野球選手の顎関節と頸部症状の関連

前回までハムストリングの肉離れに関するリハビリテーションを執筆させていただきました。その際には、次回は下腿三頭筋の肉離れについてという恋とで題材を描かせていただいていたのですが、マイトピックが顎関節と頸部の関連性なので順番を変更させていただきnoteを執筆させていただきます。
楽しみにしていただいた方がいらっしゃれば、大変申し訳ありません。

なぜ今回顎関節に注目するか・・・
野球選手の頸部症状(胸郭出口症候群、以下:TOS)には、TOSの斜角筋症状、肋鎖間隙症状、小胸筋症状のなかで斜角筋症状に対峙することが多いことが挙げられるかと思います。
斜角筋症状には、斜角筋本体へのアプローチや呼吸へのアプローチなどが考えられますが、多くは2つの要素・現象に対するアプローチに分けられるのではないかと考えております。
❶起始部へのアプローチ(第2-6横突起)
❷停止部へのアプローチ(第1肋骨)

今回は❶の一端を担う顎関節について、顎関節や口腔機能のプロでは当たり前の話かもしれませんが、整形外科クリニックに携わる目線で実際に現場で感じること、歯科医の先生とのディスカッションで得たものをまとめさせていただきます。

1.なぜ顎関節が斜角筋と関係があるのか

 正直、顎関節の話は養成校でほとんど勉強することがない部位ではないかと思います。ただ、生活を送る上で絶対に無くてならない関節です。

 なぜか、衣食住の食の時に顎を使うためです。食なしにアスリートは成り立ちませんし、特に若いアスリートは多くの食事を摂取します。一回の摂取のみならず、一日5食ないし7食摂るような選手もいて、

一食200~300回咬合動作を行う1)(20代のデータがなく70代のデータ)と考えれば、1日最低でも1000回以上は行う動作です。

1)Farooq M, Sazonov E. Automatic Measurement of Chew Count and Chewing Rate during Food Intake. Electronics (Basel). 2016;5(4):62. doi: 10.3390/electronics5040062. Epub 2016 Sep 23. PMID: 29082036; PMCID: PMC5656270.

一方、呼吸は1分間に10~20回とされ2)、おおよそ1日20000回とされています。呼吸ほど多い動作ではないため、頸部症状には呼吸が優先されてアプローチされている現状もあるのかなと感じておりますが、呼吸にアプローチをしても頸部症状に変化がないことを経験するのも確かです。

ただ、歯科医の先生との会話で一つ落とし穴があることに気が付きました。
これまで述べてきた呼吸へのアプローチ、これは体幹-胸郭を中心としたアプローチでした。歯科医の先生に教えていただいたのは、口腔環境や鼻炎などの副鼻腔の問題も呼吸を乱す要因となるということです。口腔環境の一部を担う顎関節にアプローチすること、これも呼吸に関わるアプローチにもなり得ると考え、今回はその重要性をまとめていきます。

Jones MT, Heiden E, Fogg C, Meredith P, Smith G, Sayer N, Toft L, Williams E, Williams M, Brown T, Gates J, Lodge D, Bassett P, Amos M, Chauhan M, Begum S, Rason M, Winter J, Longstaff J, Chauhan AJ. An Evaluation of Agreement of Breathing Rates Measured by a Novel Device, Manual Counting, and Other Techniques Used in Clinical Practice: Protocol for the Observational VENTILATE Study. JMIR Res Protoc. 2020 Jul 20;9(7):e15437. doi: 10.2196/15437. PMID: 32706740; PMCID: PMC7399957.

前置きはこれくらいにして、なぜ顎関節が頸部と関連があるのか、これには様々な影響があることが考えられます。

❶痛みの経路

❷姿勢
 ・Forward head posture, 以下:FHP
 ・舌位

❸呼吸
 ・口呼吸(アレルギー性鼻炎などとの関連)

❹口腔環境
 ・咬合
 ・噛み締め
 ・片側咀嚼

Bogduk N. The clinical anatomy of the cervical dorsal rami. Spine (Phila Pa 1976). 1982 Jul-Aug;7(4):319-30. doi: 10.1097/00007632-198207000-00001. PMID: 7135065.

Xu L, Zhang L, Lu J, Fan S, Cai B, Dai K. Head and neck posture influences masticatory muscle electromyographic amplitude in healthy subjects and patients with temporomandibular disorder: a preliminary study. Ann Palliat Med 2021;10(3):2880-2888.

