投球障害肘から競技復帰後のトレーニング・再発予防の身体作り【トレーナーマニュアル10】

C-I baseballの投球障害肘から競技復帰後のトレーニング・再発予防の身体作りを担当します高橋塁です。


日々、野球を中心にスポーツの現場で、トレーニング、コンディショニング、技術指導を行っています。

私自身が、日々のスポーツ現場での経験をもとに、
障害をいかに防ぎ、かつ再発せず、
パフォーマンスアップできるかをお伝えし、
医療機関とスポーツの現場との連携をいかにスムーズにできるかを
わかりやすく発信していきたいと思います。

投球障害肘とは

投球動作において、主に運動方向が変化するLate-cocking~MER以降にメカニカルストレス(主に外反ストレス)を与えることで投球が困難になることが、投球障害肘ということなります。
投球障害肘になることで回復期では日常生活では困らないことがほとんどですが、練習や試合を休んで痛みがなくなっても、投球を再開するとまた痛みがでる…。

つまり、原因となる要因を排除しなければ、悪循環のループに乗ったままになってしまうのです。


その悪循環を断ち切るために投球障害肘を考える上で、重要なこと。

肘関節は基本的に1軸性の関節。
 →屈伸以外の動きをすることで投球障害肘を惹起する。
肘関節内側解剖の新しい知見。(腱性中隔)
成人期と成長期の肘障害について
肘の障害を内側障害、外側障害、後方障害の3つに分ける。

を理解することが大切かと思います。

肘関節の解剖

肘関節の安定化機構としては

静的安定化機構(靭帯) 

動的安定化機構(筋肉)

静的安定化機構とは?

静的安定化機構の靭帯は、MCLが代表的です。

MCLは、その線維の走行から、3つのパートに分けられることができます。

肘関節屈曲するほどMCL(POL)の後部線維が伸張し、伸展するほどMCL(AOL)の前部線維が伸張すると

考えられます。

MCLの障害されやすい部位は、AOL後部線維が最もストレスがかかりやすい部位だといえます。

動的安定化機構とは?

これら個々の筋肉で、肘関節に与える動的安定化の方向が異なります。

尺側関節裂隙の狭小化には、円回内筋橈側手根屈筋浅指屈筋が関与しています。

尺骨鉤状突起の橈尺側偏位について

MCL不全損傷の肘関節アライメントは、尺骨鉤状突起の橈側偏位が生じているといわれています。

そして、動的安定化筋群の作用をそれぞれ考えていきます。

円回内筋橈側手根屈筋が収縮すると、尺骨鉤状突起を尺側に偏位させます。
浅指屈筋尺側手根屈筋が収縮すると、尺骨鉤状突起を橈側に偏位させます。

肘関節内側解剖の新しい知見(腱性中隔について)

「解剖学的知見から考察していくことも重要」

ここから先は有料部部です。

続きを読む

投球障害肘の段階的復帰プログラム【トレーナーマニュアル9】

投球障害肘の段階的復帰プログラム

投球障害肘は投球障害肩同様休んでいても治りません。
特に肘障害では病態や年齢により復帰までの道のりも
さまざまです。
単純に痛みが引くまでの期間を休めば良いわけではないです。

今回は投球障害肘について
特に現場で多く経験する内側障害を中心に
年齢を考慮した復帰プログラムをお伝えしていきます。

【マガジン紹介】

C-I Baseballトレーナーマニュアルでは、臨床・現場での野球におけるケガの対応力を高めるためのマニュアルを配信しています。

・これから野球現場に出たい方
・野球のケガの対応力を高めたい方
・臨床での野球のケガの評価・トレーニング・復帰について悩む方
にオススメの内容です!
https://note.com/c_ibaseball/m/m7fe74e91fd1d

野球現場での投球障害肘

野球現場では投球障害肩と共に肘関節に痛みを
訴える選手は多くいます。
特に小学生や中学生の成長期の選手に多いとされています。

sakata J:Phtsical Risk Factors for a Medial Elbow Injury in Junior Baseball Players:A Prospective Cohort Study of 353  Players.Am J Sports Med.2017 ;45(1):135-43 

