投球障害肘~動的安定性と尺骨神経~【トレーナーマニュアルvol.181】

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チームトレーナー、育成年代への関わり、パフォーマンスについて

②臨床現場での選手への対応
投球障害への対応、インソールからの介入

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 バイオメカニクス、栄養…など各分野の専門家の方が執筆しています

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野球トレーナーマニュアル|C-I baseball|note【C-I Baseballトレーナーのトレーナーマニュアル】 投球障害肩・肘、腰痛、捻挫、肉離れ、下肢障害など野球におけるnote.com

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はじめに

野球選手の障害の中で多くは肩肘関節に多いですが、
一般的に肘関節に対する治療の多くは

”全身的なコンディショニング不良が原因なので、
       全身的な機能改善を図りましょう!”  私見

とすることが多いと思います。

もちろん、私もその意見に賛成です。
全身の機能が原因で、短軸しか動かない肘関節に屈曲伸展軸以外の動きが加わることで障害に至るということが多くはありますし、
障害予防としての観点でも非常に重要です。

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全身的に介入し、肘関節に少しでも負荷を少なくし、
もう次にケガをしないようにということです。

しかし、
中には局所的な機能低下が原因で
投球障害肘になっている選手もいる!と考えています!

全身の機能のみが原因だとしたら、
今まで肘なんて一度も痛くなったことのない、ピンピンした選手が一球のエピソードで内側部痛や内側側副靭帯損傷にいきなりなる!ということが考えにくいからです。
(もちろんその場合もありますが。。。)

ですので、
全身的な評価治療がもちろん重要だと考えた上で
しっかりと局所のことについても学んでいく必要があるかと思います。

その一助になれば幸いです。

投球障害肘とは

投球障害肘(Thrower’s Elbow)は、野球やソフトボールなど、繰り返し投球動作を行うスポーツ選手に多く見られる障害です。

いわゆる肘が痛くて投げられない選手のことすべてを指します。

特に、肘関節への過度な負担が原因で発生し、靱帯、軟骨、骨、神経などさまざまな組織に影響を及ぼします。

代表的な病態としては、図の通りに挙げられます。

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症状として、肘の痛み、可動域の制限、さらには筋力低下が挙げられます。

成長期の選手では、骨端線の損傷(リトルリーガーズエルボー)や離断性骨軟骨炎が多く見られます。

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一方で成人選手では内側側副靱帯(UCL)の損傷や尺骨神経障害が問題になるケースが増えます。

今回は、UCL損傷の原因となる内側の動的安定性についてと、尺骨神経障害について記載します。

動的安定性とは

肘関節における安定性とは、
外反ストレスに対して抗する力とすることができます。

安定性が低下すると、肘関節の内側裂隙が開き、靭帯損傷や尺骨神経障害が生じます。

エコーで観察するとこのように見えます。

動揺性ありと定義されるのは、左右差が3mm以上ある場合です。

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※伊藤恵康ほか:整・災外. 2003

投球においては、MERやBRに外反ストレスが強く働きます。

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※Fleisig GS, et al.: Biomechanics of the elbow during baseball pitching. Am J Sports Med, 23. 233-239, 1995 ※Solomito MJ, et al.: Elbow flexion post ball release is associated  with the elbow varus deceleration moments in baseball pitching. Sports Biomeca: 1-10, 2019.

『静的安定化』とは、肘の内側の靭帯のことを指し、自ら収縮できない組織が内側の関節を守ることを言います。

しかし、内側の靭帯の破断強度は、32Nmまでであり、
投球中の内側靭帯への負荷は34Nmであります。

上記のストレスをそのまま受けると、1球で肘の靭帯は壊れてしまいます。

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※Fleisig GS, et al.: Biomechanics of the elbow during baseball pitching. Am J Sports Med, 23. 233-239, 1995 ※Morrey DR, et al.: Articular and ligamentous contributions and motion analysis of the elbow joint. Am J Sports Med 11: 315-319, 1983

