野球選手の肉離れに対するトレーニング【トレーナーマニュアル13】

C-I baseballのトレーニングを担当する佐藤康です。

今回の内容は
「肉離れのメディカルリハビリテーションの流れ」
についてまとめています。

肉離れを発症した選手に関わる際に、
復帰に向けてどのような関わり方をしていくのか?

野球の肉離れとして対応することの多い
ハムストリングス・腹斜筋の肉離れへの対応について、
ジョギング・スイング開始までの流れについてまとめていきます。

メディカルリハビリテーションのすすめかた

肉離れのリハビリテーションを対応する際に
まずどのような目標を設定し、どのような流れで進めていくのか
を簡単にお伝えしていきます。

目標設定

今回のテーマに挙げた肉離れですが、
野球ではハムストリングス・腹斜筋の肉離れが
多い受傷部位として挙げられています。

ハムストリングス損傷の目標としてジョグ復帰、
腹斜筋の損傷としてスイング復帰が重要な目標設定となるかと思います。

スプリント復帰やストレングスについては
その後のアスレティックリハビリテーションとして
次週配信する「復帰プログラム」編で詳しく
ご紹介していきたいと思います。

段階的な対応手順‐フローチャート‐

急性期→亜急性期→回復期→アスリハへの移行
と大きくわけて解説していきます。

図で表す通り、各病期において
それぞれの機能・動作の改善が求められると考えています。

治療方針として
重症度に応じて復帰期間が異なり、対応も異なります。

復帰の期間は重症度に応じてそれぞれ異なりますが、
損傷した筋機能の回復・動作の獲得という流れについては
基本的に保存療法であれば大きく異なることはありません。

メディカルリハを進める上で整理しておくべきこと

メディカルリハビリテーションを進めるにあたって、
以下はおさえておくべき事項であると思います。

損傷した筋の治癒過程
肉離れの重症度
スポーツ復帰までの期間
病態理解(病期に応じた対応)

肉離れの理解を深める病態と評価

今回お伝えする内容は「トレーニング」ですが、
トレーニング方法を理解する前に
病態の解釈・筋機能を中心とした評価方法
については知っておかなければなりません。

病態

野球に起こる肉離れの病態・動作

評価

肉離れの評価

トレーニング前におさえておくポイント

トレーニングを進める前に以下のポイントを注意しておきます。
特に重症度の理解は重要であるため、後述してまとめています。

受傷機転
|どのようなメカニズムで受傷したのか?
重症度
|肉離れがどの部位をどの程度損傷しているのか?
治癒過程
|どのような過程で損傷部位が修復されるのか?
初期対応
|炎症を最小限に抑えるための方法とは?
再受傷の危険因子
|負荷の設定方法や運動負荷による再受傷のリスクとは?

受傷後は出血し血腫が形成されて、筋肉内の内圧が高くなることによって痛みが生じます。痛みによって代償運動により必要以上に患部の活動を抑えることで、筋機能の回復が遅れ、その期間が長くなることによって痛みの増悪・復帰期間の延長といった流れが肉離れの対応として注意すべきことではないかと思います。

①受傷機転の理解

受傷機転については以下の記事で詳細に解説しているため、割愛します。

②重症度

奥脇の分類

肉離れの病態と動作|小林弘幸 より

Ⅱ型の損傷にみられる腱膜自体に損傷があるかないか
復帰の期間は大きく左右されます。

腱膜は修復までに時間がかかるため、
治癒にかかる時間も要します。

そのため、復帰を考える上で、
重症度における損傷の程度も重要ですが、
損傷部位を特定して適切に対応することが重要となってきます。

③治癒過程

肉離れ受傷早期には炎症期をむかえ、
回復過程において変性・再生期を経て
患部の治癒・動作レベルが向上し、
競技復帰へとつながっていきます。

④必要な初期対応

損傷後、血腫形成の程度が
肉離れの重症度・治癒期間を決める大きな要因となります。

そのため、
初期対応により出血をいかに抑え、
その後の血腫形成を最小限に抑えられるかが、
肉離れ治療・復帰のポイントとなります。

受傷直後から48時間までは
RICE処置・過用を抑えた免荷歩行などは徹底すべき事項であります。

受傷後48時間以降は、
局所の循環不全の改善・回復を図ることで、
損傷した筋や周囲の組織の修復を促していきます。

さらに詳しい解説と実際は
次週配信する「復帰プログラム」編にて解説いたします。

⑤再受傷の危険因子

ハムストリングス損傷の再受傷率は
1/6~1/3と高い値のデータがあります。

再損傷してしまうと初回受傷と比べて、
スポーツ復帰できるまでの期間がより長くなってしまいます。

再受傷を高める理由として
・不完全な治癒(MRIで治癒が確認できない)
・瘢痕組織の形成
・神経筋コントロール不足の残存
・機能的な代償が挙げられます。

再受傷してしまう例として、
同部位の損傷と他部位の損傷をするケースがあります。

同部位の受傷

不完全に治癒したまま、再受傷してしまう例です。

筋腱移行部型の損傷では、
修復される早期に負荷をかけることによって再発しやすくなります。

そのため、損傷時の重症度を正確に把握して対応することが重要となります。

他部位の受傷

同じ部位の損傷ではなく、一度損傷した部位の近くを損傷する例です。

損傷しやすい動作の改善が図られないために、損傷した動作と同様の負荷が加わることによって起こりやすくなります。

受傷機転を十分に把握した対応と予防が重要となります。

重症度別の対応

先程、お伝えした重症度についてもう少しかみ砕いていきます。

重症度と復帰期間

Ⅰ型:筋腱移行部の血管損傷(筋組織)のみ
Ⅱ型:筋腱移行部(腱膜)の損傷
Ⅲ型:腱性部(付着部)の完全断裂

と分類できる。

復帰に要する期間(目安)は平均で以下になる。

Ⅰ型:1-2週間
Ⅱ型:4-6週間
Ⅲ型:3か月以上

重症度別の対応

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野球選手の肉離れに対する評価・アプローチ【トレーナーマニュアル12】

はじめに

肉離れはプレー時に受傷しやすいものの一つです。

医療機関では画像診断を用いて損傷度合いを判断できますが、現場ではプレーを続行するか、中止させるかをその場で判断しなくてはいけない場合があります。

その際に使える評価を含めて紹介していきます。

今回の肉離れに対しての評価・アプローチのnote内容は、

●評価、アプローチ
 ・腹斜筋
 ・ハムストリングス
●足部構造・機能から考えるハムストリングスの肉離れ

について説明していきます。

肉離れの評価は

●視診
●触診
●ストレッチ痛
●筋力評価

この4項目を中心とした『総合的』な評価が大切です。(病態より)