実際の野球現場に帯同してみて
投球障害肘は再発率が高い印象があります。


高校生や大学生の選手で肘に痛みがある選手は
「小学校の時に痛めたことがあります」

「野球肘と診断されたことがあります」

など
過去に肘関節を痛めた経験がある選手がほとんどです。

投球障害肘は骨軟骨が未発達な小~中学生期の発症が多く、
成長期の段階で根本的な解決をせずにいると
成人期で再び障害を引き起こすことがあります。

障害を繰り返さないように
病態 原因を改善することがとても重要となります。

投球障害肘とは

投球動作において投球障害肘は
2つのphaseで障害が生じやすいと考えられています。

MER
外反ストレス
MER(Maximum External Rotation) 

肩関節最大外旋時に肘関節には外反への力が加わります。
この時にMCLや肘関節内側筋群に負荷が生じます。

Ball-Release~Follow-through
伸展+外反ストレス

投球動作中の肘関節はBLにかけて伸展+回内運動します。
過度肘関節伸展では後方への負荷を生じさせます。
肘関節伸展に伴う、回内運動タイミングが遅延すると
肘関節への外反ストレスが発生します。



では、なぜ上記の2つの相で障害が生じるのでしょうか

投球障害肘の原因

肘関節は肩関節と手関節および手指に挟まれた中間関節です。
肩関節や手関節にまたがる多くの筋肉が肘関節運動に
関与しているため、投球障害肘の原因を探るためには
肩関節や手関節および手指の機能の影響を考慮し
展開していく必要があると考えます。

投球動作においても同様のことが考えられます。
肘関節は基本的に1軸性の関節であり、主な運動は屈曲/伸展です。
投球障害肘の発生には、外反ストレスが大きく関与します。
このことは、投球動作に伴う、
肩関節や前腕の回旋運動により
肘関節へ外反/内反の動きが強制
され
肘関節への障害が発生すると考えられます。

投球障害肘を捉える上で、肩関節や手関節および手指の
機能を把握することで、原因の究明につながります。

機能的問題

〈肩関節からの影響〉
TER(Total External Rotation)各関節の総合可動域
MER時は肩甲上腕関節外旋だけでなく
肩甲骨、胸椎も連動
します。
この、連動性が低下することで、肘関節の外反ストレスが増大し障害を発生させる要因となります。

〈手関節および手指からの影響〉
前腕回旋制限
前腕の回旋制限は特に、Ball-Releaseでの回内運動が重要となります。
肘関節伸展とともに回内することでリリース時に
手関節が背屈/橈屈位になり前腕屈筋群の動的支持機構が機能しますが
回内制限をきたすと、リリース時に手関節が尺屈位になりやすく
前腕屈筋群の動的支持機構の機能が低下します。

〈内在筋機能の影響〉
手内在筋の機能はボールを握る動にとってとても重要です。
ボールの握り方には大きく分けて2種類あります。

一般的には、内在筋を利用した
母指尺側握りが良いとされています。

指腹握りであると、外在筋の活動が高くなり
前腕の動きに制限が生じる
と考えられているからです。

手内在筋機能が低下すると、手外在筋優位となり、ボールを強く握りこむことで肘下がりや、リリース時の前腕回内制限を引き起こします。

〈ボール握りと肘下がり〉
過度なボールの握りこみは、前腕の回内制限を引き起こし
上肢の回旋運動連鎖の破綻を引き起こします。
Take-backで必要な肩関節の内旋は、ボールの握りによっても
変化します。

投球フォームの問題

投球動作では、下肢からの運動連鎖を
下肢→体幹→上肢と連動させて行います。
この一連の動作に問題が生じると、特定の関節への
負荷が大きくなり障害につながります。

投球障害肘では、成長期での発症が多いことから
身体的、技術的に未熟な選手に多く発生し
身体機能低下と合わせて不良フォームによる誘因も多く考えられます。

下記に示す3つの不良フォームは、投球障害肘につながることが
多いとされています。

〈肘下がり〉
Top~BRにかけて両肩の結んだラインより肘の位置が低い状態

〈体の開きが早い〉
 FP前に体幹が投球方向への回旋が生じている状態

〈踏足の股関節内旋制限〉
踏込足への体重移動が不十分でフォローの際に骨盤の回旋が少ない状態

野球肘の投球開始基準

投球障害肘では基本的に保存療法を選択することが多いです。
そのため、投球開始には理学所見の陰性化が重要になってきます。
Little Legagur’s ElbowやMCL損傷では
画像所見の修復を待つことなく投球を開始していきます。

