野球選手におけるエコーの実際【トレーナーマニュアル50】

野球選手におけるエコーの実際【トレーナーマニュアル50】

野球選手におけるエコーの実際

C-I baseballの【Advance course 野球選手のみかたを深める】の発信を担当する小林弘幸です。

スポーツDrと一緒にエコーを用いて、選手の病態を理解し
障害の原因追及を大切にしています。

病態を理解し、しっかりと評価することによって
現在の傷害の原因をはっきりることができれば、
医療機関と現場との橋渡し的な役割を果たすことができると思います。

画像1

超音波画像診断装置(以下、エコー)とは、
超音波を発する機械で体表からプローブというものを当てて、
体内の組織を見ていく機械になります。

以前は、
産婦人科で赤ちゃんの検診をするときや、
健康診断で内臓をみて何か悪いものがないかを見るようなものでした。

図7

近年は、
運動器エコーというものが出てきていて、
筋骨格系にエコーを当てて体表から内部の
主に軟部組織にエコーを当てて評価をするというのが出てきました。

整形外科医の先生方は、エコーを用いて、
MRI等ではわかりにくいような、筋損傷の有無や程度を診断したり、
レントゲンでは写らないような、骨折の診断をしたりします。

※江戸川病院スポーツ医学科部長、岩本航先生の書籍

セラピストがエコーを使うのは、
理学療法士法では明記されてはいません。

しかし、
医師の管理下の元、診断の補助ということで使用することは可能です。

また、
ゴニオメーターやその他検査機器と同様に
評価のツールとして使用する分には問題ないかと思います。

気をつけなければならないことは
【診断】をしてはいけないという部分です。

※エコー販売業者も、セラピスト単体には販売しておらず、
医師の管理下にいるセラピストには販売できるとのことです。

では、そんな高価でハード面で使用しにくいエコーを
セラピストが無理に使用する必要はあるのでしょうか??

私の答えは、
【YES】です。

自分の経験上ですが、
エコーを使用すること、
エコーを勉強することで、
今までわからなかった選手、
今まで治せなかった選手に対して、
少し奏功することが多くなったのは事実です。

このような経験を
今回の記事では記載していきたいと思います。

※今回の記事には、実際の選手のエコーや動画が出てきます。
すべての選手に目的説明し、了承を得ています。

エコーで何が見える?何ができる? 

では、実際にエコーで観察できるものは何でしょうか?

・骨
・軟骨
・筋
・腱
・靭帯
・末梢神経
・血管

などが観察できます。

エコーは音波です。音の波は硬いものに反響するという特徴があります。


【硬い】ものは反響しやすく、【白く】うつります。
【柔らかい】ものは反響しにくく、【黒く】うつります。

この性質でエコー上に見える濃淡が
変化してきます。

つまり、
骨など硬いものは【白く】、
血液など柔らかいものは【黒く】
映像として見えます。

これを利用して、
筋損傷があるような部分には
黒く映ることがあり(損傷部位の出血)、
組織の滑走障害があるような部分には、
白く映ることがあります。

エコーの基礎的内容は、
下記のYoutubeをご参照ください。

(第1回~4回までが基礎的な内容です。)

さらに、もう一つ理学療法士にとって大きなメリットがあります。

それは、触診技術の向上です。

自分が触っているものが、実際に触りたい組織を触れているのか?
これは、理学療法士としても、現場に出るトレーナーにしても非常に重要な技術になります。

エコーを使用することで、その技術のトレーニングをすることができます。

触れている『つもり』から、
触れていると確信を持てます。

下記の研究より、研修医の数値なのですが、LHB(上腕二頭筋長頭腱)を
触診してくださいという課題で、
ブラインドでは  “20%”  しか正確に触れなかったのが、
30分エコーをみて触診トレーニングをした結果
  “50%”  まで正確に触診できるようになったとの報告があります。

図6

正確な触診というのは中々難しく、
触る方向等、徒手療法を考えるとエコーを使うメリットはかなりあるかと思います。

実際の野球選手に対するエコー評価

実際の野球選手の評価をするにあたって、
エコーを必ず使用するのかということに関しては、
【No】です。

必要に応じて使用します。

例えば、
・インソール
・スリング
・ガビラン
・ストレッチポール
・ダンベル

などなど、理学療法を行う上での【ツール】は多数あるかと思います。

かといって、全ての選手に同じツールを用いて、
同じ手技を使って治療するのでしょうか?

自分の答えはNoで、
まずは、しっかりと理学療法評価をします。

当たり前の話かもしれませんが、
これが重要です。

それぞれのツールには、
得意分野と不得意分野が必ずあります。

エコーの得意分野は
・局所観察
・動態観察

です。

逆に全体的にその選手を診る
ということには向いていないです。

局所観察においては、
エコーのプローブを当てている部分は軟部組織の状態が良くわかります。

しかし、プローブを当てている部分しか見えない
というのが実際のところです。

動態観察は、他のレントゲン等の画像とは異なり、
リアルタイムで情報が見れます。

これは大きなメリットかと思います。

実際のエコーを使用した評価ですが、
まずはどこがその選手にとっての問題点なのかを
明確にするための評価をしていきます。

図1

大きく分けると、
肩甲上腕関節の問題(肩”自体”の問題)なのか、
肩甲胸郭関節の問題(肩”以外”の問題)なのかの判別です。

評価の実際の部分は下記で解説しています。

私の肩関節の評価の流れを下記に示します。
(上記、投球障害肩の実際より抜粋)

