投球障害肩の治療-運動療法編-【トレーナーマニュアルvol.33】

C-I Baseballの小林弘幸です。

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元NPBチームドクターのスポーツDrと一緒にエコーを用いて、
選手の病態を理解し障害の原因追及、症状改善を大切にしています。

投球障害肩の原因は多岐にわたり、非常に難しいです。

しかし、皆様に少しでも自分の考えを共有していただき、
ご意見をいただきながら、現場の選手に少しでも還元できたら
うれしく思います!

CIB第2期で小林が担当する、臨床編の記事(予定)です↓↓↓

①投球障害肩の問診と動作観察
②投球障害肩の評価 -肩甲胸郭関節-
③投球障害肩の評価 -肩甲上腕関節-
④投球障害肩の評価 -その他の部位-
⑤投球障害肩の治療 -徒手療法-
⑥投球障害肩の治療 -運動療法-(今回)


これらの記事を通じて、
私の臨床での考え方、思考過程を共有させていただき、
様々なご意見をいただけたらと思います!

投球障害肩の治療 -運動療法-

はじめに

投球という動作は、下肢からのエネルギーが
体幹、上肢へとつながり波及していく運動です。

運動療法を行う上で、
問題となる動作に対して、運動療法を施さなければなりません。

実際の評価方法等は前述しているnoteを参考にしてくださればと思います。

ここでは、実際の ”治療場面” に着目して
運動療法を考えていきます。

考える上で重要なのは、
いかに必要な筋肉・機能を”使える状態”にするかを重要視しています。

もしかしたら、
現場レベルで求められることは、パワーアップが多いかもしれません。

しかし、
怪我の予防や、ケガからの復帰で必要なのはその前段階で、
しっかりとその筋や機能が使える状態にしておくことが重要です。

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しっかりとした
・単関節運動
・強度を上げた共同運動
・速度を上げた運動
と工夫して行っていくことが重要です。

肩関節(肩甲上腕関節)周囲に対する運動療法

腱板筋に対してのエクササイズは、
GHのみに強調して行うか、肩甲骨固定下で行うかで
結果が全く異なることがあります。

しっかりと評価をして、
治療介入するべきだと考えています。

※肩甲骨固定下で出力向上や、疼痛軽減が見られたら、肩甲骨の治療(体幹下肢含む土台)をし、
変化なければ腱板トレーニングをしていく。

側臥位での腱板(棘下筋)Ex

側臥位の自重で腱板Ex。

自重でも、最終域まで収縮させることで、効果が得られます。

棘下筋の深層には、
肩甲上神経や脂肪体が存在します。

その部位は最終域の外旋で良く働きます。

しっかりと最終域までの外旋を意識します。

側臥位、肩甲骨固定下での腱板(棘下筋)Ex

肩甲骨固定下では、今回は僧帽筋上部線維の収縮と棘下筋のExを行っています。

僧帽筋上部は、肩甲骨上方回旋で行います。

肩甲挙筋の挙上・下方回旋で生じないように、肩峰を耳の穴へ入れていくようなイメージで固定させてください。

挙上位での腱板(棘下筋下部+小円筋)Ex

上肢挙上位での腱板Exです。

野球選手では、上肢挙上することで極端に筋出力が低下する選手が見受けられます。

肩関節のタイトネス(肩甲上腕・肩甲胸郭どちらも)が原因で出力低下が生じてしまうこともたくさんあります。

そのあたりは、ROM制限が原因なのか、筋力低下が原因なのかをはっきりと判断していく必要があると思います。

挙上位での腱板(棘下筋下部+小円筋)Ex + 肩甲骨固定

同じく上肢挙上位でのExですが、今度は肩甲骨固定した状態でのExです。

難易度としては、格段にあがりますので、しっかりと代償運動が入らないようにモニタリングする必要があります。

動画では、
ボールを左右に挟んで行っています。

片側のみの固定だと、
頸部の代償が入りやすいので、
両側の固定して腱板のExを行います。

側臥位での腱板(小円筋)Ex

まずは自重で行います。

しっかりと床と平行に前腕を保ち、上肢を動かしていきます。
平行が保てないと三角筋後部に収縮が入ってしまいます。

収縮が入っている位置の違いを、
実際に選手に感じてもらうことも大切です。

側臥位での腱板(小円筋)遠心性Ex

投球動作における肩甲上腕関節後方筋群は、
遠心性収縮で働くことが重要です。

ですので、Ex自体も遠心性収縮を入れていく必要があります。

まずは求心性収縮をしっかりと行った後、遠心性収縮のトレーニングをしていくのが良いと思います。

肩甲骨固定下での腱板(肩甲下筋)Ex

野球選手にとっての肩甲下筋は非常に重要です。

痛みのない選手では、基本的に投球側の肩甲下筋の出力の方が高いので、
投球側の肩甲下筋が使えていない状態になると痛みの誘発や、パフォーマンス低下が考えられます。

しっかりとExしていくことが重要です。

そして、肩関節内旋Exは、大胸筋や小胸筋の大きな筋肉が代償してしまいやすいので、
肩甲下筋単独で動くような工夫が必要です。

肩甲骨固定下での腱板(肩甲下筋下部)Ex

上肢の挙上角度を変えての肩甲下筋Exを行います。

色々な角度でトレーニングをして、
筋線維の色々な方向に刺激を入れていくことが非常に重要だと考えています。

肩甲骨固定下での早い腱板(肩甲下筋下部)Ex

同じ位置でのトレーニングですが、
トレーニング速度を変えていくことも重要です。

実際の投球スピードはこの速さの比ではありませんが、
現場レベルに近づくにつれて、早さも上げていく必要があります。

肩甲骨周囲の運動療法

肩甲骨周囲筋は投球動作の前半から中盤相で受動的に使うことはほとんどありません。

主にリリース以降の減速期で作用することが多いです。

つまり、
肩甲骨周囲筋のトレーニングは、求心性のトレーニングをするのではなく、遠心性のトレーニングをすることが重要で、
前半~中盤相では、肩甲骨が自由に動ける状態を作っておくことが重要なのではないかと考えています。

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C-I BaseBall特別セミナー「オフシーズンのトレーニングプログラム構成について‐投手・野手編‐」【トレーナーマニュアルvol.32】

今回のテーマ

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チームからの依頼

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投手のトレーニングプログラム

投手班は佐藤が担当いたします。
チームからの依頼をもとに、オフシーズンにおける目標として、選手個々でセルフコンディショニングが実践できることを挙げました。

シーズン中における障害予防やパフォーマンスに向けたコンディショニングはチームトレーナーがいないとできない・・・ではなく、ある程度は自らが管理することができることを目指しています。

メニューによってウォームアップなどにも活用できたらよいかと考えています。

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トレーニングメニューの詳細を決める前にまず、そのプランを考えていきます。プランとしては、選手間でできるセルフチェックをし、固定性・可動性強化→回旋運動を伴う姿勢制御へとつなげていくことを挙げました。

回旋運動(水平面)をつくる上で、必要な縦方向(矢状面)+横方向(前額面)の動きを強化していきます。
※詳細は動画にて解説していますので、ぜひご覧ください!