腹斜筋評価

視診・触診

腹斜筋は、外腹斜筋・内腹斜筋があります。

野球動作では、投球時・打撃時に起こりやすいです。

病態noteより受傷しやすい腹斜筋は、

非投球(打撃)側の内腹斜筋が高頻度で受傷します。

ストレッチ痛

画像判断や、視診・触診に加え、どのような動きで痛みがでるのかを評価します。

基本的には起始・停止を考慮し、伸張を行います。

可能なら、受傷した際の動きから戻るような動きを見ることも必要です。

治癒過程・リハビリ・トレーニングを行う際にどこまでなら伸張すべきなのか、どのような動作を行っていいのかの判断をしなくてはいけません。

ですから、選手の特徴(ポジション・姿勢・日常生活)を把握・評価することが大切になります。

痛みの度合いに応じてストレッチを行います。

動画には載せていませんが、最初は両膝を立てた状態で両膝を倒す評価からでいいと思います。

徐々に伸張を強くして、どの程度で痛みが出るのかを評価してください。

伸張しても痛みが出ない範囲は普段もセルフエクササイズは行いましょう。(画像診断・医師の許可による)

骨盤回旋 左外腹斜筋・右内腹斜筋伸張

体幹回旋➕上肢回旋 右外腹斜筋・左内腹斜筋伸張

骨盤下制➕前方移動 右外腹斜筋・左内腹斜筋伸張

筋力評価

伸張・収縮ができなければ、負荷をかけてのトレーニングができないしプレー復帰した際に再び受傷してします恐れがあります。

ですから、収縮時痛がどのような肢位・動作で起こるのかを評価しないといけません。

受傷筋肉を把握するために視診・触診・ストレッチ・収縮を行い総合的に判断します。

収縮を行うときは自動運動⇨抵抗を加えての運動を行い評価します。

腹斜筋の作用で行うので、体幹屈曲、側屈、回旋を見ていきます。

さらに、受傷動作に合わせて投球動作・打撃動作に近い、骨盤や体幹の動きも評価できるといいでしょう。

骨盤前方下制や回旋運動はアプローチでも使えます。

腹筋 屈曲、回旋

骨盤前方下制 求心性収縮 右内腹斜筋・左外腹斜筋

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野球選手の肉離れの病態と動作【トレーナーマニュアル11】

C-I baseballの病態・動作の発信を担当する小林弘幸です。

スポーツDrと一緒にエコーを用いて、選手の病態を理解し
障害の原因追及を大切にしています。

病態を理解することによって、医療機関と現場との橋渡し的な役割を果たすことができると思います。

基本的な部分ですが、なるべくわかりやすく発信していきたいと思います。

肉離れの概論

肉離れとはスポーツ動作中に起こる代表的な筋損傷です。

自らの拮抗筋の収縮や介達外力により、筋が過伸展されて損傷するものです。

程度は異なりますが、肉離れでよく聞かれる選手の訴えとしては、

・一瞬、筋肉が離れたように感じる
・急激な痛みや脱力感がある

といったものが多くあります。

内的要因としては、

・筋力低下
・柔軟性低下
・拮抗筋との筋力アンバランス
・運動神経単位の破綻

外的要因としては、

・気温
・走路の硬さ
・脱水

などが考えられますが不明な部分が多いのが現状です。

スポーツ全体で観察すると、野球選手に肉離れは多くないですが、
急な走塁時ピッチングバッティングのスイング時に生じることはあります。

まずは、肉離れの基本的な病態の部分を理解して行けたらと思います。

スポーツにおける肉離れ

トップアスリートによる肉離れの疫学調査です。(n=959)

・ハムストリングス(42%)
・下腿三頭筋(15%)
・大腿四頭筋(11%)
・骨盤筋群(10%)


ハムストリングスが一番の好発部位となります。

ハムストリングス内で分類すると、

・大腿二頭筋長頭(56%)
・半膜様筋(32%)

・半腱様筋(5%)
・大腿二頭筋短頭(1%)

となっており、羽状筋である大腿二頭筋長頭と半膜様筋が好発部位となります。

・トップアスリートにおける肉離れの現状。国立科学スポーツメディカルセンターに受診したアスリートの場合。 ※奥脇透:肉離れの現状. 臨床スポーツ医学. vol,34. (8). 2017 図を引用改変

ハムストリングスは
・大腿二頭筋長頭
・大腿二頭筋短頭
・半腱様筋
・半膜様筋

の4筋で構成されています。

大腿二頭筋長頭と半膜様筋は、羽状筋であり、
筋の生理学的特徴から、力の発揮に有利な構造となっています。

その筋発揮が大きいという特徴から、ハムストリングスが急激に
伸張された際に肉離れを生じやすいと考えられます。

走る動作が多いスポーツにおける肉離れは、ハムストリングスが多いことから、
基本的には、『走る』動作で多く生じると考えられます。

普段から、走塁時の癖や、ランニング時のフォームチェックなどをしておくことも野球に携わるトレーナーとしては
必要なことと考えられます。

つまり、普段のウォーミングアップから選手の特徴を捉えることが大切かと思います。

野球はスポーツ全体の中で、肉離れの頻度がどの程度なのかを調べたものがあります。(n=1239、種目数=64種)

・陸上競技(16.7%)
・サッカー(13.1%)
・野球(8.4%)
・アメリカンフットボール(7.3%)

となり、第3位に野球競技を行っている選手に肉離れが発生しています。

・スポーツ選手の種目別肉離れの症例数

※武田寧ほか:スポーツ損傷としての肉離れの疫学調査-スポーツ種目特性、年齢-. MB Orthop 23(12):1-10, 2010

そして、肉離れの発生部位は種目によって傾向が異なります。

各スポーツごとにおける肉離れの好発部位を理解しておくことが
その競技特性を理解することにつながると考えます。

では、野球選手における肉離れの好発部位はどうでしょうか。

野球選手における肉離れ

プロ野球選手における肉離れの特徴は以下の通りです。
(10年間1球団肉離れ72例)

・ハムストリングス(26.4%)
・腹斜筋(25%)

