投球障害肘のトレーニング
「投球復帰したが、またすぐ痛めてしまった」
このような選手の経験をしたことはないでしょうか。
投球動作において
肘関節という部位は能動的な動きによる負荷よりも
受動的な制御により大きな負荷を受けることで
ケガにつながることの多い部位です。
それは関節の構造が基本的に
1軸性(屈曲・伸展)であるため、
投球動作のように
外反などの捻れた運動が加わることにより
ケガにつながっていきます。
つまり、
肘関節の機能だけが改善しても
投球障害は防げないのです。
野球肘を予防するためには、
肘関節に加わる外反ストレスのかかり方
を考えていく必要があります。
メディカルリハビリテーションの位置づけ
野球肘のメディカルリハビリテーションでは
投球復帰を目標に構成していきます。
野球肘のリハビリテーションに関わる上で、
「投球復帰」がどの選手においてもまず目指すべき部分であると思います。
前述しましたが、
肘関節の局所的な改善のみではなく、
肘関節が投球の負荷に耐えられるのか
他関節の問題により肘関節に過剰な外反ストレスを生んでいないか
が重要です。
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投球開始基準
基本的に投球復帰・開始の基準は
疼痛誘発テスト・ストレステストによる
理学所見の陰性化により
投球開始を検討していきます。
リハビリテーションの経過として、
急性期は局所の炎症症状の改善・安静時痛の軽減を図っていきます。
炎症所見・安静時痛の陰性に伴い、
ストレッチ等による可動域の改善を図っていき、
疼痛誘発(ストレス)テストの評価の上、
陰性化となった時期より投球を開始していきます。
補足
可動域については正常可動域が望ましいですが、肘伸展-15°であれば投球が可能といわれています。
(投球障害のリハビリテーションとリコンディショニング:文光堂)
加えて、投球フォーム異常による疼痛の増悪が考えられた場合には
投球フォーム指導も必要に応じて行う必要があります。
つまり、
復帰までのプロセスとして
・局所機能の改善
・肘のストレス(外反・伸展)の誘因となる患部外機能の改善
を進めていくことが中心になってきます。
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メディカルリハビリテーションの流れ
(患部外)全身機能の改善を考えるうえで、
投球動作により肘関節に負荷がかかる要素を把握しておくと
全ての身体機能を評価するのではなく、
何に着目して対応するのかがわかりやすくなると思います。
この時期は局所に負担をかけない範囲であれば
積極的に患部外トレーニングを実施し、
早期から障害発生の要因となる患部外からの影響を把握し、
改善していくことが必要です。
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肘に負担を増大させる投球動作
つぎに、投球動作によって肘に負担のかかりやすい
phase・メカニズムについてまとめていきます。
「野球肘の痛みのメカニズム」については
こちらのnoteに簡単にまとめてありますので、ご覧ください。
野球肘の痛みを理解する
https://note.com/ko_bmk/n/n19feea77227d
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投球動作との関係性
次の図では
野球肘の疼痛部位別による投球動作との関係性について表しています。
内側型
Late-cocking~Accelerationにおける外反力と内側の牽引力
外側型
Acceleration~Follow-throughにおける腕橈関節の圧迫力
後側型
Follow-throughにおける急激な肘の伸展
投球動作と痛みの部位を厳密に分けることはできませんが、
それぞれ痛みの起こる場面を解説しています。
図からもわかるように
痛みが実際に起こるのは主にLate-cocking以降となります。
投球動作の疼痛出現相による特徴の違いを検討した研究では
このような報告があります。
Cocking相で疼痛を有す選手においては「肘下がり」
坂田淳:内側型野球肘患者の疼痛出現相における投球フォームの違いと理学的所見について:整スポ会誌vol32:3
Acceleration-Deceleration相で疼痛を有す選手においては「肩甲平面からの逸脱」と「骨盤回旋の早期終了」が
各相で疼痛を引き起こすフォームの特徴として挙げられた
投球障害肩・肘にみられる代表的な異常フォーム
肘下がり
肩甲平面からの逸脱
骨盤回旋の早期終了
異常運動のフローチャート
世代・年代による背景
外反ストレスから考える
前項にて
投球動作による肘関節のストレス
についてお伝えしてきました。
実際の外反ストレスをもう少し踏み込んで捉えていきます。
投球動作における肘関節障害のポイントとして
・受動的動作に生じる過度の運動ストレス
・受動的動作における制動力低下
・受動的動作である肘運動の積極的な使用で生じる過負荷
をおさえておきます。
その理由はこれがトレーニング・強化する対象の運動となるためです。
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可動域と外反ストレス
外反ストレスは
肩最大外旋位・リリース時に起こります。
肩最大外旋位における総合的な肩外旋可動域(Total External Rotation:TER)を理解することはとても重要です。
(病態・動作分析より参照)
つまり、
肩甲上腕関節のみでなく、肩甲骨や胸椎、また股関節の可動性も必要であり、これらの動きが不足することで、肘の外反ストレスを増大すると考えます。
(病態・動作分析より参照)
つまり、
MER時に(MER直前との報告もあり)肘関節の外反ストレスが少しでも少なくすることが大切であり、
そのためには投球する方向に対して、肘関節の後面が見えるように(腕の振りと肘関節の屈伸軸が同一になるように)することが大切であると考えます。(病態・動作分析より引用↓)
また、外反ストレスの制動性として
これらの制動力に負荷が増大することで、
組織の局所的な炎症・構造的な破綻をきたします。
肘・患部外を整える
ここから先は
肘と患部外に分けて、まとめていきます。
内容は
・肘・患部外を整えるために必要な要素とは?
・自分で確認できるセルフチェック方法
・トレーニング方法
について段階的にお伝えします。
徒手評価については
前回配信しました「評価」noteに記載されているので、
今回のnoteでは簡便なチェックでスクリーニングするための方法として
「セルフチェック」を記載しました。
「評価・アプローチ」記事はコチラ↓
肘を整える
肘を整えるためには何が必要?
トレーニングすべき内容とは?
肘関節の外反ストレスが整理できたところで、
実際に「肘関節を整える」要素について考えていきます。
投球動作時に発生する肘外反ストレスに対する動的支持組織として、
前腕屈筋群と回内筋群が挙げられます。
その中でも特に尺側手根屈筋・浅指屈筋が重要であり、
これらの収縮により肘外反角度が減少することが示されています。
尺側手根屈筋は投球動作において外反ストレスが最大となる肢位で、筋の走行上、内側側副靱帯を補強する位置にあることが解剖学的研究により報告されている
Davidson PA,Pink M,Perry J,Jobe FW:Functional anatomy of the flexor pronator muscle group in relation to the medial collateral ligament of the elbow:Am J Sports Med.1995:23:245-50
前腕回内外の制限はテイクバック動作において、
肘関節・肩関節への連動が妨げられ、
結果として肩関節外転可動域制限され、
肘下がり動作の要因となることも少なくありません。
セルフチェック
外反アライメント
まず静的評価として
肘関節伸展時の外反アライメントと
前腕内側部の筋萎縮の有無を評価していきます。
これらの外反アライメントが増大したケースでは、
外反制動性の低下した状態を表しており、
投球動作においてさらなる外反力にストレスを増大しやすくなります。
尺側グリップ
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