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今回帯同したトレーニング指導では、縦の動き・横の動きをそれぞれ2回に分けて、各1時間、選手に指導してきました。以下はその一例になります。

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野手のトレーニングプログラム

投手班は増田が担当いたします。
オフシーズン中のトレーニングのゴールは
「身体の基本動作の獲得」としました。

競技特異的なトレーニングを中心に行なうのではなく
競技特性を理解し、パフォーマンスに必要な各関節の機能
連動性、筋機能などを1から構築していくことを行います。

また、オフシーズンは急なトレーニング強度の上昇により
障害が発生するリスクがあるため
各要素を段階的、計画的にプログラム設定していきます。

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今回のトレーニングプログラムの作成では
事前にフィジカルテスト等を行っていないため、選手の身体的状況がわからないまま作成する必要がありました。
なので今回は、選手の身体状況を確認しながらボトムアップ形式でトレーニングプログラムを作成し実施することにしました。

下記の図に示しているように、パフォーマンスピラミッドを使い
土台となる、ポジションやムーブメントの部分を中心に行い
段階的にパワーやスキルに繋げていきます。

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トレーニングメニューは、
縦方向・横方向・回旋の3平面の動きに分類し
各要素に必要な上肢ー体幹ー下肢を連動させていくようなメニューを作成しました。
特に重視した点は、1つの関節や筋に特化してトレーニングするのではなく
多くの関節や筋を活動させ動きを作ることを意識しました。

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トレーニングメニュー例

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解説動画

解説動画は有料部分よりご視聴いただけます。

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投球障害を足部から改善するための 距骨下関節〜足趾インソールパッド編【トレーナーマニュアルvol.31】

インソールは、疼痛軽減、消失、バランス能力向上、投球フォーム改善、動作改善など選手や患者さんが意識しないで変化させる事が可能なアプローチです。
距骨下関節インソールのみなら現場でも臨床でも短時間で行う事が可能です。

インソールから想像することは、『足部評価が難しい』『ハードルが高い』『歩行評価が自信がない』そんな声をよく聞きます。
しかし、インソールのパッドを使用することはそんなに難しくはありません。インソールnoteを参考にパッドを使用してみてください。その際に必要なのは、評価確認(再評価)です。

今回は距骨下関節〜足趾の評価とパッド方法についてご紹介致します。

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距骨下関節・横足根関節は前回までのblogをご参照ください。

CIBインソールセミナーの動画もありますのでそちらもご参照ください。

距骨下関節評価

横足根関節


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C-I Baseballの須藤慶士です。
足部を担当しております。

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今回の足部編で『現場で使える投球障害を足部から改善する』シリーズは完結です。

過去の記事もぜひご参照ください。

「トレーナーマニュアル」では、野球のケガに関わる専門家向けの臨床編と選手のパフォーマンスに関わる現場編について配信していきます。

はじめに

投球や打撃を行う際に、『蹴り出し』『踏ん張り』が必要です。それらの動きを行うのが『足部』です。

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cocking〜accelerationで軸足の構造破綻が起こると下腿内旋し、骨盤の早期回旋が早まってしまいます。さらには、体幹の投球側へ側屈し、肘下がりを起こしてしまいます。

ですから、足部を理解することが重要なのです。

その足部でも重要なのが『距骨下関節』です。

選手の距骨下関節の構造は左右異なります。その異なった距骨下関節を評価し、足に適した状態に誘導することができると、選手のパフォーマンスは向上します。
距骨下関節だけでなく、横足根関節や足趾が機能する事で投球動作や打撃動作で安定し、パワーを発揮しやすい状態を足部から作り出す事ができます。

足趾は姿勢制御や、蹴り出し・踏ん張りなどの役割があります。

歩行やランニング・ダッシュでは蹴り出し時、足趾が使えないと同側の下肢を前に出しにくくなります。

つまづきやすい方は足趾が使えていない事が考えられます。

足趾が使えないと腰痛になりやすいと言われています。

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テレビでは『浮きゆび』といわれてピックアップされています。

足趾と腰痛の関係性は論文・研究で多く見られます。

内在筋である短母指屈筋,短指屈筋は,歩行周期の40~60%,つ まり立脚終期中盤から前遊脚期に活動することが示されている。これらのことから足指把持力に 関与する筋群は,姿勢制御の役割を果たしていること が伺える。

相馬 正之:歩行時の Toe clearance と足趾把持力について ―転倒予防の観点から―
Toe clearance and toe gripping strength in walking ― a study for fall prevention ―Japanese Journal of Health Promotion and Physical Therapy Vol.6. 2016;No.1: 1-7

趾を使うということは日常生活でもプレーをする上でもとても大事なことです。

足趾の屈筋群である長母趾屈筋、長趾屈筋、短母指屈筋,短指屈筋はMSt以降に筋活動が見られます。MSt以降足趾が働かないと支持脚の不安定性や、蹴り出しが低下し、動く・止まる・切り返しなどプレーに影響が出る事が考えられます。パフォーマンス低下やシンスプリントなどの障害にもつながります。

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1列・5列評価

1列評価

歩行時、足趾はMStから機能してきます。

列の評価は挙上・下制の動きから判断します。

正常な1列は挙上・下制の可動域は、同じ量動きます。

評価はどちらが動きやすいのか(動きすぎるのか)を見ていきます。

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同じ量動く事で母趾が接地から蹴り出しまで機能します。

挙上・下制のどちらかの可動域が大きくなると母趾の屈曲が機能しなくなり屈筋の出力・固定性が低下し、蹴り出しができません。

|方法
①距骨下関節指標中間位を評価
②前足部の肢位を確認
③2•3•4趾MP関節をセラピストが指で挟み固定する
④母趾MP関節を挙上・下制し評価

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|判定基準
大きく動くのはどちらなのか?(挙上or下制)
動いた方向を記載しておく
例)評価:挙上>下制 ⇨ 1列挙上位

|注意点
距骨下関節回内位(距骨下関節指標中間位回外評価の場合)で行うと1列は可動域が増大し正確な評価ができなくなるので、距骨下関節指標中間位で列評価をしましょう。