Lee WY, Okeson JP, Lindroth J. The relationship between forward head posture and temporomandibular disorders. J Orofac Pain. 1995 Spring;9(2):161-7.

Miyake R, Ohkubo R, Takehara J, Morita M. Oral parafunctions and association with symptoms of temporomandibular disorders in Japanese university students. J Oral Rehabil. 2004 Jun;31(6):518-23.

上記に挙げたような要素が、頸部筋との関連になり得る根拠です。他にも、様々な要素が挙げられますが、この辺りを知っておくと問診の時に要素を抽出できるかと思います。実際に私は頸部痛やTOSと対峙した際にはこの辺りは逃さないように問診するようにしています。

ただ、咬合などの口腔環境に関しては我々ができることとは異なります。我々PTが頸部痛に対して関わる上で大切にしたいのは、解剖学・運動学を理解することです。
そちらをまとめながら、具体的にどのような評価・アプローチを行なっていくと野球選手のコンディショニングに良いかを提案いたします。

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投球障害に繋がる患部外機能評価

■はじめに

今回の記事では投球障害に繋がる患部外機能評価について私なりの意見を交えながらご説明できればと思います。

肩肘に障害を抱えた選手を臨床で対応していると、肩肘のみでなく胸郭や体幹、下肢といった患部外機能に問題があるケースが多いです。これは臨床や現場で選手を見ている皆さまであれば誰もが経験したことがあるかと思います。

数ある機能評価の中で今回の記事では胸郭股関節に絞って見るべきポイントを解説していきたいと思います。

最後までお読みいただけると幸いです。

1.胸郭回旋テストについて

まずは側臥位での胸郭回旋テスト(前胸部柔軟性テスト;Trunk-Acromion-Floor-Distance;以下、Tr-AFDテスト)についてです。

Tr-AFDテストは胸椎伸展や肩甲骨後傾、内転、胸郭の機能的変形まで包括し、投球動作において必要となる可動性を評価するものとして考案されています。

通常の方法ですと上肢は軽度伸展位にして、肩甲帯を最大に内転させるように操作を行いますが、私が臨床で見る際は投球動作に近似したポジションでの評価になるように投球側の手を後頭部に位置させた状態で実施しております。

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野球選手に必要なストレングストレーニング その4

初めに

みなさんこんにちは!
理学療法士兼野球トレーナーの野坂光陽と言います!

現在は東京と神奈川にある整形外科クリニックで勤務しながら
休日を使って中学硬式野球チームのトレーナーとして
活動をしております!


今回は「野球選手に必要なストレングストレーニング -その4-」と題して
PT✖︎CSCSの観点から考える、野球選手にとって必要となる
ストレングストレーニングについて記事にしていきたいと思います!


私は現在理学療法士として整形外科のクリニックに勤務しつつ
NSCA-CSCSという資格を取得し、メディカル分野だけでなく
ストレングス分野でも活動ができるようにしております!
怪我の対応から競技パフォーマンス向上までしっかりと
指導できるトレーナーになりたい!という一心で現在活動を
しております!


そんな中CIBのサポートメンバーとして今回はnoteに
まとめていきますので、最後まで見ていただけたらとても嬉しいです!
それでは本編に参りましょう!

前回までの復習

これまで3回に渡り、ストレングストレーニングの基礎について
記事にしてありますので、そちらも一緒に読んでいただけると
復習になりますし、この記事の内容もスッと入ってくるかと思うので
この機会に読み直していただけると幸いです!

また、この記事から購読していただいた方においても、今までの
記事を読んでいただくことを強くお勧めします!
下にリンクを貼っているので、ぜひ読んでみてください!

その1

https://c-ibaseball.com/trainer-manual/190

その2

その3

本編その1 トレーニングにおける基本

strength and Conditioningとは?

私が保有している資格の中でNSCAという団体のCSCSにて
野球現場や野球選手の指導に当たらせていただいております。

CSCS=CertiFied Strength & Conditioning Specialist
認定ストレングス&コンディショニングスペシャリストとして
テストを受講し認定をうけ、今日に至ます。

NSCAが出している教本やNSCAのHPには
ストレングス&コンディショニングについてこう明記されています。

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ストレングスとは単純な力発揮という側面だけでなく、それを適切に
コントロールするという側面も含め、出力とコントロールという概念を総じてストレングスと明記されています。
また、コンディショニングに関しても、パフォーマンスの最大化のために
競技に関わる様々な要素を複合的にトレーニングしていく。
パラメーターを整えていく=コンディショニングという意味合いで私は
解釈をしております。
どこかのパラメーターが異常に高くても、他のパラメーターが低ければ
身体に悪影響を及ぼすだけでなく、パフォーマンスも上がらないと
個人的には考えております。

ストレングスを強化するには?