・股関節内転筋(11.1%)
・下腿三頭筋(9.7%)
・大腿四頭筋(8.3%)
・殿筋群(4.2%)
・腱板筋(4.2%)
・広背筋(2.8%)
・大胸筋、大円筋、前腕筋群、腰方形筋、脊柱起立筋、大腿方形筋(1.4%)

となっており、そのほかの種目と比較し腹斜筋が多い傾向となっています。

腹斜筋に関しては、この研究で詳細に調査することができた3年間での5件は全例内腹斜筋でした。
打者4人、投手1人となっており、打者については、非打撃側(右打者なら左側)、投手も非投球側でありました。

※小松秀郎ほか:プロ野球選手における肉離れの特徴. 日本臨床スポーツ医学会誌. Vol25(3). 2017
図を引用改変
・アメリカメジャーリーグでも、試合を欠場する肉離れの原因としてハムストリングスが最多で、次に腹斜筋群となっている。
※Ahmad, CS, et al.: Major and Minor League Baseball Hamstring Injuries: Epidemiologic Findings From the Major League Baseball Injury Surveillance System. The Am J Sports Med, 40:650-656. 2014

しかし、
プロではなく、一般スポーツ整形外科に来院する野球選手(n=104, 22.8±9.4, 11~51歳)では、
腹斜筋の割合が少なく、下肢筋の割合が多くなっています。

・スポーツ整形外科で肉離れと診断された野球選手の損傷部位の割合 ※武田寧ほか:スポーツ損傷としての肉離れの疫学調査-スポーツ種目特性、年齢-. MB Orthop 23(12):1-10, 2010 図を引用改変

これを考えると、
ハイパフォーマンスの野球選手において、
腹斜筋の肉離れが生じやすくなってしまう
と考えることができます。

逆説的に考えると、パフォーマンス向上を目指すには
腹斜筋を含む体幹筋を、投球や打撃にてうまく動員することができたら
良いのかもしれません。

野球選手の筋の非対称性

ここでは、野球選手特有の腹斜筋群の肉離れを理解するために、
野球選手の骨格筋の非対称性を知ることが、肉離れの病態を知ることの一助になるかと思います。

野球のような一側性のスポーツでは、
筋厚に左右差
が生まれてきます。

右利きの選手は、その回転方向(左回転)に働く筋が主に作用します。

先行研究では、野球選手の体幹部の筋肉において、

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投球障害肘から競技復帰後のトレーニング・再発予防の身体作り【トレーナーマニュアル10】

C-I baseballの投球障害肘から競技復帰後のトレーニング・再発予防の身体作りを担当します高橋塁です。


日々、野球を中心にスポーツの現場で、トレーニング、コンディショニング、技術指導を行っています。

私自身が、日々のスポーツ現場での経験をもとに、
障害をいかに防ぎ、かつ再発せず、
パフォーマンスアップできるかをお伝えし、
医療機関とスポーツの現場との連携をいかにスムーズにできるかを
わかりやすく発信していきたいと思います。

投球障害肘とは

投球動作において、主に運動方向が変化するLate-cocking~MER以降にメカニカルストレス(主に外反ストレス)を与えることで投球が困難になることが、投球障害肘ということなります。
投球障害肘になることで回復期では日常生活では困らないことがほとんどですが、練習や試合を休んで痛みがなくなっても、投球を再開するとまた痛みがでる…。

つまり、原因となる要因を排除しなければ、悪循環のループに乗ったままになってしまうのです。


その悪循環を断ち切るために投球障害肘を考える上で、重要なこと。

肘関節は基本的に1軸性の関節。
 →屈伸以外の動きをすることで投球障害肘を惹起する。
肘関節内側解剖の新しい知見。(腱性中隔)
成人期と成長期の肘障害について
肘の障害を内側障害、外側障害、後方障害の3つに分ける。

を理解することが大切かと思います。

肘関節の解剖

肘関節の安定化機構としては

静的安定化機構(靭帯) 

動的安定化機構(筋肉)

静的安定化機構とは?

静的安定化機構の靭帯は、MCLが代表的です。

MCLは、その線維の走行から、3つのパートに分けられることができます。

肘関節屈曲するほどMCL(POL)の後部線維が伸張し、伸展するほどMCL(AOL)の前部線維が伸張すると

考えられます。

MCLの障害されやすい部位は、AOL後部線維が最もストレスがかかりやすい部位だといえます。

動的安定化機構とは?

これら個々の筋肉で、肘関節に与える動的安定化の方向が異なります。

尺側関節裂隙の狭小化には、円回内筋橈側手根屈筋浅指屈筋が関与しています。

尺骨鉤状突起の橈尺側偏位について

MCL不全損傷の肘関節アライメントは、尺骨鉤状突起の橈側偏位が生じているといわれています。

そして、動的安定化筋群の作用をそれぞれ考えていきます。

円回内筋橈側手根屈筋が収縮すると、尺骨鉤状突起を尺側に偏位させます。
浅指屈筋尺側手根屈筋が収縮すると、尺骨鉤状突起を橈側に偏位させます。

肘関節内側解剖の新しい知見(腱性中隔について)

「解剖学的知見から考察していくことも重要」

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投球障害肘の段階的復帰プログラム【トレーナーマニュアル9】

投球障害肘の段階的復帰プログラム

投球障害肘は投球障害肩同様休んでいても治りません。
特に肘障害では病態や年齢により復帰までの道のりも
さまざまです。
単純に痛みが引くまでの期間を休めば良いわけではないです。

今回は投球障害肘について
特に現場で多く経験する内側障害を中心に
年齢を考慮した復帰プログラムをお伝えしていきます。

【マガジン紹介】

C-I Baseballトレーナーマニュアルでは、臨床・現場での野球におけるケガの対応力を高めるためのマニュアルを配信しています。

・これから野球現場に出たい方
・野球のケガの対応力を高めたい方
・臨床での野球のケガの評価・トレーニング・復帰について悩む方
にオススメの内容です!
https://note.com/c_ibaseball/m/m7fe74e91fd1d

野球現場での投球障害肘

野球現場では投球障害肩と共に肘関節に痛みを
訴える選手は多くいます。
特に小学生や中学生の成長期の選手に多いとされています。

sakata J:Phtsical Risk Factors for a Medial Elbow Injury in Junior Baseball Players:A Prospective Cohort Study of 353  Players.Am J Sports Med.2017 ;45(1):135-43 