そこで、『動的安定性』が重要になっていきます。

「動的安定性」とは、肘を動かす筋肉や腱が協調的に働くことで、投球中の負荷に耐え、関節を安定させる機能を指します。

特に、前腕屈筋群や回内筋群の働きが、肘の内側を保護し、内側側副靱帯(UCL)の補助的な役割を果たします。

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※Otoshi Kenichi, et al.: Ultrasonographic assessment of the flexor pronator muscles as a dynamic stabilizer of the elbow against valgus force. Fukushima J. Med. Sci. 60, No2, 2014

投球時、肘には極めて高いストレスがかかり、特にリリース時にはUCLや筋肉の協調動作が重要になります。

動的安定性が低下すると、関節構造への負担が増大し、靱帯損傷や神経障害につながるリスクが高まります。
そのため、筋力や柔軟性の向上、動作解析による適切なフォーム修正も重要です。

局所的な内側の動的安定性の筋肉としては、
先行研究では、
・浅指屈筋
・円回内筋
・上腕筋
が言われています。

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※Shota Hoshika, et al.: Medial Elbow Anatomy: A Paradigm Shift for UCL Injury Prevention and Management. Clinical Anatomy 32:379–389. 2019 引用改変

いくつかの動的安定性に関する研究がありますが、そのほとんどが前腕回内屈筋群に関するものです。

では、他の筋はどうでしょうか?

我々の研究では、以下のような結果になりました。

我々の行った内側動的安定性の研究結果

肘関節の内側裂隙間距離がどの筋肉を収縮させたら狭くなるかを見た研究です。

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結果としては、以下の通りです。

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投球動作における鼠径部痛へのアプローチ -Groin pain syndrome 内転筋編-【トレーナーマニュアルvol.180】

トレーナーマニュアルにて定期的にnoteを投稿させていただくことになりました。
C-I Baseball サポートメンバーの 久我 友也 と申します。
私は整形外科クリニックで勤務しており、メディカルな視点でお話しさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。

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今回の記事は
以前に投稿させていただきました
「投球動作における鼠径部痛の病態とアプローチ -Groin pain syndrome編-」の続編となります。
Groin pain syndromeについて、病態と病理解剖学的な評価方法を解説しておりますので、まだご覧になっていない方はぜひ下記のリンクからどうぞ!


本シリーズの記事では
野球選手の投球動作中に発生する鼠径部痛について、
現場で実践しやすい評価・実用的なアプローチ方法を解説していきます。

細かい病態や画像所見などは成書をご覧ください。
可能な限りのエビデンスや解剖に基づいた話をメインにさせて頂きます。

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はじめに

今回はタイトルにある通り
Groin pain syndromeの中でも
”内転筋” について話していきます。

まずは
なぜ ”内転筋” なのか。

Groin pain syndromeと内転筋について

Groin pain Syndromeの病態として画像所見でよく報告されているのは
以下のMRI所見があります。
・内転筋の恥骨付着部における高輝度像(Cleft sign)
・恥骨の骨髄浮腫(Bone marrow oedema)
・恥骨結合円板の突出(Central disk protrusion)

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Branci S, Thorborg K, Bech BH, Boesen M, Nielsen MB, Hölmich P. MRI findings in soccer players with long-standing adductor-related groin pain and asymptomatic controls. Br J Sports Med. 2015;49(10):681.

この中で”内転筋”そのものと関係があるのはやはり
内転筋の恥骨付着部における高輝度像である ”Cleft sign” です。

そのCleft signは2つにわけられています。
①恥骨上肢に生じるSuperior cleft sign(長内転筋の付着部)
②恥骨下肢に生じるSecondary cleft sign(短内転筋、薄筋の付着部)

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Byrne CA, Bowden DJ, Alkhayat A, Kavanagh EC, Eustace SJ. Sports-Related Groin Pain Secondary to Symphysis Pubis Disorders: Correlation Between MRI Findings and Outcome After Fluoroscopy-Guided Injection of Steroid and Local Anesthetic. Am J Roentgenol. 2017;209(2):380-388.