いきなり最初から筋力が強い人はなかなかいません。練習やトレーニングなどでフィジカルを強化しないことにはストレングスの強化は見込まれません。

身体の構造と今までの先駆者たちのご教授により、筋肉の強化の順番というものが決まっており、私も実際の指導ではこのように伝えています。
普遍的なものになりますので、ぜひ覚えていただきたいと思います!

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段階的に筋力トレーニングは進んでいきます。
前提として、ピリオダイゼーションという概念に則って説明をしていきます!

ピリオダイゼーションとは、一般的な言葉にすると
「長期的なトレーニング計画」という形に置き換えられます。
スポーツ現場においては、年間などある程度の期間の中でどのようなことを
その時期にしていくのか?という期わけの大まかな概念のことを指します。

オフシーズンの最初に取り組みたいのは「筋肥大」

ピリオダイゼーションの中で一番最初にくる期が「筋肥大期」になります。
まずこの期ではその名の通り筋肥大を目的に実施されます。

ストレングストレーニングの初期にあたるこの筋肥大期は超重要です!

野球選手におけるストレングストレーニングの最終的な目標は
「ボールやバットに最大限のパワーを伝えること」になります。
パワーとは、物理学の定義によると「力✖︎速度」
力というのは「F=ma」つまり物質がどれだけの加速度をもっているか

まとめると、野球選手におけるストレングストレーニングの最終的な目標は
「ボールやバットに加速度を持ちながら動かし、その速度を維持したまま投げたり打ったりすることに繋げていくこと」と考えることができます。

大事なのは、「加速度」と「速度」と言い換えることもできますね。

そのためのエンジンが「筋肉」そのために筋肥大を目的にこの期ではトレーニングを行っていきます!

トレーニングを行うにあたって大事な「腹圧」について

実際にトレーニングをするにあたって、もちろん目的とする下半身や上半身に着目するのは当然のことですが、忘れてはいけないものがあります。

それが「腹圧」です!

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育成年代のコーチング-発達理論から考える-

いつもトレーナーマニュアルをお読みいただき、ありがとうございます。
C-I Baseballの佐藤です。

私は、現在、C-I Baseballが運営するトレーニングアカデミー「BAXIS」で活動しています。BAXISでは、小中学生を対象に発達段階を考慮した野球の動きにつながるトレーニング指導をしています。

Instagramで活動を配信しています!
https://www.instagram.com/cib.academy/

その活動の中で、トレーニング指導と並行し、コーチングの重要性を多くの場面で感じています。

心の発達もまだ未成熟な小中学生では、そういった背景を嚙み砕いていくと、ひとつの事象・指導場面において、トレーナー側の伝え方・言葉かけには考慮した対応が必要です。

私も小中学生に初めて関わったときは、こうした理論を学ぶことなく、関わってしまっており、難渋した経験があります。

今回は、そういった部分の入り口として、発達理論の整理と現場での実践について、まとめていきます。

※前提になりますが、私は心理発達学の専門家ではございません。そのため、表現方法など、専門的な観点からは誤りのある点があるかもしれませんので、ご容赦ください。

■発達理論のまとめ

はじめに、発達理論についておさらいしていきます。
育成年代のトレーニング指導に関わる上で、身体的な発達過程を把握することに加えて、精神発達の過程も整理しておく必要があります。

「こどもは大人のミニチュアではない」と言われますが、まさにそういうことの意とする部分であります。

下図にあるように、今日の教育場面での考え方の根底となる発達理論には、以下のような研究者たちの思考があります。

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どの理論が正しいとか誤りとかではなく、さまざまな捉え方があることがわかります。生理学的には、脳の発達は6歳までに80%ができるといわれているため、特に子供の時に発達の側面を考慮した関わり方が重要であることがわかります。