実際の野球現場に帯同してみて
投球障害肘は再発率が高い印象があります。


高校生や大学生の選手で肘に痛みがある選手は
「小学校の時に痛めたことがあります」

「野球肘と診断されたことがあります」

など
過去に肘関節を痛めた経験がある選手がほとんどです。

投球障害肘は骨軟骨が未発達な小~中学生期の発症が多く、
成長期の段階で根本的な解決をせずにいると
成人期で再び障害を引き起こすことがあります。

障害を繰り返さないように
病態 原因を改善することがとても重要となります。

投球障害肘とは

投球動作において投球障害肘は
2つのphaseで障害が生じやすいと考えられています。

MER
外反ストレス
MER(Maximum External Rotation) 

肩関節最大外旋時に肘関節には外反への力が加わります。
この時にMCLや肘関節内側筋群に負荷が生じます。

Ball-Release~Follow-through
伸展+外反ストレス

投球動作中の肘関節はBLにかけて伸展+回内運動します。
過度肘関節伸展では後方への負荷を生じさせます。
肘関節伸展に伴う、回内運動タイミングが遅延すると
肘関節への外反ストレスが発生します。



では、なぜ上記の2つの相で障害が生じるのでしょうか

投球障害肘の原因

肘関節は肩関節と手関節および手指に挟まれた中間関節です。
肩関節や手関節にまたがる多くの筋肉が肘関節運動に
関与しているため、投球障害肘の原因を探るためには
肩関節や手関節および手指の機能の影響を考慮し
展開していく必要があると考えます。

投球動作においても同様のことが考えられます。
肘関節は基本的に1軸性の関節であり、主な運動は屈曲/伸展です。
投球障害肘の発生には、外反ストレスが大きく関与します。
このことは、投球動作に伴う、
肩関節や前腕の回旋運動により
肘関節へ外反/内反の動きが強制
され
肘関節への障害が発生すると考えられます。

投球障害肘を捉える上で、肩関節や手関節および手指の
機能を把握することで、原因の究明につながります。

機能的問題

〈肩関節からの影響〉
TER(Total External Rotation)各関節の総合可動域
MER時は肩甲上腕関節外旋だけでなく
肩甲骨、胸椎も連動
します。
この、連動性が低下することで、肘関節の外反ストレスが増大し障害を発生させる要因となります。

〈手関節および手指からの影響〉
前腕回旋制限
前腕の回旋制限は特に、Ball-Releaseでの回内運動が重要となります。
肘関節伸展とともに回内することでリリース時に
手関節が背屈/橈屈位になり前腕屈筋群の動的支持機構が機能しますが
回内制限をきたすと、リリース時に手関節が尺屈位になりやすく
前腕屈筋群の動的支持機構の機能が低下します。

〈内在筋機能の影響〉
手内在筋の機能はボールを握る動にとってとても重要です。
ボールの握り方には大きく分けて2種類あります。

一般的には、内在筋を利用した
母指尺側握りが良いとされています。

指腹握りであると、外在筋の活動が高くなり
前腕の動きに制限が生じる
と考えられているからです。

手内在筋機能が低下すると、手外在筋優位となり、ボールを強く握りこむことで肘下がりや、リリース時の前腕回内制限を引き起こします。

〈ボール握りと肘下がり〉
過度なボールの握りこみは、前腕の回内制限を引き起こし
上肢の回旋運動連鎖の破綻を引き起こします。
Take-backで必要な肩関節の内旋は、ボールの握りによっても
変化します。

投球フォームの問題

投球動作では、下肢からの運動連鎖を
下肢→体幹→上肢と連動させて行います。
この一連の動作に問題が生じると、特定の関節への
負荷が大きくなり障害につながります。

投球障害肘では、成長期での発症が多いことから
身体的、技術的に未熟な選手に多く発生し
身体機能低下と合わせて不良フォームによる誘因も多く考えられます。

下記に示す3つの不良フォームは、投球障害肘につながることが
多いとされています。

〈肘下がり〉
Top~BRにかけて両肩の結んだラインより肘の位置が低い状態

〈体の開きが早い〉
 FP前に体幹が投球方向への回旋が生じている状態

〈踏足の股関節内旋制限〉
踏込足への体重移動が不十分でフォローの際に骨盤の回旋が少ない状態

野球肘の投球開始基準

投球障害肘では基本的に保存療法を選択することが多いです。
そのため、投球開始には理学所見の陰性化が重要になってきます。
Little Legagur’s ElbowやMCL損傷では
画像所見の修復を待つことなく投球を開始していきます。

離断性骨軟骨障害(OCD)では画像所見を踏まえて判断させるため
疼痛がなくても医療機関からの投球開始許可が必要であり
現場の独断で投球開始しないように注意してください。

投球障害肘は、発症部位や損傷組織、年齢により
投球禁止期間はさまざまです。
病態ごとの投球開始基準はこちらのnoteを参考にしてください。

野球現場における投球開始基準

投球障害肘の投球開始基準は年齢によって異なると考えています。
基本的には医療機関での、投球開始許可が出てからの開始となりますが
投球開始基準は成人期と成長期では、捉え方を分けたほうが良いと考えています。

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投球障害肘に対するトレーニング【トレーナーマニュアル8】

投球障害肘のトレーニング

「投球復帰したが、またすぐ痛めてしまった」

このような選手の経験をしたことはないでしょうか。


投球動作において
肘関節という部位は能動的な動きによる負荷よりも
受動的な制御により大きな負荷を受けることで
ケガにつながることの多い部位です。


それは関節の構造が基本的に
1軸性(屈曲・伸展)であるため、
投球動作のように
外反などの捻れた運動が加わることにより
ケガにつながっていきます。


つまり、
肘関節の機能だけが改善しても
投球障害は防げない
のです。

野球肘を予防するためには、

肘関節に加わる外反ストレスのかかり方

を考えていく必要があります。

画像1

メディカルリハビリテーションの位置づけ

画像2

野球肘のメディカルリハビリテーションでは
投球復帰を目標に構成していきます。

野球肘のリハビリテーションに関わる上で、
「投球復帰」がどの選手においてもまず目指すべき部分であると思います。

前述しましたが、
肘関節の局所的な改善のみではなく、

肘関節が投球の負荷に耐えられるのか

他関節の問題により肘関節に過剰な外反ストレスを生んでいないか

が重要です。

・・・・・

投球開始基準

基本的に投球復帰・開始の基準は
疼痛誘発テスト・ストレステストによる
理学所見の陰性化
により
投球開始を検討していきます。

画像3

リハビリテーションの経過として、
急性期は局所の炎症症状の改善・安静時痛の軽減を図っていきます。


炎症所見・安静時痛の陰性に伴い、
ストレッチ等による可動域の改善を図っていき、
疼痛誘発(ストレス)テストの評価の上、
陰性化となった時期より投球を開始していきます。