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5列評価


歩行時MSt後半から足圧中心が外側に向かう際に、4・5趾(小趾)が使えることが重要です。扁平足や・変形性膝関節症の歩行では足圧中心が内側に移動する傾向があります。4・5趾が働かないと骨盤のスウェーや膝のスラストにつながり疼痛を引き起こします。さらに体幹も動揺し不安定になります。

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|方法
①距骨下関節指標中間位を評価
②前足部の肢位を確認
③2•3•4趾MP関節をセラピストが指で挟み固定する
④5趾MP関節を挙上・下制し評価

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|判定基準
大きく動くのはどちらなのか?(挙上or下制)
動いた方向を記載しておく
例)評価:挙上>下制 ⇨ 1列挙上位

足の状態

足底や足趾を見ると皮膚が硬くなっていることや、赤みを帯びている場合があります。

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足趾機能低下
足部構造の破綻
靴があっていない

以上のような事が考えられます。足底からも情報を得る事ができるので、注意して評価しましょう。

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体幹回旋と足趾機能と歩行


体幹回旋時は左右の足趾が機能することで安定し良好な運動連鎖を遂行する事ができます。

どのように機能するか?

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フィジカルテストの考察とプログラムデザイン‐野手編‐【トレーナーマニュアルvol.30】

いつもトレーナーマニュアルをご購読頂きありがとうございます。
C-I Baseballの増田稜輔です。

今回は、副代表の佐藤康とともに
「フィジカルテストの考察とプログラムデザイン」について解説していきます。

12月に入り、本格的にオフシーズンとなりました。
各チームは春の大会に向け、カラダを強化する時期になります。
このオフシーズンのトレーニングは
「チームの目標を実現するため」にプログラムを組んで実践していきます。


①選手の状態 strong pointとweak pointの把握
障害発生リスクの把握
目標に対するプログラムを作成するためには上記の2つの項目を把握することが必要になります。
その手段として「フィジカルテスト」を用いていきます。

そしてフィジカルテストの結果から
来シーズンへ向けた強化ポイントを洗い出し
チームや個人トレーニングプログラムへ反映させていきます。

フィジカルテストを行う前に

テスト項目を列挙する前に
フィジカルテストの目的について整理していきます。

フィジカルテストの目的

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フィジカルテストは大きく分けて2つの要素に分けます。
①チーム・選手の状態把握
→パフォーマンス要素
②障害発生リスクの把握
→障害予防的要素

1シーズン戦うには、パフォーマンスアップだけでなく
障害を予防していく観点も重要になってきます。
強化と予防の両側面の視点を持っておくことが必要です。

そのため、パフォーマンス要素の項目だけでなく
動きの基礎となる可動性や動作コントロールなどの項目も
フィジカルテストの評価対象になります。

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評価した項目を分析しトレーニングプログラムを作成する

フィジカルテストを行ったら、ただデータを出して満足するのではなく
必ずデータを分析してトレーニングに繋げていきます。
課題点をPICK UP
対応するプログラムデザインを作成

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フィジカルテストのデータを分析することが1番重要な作業になります。

測定から出た結果を客観的に分析し
チームや個人にどのようなstrong pointとweak pointがあるのか
どんな障害のリスクが高いのか洗い出していきます。
この作業を行った結果、来シーズンへ向けて取り組む
トレーニングプログラムを作成することが出来ます。

フィジカルテストを行なう前に前述した
・フィジカルテストの目的
・データは分析しプログラムを作成する
この2つを整理してからフィジカルテストを実施することをオススメします。
ただ闇雲に、とりあえずフィジカルテストやってみよう!!
これでは、目的も曖昧で、ただ測定しただけになってしまうので
「なににつなげる測定なのか?」を常に念頭においておきましょう!

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ここからはフィジカルテストを実施するにあたり
どのような項目をPICK UPし測定するのかを解説していきます。

フィジカルテストの測定項目

トラック

フィジカルテストの項目をPICK UPするには以下の4項目を考慮して考えていきます。
パフォーマンス要素
障害発生リスク
前シーズンの課題点
チーム目標の明確化

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野手のパフォーマンス要素と障害発生リスクの測定

バッティング、走塁、守備の3つです。
この3つのパフォーマンスは
筋力、パワー、スピード(アジリティを含む)、動作コントロール、
可動性の5つの要素から構成され、各項目に対応する評価を実施していきます。

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筋力の測定

筋力では、上肢下肢の最大筋力を中心に測定していきます。
パワー、スピードの要素や障害予防にもつながるため非常に重要な項目になります。

下肢筋力の測定
下肢筋力は下肢のpush動作、pull動作に必要な
・スクワット
・デッドリフト
の2種目の最大筋力筋力を測定します。

‐測定方法‐
ウエイトトレーニング経験が未熟な選手には複数回数の測定法を使用し
1RMを算出します。

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フィジカルチェックの考察とプログラムデザイン‐投手編‐【トレーナーマニュアルvol.29】

C-I Baseballの佐藤康です。
今回も現場向け記事では、CIB代表の増田と2週にわたり配信していきます。

今回は投手編と野手編に分けたフィジカルチェックについてまとめていきたいと思います。

冬季シーズンの野球はさまざまな年代のカテゴリーで試合などの実践の機会が減り、移行期を経て、カラダづくりをする強化期に入ります。

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いわゆるトレーニング主体の練習メニューとなります。トレーニングと想像すると、筋力強化やランニングなどを連想される方も多いと思います。

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強化期間の約2-3か月の中で、
何を強化すべきか。

下記の「ピリオダイゼーション」の記事でもお伝えしましたが、これにはカラダづくりに併せ、「テーマを持ったトレーニングのプログラミング」が求められます。

ピリオダイゼーション‐トレーニングメニューを考える‐|佐藤 康|noteC-I Baseballの佐藤康です。 今回は野球チームにかかわる上でチーム・選手のトレーニングをプログラミングする「ピリnote.com

・体力・スタミナをつける
・スイングスピードを強化する
・ケガをしにくい身体をつくる

など、現場によりさまざまなテーマがあると思います。

これらのテーマを取り組むうえで、
トレーニングの介入する目標設定が必要となります。

チームがどのレベルを目指すのか?
・選手個人のモチベーション
などにも大きく関わってくるところです。

その目標設定の“ものさし“として、
今回はフィジカルチェックをまとめていきます。

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試合期を中心とした1シーズンを振り返り、フィジカルテストの結果とケガやボール速度やスタミナなどの面をみて、来シーズンに向けて、チームと個人の目標設定やトレーニングプログラムに反映させるために行っていきます。

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投手に求められるフィジカルとは?