高校・大学生の野球現場に関わっていると、育成年代の時に受けてきた指導や練習・環境が、トレーニングをした時の受け答えや反応に大きく影響することをよく感じます。

私もまだまだ勉強不足ではありますが、こうした理論をひとつの考えに固執するのではなく、さまざまな思考を知っておかなければいけないと思います。

そこで今回は、アメリカの発達心理学者・エリクソンの発達理論をもとに以下、進めていきます。


■エリクソンの発達理論

エリクソンの発達理論について整理していきます。この理論では、人間が生涯を通じて経験する心理社会的な課題や危機を、8つの段階に分けて示した理論です。

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乳児期から老年期まで、それぞれの発達段階で起こる課題の克服は発達と成長に重要であるとされています。発達段階の特性に応じた対応が、次の段階の成長や理解につながります。

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それぞれの発達段階には、
・発達課題(課題)
・心理社会的危機(困難)
・課題を克服した際に得ることが出来る力(成長)

があり、各段階で課題を克服することが、発達と成長に重要であるとされています。

また、各段階でそれぞれの課題を達成することが、次の段階(年代)への準備や成功することにつながり、強いては、こころの成長に導くことになります。


■育成年代に関わる上で知っておくポイント

それでは、上記の発達理論を育成年代に焦点を当てて考えていきます。
ここでは、小学生(6-12歳)・中学生(13-15歳)の実年齢は目安であり、発達のスピードも個人差があります。

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肩甲帯に対するピラティスアプローチ①

C−I Baseball2期生の戸高です。
今回の配信はサポートメンバーシリーズとなります。

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私が配信する内容としては「ピラティス【pilates】」というメソッドが1つのツールとして投球障害の治療、予防、パフォーマンスの向上にどう活かしていくかに焦点をあてて、配信させていただいております!

■はじめに

投球動作のパフォーマンスアップや投球障害の治療・予防のどちらの観点からも【肩甲帯】の機能は重要かとおもいます。
今回は、肩甲帯の機能の中でも前鋸筋をどうエクササイズしていくか?について解説していきたいとおもいます。

■肩甲帯に必要な機能

肩甲帯の機能を高めるといった際に、「前鋸筋」や「僧帽筋下部」の筋力を強化することが重要とされていますが、それはなぜでしょう?

投球動作においては、肩へは骨端部に軟骨強度を超える回旋ストレスや牽引ストレスが掛かると言われています。
そのストレスを軽減させるためには肩甲骨・胸椎・胸郭、股関節などの他関節の可動性や安定性が重要になると考えられます。

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特に、肩甲帯の機能としては衝撃に対するブレーキや安定性が重要と考えております。これらの機能を獲得するためにピラティスは運動療法のツールとして役立つとおもいます。

ピラティスが投球障害に優れている点
・四つ這いでのムーブメントにより肩甲骨周囲の安定性向上
・胸椎、胸郭の連動した伸展、回旋ムーブメントが豊富
・脊柱全体のモビリティを拡大しつつ、コアでのコントロールする

・肩甲上腕リズム

投球動作の中でも上腕骨と肩甲骨の動きはどちらとも大切になります。
とくに肩甲上腕リズムの重要性です。
おおよそではありますが、2:1の関係にあります。
どちらか一方でも動きが崩れてしまうとこの関係も崩れてしまい、筋力発揮やインピンジメントなど様々な問題が起こってきます。

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実際の試合中の動作解析を可能にするKinaTraxに関する知見

C-I Baseball 3期生メンバーの三好航平です.

いつもC-I Baseball「トレーナーマガジン」をご購読いただきありがとうございます.

さて,本日の私の担当記事ですが,タイトルにもある通り「グラウンドレベルの動作解析AI Kinatrax」についての情報をお伝えできればと思っています.

前回のnoteは,「AIを活用した投球動作解析の現在地 2025年7月」というテーマで執筆し,動作解析AIの総論として執筆いたしました.

今回のnoteでは前回のnoteでは簡単にしか触れなかったKinaTraxについて詳細に見ていこうと思います.

実際に動作解析を扱うセラピストはもちろんですが,動作解析を扱わないセラピストでも,野球選手に関わる上では重要な知見も多く集まっている現状があります.

野球選手に関わる全てのセラピストに知っていてほしいものになっていますので,最後までお読みいただければと思います.

KinaTraxとはなにか

KinaTraxは,MLBや大学野球で導入が進むマーカーレス3Dモーションキャプチャーシステムで,スタジアムにハイスピードカメラを常設し,ディープラーニングをもとに投球や打撃の関節位置や骨セグメントを推定する最新の動作解析システムです.