離断性骨軟骨障害(OCD)では画像所見を踏まえて判断させるため
疼痛がなくても医療機関からの投球開始許可が必要であり
現場の独断で投球開始しないように注意してください。

投球障害肘は、発症部位や損傷組織、年齢により
投球禁止期間はさまざまです。
病態ごとの投球開始基準はこちらのnoteを参考にしてください。

野球現場における投球開始基準

投球障害肘の投球開始基準は年齢によって異なると考えています。
基本的には医療機関での、投球開始許可が出てからの開始となりますが
投球開始基準は成人期と成長期では、捉え方を分けたほうが良いと考えています。

ここから先は有料部部です。

続きを読む

投球障害肘に対するトレーニング【トレーナーマニュアル8】

投球障害肘のトレーニング

「投球復帰したが、またすぐ痛めてしまった」

このような選手の経験をしたことはないでしょうか。


投球動作において
肘関節という部位は能動的な動きによる負荷よりも
受動的な制御により大きな負荷を受けることで
ケガにつながることの多い部位です。


それは関節の構造が基本的に
1軸性(屈曲・伸展)であるため、
投球動作のように
外反などの捻れた運動が加わることにより
ケガにつながっていきます。


つまり、
肘関節の機能だけが改善しても
投球障害は防げない
のです。

野球肘を予防するためには、

肘関節に加わる外反ストレスのかかり方

を考えていく必要があります。

画像1

メディカルリハビリテーションの位置づけ

画像2

野球肘のメディカルリハビリテーションでは
投球復帰を目標に構成していきます。

野球肘のリハビリテーションに関わる上で、
「投球復帰」がどの選手においてもまず目指すべき部分であると思います。

前述しましたが、
肘関節の局所的な改善のみではなく、

肘関節が投球の負荷に耐えられるのか

他関節の問題により肘関節に過剰な外反ストレスを生んでいないか

が重要です。

・・・・・

投球開始基準

基本的に投球復帰・開始の基準は
疼痛誘発テスト・ストレステストによる
理学所見の陰性化
により
投球開始を検討していきます。

画像3

リハビリテーションの経過として、
急性期は局所の炎症症状の改善・安静時痛の軽減を図っていきます。


炎症所見・安静時痛の陰性に伴い、
ストレッチ等による可動域の改善を図っていき、
疼痛誘発(ストレス)テストの評価の上、
陰性化となった時期より投球を開始していきます。

補足
可動域については正常可動域が望ましいですが、肘伸展-15°であれば投球が可能といわれています。
(投球障害のリハビリテーションとリコンディショニング:文光堂)

加えて、投球フォーム異常による疼痛の増悪が考えられた場合には
投球フォーム指導も必要に応じて行う必要があります。


つまり、
復帰までのプロセスとして

・局所機能の改善
・肘のストレス(外反・伸展)の誘因となる患部外機能の改善

を進めていくことが中心になってきます。

・・・・・

メディカルリハビリテーションの流れ

画像4

(患部外)全身機能の改善を考えるうえで、
投球動作により肘関節に負荷がかかる要素を把握しておくと
全ての身体機能を評価するのではなく、
何に着目して対応するのかがわかりやすくなると思います。

この時期は局所に負担をかけない範囲であれば
積極的に患部外トレーニングを実施し、
早期から障害発生の要因となる患部外からの影響を把握し、
改善していくことが必要です。

ーーーーーーーーーーーーーーー

肘に負担を増大させる投球動作

つぎに、投球動作によって肘に負担のかかりやすい
phase・メカニズムについてまとめていきます。

「野球肘の痛みのメカニズム」については
こちらのnoteに簡単にまとめてありますので、ご覧ください。

野球肘の痛みを理解する

https://note.com/ko_bmk/n/n19feea77227d

・・・・・

投球動作との関係性

次の図では
野球肘の疼痛部位別による投球動作との関係性について表しています。

画像5

内側型
Late-cocking~Accelerationにおける外反力と内側の牽引力

外側型
Acceleration~Follow-throughにおける腕橈関節の圧迫力

後側型
Follow-throughにおける急激な肘の伸展

投球動作と痛みの部位を厳密に分けることはできませんが、
それぞれ痛みの起こる場面を解説しています。

図からもわかるように
痛みが実際に起こるのは主にLate-cocking以降となります。

投球動作の疼痛出現相による特徴の違いを検討した研究では
このような報告があります。

Cocking相で疼痛を有す選手においては「肘下がり」
Acceleration-Deceleration相で疼痛を有す選手においては「肩甲平面からの逸脱」と「骨盤回旋の早期終了」が
各相で疼痛を引き起こすフォームの特徴として挙げられた

