投球障害肘の病態と動作【トレーナーマニュアル6】

投球障害肘の病態と動作【トレーナーマニュアル6】

C-I baseballの病態・動作の発信を担当する小林弘幸です。

スポーツDrと一緒にエコーを用いて、選手の病態を理解し
障害の原因追及を大切にしています。

病態を理解することによって、医療機関と現場との橋渡し的な役割を果たすことができると思います。

基本的な部分ですが、なるべくわかりやすく発信していきたいと思います。

投球障害肘の概論

投球障害肘とは?

投球動作は、身体各部位の全身的な運動を通じて肩関節や肘関節を動かし、その力を指先からボールへ伝えていく動作です。

肘関節は、基本的には、屈曲・伸展の1軸性の関節です。

そのため、投球動作において、主に運動方向が変化するLate-cocking~MER以降にメカニカルストレス(主に外反ストレス)を与えることで投球が困難になることが、投球障害肘ということなります。

投球障害肘になることで
回復期では日常生活では困らないことがほとんどですが、練習や試合を休んで痛みがなくなっても、投球を再開するとまた痛みがでる…。


なんの対処もせずに復帰するとこのような悪循環を招いてしまいます。

これは、投球動作という繰り返しの動作で生じる非外傷性の慢性疾患(投球障害肩を含む)では同様のことが言えると思います。

つまり、原因となる要因を排除しなければ、悪循環のループに乗ったままになってしまうのです。

その悪循環を断ち切るために
投球障害肘を考える上で、大切なことを先に述べます。

肘関節は基本的に1軸性の関節。
屈伸以外の動きをすることで投球障害肘を惹起する。

肘関節内側解剖の新しい知見。

成人期と成長期の肘障害を分ける。

内側障害
外側障害
後方障害
の3つに分ける。

を理解することが大切かと思います。

投球障害肘の原因

なぜ、投球障害肘が生じてしまうのでしょうか。

投球障害肘は投球動作中の、
MER時とBall-Release(BR)~Follow-thogh phaseで最も生じやすいと考えられています。

そして、投球障害肘は大きく2つのPhaseで障害が生じやすいと考えられます。

肘関節が、
・投球動作中に外反ストレス増大(上腕骨を固定した場合、肘関節(前腕)が外反方向に引っ張られる力)
・外反トルクが増大(上腕骨を固定した場合、筋力等により肘関節(前腕)を外反方向に引っ張る力)
これらが障害を惹起するといわれています。

MERで肘関節の外反ストレスが最大になる

Fleisig GS, et al.: Biomechanics of the elbow during baseball pitching. Am J Sports Med, 23. 233-239, 1995

Release直後に外反トルクが増大する

Solomito MJ, et al.: Elbow flexion post ball release is associated  with the elbow varus deceleration moments in baseball pitching. Sports Biomeca: 1-10, 2019.

肘外反ストレスについて

MER時の肘関節外反ストレスは、64Nmであるといわれています。
靭帯への負荷は54%おおよそ34Nm、骨への負荷は33%)

MERで肘関節の外反ストレスは64Nmとなる

Fleisig GS, et al.: Biomechanics of the elbow during baseball pitching. Am J Sports Med, 23. 233-239, 1995

そして、肘関節内側側副靭帯(以下、MCL)の破断強度は32Nmとされています。

MCLは外反ストレスに対して32Nmで破断する

Morrey DR, et al.: Articular and ligamentous contributions and motion analysis of the elbow joint. Am J Sports Med 11: 315-319, 1983

つまり、投球時の外反ストレスと、MCLの破断強度がほぼ等しいため、
静的安定化機構(後述)のみでは靭帯損傷等の内側障害は容易に生じてしまうことが考えられます。

MER時に(MER直前との報告もあり)肘関節の外反ストレスが少しでも少なくすることが大切で、
そのためには投球する方向に対して、肘関節の後面が見えるように(腕の振りと肘関節の屈伸軸が同一になるように)することが大切であると考えます。

この考え方は、Throwing plane conceptといい、投球中の肩・肘・手を結ぶ線分がなす軌跡を観察することを言います。

この軌跡がMERからの加速期で、一直線上になること(Single-plane)が障害予防の観点から大切であると考えられます。

Single-planeでは関節への応力が小さく、障害の危険性が低い
Double-planeでは関節への応力が大きく、障害の危険性が高い

瀬戸口芳正:投球フォームと肩・肘障害. 臨床スポーツ医学, Vol 30, No9. 2013 引用改変

肘外反トルクについて

BRからFollow-thogh phaseで上肢全体での内旋運動が重要で、前腕の回内運動のみが過剰になることで肘関節の外反トルクが増大します。
上肢や肩甲骨、体幹を連動させ、肘関節にストレスがかからないようにすることが大切です。

そして、投球動作分析にて、前額面と矢状面の両方から観察することも、投球障害肘を扱うセラピスト、トレーナーにとって大切です。

肘関節の解剖

肘関節の解剖として、MCLに着目します。

非常に重要な部分です。病態理解には、解剖の知識が必要かと思いますので、是非ご理解いただけたらと存じます。

投球障害肘でMCL損傷は『外反ストレスの軽減』に寄与するところが非常に大きいです。

つまり、『安定化機構』が働くことが重要です。

肘関節の安定化機構としては
・静的安定化機構(靭帯)
・動的安定化機構(筋肉)

が大切であると考えています。

静的安定化機構とは?

静的安定化機構の靭帯は、MCLが代表的です。

MCLは、その線維の走行から、3つのパートに分けられることができます。

しかし、実際の解剖でAOLとPOLを観察すると、明瞭な境目はなく
連続性をもっているように見えます。
ですので、臨床的にはAOLとPOLを合わせてMCLと考えることができます。

TLに関しては、関節をまたいでいる靭帯ではないので、投球障害肘には関与しているとは考えられていません。

AOLとPOLを一塊のものとしてMCLとして考えると、肘関節屈曲角度によって伸張される部位が異なります。

肘関節屈曲するほどMCL(POL)の後部線維が伸張し、
伸展するほどMCL(AOL)の前部線維が伸張すると考えられます。

この屈曲角度を考えると、投球動作中に障害されやすい部位が必然的に明らかとなります。

MER時の外反ストレスが最大に生じるときに、肘関節屈曲角度は70°~80°となります。
その角度でMCLの障害されやすい部位は、AOL後部線維が最もストレスがかかりやすい部位だといえます。

動的安定化機構とは?

次に
動的安定化機構の筋肉について述べます。

基本的には上腕骨内側上顆に付着する筋肉が、動的安定化機構として認識されております。

・円回内筋
・橈側手根屈筋
・浅指屈筋
・尺側手根屈筋

これらが肘関節の動的安定化機構として働くとされています。

これら個々の筋肉で、肘関節に与える動的安定化の方向が異なります。

内側の動的安定化機構に関する研究は、多数ありますが、ここでは超音波に関する研究から動的安定化機構を捉えます。

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