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投手に必要な股関節回旋エクササイズ

こんにちは。
C-I Baseballの1期生の北山達也です。
今回はサポートメンバーからの投稿となります。

はじめに

みなさんもご存じの通り投球動作において股関節回旋機能が重要であります。

投球動作と股関節回旋機能については以下のような報告がなされています。

小学野球選手を対象に、肘の疼痛がない正常群と疼痛がある疼痛群で比較したところ、両側とも股関節内旋可動域が低値であった。また疼痛群は股関節伸展位と屈曲位で比較すると屈曲位で有意に低値であった。(Saito,2014)

小学野球選手を対象に、投球障害を有さない正常群と投球障害を有する障害群で多重ロジスティック回帰分析を行ったところ、非投球側の股関節屈曲位内旋角度が抽出された。(Nagasawa,2023)

小学野球選手を対象に、大会期間中に3日間連続で肩または肘痛があった場合を疼痛ありとし、多重ロジスティック回帰分析を行ったところ、踏み出し足の股関節屈曲位内旋可動域が抽出された。(Sekiguchi,2020)

高校野球選手を対象に、投球フェーズのフットコンタクト時のキネマティクスと股関節屈曲位回旋可動域を検討したところ、軸足の股関節屈曲位内旋可動域と関連がみられた。(Plummer,2021)

高校野球選手を対象に、投球フェーズのフットコンタクト時のキネマティクスと股関節屈曲位自動回旋可動域を検討したところ、軸足股関節屈曲位自動外旋と体幹回旋角度に負の相関がみられた。(Albiero,2022)

高校野球選手を対象に、投球フェーズのMERとリリース時のキネマティクスと股関節屈曲位回旋筋力を検討したところ、MERでは軸足外旋筋力は水平外転角度とHip-to-Shoulder separation角、軸足内旋筋力と水平外転角度、踏み出し足内旋筋力と水平外転角と相関を認めた。リリース時では軸足外旋筋力とHip-to-Shoulder separation角、軸足内旋筋力と水平外転角、踏み出し足内旋筋力と水平外転角と相関を認めた。(Albiero,2023)

大学野球選手を対象に、投球フェーズ(フットコンタクト~リリース)のキネマティクスと腹臥位股関節回旋角度について検討したところ、軸足Total arcと体幹角速度の開始、軸足股関節外旋角度と体幹角速度、踏み出し足Total arcと最大肩外旋角度、踏み出し足内旋角度とリリース時の肘屈曲角度と相関を認めた。(Zeppieri,2021)

大学野球選手を対象に、従属変数を投球肩に生じる外旋トルク、最大肩水平内転角度、独立変数を腹臥位股関節回旋角度としたところ、軸足外旋と水平内転角度、軸足Total arcと肩水平内転角度、踏み出し足外旋と肩外旋トルク、踏み出し足外旋と水平内転角度、踏込み足内旋と肩外旋トルク、踏込み足Total arcと肩外旋トルクと関連を認めた。(Laudner,2010)

プロ野球選手を対象に、投球フェーズのフットコンタクト時のキネマティクスと腹臥位股関節回旋角度を検討したところ、投球側のTotal arcと骨盤方位、非投球側Total arcと球速、非投球側Total arcと体幹分離速度に相関を認めた。(Robb,2010)

先行研究よりわかることは、まずどのカテゴリーにおいても股関節回旋機能について検討されており、パフォーマンス・投球障害ともに関連性を認めていることです。
また一言で股関節回旋機能と言っても屈曲位や伸展位で評価しているものが存在していることも注目です。
今回筆者が渉猟した限りでは、カテゴリーが下がるにつれて屈曲位の報告が多く、カテゴリーが上がるにつれて伸展位での報告が多い傾向でした。

ここからは股関節回旋エクササイズについて紹介していきます。

股関節回旋エクササイズの実際

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野球選手の腰痛治療を徹底解剖! 【Vol.1 総論・腰椎椎間板ヘルニア編】

こんにちは!
C-I Baseball サポートメンバーの理学療法士・久我友也です。

今年からトレーナーマニュアルとして、noteへの定期投稿をスタートいたします。整形外科クリニックでの臨床経験を活かし、医療的視点から野球選手に対する評価・治療のエッセンスを、実践的かつ分かりやすくお伝えしてまいります。

科学的根拠と臨床での経験や工夫を重視し、その中で現場での実践に役立つ情報をお届けいたします。どうぞよろしくお願いいたします。

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ライタープロフィール
Writer|久我 友也
理学療法士
X:https://x.com/tomokiyo0903