坂田淳:内側型野球肘患者の疼痛出現相における投球フォームの違いと理学的所見について:整スポ会誌vol32:3
画像6

投球障害肩・肘にみられる代表的な異常フォーム

画像7

肘下がり

画像8

肩甲平面からの逸脱

画像9

骨盤回旋の早期終了

画像10

異常運動のフローチャート

画像11

世代・年代による背景

画像12

外反ストレスから考える

前項にて
投球動作による肘関節のストレス
についてお伝えしてきました。

実際の外反ストレスをもう少し踏み込んで捉えていきます。

投球動作における肘関節障害のポイントとして

・受動的動作に生じる過度の運動ストレス
・受動的動作における制動力低下
・受動的動作である肘運動の積極的な使用で生じる過負荷

をおさえておきます。

その理由はこれがトレーニング・強化する対象の運動となるためです。

・・・・・

可動域と外反ストレス

外反ストレスは
肩最大外旋位・リリース時に起こります。

画像13


肩最大外旋位における総合的な肩外旋可動域(Total External Rotation:TER)を理解することはとても重要です。

画像28

(病態・動作分析より参照)

つまり、
肩甲上腕関節のみでなく、肩甲骨や胸椎、また股関節の可動性も必要であり、これらの動きが不足することで、肘の外反ストレスを増大すると考えます。

画像27

(病態・動作分析より参照)

つまり、
MER時に(MER直前との報告もあり)肘関節の外反ストレスが少しでも少なくすることが大切であり、
そのためには投球する方向に対して、肘関節の後面が見えるように(腕の振りと肘関節の屈伸軸が同一になるように)することが大切であると考えます。(病態・動作分析より引用↓)


また、外反ストレスの制動性として

画像14

これらの制動力に負荷が増大することで、
組織の局所的な炎症・構造的な破綻をきたします。

肘・患部外を整える

ここから先は
肘と患部外に分けて、まとめていきます。

内容は

・肘・患部外を整えるために必要な要素とは?
・自分で確認できるセルフチェック方法
・トレーニング方法

について段階的にお伝えします。

徒手評価については
前回配信しました「評価」noteに記載されているので、
今回のnoteでは簡便なチェックでスクリーニングするための方法として
「セルフチェック」を記載しました。

「評価・アプローチ」記事はコチラ↓

肘を整える

肘を整えるためには何が必要?
トレーニングすべき内容とは?

肘関節の外反ストレスが整理できたところで、
実際に「肘関節を整える」要素について考えていきます。

投球動作時に発生する肘外反ストレスに対する動的支持組織として、
前腕屈筋群と回内筋群が挙げられます。

その中でも特に尺側手根屈筋・浅指屈筋が重要であり、
これらの収縮により肘外反角度が減少することが示されています。

尺側手根屈筋は投球動作において外反ストレスが最大となる肢位で、筋の走行上、内側側副靱帯を補強する位置にあることが解剖学的研究により報告されている

Davidson PA,Pink M,Perry J,Jobe FW:Functional anatomy of the flexor pronator muscle group in relation to the medial collateral ligament of the elbow:Am J Sports Med.1995:23:245-50


前腕回内外の制限はテイクバック動作において、
肘関節・肩関節への連動が妨げられ、
結果として肩関節外転可動域制限され、
肘下がり動作の要因となることも少なくありません。

セルフチェック

外反アライメント

画像28

まず静的評価として
肘関節伸展時の外反アライメントと
前腕内側部の筋萎縮の有無を評価していきます。

これらの外反アライメントが増大したケースでは、
外反制動性の低下した状態を表しており、
投球動作においてさらなる外反力にストレスを増大しやすくなります。

尺側グリップ

ここから先は有料部部です。

続きを読む

投球障害肘に対する評価・アプローチ【トレーナーマニュアル7】

C-I Baseballの評価・アプローチの発信を担当する須藤慶士です。

臨床では評価を大切にしております。評価が確かなものでないと原因に対するアプローチをすることができません。

局所評価だけでなく全体の評価を行うことも大切です。

臨床での経験を元にした評価とアプローチを発信していきたいと思います。 

はじめに

復帰までの流れ

肘関節に痛みを感じたらただ安静にして2〜3週間後に復帰する。

しかし、安静にするだけでは再発の可能性があります。

それはなぜか?

