熱中症対応ートレーナーに必要な基礎知識ー【トレーナーマニュアルvol.13】

C-I Baseballの増田稜輔です。
8月も後半に入りましたがまだまだ暑い日が続きます。

夏の時期のトレーニングや練習では熱中症にリスクが非常に高いです。
みなさんも、テレビで試合中継を見ている時に
足を攣っている投手を見て【熱中症かな?】と思ったことがあると思います。

もし、自分自身がトレーナーとしてグラウンド内で
熱中症の選手に遭遇したらどんな対応をしますか?
・冷やす?
・医療機関への受診は必要?
・翌日は練習していいの?

今回のテーマ【熱中症】
熱中症の基本的な知識から野球現場での対応・メニューの考え方を
まとめて解説していきます!

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熱中症の基礎知識

新型コロナウイルスの影響により、夏の暑い日でも
試合中のベンチ内ではマスク着用等の対応が必須となっています。

炎天下での長時間の練習やマスク着用の影響により
選手の「熱中症リスク」が高まっています。
「熱中症」といっても、
・ちょっと休憩すれば治る
・首元や脇の下、足の付け根を冷やせばいい
等の比較的安易に捉えがちですが
「熱中症」が重篤化するケースやその後の競技パフォーマンスレベルに影響する可能性があります。

野球現場に帯同するトレーナーとして最低限の知識は身につけましょう!

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人の体温と運動

熱中症の話の前に運動中に人の身体で起こる体温の変化について解説していきます。

体温について

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体温といっても計る部位や環境によっても変化します。
核心温度:脳や心臓などの深部の温度 環境温度の影響を受けない
     常に一定を保つ
外殻(がいかく)温度:体表の温度 環境温度に影響する
          核心温度を一定に保つために変化する

上記の2種類の体温は視床下部で一定に保つようにコントロールされています。

体温調節について


人の体温は熱産生と熱放散によってバランスを取っています。

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熱産生:基礎代謝熱 筋活動による熱産生 ホルモンによる熱産生促進
熱放散:放射 伝導 対流 蒸発

熱産生が熱放散を上回った場合は身体に熱が蓄積し体温が上昇
逆に熱放散が大きくなった場合は体温が低下します。
これは、環境温と皮膚温の差や運動強度によって変化します。

夏の運動と体温の変化

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外気温が35℃を超える環境下での運動では
皮膚温度よりも外気温が高くなるため
放射、伝導、対流といった熱放散機能が使えなくなり
汗の蒸発のみで体温をコントロールするため、身体に熱が籠もり体温が上昇します。

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汗の蒸発は外気温の影響は受けないですが
日本の夏のように湿度が高い状態や水分摂取が十分でない場合には
汗の蒸発が制限されます。
これがいわゆる「熱中症」の発生機序です。

運動パフォーマンスと体温

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体温の上昇に伴い筋温も上昇します。
筋温の上昇は運動パフォーマンスを上げるためには必要です。

〈筋温上昇に伴う身体メカニズム〉
神経伝達速度の向上
筋血流量の増加
筋の粘性抵抗の低下など

しかし、これには最適な温度が存在します。
すなわち高ければパフォーマンスが上げるわけではないです。

熱中症の種類と対応方法

「熱中症」と一括にされて表現されることが多いですが
「熱中症」には複数種類があり、それぞれの症状によって対応が異なります。
トレーナーとしては、選手の状態を把握し症状に合わせて対応していく必要があります。

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夏休み時期のトレーニングプログラム【トレーナーマニュアルvol.12】

C-I Baseballの佐藤康です。
8月の現場編noteでは
「夏休み時期に構成するトレーニング」をお伝えしていきます。

夏休み期間は中学野球の練習では夏の総体が終了し、高校生では選手権大会の敗退により最上級生が引退し、新チームの発足として代が変わってくるタイミングであると思います。

そのため、およそ40日間ほどある中で9月からの大会(新人戦・秋季大会)に新チームとしてコンディションを高めていく必要があります。

練習時間も限られている中で、
どのように練習・トレーニングメニューを設定していくべきでしょうか

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トレーニングメニューを立案していく上で、現場からのニーズに加えて、
まず新チームに求めらることをリストアップしていきます。

試合でパフォーマンスを発揮できるための体力・持久力
チームの協調性
自己管理・コンディショニング方法

今回は私が担当している中学生に
実践している夏休みの取り組みについてまとめていきます。

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夏休みの練習環境と選手のカラダの状態

新型コロナウイルスの感染予防の対策から私が帯同する市内の中学野球では練習時間は3時間までとされており、また連日30℃以上の暑い環境下での練習環境となるため、練習の開始時間や休息の方法には十分注意して対応していく必要があります。