前回まで投球動作における鼠径部痛へのアプローチをシリーズでお届けしておりました。未読の方はぜひご参照ください。

https://c-ibaseball.com/trainer-manual/167
https://c-ibaseball.com/trainer-manual/180
https://c-ibaseball.com/trainer-manual/194

さて、今回は「野球選手の腰痛」がテーマです。

今後の連載予定

  • Vol.1:総論・腰椎椎間板ヘルニア編(本記事)
  • Vol.2:腰椎椎間板症(HIZ関連)、椎体終板変性(Modic change)編
  • Vol.3:腰椎分離症(終末期)、椎間関節編
  • Vol.4:筋性腰痛編
  • Vol.5:慢性腰痛編

このノートで話す内容:ざっくりまとめ
・野球選手特有の腰痛について
・見逃してはいけない疾患について
・保存療法から手術適応
・ヘルニアの自然退縮について
・腰椎伸展位確立のための6つの具体的プログラム
・椎間板内圧を最小化する運動療法の実際
など…

さっそくはじめていきます!

はじめに:野球選手×腰痛について

野球といえば肩関節・肘関節の障害に注目が集まりがちですが、実際には腰痛は肩・肘に次いで発生頻度が高い重要な障害です。

疫学

アスリートの約75%**が競技人生で1回以上の腰痛を経験

Ong A, Anderson J, Roche J. A pilot study of the prevalence of lumbar disc degeneration in elite athletes with lower back pain at the Sydney 2000 Olympic Games. Br J Sports Med. 2003;37(3):263.

大学生を対象とした研究では
各種スポーツの中でバレーボールに次いで、野球が腰痛発生率第2位

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Hangai M, Kaneoka K, Okubo Y, et al. Relationship between Low Back Pain and Competitive Sports Activities during Youth. Am J Sports Med. 2010;38(4):791-796.
  • 2011年から2017年にかけて、メジャーリーグおよびマイナーリーグでは206件の腰椎損傷により5,948試合の欠場が発生
  • 約30%がシーズン終了を意味し、13%以上が手術を必要とした
  • 腰椎椎間板ヘルニアが最も頻度の高い損傷で、投手・野手ともに全症例の約44%を占める

Makhni MC, Curriero FC, Yeung CM, Kvit A, Ahmad CS, Lehman RA. Epidemiology of Lumbar Spine Conditions in Professional Baseball Players. Clin Spine Surg. 2023;36(7):E283-E287.

  • 投手のリスクが特に高く、1000選手露出当たり0.111件の腰部損傷発生率
  • 野手は1000選手露出当たり0.040件で、投手が野手を大幅に上回る
  • 背部・頸部の筋挫傷・靭帯損傷では、投手の負傷率(1000選手・試合あたり1.893)が他選手(0.743)の2倍以上

Makhni MC, Curriero FC, Yeung CM, et al. The Burden of Back and Neck Strains and Sprains in Professional Baseball Players. Clin Spine Surg. 2024;37(7):305-309.

これらのデータが示すように、野球選手に関わる医療従事者として腰痛について深く理解することは極めて重要です。


野球選手の腰痛の多様性

選手からの訴え、多様であり以下のようなケースが多い

動作別の疼痛パターン
 「投げる時に痛い…」
 「打撃の時に痛い…」
 「走った後に痛い…」
 「捕球体制をとるときに痛い…」
 「ウェイトトレーニングのときに痛い…」

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これらの症状に対し、前屈・後屈・回旋動作を確認して以下のように分類するのが一般的によく行われるアプローチかと思います。

・屈曲型腰痛
・伸展型腰痛
・回旋型腰痛

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そして、これらの所見から機能改善を目的とした介入に落ち着くことが多いのではないでしょうか。

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このように運動時痛と身体機能から介入方法を決定していくことに加え、「何が痛みを引き起こしているのか」「推測」していくことが重要であると考えます。

なぜ、疼痛原因の推測が重要なのか

症状の発生源をある程度特定することが極めて重要です。疼痛の発生源を推測することができると、やることがおのずと決まってくるためです。

例として、今回取り上げる椎間板ヘルニアでは、徹底して腰椎への屈曲方向へのストレスを減らすことが重要です。

なぜなら、病態が椎間板内にある髄核が後方へ突出すること、つまり腰椎屈曲ストレスが加わることで椎間板内圧が上昇し、症状を引き起こす要因となるからです。

よって、腰痛を評価していく上では
特に以下の疾患の所見があるかどうかは必ず確認する必要があります

  • 腰椎椎間板ヘルニア
  • 腰椎分離症
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腰椎分離症:Narendran N, Nilssen PK, Walker CT, Skaggs DL. New technique and case report: Robot-assisted intralaminar screw fixation of spondylolysis in an adolescent. North Am Spine Soc J (NASSJ). 2023;16:100284.