投球障害肘が起きた原因が肘だけではなく他の何処かにもあるからです。

原因は何か?

筋肉?靭帯?アライメント?可動性?投球フォーム?

臨床では、それを確かめ問題点に対してアプローチする。

そして現場へバトンタッチします。

今回は私が臨床で行っている評価とアプローチを紹介したいと思います。

病態については、小林弘幸先生の記事を参照

局所評価

圧痛
外反ストレステスト
離断性骨軟骨炎(OCD)

圧痛

評価(圧痛点)
内側:内側上顆、内側側副靭帯(前部繊維、横部繊維、後部繊維)、上腕骨滑車、
 ⇨靭帯損傷、炎症、剥離骨折
外側:外顆、橈骨頭、輪状靭帯、腕尺関節、外側側副靭帯
 ⇨変性、肥大、靭帯損傷、炎症
肘頭:肘頭、上腕三頭筋腱        
 ⇨疲労骨折、変性、骨極形成、滑膜炎

内顆周囲、外顆周囲、橈骨頭周囲、肘頭周囲に圧を加えて評価します。

できるだけ点で圧を加えます。

内側圧痛動画

ここから先は有料部部です。

続きを読む

投球障害肘の病態と動作【トレーナーマニュアル6】

C-I baseballの病態・動作の発信を担当する小林弘幸です。

スポーツDrと一緒にエコーを用いて、選手の病態を理解し
障害の原因追及を大切にしています。

病態を理解することによって、医療機関と現場との橋渡し的な役割を果たすことができると思います。

基本的な部分ですが、なるべくわかりやすく発信していきたいと思います。

投球障害肘の概論

投球障害肘とは?

投球動作は、身体各部位の全身的な運動を通じて肩関節や肘関節を動かし、その力を指先からボールへ伝えていく動作です。

肘関節は、基本的には、屈曲・伸展の1軸性の関節です。

そのため、投球動作において、主に運動方向が変化するLate-cocking~MER以降にメカニカルストレス(主に外反ストレス)を与えることで投球が困難になることが、投球障害肘ということなります。

投球障害肘になることで
回復期では日常生活では困らないことがほとんどですが、練習や試合を休んで痛みがなくなっても、投球を再開するとまた痛みがでる…。


なんの対処もせずに復帰するとこのような悪循環を招いてしまいます。

これは、投球動作という繰り返しの動作で生じる非外傷性の慢性疾患(投球障害肩を含む)では同様のことが言えると思います。

つまり、原因となる要因を排除しなければ、悪循環のループに乗ったままになってしまうのです。

その悪循環を断ち切るために
投球障害肘を考える上で、大切なことを先に述べます。

肘関節は基本的に1軸性の関節。
屈伸以外の動きをすることで投球障害肘を惹起する。

肘関節内側解剖の新しい知見。

成人期と成長期の肘障害を分ける。

内側障害
外側障害
後方障害
の3つに分ける。

を理解することが大切かと思います。

投球障害肘の原因

なぜ、投球障害肘が生じてしまうのでしょうか。

投球障害肘は投球動作中の、
MER時とBall-Release(BR)~Follow-thogh phaseで最も生じやすいと考えられています。

そして、投球障害肘は大きく2つのPhaseで障害が生じやすいと考えられます。

肘関節が、
・投球動作中に外反ストレス増大(上腕骨を固定した場合、肘関節(前腕)が外反方向に引っ張られる力)
・外反トルクが増大(上腕骨を固定した場合、筋力等により肘関節(前腕)を外反方向に引っ張る力)
これらが障害を惹起するといわれています。

MERで肘関節の外反ストレスが最大になる

Fleisig GS, et al.: Biomechanics of the elbow during baseball pitching. Am J Sports Med, 23. 233-239, 1995

Release直後に外反トルクが増大する

Solomito MJ, et al.: Elbow flexion post ball release is associated  with the elbow varus deceleration moments in baseball pitching. Sports Biomeca: 1-10, 2019.