この所見は基本的には内転筋の付着部症(Enthesopathy)とされています。
他の部位でいうと、
・前腕伸筋群の付着部症:外側上顆炎
・アキレス腱の付着部症:アキレス腱の付着部症
と同様の病態として整理されています。

内転筋由来の鼠径部痛に関わるメカニカルストレスとは

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春までに見つける!自分に合った金具スパイクの探しかた【トレーナーマニュアルvol.179】

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はじめに

金具スパイクを購入する際何を基準に選びますか?

金具スパイクは『金具の位置や本数』を見て購入しましょう。同じメーカーでも金具の位置や本数は異なります。

中学生からプロ野球選手約150名を対象にアンケートを行いました。
結果はスパイクを購入する際は、サイズ・履きやすさや値段で選ぶことが多く見られました。

もちろん、足の形は人それぞれ異なるのでサイズは重要です。しかし、地面に接しているのはスパイクの裏です。金具も見て選ぶようにするとパフォーマンスアップにつながります。


今回のnoteは最後に

『メーカーのスパイクカタログのQRコード』を添付

しておりますのでスパイクを選択する参考にしてください。

ミズノ
asics
久保田スラッガー
ZETT
BEMOLO
ハタケヤマ
UNDER ARMOUR
Hi-gold
adidas
ザナックス
New Balance

社会人・プロ野球選手のスパイク

レベルが高い選手は自分の投球や動きの足の使い方を熟知しているので金具の位置や、アウトソール・ミッドソールの厚みなど、こだわりをもって選んでいます。

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*担当した選手のスパイクの一例

金具について

①本数
②形状
③位置

本数

一番少ないのは6本で、多いものは13本もついています。

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形状

形状の違いは蹴り出し、踏ん張りに差が出てきます。グリップ力が強いのが苦手な場合や、引っ掛かりを少なくしたい場合の金具はフラットで短いものをお勧めします。

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母趾球・小趾球部分だけ形状が異なるものもあります。

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ミズノは耐久性にすぐれた金具があります。これは特殊なもので長い期間使用してもほとんど削れることはありません。

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写真右:耐久性に優れた金具(ミズノ)

位置

位置はポジションや動きをどうしたいかで選ぶべきです。

捕手・内野手:多方向へのグリップ
外野手   :前方への動き、蹴り出し、前足部に金具多め
投手    :軸足のどこで押し出すのか、蹴り出すのか、
       ステップ足(踏み込み足)のグリップ力

動作からみる

投球動作は正解というものがありません。

人それぞれの動きがあるので

自分の動きが足のどこに力がかかりやすいのか

を意識してみましょう。

●母趾球に体重を乗せて蹴り出したい
●親指を使い蹴り出したい
●踵重心で投げたい

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足圧の動きから見る

足圧を重心動揺計を使用し投球動作を測定しました。
今回の写真は母趾球を使うパターンと親指を使うパターンの2種類をご紹介します。
投球時のスパイクの金具は足圧の移動に合った位置にあるとスパイクの効果を最大限に発揮できると考えます。

母趾球を使う投球に向いているスパイク

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親指を使う投球に向いているスパイク

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買い替え時期

金具は消耗品です。
先にも述べましたが、金具はパフォーマンスに大きく影響します。
写真のような金具の状態では金具の効果や意味がありません。

アスファルトを歩くのは❌

一週間に一度、金具をチェックしましょう。

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金具が削れているスパイク
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スパイクの探しかた

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TFCC損傷に対する治療戦略とアプローチ【トレーナーマニュアルvol.178】

今回は前回に引き続き、TFCC損傷に関するお話になります。前回は病態の説明をさせていただきましたが、実際に対峙した時にどういった対応をとっていけばいいか考えていかなければなりません。そこで今回は、TFCCに対峙した際の治 … 続きを読む

投手のための肩外旋トレーニング【トレーナーマニュアルvol.177】

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はじめに

先行研究において、野球選手は肩の回旋筋力が重要であることが報告されています。

コッキング期においては肩関節は最大外旋のポジションを通過し,関節前面にかかる力が約350Nを超え,フォロースルー期においては肩甲上腕関節に500N以上の牽引力がかかり,過度な伸張ストレスが加わる.