はじめに、フィジカルテストの項目を列挙する前に、投手に求められる「フィジカル」について考えていきます。

これには測定項目を考える上で、対象競技に求められる体力・運動能力を把握し、その動きを分析することが必要となります。

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パフォーマンスが高いとされる投手の特徴として、
・速球が投げられる
・スタミナがある
・コントロールがいい

などが一般的に挙げられるかと思います。

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また、パフォーマンスの観点に加え、
障害発生の予防の観点からも考えていく必要があります。
・肩/肘の投球障害
・腰痛
・下肢障害

そのため、前述した競技特性に近い動作・運動能力に加え、その土台となる関節機能や姿勢などの基礎項目を併せて評価していき、弱点項目やトレーニングにおける強化ポイントの指標にしていきます。

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チームから要望されることも多い
「スタミナ」「球速」を例に解説していきます。

速球-瞬発力-

速球を投げるためにはどのような運動要素が求められるでしょうか。
後述するスタミナの項と重複する点もあるため、速球に特化した点をまとめていきます。

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筋パワー‐無酸素性パワー‐
無酸素性パワーとは爆発的に大きな無酸素性エネルギー(ATP-CP系)を出す能力として捉えます。

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上図での無酸素性のパワーにおける最大強度での運動の継続時間は、生理的に10秒間程度が限界とされています。そのため、短距離での最大スプリント速度や跳躍・投てき能力が求められるといえます。

最大筋力
最大筋力の向上は、神経・筋機能の改善を狙いとし、高強度・低回数・長い休息時間を用いて行うことが特徴です。

高強度で行うことで、運動単位の動員数が多くなり、筋断面積当たりの筋力を高めることにつながります。

スクワット1RMで上げられる重量が大きくなるにつれてボール速度が高くなることや、60㌔の負荷でのデッドリフト10回のタイムが短縮するほどボ ール速度が高くなる。

(澤村ほか、2006)

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投球障害肩の治療 -徒手療法-【トレーナーマニュアルvol.28】

C-I Baseballの小林弘幸です。

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元NPBチームドクターのスポーツDrと一緒にエコーを用いて、
選手の病態を理解し障害の原因追及、症状改善を大切にしています。

投球障害肩の原因は多岐にわたり、非常に難しいです。

しかし、皆様に少しでも自分の考えを共有していただき、
ご意見をいただきながら、現場の選手に少しでも還元できたら
うれしく思います!

CIB第2期で小林が担当する、臨床編の記事(予定)です↓↓↓

①投球障害肩の問診と動作観察
②投球障害肩の評価 -肩甲胸郭関節-
③投球障害肩の評価 -肩甲上腕関節-
④投球障害肩の評価 -その他の部位-
⑤投球障害肩の治療 -徒手療法-(今回)
⑥投球障害肩の治療 -運動療法-

これらの記事を通じて、
私の臨床での考え方、思考過程を共有させていただき、
様々なご意見をいただけたらと思います!

投球障害肩の治療 -徒手療法-

はじめに

今回からは、治療編ということで、
評価の話はせずに治療の話をひたすら述べていきます。

徒手療法では、基本的にまずはエコーを使用します。

なぜかというと、
ちゃんと自分の触ろうとしている部分が触れているのかを
確認する必要があるからです。

実際、自分自身、エコーなんか見なくても筋肉なんて
触れて当たり前だと思っていました。

しかし・・・
エコーを見ながら触ってみると、ちゃんと触れていない!!

そんなことが多々あります。

もし、エコーが触れる環境下にあるのであれば、
まずは自分が触れたい筋肉にちゃんと触れているのか、
確認して見てください。

図3

研修医でブラインドでLHBの触診の正答率は20%。エコーでトレーニング後、50%。いかにブラインドでの触診正答率が低いかがわかる。

※Woods et al.: Ultrasound Be Used to Improve the Palpation Skills of Physicians in Training. Prospective Study. PM R 10(2018) 730-737

そしてエコー画面を見ていると、
断面解剖の勉強になります。

実際の手で触れるということは、
その筋肉の
・強さ
・深さ
・幅
を考えながら触りに行く必要があると思います。

それをエコーを見ながら勉強していきます。

さらには、神経血管も観察できます。

筋肉をつかさどるのは、
神経血管です。

この走行を考えてアプローチすることで
よりよいアプローチになることも多々あります。

そのあたりも、解説していきたいと思います。

下記は約1時間のオンラインセミナーの有料記事です。
エコーで何ができるのか?
これから始めるぞという方は、
もしよろしければ参考にされてください。

今回の内容と重複するところもありますが、
投球障害肩に特徴的な症状に対する治療も、少しですが話しています。

徒手療法の考え方

徒手療法の考え方として、
基本的には、筋肉のタイトネスを改善する
ということを念頭に置いています。

ただし、
方法によっては、
タイトネス改善 ≒ 筋機能(出力)改善
となることも多く経験します。

その方法としては
①神経血管周囲の組織を動かす
②筋肉の滑走性を改善する

上記の方法で、タイトネスと筋機能改善が望めると思います。

なぜかというと、

脈管系周囲には疎性結合組織が存在し、その密性化が神経の滑走性低下や痛みを伴った可動域制限につながるとされています。

※工藤慎太郎: 腱板損傷に対する軟部組織理学療法. 理学療法ジャーナル, 54(9), 1016-1021, 2020

ただし、
密性化といっても、その組織自体が<密>になるまでには、
時間がかかります。

時間がかかって結合組織が<密>になった状態の組織は、
密性結合組織といいます。

いわゆる組織が『変性』した状態になると考えています。

しかし、
野球選手のような普段から身体を動かすような選手の場合には、
今まで動いていたのに、ある日、変性が生じて密性結合組織が身体の中で生じるとは考えにくいです。

では、どうかなるかというと、
疎性結合組織の中の水分が少なくなってしまい、
【相対的な密性組織化】が生じてしまうのではないかと考えています。

つまり、そのような相対的な密性組織化は、
中の水分量が改善されれば、疎性結合組織に戻ると思います。

図2
※疎性結合組織に関する模式図(イメージ)