補足
可動域については正常可動域が望ましいですが、肘伸展-15°であれば投球が可能といわれています。
(投球障害のリハビリテーションとリコンディショニング:文光堂)

加えて、投球フォーム異常による疼痛の増悪が考えられた場合には
投球フォーム指導も必要に応じて行う必要があります。


つまり、
復帰までのプロセスとして

・局所機能の改善
・肘のストレス(外反・伸展)の誘因となる患部外機能の改善

を進めていくことが中心になってきます。

・・・・・

メディカルリハビリテーションの流れ

画像4

(患部外)全身機能の改善を考えるうえで、
投球動作により肘関節に負荷がかかる要素を把握しておくと
全ての身体機能を評価するのではなく、
何に着目して対応するのかがわかりやすくなると思います。

この時期は局所に負担をかけない範囲であれば
積極的に患部外トレーニングを実施し、
早期から障害発生の要因となる患部外からの影響を把握し、
改善していくことが必要です。

ーーーーーーーーーーーーーーー

肘に負担を増大させる投球動作

つぎに、投球動作によって肘に負担のかかりやすい
phase・メカニズムについてまとめていきます。

「野球肘の痛みのメカニズム」については
こちらのnoteに簡単にまとめてありますので、ご覧ください。

野球肘の痛みを理解する

https://note.com/ko_bmk/n/n19feea77227d

・・・・・

投球動作との関係性

次の図では
野球肘の疼痛部位別による投球動作との関係性について表しています。

画像5

内側型
Late-cocking~Accelerationにおける外反力と内側の牽引力

外側型
Acceleration~Follow-throughにおける腕橈関節の圧迫力

後側型
Follow-throughにおける急激な肘の伸展

投球動作と痛みの部位を厳密に分けることはできませんが、
それぞれ痛みの起こる場面を解説しています。

図からもわかるように
痛みが実際に起こるのは主にLate-cocking以降となります。

投球動作の疼痛出現相による特徴の違いを検討した研究では
このような報告があります。

Cocking相で疼痛を有す選手においては「肘下がり」
Acceleration-Deceleration相で疼痛を有す選手においては「肩甲平面からの逸脱」と「骨盤回旋の早期終了」が
各相で疼痛を引き起こすフォームの特徴として挙げられた

坂田淳:内側型野球肘患者の疼痛出現相における投球フォームの違いと理学的所見について:整スポ会誌vol32:3
画像6

投球障害肩・肘にみられる代表的な異常フォーム

画像7

肘下がり

画像8

肩甲平面からの逸脱

画像9

骨盤回旋の早期終了

画像10

異常運動のフローチャート

画像11

世代・年代による背景

画像12

外反ストレスから考える

前項にて
投球動作による肘関節のストレス
についてお伝えしてきました。

実際の外反ストレスをもう少し踏み込んで捉えていきます。

投球動作における肘関節障害のポイントとして

・受動的動作に生じる過度の運動ストレス
・受動的動作における制動力低下
・受動的動作である肘運動の積極的な使用で生じる過負荷

をおさえておきます。

その理由はこれがトレーニング・強化する対象の運動となるためです。

・・・・・

可動域と外反ストレス

外反ストレスは
肩最大外旋位・リリース時に起こります。

画像13


肩最大外旋位における総合的な肩外旋可動域(Total External Rotation:TER)を理解することはとても重要です。

画像28

(病態・動作分析より参照)

つまり、
肩甲上腕関節のみでなく、肩甲骨や胸椎、また股関節の可動性も必要であり、これらの動きが不足することで、肘の外反ストレスを増大すると考えます。

画像27

(病態・動作分析より参照)

つまり、
MER時に(MER直前との報告もあり)肘関節の外反ストレスが少しでも少なくすることが大切であり、
そのためには投球する方向に対して、肘関節の後面が見えるように(腕の振りと肘関節の屈伸軸が同一になるように)することが大切であると考えます。(病態・動作分析より引用↓)


また、外反ストレスの制動性として

画像14

これらの制動力に負荷が増大することで、
組織の局所的な炎症・構造的な破綻をきたします。

肘・患部外を整える

ここから先は
肘と患部外に分けて、まとめていきます。

内容は

・肘・患部外を整えるために必要な要素とは?
・自分で確認できるセルフチェック方法
・トレーニング方法

について段階的にお伝えします。

徒手評価については
前回配信しました「評価」noteに記載されているので、
今回のnoteでは簡便なチェックでスクリーニングするための方法として
「セルフチェック」を記載しました。

「評価・アプローチ」記事はコチラ↓

肘を整える

肘を整えるためには何が必要?
トレーニングすべき内容とは?

肘関節の外反ストレスが整理できたところで、
実際に「肘関節を整える」要素について考えていきます。

投球動作時に発生する肘外反ストレスに対する動的支持組織として、
前腕屈筋群と回内筋群が挙げられます。

その中でも特に尺側手根屈筋・浅指屈筋が重要であり、
これらの収縮により肘外反角度が減少することが示されています。

尺側手根屈筋は投球動作において外反ストレスが最大となる肢位で、筋の走行上、内側側副靱帯を補強する位置にあることが解剖学的研究により報告されている

Davidson PA,Pink M,Perry J,Jobe FW:Functional anatomy of the flexor pronator muscle group in relation to the medial collateral ligament of the elbow:Am J Sports Med.1995:23:245-50


前腕回内外の制限はテイクバック動作において、
肘関節・肩関節への連動が妨げられ、
結果として肩関節外転可動域制限され、
肘下がり動作の要因となることも少なくありません。

セルフチェック

外反アライメント

画像28

まず静的評価として
肘関節伸展時の外反アライメントと
前腕内側部の筋萎縮の有無を評価していきます。

これらの外反アライメントが増大したケースでは、
外反制動性の低下した状態を表しており、
投球動作においてさらなる外反力にストレスを増大しやすくなります。

尺側グリップ

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投球障害肘に対する評価・アプローチ【トレーナーマニュアル7】

C-I Baseballの評価・アプローチの発信を担当する須藤慶士です。

臨床では評価を大切にしております。評価が確かなものでないと原因に対するアプローチをすることができません。

局所評価だけでなく全体の評価を行うことも大切です。

臨床での経験を元にした評価とアプローチを発信していきたいと思います。 

はじめに

復帰までの流れ

肘関節に痛みを感じたらただ安静にして2〜3週間後に復帰する。

しかし、安静にするだけでは再発の可能性があります。

それはなぜか?