柳川 竜一ほか:野球部員における肩甲骨位置,および肩甲骨位置と 肩関節内外旋筋力との関係 .理学療法科学 27(4):363–366,2012

そのため、肩関節内外旋筋群の筋力が低下していると,投球動作によって傷害が生じやすくなる.

Bruner P, Khan K: 臨床スポーツ医学. 医学映像教育センター,東京,2009,pp59-100.


また、肘障害の予防の観点からも肩関節挙上位での外旋筋力を上げておくことが重要です。

肩挙上位での外旋筋力の低下が,不良な投球フォームの代表例である肘下がりの原因の一因となりうる.

千葉慎一,嘉陽 拓,三原研一ほか:小・中学生の野球肘患者におけるゼロポジション外旋筋力評価の意義.日肘会誌.2005;13:73-4.
嘉陽 拓,田村将希,千葉真一ほか:野球肘症例における肩甲骨肢位の違いによる肩外旋保持能力について.日肘会誌.2014;21:S58.

肩挙上位での外旋はテイクバックからlate cocking までに重要で,この肢位を保持できないと加速期以降で生じる肘伸展運動のための準備を行えない.

山口光圀,筒井廣明:投球障害肩におけるゼロポジション外旋筋力評価の意義-ボール投げ挙げ動作にみられる特徴との関連- . 肩関節.2004;28:611-4

投球障害の予防や治療の観点だけではなくパフォーマンスを上げるという点においても、肩関節挙上位での外旋筋力を向上させる事は非常に重要であると考えています。

トレーニングの実際

ここからは、私が投球障害肩の選手に対する理学療法で行っている運動療法やパフォーマンスを上げるための肩外旋トレーニングについて、いくつかご紹介させていただければと思います。

TRXを用いた肩外旋トレーニング

TRXを用いたトレーニングになります。
肩外旋筋群の筋力で身体を起こしていきます。

スタート時の足の位置を前にすればするほど負荷が高まるので自身で調整して実施してみてください。

腹臥位肩外旋エクササイズ

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打撃動作とコレクティブエクササイズ【トレーナーマニュアルvol.176】

こんにちは!
野球トレーナーの野坂光陽です!

現在は整形外科のクリニックに勤務しながら
休日の時間を使って野球現場に赴き、野球選手の
トレーニング指導やフィジカルケアなどを行なっています。

CIBの一期生兼サポートメンバーとして、今回も記事を
描かせていただく機会を頂きました!

今回は、「打撃動作とコレクティブエクササイズ」
ということで記事を書いていきます

前回は「投球動作とコレクティブエクササイズ」というテーマで
記事にしております!

このトレーナーマニュアル内で記事が読めるようになっているので
そちらも合わせてご覧ください!

コレクティブエクササイズとは?

コレクティブエクササイズの大枠

コレクティブエクササイズというもの自体聞きなれない人も
中にはいらっしゃるかもしれません

コレクティブエクササイズの意味合いとして
そもそも「コレクティブ」という意味として辞書を引くと

☑︎是正
☑︎中和

そういった意味で使われる言葉になります

つまりコレクティブエクササイズというものは
ある動作を観察し、選手の目標やパフォーマンスアップのために
動作を「是正」するために実施されるエクササイズ
という意味になります。

コレクティブエクササイズの掘り下げ

通常のエクササイズやドリルと何が違うの?
といった意見が聞かれるかもしれません。

私はNASM-CESという資格を取得し
コレクティブエクササイズについての学びを深めてきました。
また、CIB内の勉強会においても、このコレクティブエクササイズを
学ぶ機会がありました。

結論から申し上げると、、、
巷に広まっているどのエクササイズを切り取っても
コレクティブエクササイズになり得るということが
言えます

エクササイズを行うということは、何かプレーで問題があったり
スキル面に問題があったりしたり、もっと向上させたい
能力がある中で実施されるものであると思います。

また、フィジカル(身体組成)に課題を抱える選手にとって
ウエイトトレーニングを行うということは
身体が弱いことをコレクティブしたい=是正したいという
結果から行われるものと考えることができます。