脈管系周囲の脱水が改善されれば、
神経血管に対する循環が改善し、
筋肉に対する栄養、信号伝達が正常化するのではないかと考えています。

その結果、
タイトネス(軽微なスパズム)、筋出力改善するのではないかと考えています。

ですので、筋肉の起始停止だけでなく、
脈管系の走行も頭に入れて治療していくことが
治療効率が良くなっていくと考えています。

腕神経叢の走行(解剖)と徒手療法

ここから、腕神経叢の走行を解説します。

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腕神経叢の走行は、教科書では、上記の様に示されます。

しかし重要なのは、
そこから走行する末梢神経が重要です。

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鎖骨を基準に、
近位:鎖骨下筋神経・肩甲背神経・長胸神経・肩甲上神経
遠位:胸筋神経・肩甲下神経・胸背神経・腋窩神経
が発生します。

その走行を考えて、
徒手療法の治療アプローチを実施します。

肩の神経に関係しているのは、以下のような神経です。

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これを個別に診ていきましょう。

また、同部位に徒手療法を加えることで、
疎性結合組織の循環が改善されて、
筋スパズム軽減へつながると考えています。

その走行部位と徒手療法を一緒に考えるということが大切です。

鎖骨下筋神経

①解剖と神経の走行

②エコー解剖

鎖骨下筋神経は、鎖骨下筋内を通っていきます。

③鎖骨下筋神経(鎖骨下筋)に対する徒手療法

鎖骨と第一肋骨間を動かす。

肩甲背神経

以下もすべて動画で、
それぞれの神経の走行・エコー解剖・徒手療法と掲載しています。

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投球障害肘改善のための神経障害に対する評価・アプローチ【トレーナーマニュアルvol.27】

C-I Baseballで投球障害肘についての記事を担当させていただいている新海 貴史です。

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普段は整形外科クリニックで投球障害の選手のリハビリテーションを行い、競技復帰をサポートしております。私の記事では臨床目線でお話させていただければと思います。

Twitterでも臨床目線で発信をしていますのでフォローしていただけると嬉しいです!🔽

2021年度のC-I Baseballが発信する「トレーナーマニュアル」では、
野球のケガに関わる専門家向けの臨床編
選手のパフォーマンスに関わる現場編について配信しています。

野球トレーナーマニュアル|C-I baseball|note【C-I Baseballトレーナーのトレーナーマニュアル】 投球障害肩・肘、腰痛、捻挫、肉離れ、下肢障害など野球におけるnote.com

今回は臨床編として”投球障害肘改善のための神経障害に対する評価・アプローチ”について私なりの意見も含めながら説明させていただきます。

トレーナーマニュアルにおいて私が担当する肘関節の記事は今回で完結編になります。

最後までお読みいただけると幸いです。

はじめに

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今までの記事で肘の病態の捉え方➡︎肘伸展機能の評価とアプローチ➡︎前腕回旋機能の評価とアプローチ➡︎手関節・手指の評価・アプローチと来ましたが、今回は神経編になります。

神経といっても胸郭出口症候群(以下、TOS)のように近位部で障害されている場合や神経がより末梢へ走行していった先で障害されている場合があります。

野球選手における神経障害は繰り返される投球ストレスや日々のトレーニングの中でTOSと、より遠位での絞扼による神経障害が混合しているケースが多いと感じています。ですので今回は投球障害肘における神経障害をTOSとより遠位での絞扼(主に尺骨神経)の両観点から説明していきたいと思います。

投球動作と尺骨神経にかかるストレス

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野球選手における尺骨神経障害は、繰り返される投球動作による肘関節の頻回な屈曲と伸展運動に起因します。投球による尺骨神経障害の要因には静的要因と動的要因の2種類があると言われています。

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屍体モデルの研究ではレイトコッキングの肢位において尺骨神経は約13%伸張され、機械的弾性限界や血流途絶限界である15%に近いことが示されています。

Aoki M, et al: Strain on the ulnar nerve at the elbow and wrist during throwing motion. J Bone Joint Surg Am 87 : 2508-2514, 2005

投球動作においてはレイトコッキングにかけて肩関節が外転外旋し、肘関節が外反してくるので肘部管圧は上昇し、尺骨神経が牽引され過剰な伸張・摩擦ストレスがかかっています。

また肩関節以遠ではレイトコッキングにおいて、上腕三頭筋や尺側手根屈筋などの尺骨神経に伴走する筋群の活動が活発になるため、より神経には圧迫や伸張ストレスがかかりやすくなると考えられます。

また、青木らの報告によると投球動作において肘関節屈曲の角度が深かったり肘関節軟部組織の柔軟性が低下していたり、投球過多で握力が低下していたりすると、肘部管で尺骨神経が過度に伸展される可能性があると述べています。

投球動作において肘関節屈曲の角度が深かったり肘関節軟部組織の柔軟性が低下していたり、投球過多で握力が低下していたりすると、肘部管で尺骨神経が過度に伸展される可能性があると述べています。

青木光広:投球フォームと尺骨神経障害.関節外科 27:1035-1040, 2008

胸郭出口症候群について

ここからはTOSについて説明していきます。肘周囲の痛みや痺れとTOSは切り離せない関係ですので神経障害の選手を対応する際は必ず理解しておく必要があります。既にご存知の方は復習程度に見てみて下さい。

TOSは胸郭出口部において血管神経束が圧迫や牽引、摩擦刺激を受けることにより、上肢および肩甲骨周囲などにさまざまな症状が惹起される疾患です。

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分類すると、神経性と血管性(動脈性・静脈性)に分けられますが、神経性TOSが全TOS症例の約95%、神経症状を伴う症例の99%を占めています。

蓑川創,柴田陽三:胸郭出口症候群の画像診断.関節外科 基礎と臨床.2019; 38(10): 24-29.
Roos DB. Thoracic outlet syndrome is underdiagnosed. Muscle Nerve 1990 ;22:126-37.
Atasoy E. Thoracic outlet compression syndrome. Orthop Clan North Am 1996;27:265-303.