評価項目
ROM
①肩屈曲と外転(全体像把握)
②肩屈曲と外転(肩甲骨の動き観察)
③肩外転(passive)
④肩外転(肘屈曲位:上腕三頭筋の制限)
⑤疼痛疑似肢位でのSAT( Scapula Assistant Test:内転・上方回旋・挙上)
MMT
⑥Full can test(棘上筋)
⑦Empty can test(棘上・棘下筋)
⑧ISP test(棘下筋)
⑨Belly press test(肩甲下筋)
⑩Hornblower test(小円筋)
ROM
⑪CAT
⑫HFT
⑬1/2内外旋
⑭2nd 内外旋
⑮1st 内外旋
⑯3rd 内外旋
⑰後方タイトネスによる骨頭偏位
⑱GH内転

上記の評価を一通り行い、
評価していきます。

特に⑤番で疼痛変化の乏しい場合、
GHでの問題が大きいと考えるので、
エコーでのGH動態観察をすることが多いです。

図5

兎にも角にも、
まずは理学療法評価をしっかりと行います。

その上で、
病態が隠れている部位や、
病態の原因となってしまうことが考えられる部位を
エコーを用いて観察する。

これが
私のエコーを使用する実際です。

肩関節のエコー解剖(筋)

エコーを勉強していくと、
解剖学的な知識が身につくと考えています。

なぜかというと、
解剖学的な細かな部分が、
エコーを見る上で、メルクマール(目印)となることが多くあるからです。

いくつか例を挙げていきたいと思います。

棘上筋、棘下筋

上腕骨の腱板付着部には、Facet と呼ばれる部分が存在します。

図1

※右が前、左が後ろ

SF, MF, IFとあります。

これらは、触診でもわかります。

では、どの組織がその解剖学的特徴のある部分に付着するのでしょうか?

図2

SFには棘上筋、MFには棘下筋が付着します。
(IFには小円筋と言われています。)

エコーでは、どのように見えるでしょうか?

上腕骨の形態に着目し、
鋭角な山がSF
鈍角な山がMFとなります。

これを知っているだけで、
何の組織が痛んでいるのか?の予測ができると思います。

このように、エコーを勉強していくと、
解剖学的知識も身につきます。

肩甲下筋と烏口腕筋

肩関節前方部痛に関して、肩甲下筋や烏口腕筋などが重要です。

エコーで見るとどのように見えるでしょうか?

図8

※色付けなし

図9

※色付けあり

エコーでは、このように見えます。

骨頭を基準として、
烏口腕筋と肩甲下筋、腋窩動静脈・神経が良く観察できます。

ある程度、解剖書と照らし合わせても
理解できるかと思います。

しかし、よくわからない組織が見えてしまうのも
エコーの特徴です。

腋窩動静脈や腋窩神経周囲にある組織は何でしょうか?

これは解剖書にも載っていません。

図10

※オレンジ部分:疎性結合組織

この疎性結合組織であろう部分が重要であると考えています。

脈管系の周囲には必ず、この疎性結合組織が存在します。

上記の腋窩動静脈、神経周囲には脈管系が集合していますので、
このように大きく広く見えます。

そして、”疎性”なので、
良く”動く”部分です。

この部分が、炎症等で動きが悪くなると、
神経を介して痛みが助長されたり、
動静脈を介して循環不全が生じ筋のタイトネスに繋がったり
するのではないかと考えております。

棘下筋

棘下筋は、野球選手の後方タイトネスに関わってくる部分です。

後方から観察すると、
・棘下切痕
・棘上筋下脂肪体

などが観察できます。

図11
図12

※後方からこのようにプローブを当てます。

※わかりやすく解説しています。

収縮動態まで観察できると良いと思います。

上腕三頭筋

上腕三頭筋も野球選手やオーバーヘッドスポーツの選手では、非常に重要です。

特に、長頭は挙上位では骨頭の直下に来ます。

図13
図14

長頭を取り囲むように、
小円筋・大円筋が存在
します。

この3つの筋は重要です。

では、どのようにエコーでは見えるでしょうか?

図15
図16

このように骨頭を基準に、
3つの筋が並んでいるのが見てわかります。

解剖書のみ見ていると、この挙上位の動態のイメージがつきにくく、
この筋の並びはあまりイメージしにくいかと思います。

エコーで可視化し、イメージできれば、
かなり解剖の知識として三次元的なイメージがしやすくなるのではないでしょうか?

肩関節のエコー解剖(神経)

ここからは、腕神経叢についてです。

この部分の理解は中々難しいと思っています。

それは、解剖書のみではイメージしにくいからです。

図17

エコーを使用して、腕神経叢を理解することで、
走行の理解・イメージがしやすくなります。

末梢神経を勉強することで、痛みに対しての解釈がしやすくなると考えています。

また、上記にも述べた通り、神経周囲には血管が存在することが多くあります。
血管の走行が理解できれば、筋肉への循環動態に対して治療できます。

脈管系を理解することは、
筋肉に対しての理解もさらに深まる
と考えています。

さらに、肩甲帯周囲の骨格系も一緒に位置関係を理解することで
この部分の動きが良くなれば、
この神経血管の循環動態が改善するのではないかと考えることができます。

図18

ですので、骨のランドマークも一緒に勉強します。

これでは、一つずつ見ていきます。

見ていく神経は以下の通りです。

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