柔軟性が低下している選手にとってはストレッチを行うように
エクササイズの目的としては、何か劣っている部分であったり
補わなければならない能力を向上、補填するために実施されるので
大きな意味合いで言えばコレクティブエクササイズになると
考えることができます。

ただ、ストレッチやストレングストレーニングはどちらかというと
土台の部分の能力を向上させていると捉えることもできます
事実その能力がなければ必要最低限のパフォーマンスが発揮される
ことはないからです。

本記事におけるコレクティブエクササイズの定義

今回ご紹介する内容のコレクティブエクササイズは

主にパフォーマンスアップを目的に実施されるが
どちらかというとスキル向上に寄ったエクササイズ

と定義します。

今回の記事は、前回と同様に
「A Constraints-Led Approach to Baseball Coaching」
の内容を取り入れ、記事にしております

和訳すると、
「野球のコーチングにおける制約主導アプローチ」

最近トレーナー業界でトレンドになっている
制約主導アプローチという思考を用いて
選手の能力値を向上させ、パフォーマンス向上が
できるような内容を今回お届けできればと
考えています

前置きが長くなってしまいましたが、
これから詳細にエクササイズについて書いていきます!!

打撃動作のコレクティブエクササイズとバイオメカニクス

エクササイズを行う前に、、、

打撃動作のコレクティブエクササイズについても
投球動作と同じように

☑︎動作の何を定義して修正するのか?
☑︎どういった意図の中で修正を加えていくのか?

こういった意識的なところが必要になってきます。

今回も前述したように、
制約主導アプローチ(A Constraints-Led Approach)の思考法で
エクササイズを組んで行なっています

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人の動作というのは、身体と環境の相互作用によって
引き起こされるといった概念が、制約主導アプローチと言います。


また今回の記事で重要になってくるのが、バイオメカニクスの観点です

バイオメカニクスの観点からは
☑︎キネティクス(Kinetics)
☑︎キネマティクス(Kinematics)

この両者が重要になってくると考えています

トレーニングの原理原則の中に、特異性の原則というものがあります

バイオメカニクスと特異性の原則との関係性

特異性の原則とは、
☑︎トレーニング時に行われる動作と
実際のスポーツ競技における動作が類似していることが望ましい
☑︎トレーニングで培われた効果しか能力は向上しない

ということが定義としてお話しできます。

1つ目に関しては、、例えば打撃動作であれば
打撃動作というものを細分化してトレーニングをしたり
バットを振る動作に類似したトレーニング内容にしたりすることで
能力が向上するといったものです

2つ目に関しては、例えば長距離選手がパフォーマンスを
上げたいと考えた時に、短距離走のトレーニングはしないですよね?
長距離と短距離、二つの要素として動作が類似していないのと
代謝様式も異なるので、ここではトレーニング効果は薄れてしまうといったように、トレーニング内容はしっかりと考えられている必要がある
と考えています。

上記の説明をしたのには理由があります。

バットを振ることや、投げる、走るなど
身体が動く時には、必ず力学の原理原則に基づいてなされるからです。

キネティクスとは、身体のモーメントや床反力など
力学的かつ数値で表されるものであり
キネマティクスとは、実際の動作を観察できる「動き」のことを指します

キネティクスで表される数値や力の方向、タイミングも重要ですし
もちろんキネマティクスとして見える実際の動作をしっかりと観察することと、その動作の要素を分解する必要があると考えています

キネティクスの結果がキネマティクスなので、
キネマティクス、要は動きだけ真似ても良くないということです

これが、エクササイズだけ上手になって実際のプレーとして
反映されない要因の一つです

昨今はSNSの普及で、様々なエクササイズが流通しており
情報社会になったからこそ、エクササイズの本質をしっかりと考え
それを伝え、体現できる必要があると考えています。

特異性の原則を履き違えないことが必要です。

エクササイズ動作と実際の動作が似ているだけでは、
効果が出るとは限らない。

その打撃動作には、どんな要素があって
どのように解決をしていくことが重要なのかというところを
もっと考えていく必要があると考えています。

バッティングをどう考えていくか?