肘外反ストレスについて

MER時の肘関節外反ストレスは、64Nmであるといわれています。
靭帯への負荷は54%おおよそ34Nm、骨への負荷は33%)

MERで肘関節の外反ストレスは64Nmとなる

Fleisig GS, et al.: Biomechanics of the elbow during baseball pitching. Am J Sports Med, 23. 233-239, 1995

そして、肘関節内側側副靭帯(以下、MCL)の破断強度は32Nmとされています。

MCLは外反ストレスに対して32Nmで破断する

Morrey DR, et al.: Articular and ligamentous contributions and motion analysis of the elbow joint. Am J Sports Med 11: 315-319, 1983

つまり、投球時の外反ストレスと、MCLの破断強度がほぼ等しいため、
静的安定化機構(後述)のみでは靭帯損傷等の内側障害は容易に生じてしまうことが考えられます。

MER時に(MER直前との報告もあり)肘関節の外反ストレスが少しでも少なくすることが大切で、
そのためには投球する方向に対して、肘関節の後面が見えるように(腕の振りと肘関節の屈伸軸が同一になるように)することが大切であると考えます。

この考え方は、Throwing plane conceptといい、投球中の肩・肘・手を結ぶ線分がなす軌跡を観察することを言います。

この軌跡がMERからの加速期で、一直線上になること(Single-plane)が障害予防の観点から大切であると考えられます。

Single-planeでは関節への応力が小さく、障害の危険性が低い
Double-planeでは関節への応力が大きく、障害の危険性が高い

瀬戸口芳正:投球フォームと肩・肘障害. 臨床スポーツ医学, Vol 30, No9. 2013 引用改変

肘外反トルクについて

BRからFollow-thogh phaseで上肢全体での内旋運動が重要で、前腕の回内運動のみが過剰になることで肘関節の外反トルクが増大します。
上肢や肩甲骨、体幹を連動させ、肘関節にストレスがかからないようにすることが大切です。

そして、投球動作分析にて、前額面と矢状面の両方から観察することも、投球障害肘を扱うセラピスト、トレーナーにとって大切です。

肘関節の解剖

肘関節の解剖として、MCLに着目します。

非常に重要な部分です。病態理解には、解剖の知識が必要かと思いますので、是非ご理解いただけたらと存じます。

投球障害肘でMCL損傷は『外反ストレスの軽減』に寄与するところが非常に大きいです。

つまり、『安定化機構』が働くことが重要です。

肘関節の安定化機構としては
・静的安定化機構(靭帯)
・動的安定化機構(筋肉)

が大切であると考えています。

静的安定化機構とは?

静的安定化機構の靭帯は、MCLが代表的です。

MCLは、その線維の走行から、3つのパートに分けられることができます。

しかし、実際の解剖でAOLとPOLを観察すると、明瞭な境目はなく
連続性をもっているように見えます。
ですので、臨床的にはAOLとPOLを合わせてMCLと考えることができます。

TLに関しては、関節をまたいでいる靭帯ではないので、投球障害肘には関与しているとは考えられていません。

AOLとPOLを一塊のものとしてMCLとして考えると、肘関節屈曲角度によって伸張される部位が異なります。

肘関節屈曲するほどMCL(POL)の後部線維が伸張し、
伸展するほどMCL(AOL)の前部線維が伸張すると考えられます。

この屈曲角度を考えると、投球動作中に障害されやすい部位が必然的に明らかとなります。

MER時の外反ストレスが最大に生じるときに、肘関節屈曲角度は70°~80°となります。
その角度でMCLの障害されやすい部位は、AOL後部線維が最もストレスがかかりやすい部位だといえます。

動的安定化機構とは?

次に
動的安定化機構の筋肉について述べます。

基本的には上腕骨内側上顆に付着する筋肉が、動的安定化機構として認識されております。

・円回内筋
・橈側手根屈筋
・浅指屈筋
・尺側手根屈筋

これらが肘関節の動的安定化機構として働くとされています。

これら個々の筋肉で、肘関節に与える動的安定化の方向が異なります。

内側の動的安定化機構に関する研究は、多数ありますが、ここでは超音波に関する研究から動的安定化機構を捉えます。

ここから先は有料部部です。

続きを読む