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今回は最も多いと言われている神経性TOSについて述べていきます。

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日本では腕神経叢の刺激状況により、神経性TOSは圧迫型(18%)牽引型(8%)圧迫と牽引が混在する混合型(74%)に分類できると報告されています。

井出淳二.胸郭出口症候群.最新整形外科学体系13.高岸憲二編.東京:中山書店;2006.p.278-89

TOSの代表的な症状としては以下のようなものがあります👇

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以上、簡単にではありますが、TOSの説明となります。

野球選手における神経障害について考える

TOSは肩肘痛を訴える多くのオーバーヘッドアスリートに潜在すると言われています。

⚠️野球選手においても投球側の肘痛の原因がTOSであることは稀ではありません。

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✅…では野球選手におけるTOSは一般的なTOSと何が異なるのでしょうか❓

①野球というスポーツの中で投球動作や打撃動作が繰り返されることで、広背筋や上腕三頭筋、前腕屈筋群などはoveruse(過使用)の状態になります。overuseによって胸背神経、橈骨神経、尺骨神経などがメカニカルストレスを受けたり、筋肥大によって神経のentrapment(絞扼)や滑走不全が生じると考えます。

②神経entrapmentに加え、野球選手では広背筋や僧帽筋下部などのタイトネスが生じることで肩甲骨は下方回旋・下方偏位を呈しやすくなります。肩甲骨が下方回旋すれば牽引型TOSを惹起する可能性が高くなります。

肩甲骨の不良な位置overuseによる腱板筋群の微細損傷・筋疲労により、肩甲骨周囲筋や腱板の出力が入りにくくなります。上肢の土台である肩甲帯の出力が低下すれば、その機能を末梢(上腕や前腕・手指)で代償するようになり、末梢の神経(尺骨神経など)により大きなストレスがかかる事が想像できます。

④このような肩甲骨の位置不良や出力不良が存在する状態での投球動作や前腕での代償が繰り返されることによって神経へのストレスはますます増大し、症状が顕在化してくるのではないかと考えています。

上記をまとめると、野球選手におけるTOSは牽引型TOSに神経のentrapmentが組み合わさったdouble crush syndrome(神経の2ヵ所での障害)が比較的多いと個人的には捉えています。

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臨床では、肘内側部痛に対して尺骨神経障害の評価を行なった際に陽性となる選手の多くは胸郭出口症候群のテストで陽性になることが多い印象を持ちます。

この場合、尺骨神経に対するアプローチを行うよりもまずは優先的にTOSに対する介入を実施する必要があると考えています。

✅なぜ野球選手においてTOSに対する対策が必要なのでしょうか?

TOSや神経絞扼により肘関節の安定性が低下すれば肘痛を発症する要因になるだけでなく、球速が落ちる事により投球のパフォーマンスに直接影響を与える可能性があります。

先ほど説明した通り野球選手ではその競技特性から、神経のentrapmentや筋のタイトネスによる肩甲骨の位置不良から来る神経の牽引が生じやすく、それらが野球選手に多いTOSを生み出してしまっていると考えます。例えば、

橈骨神経⏩上腕三頭筋

尺骨神経⏩上腕三頭筋内側頭や前腕屈筋群

正中神経⏩円回内筋

といったように筋の過緊張により神経が絞扼を受けるとそれらの筋は出力が低下します。

筋出力低下が生じている状態で繰り返しのストレスが加わることによって肘関節は不安定になります。

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尺骨神経症状を伴うMCL損傷の選手は手術に移行する危険性が2.2倍高くなるという報告もされています。

宇良田大悟ほか:野球選手に対する肘内側側副靭帯損傷の保存療法と手術療法の比較. 日本肘関節会誌. 19: 108-111. 2012

したがって投球動作における肘痛の原因の一つである ”筋出力低下” をどのような評価によって見出していくかがポイントになってきます。そのためには通常のMMTだけでは不十分と考えています。

硬くなった筋を伸張位にすることによって神経の絞扼が生じやすい条件を作った上での筋出力を評価することによって、肘の不安定性に繋がる可能性のある”初期の筋出力低下”を検出することができると考えます。加えて、把持動作やグリップなどのパフォーマンスを診ることによって細かな動作のエラーを早期に見つける事が重要であると考えています。

神経障害の評価

一般的にはTOSの評価方法としてMorley testRoos testWright testなどの整形外科的テストが存在しますが、前述したように野球選手においてはこれらのテストでは引っかかってこないような潜在性のTOSが多く存在すると考えています。

そのため、これらのような「どこ”where”で障害されているか」を診るテストだけではなく、スポーツに直結する“Performance(動作)”を用いてスクリーニング的にチェックしていく必要があるかと思います。

視診

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まずは肘の外反アライメントをチェックします。尺骨神経は上腕〜肘内側を走行するため、外反が強ければ強いほど尺骨神経に伸張ストレスがかかりやすくなると考えます。

また、尺骨神経は尺側手根屈筋や小指球筋群を支配しているため、神経絞扼などの影響で普段から出力が入りにくい状況が続いていれば筋は萎縮してきます。

感覚検査

尺骨神経の知覚領域は小指と環指小指側1/2の掌背側前腕の尺側になります。尺骨神経領域の知覚低下はあってもごく軽微なことが多いです。評価方法としては酒精綿を用いて冷覚の左右差を比較するのが簡便で分かりやすいかと思います。

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上肢の引き下げ

症状を引き起こしているのが牽引型TOSか神経のentrapmentかどうかの評価として用います。

●方法・POINT●

✔︎上肢下垂位にて前腕を把持し、下方に牽引する。

✔︎牽引した際に上肢に痺れや疼痛が生じるかを確認する。

✔︎反対側の肩を下方に押し下げて体幹側屈の代償が生じないように注意する。

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チームトレーナーの活動(高校野球)【トレーナーマニュアルvol.26】

C-I Baseballスタッフの高橋塁です。

前回、前々回は『チームトレーナーの活動:学童野球』と『チームトレーナーの活動:中学野球』についてお話しましたが、今回は、現在、携わっている高校野球の『チームトレーナーの活動』についてお伝えしていきます。

まずは、私の自己紹介を簡単に。

高橋塁プロフ写真①

私自身は香川オリーブガイナーズ(独立リーグ)、横浜DeNAベイスターズ(NPB)の専属トレーナーを経験後、現在は、学童野球にはじまり、中学硬式、高校野球、大学野球の各カテゴリーで、チームトレーナーを務めています。

このような経験から各カテゴリーごとのトレーナーとしての関わり方について、シリーズとして紹介しています。

 今回は、高校野球の年代に実際に、私が年間を通して、どのように指導しているかを紹介していきたいと思います。

シリーズ第1回目は『チームトレーナー活動:学童野球』

シリーズ第2回目は『チームトレーナー活動:中学野球』

今回は、『チームトレーナーの活動・高校野球』ということで、まずは、高校野球の「ピリオダイゼーション」を考慮に入れながら、時期により、トレーナー活動の内容を臨機応変に対応していくことが必要です。