投球障害肘が起きた原因が肘だけではなく他の何処かにもあるからです。

原因は何か?

筋肉?靭帯?アライメント?可動性?投球フォーム?

臨床では、それを確かめ問題点に対してアプローチする。

そして現場へバトンタッチします。

今回は私が臨床で行っている評価とアプローチを紹介したいと思います。

病態については、小林弘幸先生の記事を参照

局所評価

圧痛
外反ストレステスト
離断性骨軟骨炎(OCD)

圧痛

評価(圧痛点)
内側:内側上顆、内側側副靭帯(前部繊維、横部繊維、後部繊維)、上腕骨滑車、
 ⇨靭帯損傷、炎症、剥離骨折
外側:外顆、橈骨頭、輪状靭帯、腕尺関節、外側側副靭帯
 ⇨変性、肥大、靭帯損傷、炎症
肘頭:肘頭、上腕三頭筋腱        
 ⇨疲労骨折、変性、骨極形成、滑膜炎

内顆周囲、外顆周囲、橈骨頭周囲、肘頭周囲に圧を加えて評価します。

できるだけ点で圧を加えます。

内側圧痛動画

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投球障害肘の病態と動作【トレーナーマニュアル6】

C-I baseballの病態・動作の発信を担当する小林弘幸です。

スポーツDrと一緒にエコーを用いて、選手の病態を理解し
障害の原因追及を大切にしています。

病態を理解することによって、医療機関と現場との橋渡し的な役割を果たすことができると思います。

基本的な部分ですが、なるべくわかりやすく発信していきたいと思います。

投球障害肘の概論

投球障害肘とは?

投球動作は、身体各部位の全身的な運動を通じて肩関節や肘関節を動かし、その力を指先からボールへ伝えていく動作です。

肘関節は、基本的には、屈曲・伸展の1軸性の関節です。

そのため、投球動作において、主に運動方向が変化するLate-cocking~MER以降にメカニカルストレス(主に外反ストレス)を与えることで投球が困難になることが、投球障害肘ということなります。

投球障害肘になることで
回復期では日常生活では困らないことがほとんどですが、練習や試合を休んで痛みがなくなっても、投球を再開するとまた痛みがでる…。


なんの対処もせずに復帰するとこのような悪循環を招いてしまいます。

これは、投球動作という繰り返しの動作で生じる非外傷性の慢性疾患(投球障害肩を含む)では同様のことが言えると思います。

つまり、原因となる要因を排除しなければ、悪循環のループに乗ったままになってしまうのです。

その悪循環を断ち切るために
投球障害肘を考える上で、大切なことを先に述べます。

肘関節は基本的に1軸性の関節。
屈伸以外の動きをすることで投球障害肘を惹起する。

肘関節内側解剖の新しい知見。

成人期と成長期の肘障害を分ける。

内側障害
外側障害
後方障害
の3つに分ける。

を理解することが大切かと思います。

投球障害肘の原因

なぜ、投球障害肘が生じてしまうのでしょうか。

投球障害肘は投球動作中の、
MER時とBall-Release(BR)~Follow-thogh phaseで最も生じやすいと考えられています。

そして、投球障害肘は大きく2つのPhaseで障害が生じやすいと考えられます。

肘関節が、
・投球動作中に外反ストレス増大(上腕骨を固定した場合、肘関節(前腕)が外反方向に引っ張られる力)
・外反トルクが増大(上腕骨を固定した場合、筋力等により肘関節(前腕)を外反方向に引っ張る力)
これらが障害を惹起するといわれています。

MERで肘関節の外反ストレスが最大になる

Fleisig GS, et al.: Biomechanics of the elbow during baseball pitching. Am J Sports Med, 23. 233-239, 1995

Release直後に外反トルクが増大する

Solomito MJ, et al.: Elbow flexion post ball release is associated  with the elbow varus deceleration moments in baseball pitching. Sports Biomeca: 1-10, 2019.

肘外反ストレスについて

MER時の肘関節外反ストレスは、64Nmであるといわれています。
靭帯への負荷は54%おおよそ34Nm、骨への負荷は33%)

MERで肘関節の外反ストレスは64Nmとなる

Fleisig GS, et al.: Biomechanics of the elbow during baseball pitching. Am J Sports Med, 23. 233-239, 1995

そして、肘関節内側側副靭帯(以下、MCL)の破断強度は32Nmとされています。

MCLは外反ストレスに対して32Nmで破断する

Morrey DR, et al.: Articular and ligamentous contributions and motion analysis of the elbow joint. Am J Sports Med 11: 315-319, 1983

つまり、投球時の外反ストレスと、MCLの破断強度がほぼ等しいため、
静的安定化機構(後述)のみでは靭帯損傷等の内側障害は容易に生じてしまうことが考えられます。

MER時に(MER直前との報告もあり)肘関節の外反ストレスが少しでも少なくすることが大切で、
そのためには投球する方向に対して、肘関節の後面が見えるように(腕の振りと肘関節の屈伸軸が同一になるように)することが大切であると考えます。

この考え方は、Throwing plane conceptといい、投球中の肩・肘・手を結ぶ線分がなす軌跡を観察することを言います。

この軌跡がMERからの加速期で、一直線上になること(Single-plane)が障害予防の観点から大切であると考えられます。

Single-planeでは関節への応力が小さく、障害の危険性が低い
Double-planeでは関節への応力が大きく、障害の危険性が高い

瀬戸口芳正:投球フォームと肩・肘障害. 臨床スポーツ医学, Vol 30, No9. 2013 引用改変

肘外反トルクについて

BRからFollow-thogh phaseで上肢全体での内旋運動が重要で、前腕の回内運動のみが過剰になることで肘関節の外反トルクが増大します。
上肢や肩甲骨、体幹を連動させ、肘関節にストレスがかからないようにすることが大切です。

そして、投球動作分析にて、前額面と矢状面の両方から観察することも、投球障害肘を扱うセラピスト、トレーナーにとって大切です。

肘関節の解剖

肘関節の解剖として、MCLに着目します。

非常に重要な部分です。病態理解には、解剖の知識が必要かと思いますので、是非ご理解いただけたらと存じます。

投球障害肘でMCL損傷は『外反ストレスの軽減』に寄与するところが非常に大きいです。

つまり、『安定化機構』が働くことが重要です。

肘関節の安定化機構としては
・静的安定化機構(靭帯)
・動的安定化機構(筋肉)

が大切であると考えています。

静的安定化機構とは?

