本記事では、筋損傷とは?というところから、実際に現場で経験した肉離れについてご紹介いたします。
今回は、総論になります。
1.筋損傷とは
筋損傷は大きく3つに分かれます。
・筋挫傷
筋への直接打撃や圧迫ストレスが生じた時に起こるもの
(通常は骨に隣接した組織の損傷)
例:デッドボールや自打球などの外的損傷、走者とのコンタクトでの損傷
・肉離れ
急激な筋収縮・伸長ストレスによる損傷
スプリントタイプ・ストレッチタイプ
・微細損傷の繰り返し
投球や筋力トレーニングによる筋の微細損傷(筋肉痛・張り)
2.肉離れの基礎基本
ここでは肉離れについての総論をお話しします。
疫学
・性差 男性>女性
・年代別 20代前半が最も多い
(20代:ハムストリングス 20代より高齢:腓腹筋)
重症度
・JISS分類(MRI)
Ⅰ度 わずかな損傷(腱膜の輪郭が保たれる)
Ⅱ度 部分断裂 (腱膜が部分的に断裂している)
Ⅲ度 完全断裂(腱膜がすべて断裂している)
(仁賀定雄. “ハムストリング肉離れ.” The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine 56.10 (2019): 778-783.)
・奥脇分類(MRI)
Ⅰ型 筋腱移行部の血管損傷のみ
Ⅱ型 筋腱移行部損傷,特に腱膜の損傷
Ⅲ型 腱性部(付着部)の完全断裂

MRIの横断像で診断されます。以下はⅢ度と診断された症例。

・エコー所見
”エコーはあくまで補助的な役割として活用し、臨床症状や他の画像所見と併
せて判断することが重要である”
(超音波診療のピットフォール、笹原潤、臨床スポーツ医学第42巻5号、
2025、p460-463)
我々はセラピストであり、診断ではなくあくまで患部評価の一つの指標として
使用していきたいです。そのため画像を見ることができる力はX-p・MRI同様
に重要と感じています。
基礎として、健側と患側の比較で評価することが重要であるとされています。
❶筋線維部の損傷
低エコー像を呈する筋内に高エコー域
❷血腫
筋線維損傷部位周囲に低エコー域
血腫の理解
外傷から最初の数時間以内
血腫が拡散していてまとまっておらず、筋肉の高エコー像や、
筋線維束の異常な間隔の拡大が散見
腱膜の断裂
血腫が筋の境界を越えて拡散し、画像上で確認できない可能性
筋線維の牽引、皮膚上の皮下出血を注意深く観察
(Roger B, Brasseur JL, Blum A (1998) Exploration des muscles du sportifs. In: Blum A (ed) Imagerie en traumat- ologie du sportif. Masson, Paris,pp 31–42)
❸腱膜部の損傷
長軸像で線状高エコー像を呈する腱膜が不整 その周囲に低エコー像
❹付着部の損傷
腱の肥厚所見
❺筋挫傷
高エコー像を呈して腫脹し、内部にまだらな低エコー像
(超音波診療のピットフォール、笹原潤、臨床スポーツ医学第42巻5号、
2025、p470-473)
・エコー所見による分類
grade0 問題なし
grade1 筋横断面積の5%未満
grade2 筋の部分断裂、筋横断面積の5〜50%
grade3 筋の完全断裂、血腫の貯留あり
Bell clapper sign
プローブで軽く圧迫を加えると、血腫内に浮遊する断裂した筋片の確認
※エコーで判断したい所見
❶筋線維束の断裂を伴わない損傷
1~2週間の短期で回復
❷断裂と血腫を伴う損傷
最低でも4週間以上を要する
(Rodineau J (1997) Evaluation des lés- ions musculaires récentes et essai de classification. Sport Med 90:28–30)
・現場感について
Ⅰ型 運動の継続が可能(練習や試合後の訴え)
Ⅱ型 運動継続困難(動作の変化あり)
Ⅲ型 明らかなエピソードあり(自重+慣性or外力)
(肉離れ-今,求められているもの-鎌田浩史、臨床スポーツ医学、第42巻第2号、2025、p118-121)
復帰時期の目安(時間)
Ⅰ度 2.0±1.0週(1~6週)
Ⅱ度 6.4±2.2週(3~12週)
Ⅲ度 9.8±3.2週(4~16週)
(仁賀定雄. “ハムストリング肉離れ.” The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine 56.10 (2019): 778-783.)

復帰時期の目安(MRI所見)
50~60%ジョギング 高信号残存
70%以内ランニング 僅かな残存
80~100%スプリント 低信号像
(仁賀定雄. “ハムストリング肉離れ.” The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine 56.10 (2019): 778-783.)
身体所見
・視診
陥凹、腫脹、皮下出血

・触診
熱感、圧痛、硬結


・Stretch痛
他動

自動

・運動時痛
求心性収縮

遠心性収縮

・動作時痛
収縮速度+持久性
40cm台でのHip liftはハムストリングの寄与が90%と報告されており、最大速
度でのHip liftを行うことができるかが重要な所見です。
これに持久性の要素も加えスプリントがどの程度可能かも確認するようしてい
ます。
(Yuto Sano, Masashi Kawabata, Yuki Sumiya, Yuto Watanabe, Yuto
Uchida, Tomoaki Inada, Masaki Murase, Tomonori Kenmoku, Hiroyuki
Watanabe, Naonobu Takahira. Evaluating optimal height for hamstring
activity in maximum-speed single-leg bridge test,Int J Sports Med. 2025
Feb 11. )
(Sano Y, Kawabata M, Kenmoku T, Watanabe H, Takahira N. Maximum-
Speed Single-Leg Bridge Test for Concentric Functional Assessment and
Exercise in an Athlete with Recurrent Hamstring Strain Injuries: A Case
Report. IJSPT. 2025;20(5):716-726.)
競技特性

・主観的評価
❶HaOS(hamstring outcome score)
ハムストリングの機能評価尺度(19項目)
スコアが低いほどハムストリングの肉離れの既往が多く、新たなハムストリン
グの肉離れが多いことが報告されている。
(Engebretsen AH, Myklebust G, Holme I, Engebretsen L, Bahr R.
Prevention of injuries among male soccer players: a prospective,
randomized intervention study targeting players with previous injuries or
reduced function. Am J Sports Med. 2008 Jun;36(6):1052-60.)
(van de Hoef PA, Brink MS, van der Horst N, van Smeden M, Backx FJG.
The prognostic value of the hamstring outcome score to predict the risk
of hamstring injuries. J Sci Med Sport. 2021 Jul;24(7):641-646.)
❷FASH(functional assessment scale for acute hamstring injuries)
自覚的重症度と症状の程度を評価(10項目)
(Malliaropoulos N, Korakakis V, Christodoulou D, Padhiar N, Pyne D,
Giakas G, Nauck T, Malliaras P, Lohrer H. Development and validation of a
questionnaire (FASH–Functional Assessment Scale for Acute Hamstring
Injuries): to measure the severity and impact of symptoms on function
and sports ability in patients with acute hamstring injuries. Br J Sports
Med. 2014 Dec;48(22):1607-12.)
3.具体的な肉離れ部位
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