高校野球の「ピリオダイゼーション」については下記、記事をご参照ください。

学童期や中学生を対象とした場合には「スキャンモンの発達曲線」や「ゴールデンエイジ理論」を特に意識しないといけないと考えます。

スキャンモン
ゴールデンエイジ理論

高校入学までは、特に年齢により細分化したメニューを提供していくことが重要となります。

結果、コーディネーション能力向上へのアプローチも重要となっていきます。

コーディネーション理論

高校球児には上記の事が過去に処方されていたと仮定して、トレーナーとしてアプローチしていきます。

高校野球は高校3年生で夏の甲子園に出場したとしても約2年4か月程度です。

トレーナーとして、選手の能力を怪我無く、最大限発揮できるように、サポートしていきます。

私のトレーナー活動も年間を通して、トレーニング指導ばかりを行っているのではありません。

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高校球児へのアプローチを年単位で考え、その時期に応じた、トレーナー活動を行っています。

まずは、各自時期に応じたトレーナー活動を紹介していきます。

準備期のトレーナー活動

 一般的に高校野球では、夏大会後に新チームになり、その後、秋大会が終了したちょうど今の時期が来夏に向けての『準備期』となります。

オフシーズン③

一般的に『オフシーズン』という表現になるかと思います。

『準備期』に入り、すぐに高負荷でのトレーニング開始というわけではありません。

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投球障害を足部から改善するための現場でできる横足根関節インソールパッド編【トレーナーマニュアルvol.25】

C-I Baseballの須藤慶士です。足部を担当しております。

足部×投球のテーマで第5回になります。今回のテーマは『横足根関節のインソールパッド』です。

インソールは痛みを取ることも可能ですし、動作改善も可能です。

インソールを作製した事がない方でも評価ができれば後は貼付位置はnoteを参考にしていただければ実際に使えるように記載しております。

前回までの距骨下関節のインソールパッドからお読みいただけると繋がってくるので臨床でも現場でも使えると思います。

↓↓↓距骨下関節インソールパッド編↓↓↓

以下本文

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なぜ横足根関節を評価するのか?

横足根関節は距舟関節と踵立方関節から構成されています。
横足根関節は『縦軸』『斜軸』の二つの軸が存在します。

縦軸:回内  回外
斜軸:底屈−内転       背屈−外転

それぞれの軸が距骨下関節の動きと連動することで足趾へ力が伝わっていきます。
この『縦軸・斜軸』でどのくらいの可動性があるのか?どのような動きをするのか?
これらを徒手(非荷重位)で評価することで動作時における横足根関節の動きを把握することができます。

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距骨下関節と横足根関節の関係

OKCでは以下の連鎖が見られます。

距骨下関節回外位→横足根関節強固→一列可動性減少
距骨下関節回内位→横足根関節柔軟→一列可動性増大

CKCでは距骨下関節の肢位により横足根関節・足趾機能は変化します。

横足根関節が柔軟な場合(横足根関節回内位)
距骨下関節が回内→横足根関節の可動域で補償可能

横足根関節が強固な場合(横足根関節回外位)
距骨下関節が回内→横足根関節回内可動域では補償不可→下腿の内捻や膝外反で代償

 *骨盤の内方移動や体幹の側屈で代償することもある

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距骨下関節の肢位・動き(歩行時)

Loading Responseで最大回内位になります。

回内になることで横足根関節を柔軟な状態にして地面の形状を把握し対応しやすいようにしています。

Mid stance以降は距骨下関節回外方向への動きが起こります。回外にすることで足部全体を剛体にして蹴り出しを行いやすいようにします。

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横足根関節の肢位・動き(歩行時)

距骨下関節回内位では、横足根関節は柔らかくなるので可動性が向上します。
歩行時ではLoading ResponceからMid stance前半までの相です。
足圧中心は第5趾に向けて移動します。

この時、横足根関節斜軸は背屈・外転、縦軸回外します。この動きにより足圧中心は外側に移動しやすくなります。

距骨下関節はMid stance〜回外位になります。
それに伴い横足根関節も斜軸は底屈・内転、縦軸回内します。

この肢位になることで全体を剛体として蹴り出しがしやすい状態になっていきます。

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荷重位では足部は崩れやすい

上記に記載したものは正常な動きです。

しかしほとんどの足部は正常な状態ではありません。

距骨下関節や横足根関節の機能が崩れるために足部や下肢などに疼痛が出現します。

機能を正常に動かすにはインソール が有効な手段です。

その正常とは、

それぞれの足に存在する『中間位』の事です。

そしてインソールをするにも中間位評価をそのまま使います。

投球時のKnee-in

トレーニングしてもなかなかKnee-inが改善しない選手を経験した事があると思います。

そのような場合は考えられることはステップ足が距骨下関節・横足根関節ともに回外位である事が予測できます。


接地とともに距骨下関節・横足根関節で回内の動きがあればいいのですが、それぞれで補償できずに下腿が内側に傾いてしまいます。

投球時のKnee-inがある選手は足部評価をしてみましょう。

スライドの選手は投球時Knee-inがみられました。そこでフォワードランジからのKnee-in、Knee-out評価をしました。

スパイクにはインソールを作製しました。足部が機能すると足底全面接地しながらKnee-outができます。

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距骨下関節・横足根関節・足趾が機能したために足部からの回外、下腿外旋がしやすくなり、股関節外転・外旋可動域が向上しました。

この動きができると、リリースからフォロースルーにかけて骨盤の回旋可動域が向上し肩関節にかかるストレスも軽減します。

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横足根関節評価 判定基準

横足根関節判定基準

距骨下関節指標中間位評価に対してMP関節のラインで判断します。

距骨下関節指標中間位よりも
●MP関節が回内するなら『横足根関節回内位』
MP関節が回外するなら『横足根関節回外位』
並行なら『横足根関節中間位』

と判断します。

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評価手順

https://note.com/embed/notes/naf3c7b57608c →Blog リンク貼る

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横足根関節 評価方法

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距骨下関節指標中間位の評価方法は過去の記事をご参照ください。

https://note.com/embed/notes/nb4b48916c110→Blog リンク貼る

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横足根関節 縦軸回内時 注意点

距骨下関節指標中間位でのホールドができないと横足根関節縦軸回内した際に、横足根関節は柔らかい状態になります。

色々な足部評価をした際に評価が『横足根関節回内位』になってしまう場合は、距骨下関節指標中間位でのホールドが不十分の可能性が考えられます。

間違った評価になるのとアプローチの方向性が変わってしまうので、パフォーマンス低下もしくは痛みが強くなる可能性があります。

ですから、横足根関節評価の際は距骨下関節指標中間位のホールドを意識してください。

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この後に評価からの横足根関節インソールパッドをご紹介いたします。

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オフシーズントレーニングーウエイトトレーニングを組み立てるー【トレーナーマニュアルvol.24】

C-I Baseballの増田稜輔です。
今回のテーマは「オフシーズン」ということで、CIB副代表・佐藤康氏と2回にわたって配信していきます。

先週配信の記事ではランニングプログラムについて佐藤康氏より解説がありました。
まだお読みでない方はこちらのリンクからどうぞ!
オフシーズントレーニング−ラントレーニングの選択ー

皆さんはオフシーズンのトレーニングはどんなイメージがありますか?