静的安定化機構の靭帯は、MCLが代表的です。

MCLは、その線維の走行から、3つのパートに分けられることができます。

しかし、実際の解剖でAOLとPOLを観察すると、明瞭な境目はなく
連続性をもっているように見えます。
ですので、臨床的にはAOLとPOLを合わせてMCLと考えることができます。

TLに関しては、関節をまたいでいる靭帯ではないので、投球障害肘には関与しているとは考えられていません。

AOLとPOLを一塊のものとしてMCLとして考えると、肘関節屈曲角度によって伸張される部位が異なります。

肘関節屈曲するほどMCL(POL)の後部線維が伸張し、
伸展するほどMCL(AOL)の前部線維が伸張すると考えられます。

この屈曲角度を考えると、投球動作中に障害されやすい部位が必然的に明らかとなります。

MER時の外反ストレスが最大に生じるときに、肘関節屈曲角度は70°~80°となります。
その角度でMCLの障害されやすい部位は、AOL後部線維が最もストレスがかかりやすい部位だといえます。

動的安定化機構とは?

次に
動的安定化機構の筋肉について述べます。

基本的には上腕骨内側上顆に付着する筋肉が、動的安定化機構として認識されております。

・円回内筋
・橈側手根屈筋
・浅指屈筋
・尺側手根屈筋

これらが肘関節の動的安定化機構として働くとされています。

これら個々の筋肉で、肘関節に与える動的安定化の方向が異なります。

内側の動的安定化機構に関する研究は、多数ありますが、ここでは超音波に関する研究から動的安定化機構を捉えます。

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投球障害肩の評価とアプローチ【トレーナーマニュアル5】

C-I Baseballの評価・アプローチの発信を担当する須藤慶士です。

臨床では評価を大切にしております。評価が確かなものでないと原因に対するアプローチをすることができません。

局所評価だけでなく全体の評価を行うことも大切です。

臨床での経験を元にした評価とアプローチを発信していきたいと思います。

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投球障害肩の評価

投球障害肩の評価は肩関節の評価に加えて、体幹・下肢のアライメントの評価も必要です。

なぜなら、肩関節は体幹に乗っている浮遊関節なので体幹・下肢アライメントに影響されやすいからです。体幹・下肢のアライメントや機能低下があると肩関節も機能低下を起こし障害率が高まります。

ですから、体幹・下肢を評価することはとても重要です。

投球障害肩の評価は、体幹・下肢のアライメントや機能評価を行ってからでも良いと考えます。

投球障害肩フローチャート

●Early cocking pain
●Late cocking〜Follow through  pain
●投球障害肩評価一覧                        
  ・腱板損傷
  ・肩峰下インピンジメント
  ・前後上方インピンジメント
  ・SLAP
  ・上腕二頭筋長頭腱炎

臨床では医師が診察時にテストを行っているのでリハビリをする際は確認するためにスクリーニングで評価を行うのも良いと思います。

しかし、痛みを出すことはあまり良い事ではありません。その後のリハビリで緊張してしまう可能性があるからです。

臨床では疼痛を引き起こすかもしれない評価は行う意義や理由を考えてからにしましょう。

Early cocking pain

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Early cockingで考えられるのは、腱板損傷肩峰下インピンジメントです。肩関節外転する際に損傷部位に疼痛が出現します。

まずは下垂位外転抵抗テストを行ってみましょう。陽性ならば腱板損傷、陰性なら肩関節外転45°での抵抗テストです。Hawkinsも良いと思います。

アライメント不良や、肩甲胸郭関節・体幹・下肢が不安定だと腱板機能が低下していることが考えられます。

外転抵抗テストで陽性の場合肩甲骨の下方回旋や動揺が起きていないかを確認しましょう。

肩甲骨の動揺がみられたら、肩甲骨を固定したり、座位で行うなど工夫が必要です。

肩甲骨固定 陰性⇨肩甲胸郭関節の機能低下
座位 陰性⇨下肢

Late cocking〜Follow through  pain

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Late cockingからBall release、Ball releaseからFollow throughは加速がかかる事で肩関節に大きなストレスが加わります。

前・後上方インピンジメントや、SLAP(superior labrum anterior and posterior lesion)が考えられます。

前上方インピンジメントはHawkins、後上方インピンジメントはcrank testを行います。

スクリーンショット 2020-05-24 13.30.24
*病態・動作分析から抜粋

これらを組み合わせて総合的に判断しましょう。(後のスライドで一部のテストを紹介します)

上腕二頭筋腱長頭腱は関節唇を引き剥がす力が加わるのでLate cocking以降もSpeed test や、yergason’s評価を行い上腕二頭筋長頭腱にストレスがかかり過ぎていないかチェックしましょう。

投球障害肩評価一覧

ここからは評価方法を動画をプラスして、細かいチェックポイントを解説していきます!

腱板損傷
  下垂位外転抵抗テスト
肩峰下インピンジメント
  45°外転位抵抗テスト・Hawkins
前後上方インピンジメント
  Crank test・HERT
SLAP
  Anterior Slide test・Yergason 
  Compression Rotation test・ Biceps Load Ⅱ test
上腕二頭筋長頭腱炎
  Speed test・Yergason 

Early cocking 腱板損傷・肩峰下インピンジメント

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Cocking動作は選手により異なるので投球動作をチェックし、肩甲骨・上腕骨の位置に合わせた評価が必要です。

Late cocking〜Acceleration 後上方インピンジメント・腱板損傷

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Early cocking〜Acceleration 上腕二頭筋長頭炎

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Follow through 前上方インピンジメント

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SLAP Test

SLAP損傷はいくつかの評価を組み合わせて総合的に判断します。ただし、他の病態と合併することがあるので、重症であると判断したら、医療機関へいち早く紹介することが良いかと思います。

Anterior Slide test

肩甲骨固定し、肘を外側から肩関節内転外旋するように抵抗をかける

Biceps Load Ⅱ test

選手に肘関節屈曲してもらい、セラピストはそれを止める

Compression Rotation test

肩関節に向けて肘から圧をかけながら、他動的に肩関節内外旋

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アライメント評価

●体幹・骨盤のアライメントが崩れていると肩関節の位置は崩れる
●アライメント評価してから肩関節評価を行う


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投球障害肩から復帰後のトレーニング・再発予防の身体作り【トレーナーマニュアル4】