熱中症予防をする上で、練習する時間は、気温が急激に上昇する前の「朝」から開始し、一日の中で最も気温の高い「昼」までには終了するような時間は一つの例になります。

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選手の体調管理をする上で
練習前に選手にヒアリングをしています。
朝早くからの開始のため、食事を摂らなかったり、睡眠時間の短い状態で練習に来る選手がいないか確認しています。

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Q.寝不足ではないか?
⇒寝不足や疲労の蓄積した身体であると、気温の高い環境下での体温調節機能が低下するという報告もあります。そのため、睡眠時間を十分に確保できているかを聞くようにしています。中には、暑くてあまり寝れずスマホゲームをしていた選手がいたりします。

Q.食事はとってきたか?
⇒水分+塩分の補給ができるため朝食の摂取が大切です。朝に摂取することで発汗しやすくなり、体温を下げる作用が機能します。つまり、熱中症のリスクを下げることにつながります。

Q.水分補給は十分にできているか?
⇒水分は摂っていても、利尿作用のあるドリンクを過剰に摂取していないかも含めて確認しています。水分の排出が増え脱水のリスクを高めることがあります。

その他、熱中症予防を考慮した練習プログラムの詳細は次週配信予定のため、ぜひご参考いただけたらと思います。

中学生の身体的発達の特徴

「子どもは大人のミニチュアではない」

成長期に関わる鉄則ですが、中学生世代ではカラダの成長を考慮していかなければなりません。成長のスピードに個体差が大きく影響する世代でもあるため、学年が1つ変わるだけで、力の出力や動きのスピードは大きく変わってきます。

そのため、成長のメカニズムを無視することはできません。

また、トレーニングの内容や量により過負荷となり、ケガをしやすいカラダとならないようにするためにも理解を深めておくことが大切です。

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中学生の身体的発達の特徴として
「スキャモンの発達曲線」を参考に解説していきます。

ヒトの身体の器官はすべて同じスピードで発達していくのではなく、機能ごと、部位ごとに独自の発達過程をたどっていきます。

これを踏まえて、発達が著しい時期にその機能を伸ばすトレーニングを行っていくことが重要となります。

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中学生はポストゴールデンエイジ(12-14歳)と称されるカテゴリーであり、筋の発達や心肺持久力が目覚ましく発達する時期といわれています。

|ポストゴールデンエイジ
技術のレベルを維持し、さらに磨きをかける時期。
神経系がほぼ完成し、技術習得の速度が鈍るので、これまで習得した技術のレベル維持と質的向上を図る。思考力や精神力、集中力を高め、考えた動作を促す。

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以下にその詳細について解説していきます。

セルフチェックポイント

現場で選手を担当していると、姿勢不良や筋柔軟性の低下によりカラダの動きを大きく使う・動かすことが苦手な選手が多い印象です。

例えば、Warm-upでよく行う「腕回し・もも上げ」などでも腕の位置が下がった状態で回していたり、脚の挙がっていない動作がよくみられます。

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「大きく体を使う」という大雑把な表現ではありますが、自分がもつ本来の関節可動域を十分に動かせず筋力の発揮が低下したり、代償的な動きでケガを招いてしまうことにつながってきます。

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そういった背景から、私はチームに関わる初めのセルフチェックとして選手自らでもできるセルフチェックを行い、所属選手の身体機能をスクリーニングし、コンディショニングの指針を立てる参考にしています。

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練習前にチーム全体と個々のカラダの状態を把握するため、上記のテストを行いました。以下は項目別に取得した目的とそのデータになります。解釈としては70-80%の選手がクリアできることを目指しています。

※パーセンテージはチーム内全選手に対する陽性の割合を示しています。

脊柱の伸展柔軟性

ブリッジ動作・広背筋テスト(脊柱伸展)

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股関節の柔軟性

SLR・股関節外転・フルスクワット

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肩が上がらない(腰椎伸展代償)

フルスクワットでの上肢挙上動作

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実際帯同しているチームの選手では、上記のように脊柱・股関節ともに柔軟性の低い値となりました。特に下肢(股関節)の柔軟性の低下が半数以上であり、ケガへのリスクやパフォーマンスに影響する要因として改善が必要であることを感じました。

カラダの動きが十分に動かせていない現状を自分がしっかり把握することが自分のカラダを知る第一歩ではないかと感じ、指導にあたっています。

チームの練習メニュー一例

夏休み期の練習メニューをご紹介します。

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※赤字は主にトレーナー側が選手に関わる時間を示しています。

主に中学生に対しては、トレーニング項目を中心に、Warm-up/セルフコンディショニングメニューを決定しています。

以下にそのメニュー構成について考えていきます。

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投球障害肩の評価-肩甲胸郭関節−【トレーナーマニュアルvol.11】

C-I Baseballの小林弘幸です。

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元NPBチームドクターのスポーツDrと一緒にエコーを用いて、
選手の病態を理解し障害の原因追及、症状改善を大切にしています。

投球障害肩の原因は多岐にわたり、非常に難しいです。

しかし、皆様に少しでも自分の考えを共有していただき、
ご意見をいただきながら、現場の選手に少しでも還元できたら
うれしく思います!