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・体力強化
・ウエイトトレーニング
・走り込み
・振り込み

上記のような感じでしょうか?
オフシーズンのトレーニングとしてよく言われるのは【強化】だと思います。

【オフシーズントレーニング=強化】
多くの方がこのようなイメージを持っていると予測出来ます。
シーズン中には行えないような強度の高いトレーニングをして
身体を強くしよう!体力をつけよう!筋力アップだ!
こんな言葉が聞こえそうですね・・・

オフシーズンに身体機能を強化することは間違えでないですが
ただ闇雲に行っていることも多いと思っています。
【強化】という言葉ばかりが先行し、オーバートレーニングになり
オフシーズン中に怪我をする選手、パフォーマンスが低下する選手を多く目にしています。

また、目的が明確になってない状態で、
一般的に言われているトレーニングやYouTubeで見たトレーニング
最近流行りにトレーニングなどに偏った結果、【強化】出来ていない場合も多くあります。

オフシーズンのトレーニングは
目的を明確にし、目的に沿った方法でプログラムを組むことが重要であると考えています。
【何を強化するのか?】
【どんな方法で強化するのか?】
【正しいプログラムを設定しているのか?】
今回は上記のような悩みを解決できるように解説していきます。

前回記事のおさらい
「新チームで構成するトレーニングー野手のトレーニングを考える方法ー」

前回の記事では、新チームのトレーニングプログラムを考える上で重要となる4つの項目について解説していきました。
・チーム目標、方向性の設定
・選手の状態把握
・怪我の発生状況
・スケジュール

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その中でこんな問題提起をしました。
「パワーを上げたい」=パワートレーニングを行うでいいのか?

例えば、スイングスピードを上げたいからと言って
MBスローを繰り返す、重いバットで振り込みをする
果たしてこのプログラムでパワーはあがりますか?

私は上がらないもしくは効率が悪いと考えています。
※あくまでも個人的な意見なので否定するつもりはありません。

ここで考えるべきなのは【時期】だと思っています。
MBスロー距離とスイング速度が相関があると言われているように
バッティングのパワー要素として、MBスローは重要だと考えていますが
【オフシーズンという”時期”】を考えると、優先的に選択するプログラムではないと思っています。

では【オフシーズン】に何をするのか?
ここから解説していきたいと思います。

オフシーズンとは

先程、トレーニングには”時期”が大切ということをお伝えしました。
では、【オフシーズンとはいつなのか?】
ここから話していきます。

アマチュア野球を例に考えていきます。
多くのチームが10月、11月で大会を終了し、
大会は終了しているが練習試合がある11月は準備期として扱い、
オフシーズンに行うトレーニングの準備やシーズン中の疲労を回復させる期間としています。
12月頃から試合がない時期に入り、試合開始時期が3月上旬なので
12月〜3月までの間が【オフシーズン】と呼ばれる時期です。

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オフシーズンに強化すべき要素

皆さんはオフシーズンにどんな要素を強化していきますか?
おおよそ下記に図にある要素が挙がってくると思います。

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ここで挙がった要素に対してどんなトレーニングをしていくのが
良いのでしょうか?

・球速を上げたい、肩を強くしたい
→重いボールを投げる? 投球動作に似た動きでトレーニングする?
・スイングスピードを上げたい、飛距離を伸ばしたい
→振り込み? MBスローをする?
・足を速くしたい ベースランニングを速くしたい
→短ダッシュ? Tドリル? ベースランニング?

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冒頭でも説明したように
強化したい要素に対して、直接的なトレーニング(競技特異的トレーニング)してもパフォーマンスにつながらない可能性があります。
これは時期尚早なわけです。

理由は
ボールを速く投げるため、スイングを速くするための
【可動性】【絶対筋力】【動作速度】が備わっていないからです。

強化する順序

オフシーズンに競技特異的なトレーニングは時期尚早と言いました。
パフォーマンスをアップするためのトレーニングには順序があります。
この順序を誤ると
強化したい要素が向上しなかったり、怪我のリスクが高くなります。
なので、順を追ってプログラムを作成していくことが重要になります。

野球動作を考えると、プレーで起こる多くの動作は
瞬発的なパワー発揮が求められます。
これは野球の競技特性として捉えて良いと思います。
このことを考えると、トレーニングのゴール(最終目標)は
【瞬発的なパワー発揮】です。

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この瞬発的なパワーを起こすためには筋の伸張反射を起こす必要があります。

伸張反射とは
筋の伸張が起こると反射的に筋活動増加させて短縮性収縮が起こること

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伸張反射を起こすには
筋が伸張する弾性力つまり可動性と筋の収縮力が必要になります。

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ここを強化することで、
最短時間で筋の動員を最大限に引き上げることができ
瞬発的なパワー発揮に繋がる

そのためトレーニングは
筋の伸張性を向上するような可動性エクササイズ
筋の張力を高めるトレーニング
最後に収縮速度を高めるトレーニング
を行いパフォーマンスへと繋げていきます

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ウエイトトレーニングについて

オフシーズンのトレーニングは
①可動性②筋力③動作速度の順で行うと説明しました。

①可動性は
ストレッチやモビリティエクササイズなど比較的イメージがつきやすいと思います。
③動作速度についても
スプリントやジャンプ、MBスローがイメージできると思います。

②筋力についてはどうでしょうか?

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どうやったら筋力がつくのか?重さは?メニューは?回数は?
など比較的不明瞭な部分が多いと思います。

それに加え、高校生など成長過程の選手にウエイトトレーニングは
負荷が強くて怪我の原因になるから不要だ
こんな声もあると思います。

しかし、皆さんが目指すゴールにあるパフォーマンスを上げるには
【最大筋力】の向上が必要不可欠です。

ここからはなぜオフシーズンにウエイトトレーニングが必要なのかを
解説していきます。

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