C-I baseballの投球障害肩から競技復帰後のトレーニング・再発予防の身体作りを担当します高橋塁です。


日々、野球を中心にスポーツの現場で、トレーニング、コンディショニング、技術指導を行っています。


私自身が、日々のスポーツ現場での経験をもとに、障害をいかに防ぎ、かつ再発せず、パフォーマンスアップできるかをお伝えし、医療機関とスポーツの現場との連携をいかにスムースにできるかをわかりやすく発信していきたいと思います。

まずは、このシリーズでの先述の

小林弘幸さん(病態・動作)
須藤慶士さん(評価・改善法)
佐藤康さん(肩関節トレーニング)
増田稜輔さん(投球復帰プログラム)

の記事を参照、総括しながら、再発予防の身体作りについてつなげていきたいと思います。

投球障害肩の病態と原因

メジャーな5つの病態
・腱板損傷
・肩峰下インピンジメント
・インターナル(関節内)インピンジメント
・SLAP(上方関節唇)損傷
・Little Leaguer’s Shoulder


上記5つの病態について詳細に解説していきたいと思います。

①腱板損傷


投球障害肩による腱板損傷症例では、
疼痛を発症するタイミングがCocking とAcceleration phaseで91%を占めるとされています。

報告によりまちまちですが、
症状がなく腱板損傷(病変)を生じているプロ野球選手は40~70%程度いるとされています。
腱板損傷は棘上筋、棘下筋の境界に生じ、関節面の不全断裂がほとんどです。

腱板損傷の要因は関節内インピンジメントが大きく関与しているのではないかと考えれ、症状は断裂サイズに依存している。

原因としては、棘上筋大結節付着部の関節面の脆弱性、肩関節外転外旋位で腱板に圧迫が生じることと、繰り返しの投球動作が原因と考えられる。

この3つの特徴から腱板損傷が生じるのではないかと考えられます。

腱板損傷の分類 (小林弘幸氏NOTE参照)は腱板損傷(断裂)の分類としては、基本的にMRIで診断します。

小林⑩

腱板損傷の治療方針としてはオーバーヘッドアスリートの腱板損傷は、基本的に保存療法が望ましいと考えます。

小林⑨


いかに投球フォームが良くても、腱板損傷のリスクは常に生じてしまうということを念頭に入れなければいけないと考えます。

腱板への負担を集中させないために、肩甲帯の機能で補うことも必要。

肩甲帯の機能が改善し、腱板由来の疼痛が減少すれば、損傷があっても復帰することは可能になると考えます。

小林④

②肩峰下インピンジメント

インピンジメント症候群は、肩関節運動時に骨や軟部組織に衝突を繰り返すことによる病変の総称です。

大きく、関節外病変と関節内病変とで分けられます。関節外病変でも肩峰下と烏口下病変に分けられます。

小林⑤

肩峰下インピンジメントの定義は

上腕骨大結節の棘上筋腱付着部が肩関節挙上時に烏口肩峰アーチを通過する際に機械的圧迫を生じること

とされています。

その機械的圧迫が肩峰下に様々な病変をもたらします。

小林⑥

投球障害肩では、レントゲンで写るような石灰沈着性腱炎や大結節骨折変形治癒などは稀で、腱板損傷やSLAP損傷など、MRIやエコーで観察できるものがほとんどであると思います。

肩峰下インピンジメントの分類として構造的因子と機能的因子があげられ、機能的因子は保存療法の絶対適応となります。

構造的因子でも、機能的因子と重複して存在することが多く、機能的因子が改善していくことにより手術に至らないケースも多くあります。

小林⑦

構造的因子、機能的因子どちらにしても第一選択としては保存療法が選択されることが多いです。

小林⑧

治療方針としては、インピンジメントを生じている原因としての構造的因子と機能的因子の解消を目的とすることは変わりありません。

小林⑪

③インターナルインピンジメント


インターナルインピンジメントとは、関節内のインピンジメントです。投球障害に関していえばインピンジメント症候群のほとんどは、インターナルインピンジメントであると報告されています。

上腕骨頭の異常な偏位がインターナルインピンジメントを誘発するとされています。

小林⑫


後上方関節内インターナルインピンジメント(PSI)の最大のリスクファクターは前方関節包の緩み、水平外転角度の増大、後方関節包(棘下筋)のタイトネスが考えられる。

小林⑬

前上方関節内インターナルインピンジメント(ASI)はSGHLの弛緩、LHBの弛緩、SSCの損傷による前方組織の緩みが原因で生じるとされている。

小林⑭


肩峰下インピンジメントと同様に構造的要因と機能的要因の両者とも考えられますが、やはり治療方針の第一選択は保存療法です。

小林⑮
小林⑯

3か月保存療法に抵抗した症例は手術の適応とされているものが多いですが、一貫した基準はありません。

投球障害肩のインピンジメントは、関節内で生じていることが多いというのを理解して、治療方針を立てるための評価が重要であると思います。

PSI、ASIともに病態としてはインターナルインピンジメントで前方への骨頭偏位が病態と関係あるとされていますが、治療方針が逆になることもあります。(肩甲骨の後傾と前傾)

小林⑰

④SLAP損傷

SLAP損傷とは上方関節唇の前方から後方にかけての損傷である。そしてその発生機序については、外傷性と非外傷性とに分類できます。

投球障害肩に関していえば、非外傷性がほとんどであると考えられています。

小林⑱

投球動作においては、Peel-back mechanismでの関節唇損傷が最も生じやすいのではないかと考えます。


Peel-back mechanismとは、

GHjtを外転外旋位にしたときにLHBが後上方に捻じられて、上関節唇を牽引し離開させるメカニズムのことを指します。


このPeel-back mechanismの原因は後下関節上腕靭帯(PIGHL)を含めた、後下方組織のタイトネスが原因だと考えられています。

後下方の組織が硬くなることにより、外転外旋時に上腕骨頭が後上方へと偏位させられます。偏位することによりLHBが牽引されて上方関節唇が離開してしまうという機序です。

SLAP損傷とPSIによる腱板損傷が病態として合併しやすいということが良くわかります。

SLAP損傷の分類

腱板損傷図


SLAP損傷はタイプが4つに分類できます。投球障害肩に最も多いのは、Type:Ⅱだというように言われています。

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