バッティング(打撃動作)とは投球動作と同じように
複雑な要素の複合因子ですが、投球と違うのは、
動作タイミングの主導権が自分ではなく他者湯まり投手にあるところが
大きく異なります。

打撃動作とは
☑︎視線制御
☑︎知覚情報を統合する能力
☑︎意思決定(打つ、見送る)
☑︎バランス
☑︎力の生成と制御

これらの複合因子が複雑に絡み合い
一つのボールを細いバットで打つという
神業に近いことを成し遂げていると考えています。

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中学生対象野球特化型トレーニング-CIB Academy-【トレーナーマニュアルvol.175】

いつもお読みいただき、ありがとうございます。
C-I Baseballの佐藤康です。

C-I Baseballでは2024年1月より東京都内でアカデミー事業を運営しております。成長期の小中学生を対象に少人数制から、目的に合わせたさまざまな形式で展開しております。小中学生それぞれの年代、身体の運動能力に応じた「野球特化型トレーニング」を指導しています。

今回は、中学新1年生を対象としたアカデミーについてご紹介していきます。

中学生アカデミー

C-I Baseball Academyでの中学生を対象としたトレーニングでは主に少人数制での体制で開催しています。

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・4回/月(週1)
・70-80分/回
・少人数制(-4名)

小学生を対象とした大人数のアカデミーでは、選手全体の課題を抽出し、その課題に合わせたトレーニング内容と成長期に獲得しておきたい基礎運動能力の構築をテーマにさまざまな運動経験の実践、協調性、野球に欠かせない基本動作の獲得を図り、指導してきました。

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U-12 アカデミー(小学生)

それに対して、少人数制のアカデミーでは、中学生を対象とし、弱点や技術のレベルアップをさらに深ぼるために自分の身体を知り、その課題を克服することをテーマにしています。小学生のカテゴリーでは基本動作の獲得でしたが、中学生では応用を加えたアプローチを図っています。

また、自分の課題を整理したり、トレーニングの管理に自立を促す働きかけも同時に目指しています。

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その中で、自分のなりたい選手像・目標・課題を整理しています。

中学生の身体・運動特性

各論に入る前に、中学生の身体の特徴について、おさらいしていきます。

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|身体形態
中学1年生では、同じ12-13歳という年齢でも生物学的年齢では1.5~3歳の開きがあると言われており、暦年齢では同学年であっても、選手間で力の圧倒的な差が生じていることになります。

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特に野球では、球速・スイングスピードなどのパフォーマンスの研究からも、身体形態における成長の差は多く報告されており、結果的に身体的成長の遅れた選手では不利になる傾向が多いといえます。

身長発育速度年齢(PHVA:Peak Height Velocity Age)
成長期にみられる発育スパートのピークを迎える年齢

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男子ジュニアスポーツ選手の身長
引用元:https://www.meiji.co.jp/sports/savas/savasjunior/training/change.html
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男子ジュニアスポーツ選手の体重
引用元:https://www.meiji.co.jp/sports/savas/savasjunior/training/change.html
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中学生の世代はポストゴールデンエイジとも呼ばれ、筋骨格系の発達が著しく成長し、これまで培ってきた能力に磨きをかける、より質を高めたトレーニングが求められます。

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投球動作における胸椎伸展のstep①    ー リリース編 ー【トレーナーマニュアルvol.174】

C−I Baseball2期生の戸高です。
今回の配信はサポートメンバーシリーズとなります。

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私が配信する内容としては「ピラティス【pilates】」というメソッドが1つのツールとして投球障害の治療、予防、パフォーマンスの向上にどう活かしていくかに焦点をあてて、配信させていただいております!

