネマティクスとして見える実際の動作をしっかりと観察することと、その動作の要素を分解する必要があると考えています

キネティクスの結果がキネマティクスなので、
キネマティクス、要は動きだけ真似ても良くないということです

これが、エクササイズだけ上手になって実際のプレーとして
反映されない要因の一つです

昨今はSNSの普及で、様々なエクササイズが流通しており
情報社会になったからこそ、エクササイズの本質をしっかりと考え
それを伝え、体現できる必要があると考えています。

特異性の原則を履き違えないことが必要です。

エクササイズ動作と実際の動作が似ているだけでは、
効果が出るとは限らない。

その打撃動作には、どんな要素があって
どのように解決をしていくことが重要なのかというところを
もっと考えていく必要があると考えています。

バッティングをどう考えていくか?

バッティング(打撃動作)とは投球動作と同じように
複雑な要素の複合因子ですが、投球と違うのは、
動作タイミングの主導権が自分ではなく他者湯まり投手にあるところが
大きく異なります。

打撃動作とは
☑︎視線制御
☑︎知覚情報を統合する能力
☑︎意思決定(打つ、見送る)
☑︎バランス
☑︎力の生成と制御

これらの複合因子が複雑に絡み合い
一つのボールを細いバットで打つという
神業に近いことを成し遂げていると考えています。

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中学生対象野球特化型トレーニング-CIB Academy-【トレーナーマニュアルvol.175】

いつもお読みいただき、ありがとうございます。
C-I Baseballの佐藤康です。

C-I Baseballでは2024年1月より東京都内でアカデミー事業を運営しております。成長期の小中学生を対象に少人数制から、目的に合わせたさまざまな形式で展開しております。小中学生それぞれの年代、身体の運動能力に応じた「野球特化型トレーニング」を指導しています。

今回は、中学新1年生を対象としたアカデミーについてご紹介していきます。

中学生アカデミー

C-I Baseball Academyでの中学生を対象としたトレーニングでは主に少人数制での体制で開催しています。

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・4回/月(週1)
・70-80分/回
・少人数制(-4名)

小学生を対象とした大人数のアカデミーでは、選手全体の課題を抽出し、その課題に合わせたトレーニング内容と成長期に獲得しておきたい基礎運動能力の構築をテーマにさまざまな運動経験の実践、協調性、野球に欠かせない基本動作の獲得を図り、指導してきました。

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U-12 アカデミー(小学生)

それに対して、少人数制のアカデミーでは、中学生を対象とし、弱点や技術のレベルアップをさらに深ぼるために自分の身体を知り、その課題を克服することをテーマにしています。小学生のカテゴリーでは基本動作の獲得でしたが、中学生では応用を加えたアプローチを図っています。

また、自分の課題を整理したり、トレーニングの管理に自立を促す働きかけも同時に目指しています。

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その中で、自分のなりたい選手像・目標・課題を整理しています。

中学生の身体・運動特性

各論に入る前に、中学生の身体の特徴について、おさらいしていきます。

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|身体形態
中学1年生では、同じ12-13歳という年齢でも生物学的年齢では1.5~3歳の開きがあると言われており、暦年齢では同学年であっても、選手間で力の圧倒的な差が生じていることになります。

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特に野球では、球速・スイングスピードなどのパフォーマンスの研究からも、身体形態における成長の差は多く報告されており、結果的に身体的成長の遅れた選手では不利になる傾向が多いといえます。

身長発育速度年齢(PHVA:Peak Height Velocity Age)
成長期にみられる発育スパートのピークを迎える年齢

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男子ジュニアスポーツ選手の身長
引用元:https://www.meiji.co.jp/sports/savas/savasjunior/training/change.html
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男子ジュニアスポーツ選手の体重
引用元:https://www.meiji.co.jp/sports/savas/savasjunior/training/change.html
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中学生の世代はポストゴールデンエイジとも呼ばれ、筋骨格系の発達が著しく成長し、これまで培ってきた能力に磨きをかける、より質を高めたトレーニングが求められます。

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