腰椎椎間板ヘルニア:Fukunaga T, Sasaki M, Bamba Y, Utsugi R, Matsumoto K, Umegaki M. A rare case of lumbar disc herniation mimicking lumbar discal cyst after percutaneous endoscopic lumbar discectomy. Interdiscip Neurosurg. 2021;25:101131.

これらはマッサージやストレッチ、エクササイズで改善しうるものではないため、医療機関での画像検査を要する腰痛かどうかの見極めが必要不可欠です。
以下に簡単に所見をまとめましたので、ご参照ください。

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野球選手で注意すべき病態

本シリーズで取り上げる主要な病態として、以下のようなものをまとめてまいります。細かい病態などは成書をお読みいただければと思いますが、私がここだけは押さえておきたいという点に絞って、病態・評価・治療内容を紹介していきたいと思います!

  1. 腰椎椎間板ヘルニア
  2. 腰椎椎間板症(HIZ関連)
  3. 椎体終板変性(Modic change)
  4. 腰椎分離症
  5. 椎間関節症
  6. 筋性腰痛
  7. いわゆる慢性腰痛

では、今回は腰椎椎間板ヘルニアについて
本題に入っていきます!!


腰椎椎間板ヘルニアについて

病態

基本的な発症メカニズム
腰椎椎間板ヘルニアは、腰椎の椎間板内にある髄核または線維輪内層が周囲の線維輪を穿破し、逸脱・突出することにより症状が発現する疾患です。

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1. Al-Khawaja DO, Mahasneh T, Li JC. Surgical treatment of far lateral lumbar disc herniation: a safe and simple approach. J Spine Surg. 2016;2(1):21-24.

症状発現の流れ

  1. 線維輪の損傷や椎間板内圧の上昇 → 腰痛が発症
  2. 突出したヘルニアによる馬尾や神経根の圧迫 → 下肢神経症状が出現

注目すべき最新の知見は、物理的な損傷や圧迫に加え、産生された炎症性サイトカインも腰痛や下肢神経症状発生の原因となることが報告されていることです。

これにより、単純な「圧迫による痛み」だけでなく、炎症反応による痛みも重要な要素として理解されています。

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①Le Maitre CL, et al: Catabolic cytokine expression in degenerate and herniated human intervertebral discs: IL-1beta and TNFalpha expression profile. Arthritis Res Ther. 2007;9(4):R77.

②Toyone T, et al: Low-back pain following surgery for lumbar disc herniation. A prospective study. J Bone Joint Surg Am. 2004;86(5):893-6.

疫学

  • 男女比:約2〜3:1(男性により多い)
  • 好発年齢:20〜40歳代(まさに野球選手の現役世代
  • 好発高位:L4/5、L5/S1間

日本整形外科学会, 他監:腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン. 改訂第2版. 日本整形外科学会診療ガイドライン委員会, 他編. 南江堂, 2011.

スポーツにおける発症要因

  1. 椎間板変性に伴う線維輪の力学的脆弱性により髄核組織が線維輪を穿破
  2. 腰椎への軸圧や回旋運動が椎間板変性に影響
  3. 強い捻転力により線維輪の亀裂や断裂が生じる

Farfan HF, et al: The effects of torsion on the lumbar intervertebral joints: the role of torsion in the production of disc degeneration. J Bone Joint Surg Am. 1970;52(3):468-97.

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以下を参考に作図:Dreischarf M, Rohlmann A, Zhu R, Schmidt H, Zander T. Is it possible to estimate the compressive force in the lumbar spine from intradiscal pressure measurements? A finite element evaluation. Méd Eng Phys. 2013;35(9):1385-1390.
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以下を参考に作図:Dixon AR, Warren JP, Culbert MP, Mengoni M, Wilcox RK. Review of in vitro mechanical testing for intervertebral disc injectable biomaterials. J Mech Behav Biomed Mater. 2021;123:104703.

日常動作での影響因子

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