はじめに

投球動作には胸椎伸展はパフォーマンスにおいても障害予防においても重要な動きになります。

今回は胸椎伸展の獲得に必要な要素を4つのリリースポイントまとめていきたいと思います。

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step1 呼吸と肋骨

呼吸の重要性は以前のnoteで解説していました。
呼吸は胸椎の伸展にも非常に重要です。

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野球選手には画像のような姿勢を呈しているケースが多くあります。この状態であると呼吸の際に息を吐ききることが難しくなります。
その影響で、肋骨の過剰な外旋(リブフレア)がおこり、腰椎が伸展位になります。胸椎はバランスをとるために屈曲位になりますので結果的に胸椎の伸展可動域は低下してしまいます。

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重要な筋は胸横筋と横隔膜です。
とくに胸横筋は呼気時に胸骨、肋骨を引き下げる役割があるためしっかりと働く必要があります。
また横隔膜の機能不全は脊柱の後弯や胸郭の可動性低下にも影響してきます。

トラブルとしては息を吐ききれないことにより、肋骨の外旋(リブフレア)が起こり、腰椎前弯の増大によって胸椎が後弯していくことです。

ヘッドロールアップ

呼吸を意識しながら肋骨の外旋(リブフレア)を改善していくためには、ヘッドロールアップの動きが効果的です。

息を吐きながら脊柱を屈曲していくしていく際のポイント
・上位胸椎から屈曲していく
・胸骨を下に沈みこませる
・胸骨を支点していく

このポイントを意識することが重要です。
胸椎の硬さがある選手では胸椎の屈曲は起こらず、頚椎の屈曲でこのエクササイズを行ってしまいます。

そうなると首が詰まったような動きになり、痛みが出るケースや頸部の過緊張に繋がりますのでしっかり代償動作を見抜くことは重要です。

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投手の『球速』について【トレーナーマニュアルvol.173】

C-I Baseball「トレーナーマニュアル」をご購読頂きありがとうございます。

C-I Baseballでは野球現場のトレーナー育成も行っています。

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1.はじめに


野球の現場で、関わっている指導者やトレーナーの方々が、ピッチャーの指導において重きを置いているところの指標の一つが『球速』になろうかと思います。

『球速』に関しては、スピードガンの普及により、高校生くらいまで、野球をしていると何となく、自分のストレートの球速はだいたい把握してる選手も多いのではないでしょうか。

今回は、ピッチング時に一番気になる『球速』について、一般的なスピードガンでのデータではなく、私自身も所持しているトラッキングシステムの一つ、ラプソードのデータをもとにお話したいと思います。

現在、巷では、通常のスピードガンだけではなく、ラプソードやトラックマン等のトラッキングシステムが浸透してきています。

野球 – Rapsodo Japan (ラプソード)ラプソードの野球向け商品は、MLB全30球団、NPB10球団を始めとし、​国内でも社会人、大学、高校、中学硬式とアマチュアrapsodo.co.jp

トラックマン野球 – 練習用即座のフィードバックと業界でリードする正確なデータを使用して、練習を最適化します。 トラックマンであなたの技術を次のステーwww.trackman.com

私も2年以上所有して、500人以上のピッチングデータを測定しています。

そこで、より『球速』について掘り下げていき、野球の現場に関わる方々に『球速』についての理解をより深めていただきたいと思います。

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投球動作×バイオメカニクス – PitchAIの可能性 -【トレーナーマニュアルvol.171】

C-I Baseball3期生メンバーの三好航平と申します.
今回は2023年から開始したサポートメンバーによるnoteシリーズです.

前回のnoteでは投球パフォーマンス,障害リスク双方を評価するBiomechanical Efficiencyに関連する因子を検討する研究を紹介させていただきました.

前回のnoteの最後に,「スマートフォンなどで測定した動画をベースに3次元動作解析を行うことができるツールがある」と少し触れさせていただきましたが,今回はその代表的なアプリ「PitchAI」についてご紹介させていただければと思います.

PitchAIとは?

PitchAIはスマートフォンで撮影された動画をもとに簡単に投球動作解析をすることができるアプリケーションです.

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従来,投球動作を数値的に解析しようと思うと非常に高価な機器である光学式3次元動作解析システムを使用しなければならず,グラウンドや臨床現場では測定が困難でした.しかし,PitchAIはスマートフォン1つあれば解析可能であり,その手軽さから新たな投球動作解析手法として注目されています.

測定の精度については,以下の論文で検証がされています.

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