CIB第2期で小林が担当する、臨床編の記事(予定)です↓↓↓

①投球障害肩の問診と動作観察
②投球障害肩の評価  -肩甲胸郭関節-(今回)
③投球障害肩の評価  -肩甲上腕関節-
④投球障害肩の評価  -その他の部位-
⑤投球障害肩の治療  -徒手療法-
⑥投球障害肩の治療  -運動療法-


これらの記事を通じて、
私の臨床での考え方、思考過程を共有させていただき、
様々なご意見をいただけたらと思います!

投球障害肩の評価  -肩甲胸郭関節-

はじめに

投球障害肩については、どのようなことを思い浮かべるでしょうか??

・肩甲骨の動きが悪い?
・股関節の動きが悪い?

・フォームが悪い?
・肩自体の動きが悪い?

私の考えは、
そのすべてに可能性がある!です。

今回は、理学療法士(PT)、ならびにメディカルトレーナーといったような
立場から書きたいと思います。

PTとして、野球選手に関わる場面として最も多いのは、
痛みがあって投げられない選手を、投げられるようにするといった
場面でしょうか?

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この場面の評価、治療として、
一番大切なことは、
何を優先順位として高く設定するか?です。

ついつい、
自分の勉強している部分から治療したい!と思ってしまいますが、
それではセラピスト自身の自己満足になってしまいます。

そうではなくて、
選手の問題点の優先順位があるはずです。

その問題点の高いところから治療をしていくべきかと思っています。

そして、
病院にくる『肩に痛みのある選手』には、
広義の意味での『肩』をしっかり見る必要があります。

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まずは

・肩甲上腕関節の問題
・肩甲胸郭関節の問題

このどちらの問題なのかを
優先順位をつけていく必要があると考えています。

この評価がセラピスト、トレーナーにとっては

非常に重要だと考えています。

投球障害肩に対する理学療法の考え方

近年、理学療法の考え方において診断名から理学療法を決定するのではなく、発生している症状に対して最も効果的な運動から理学療法を実施する必要があるとされています。

※Ludewig PM, et al.: Changing our diagnostic paradigm: movement system diagnostic classification. Int J Sports Phys Ther, 12(6): 884–893, 2017

Drが診断するためには、病理解剖学的診断の考え方を活用します。

つまり、どの組織が痛んでいるのかです。

しかし、PTやトレーナーは、病理解剖学的診断をしてはいけませんし、

選手を投げられるようにするといった目的では、
必ずしも病理解剖学的診断は必要ないかもしれません。

それは、野球の投球障害では画像診断上で複数の構造異常があるものの無症候の選手が存在するためです。

考え方
※Miniaci A, et al.: Magnetic Resonance Imaging of the Shoulder in Asymptomatic Professional Baseball Pitchers. Am J Sports Med, 30(1): 66-73, 2002

そうではなく、病理運動学もしくは運動病理学的考え方が必要です。

例えば、
疼痛誘発テスト(病理解剖学的診断)を用いるのではなく、
疼痛緩和テスト(病理運動学的診断)を用いる必要があると考えられます。

どのような運動をすれば痛みがなくなるのか、
どのような運動をすれば投げられるようになるのかを
考えなくてはなりません。

そのための評価方法を提示していきたいと思います。

優先順位のつけ方

投球障害肩に対して機能障害をもたらしている原因が肩甲胸郭関節、肩甲上腕関節のどちらなのかを判断するためにScapula Assistance Test(以下SAT)の概念を利用しています。

これは上肢挙上時に痛みのある症例で、

挙上の際に肩甲骨を後傾・上方回旋にassistして、痛みが減る
つまりSATが陽性の人は、肩甲胸郭関節に問題があることを示唆するという評価です。

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※Pluim BM. Scapular dyskinesis: practical applications. Br J Sports Med. 2013 Sep;47(14):875-6.

このSATの概念を利用し、
投球障害に利用できるように変更しています。

まず、投球障害肩で多いフェイズでの評価を実施します。

痛みの出やすいフェイズ

ここでは、
Late-cockingでの切り返し時に痛みが出る症例が多いので、
その評価方法を示します。

投球動作を評価することは難しく、
その動作を細分化することが大切だと考えています。

Late cockingでは、外転外旋が強調されるので、
その運動を切り取って評価します。

いわゆるHERT(Hyper External Rotation Test)で評価します。

投球疑似肢位
※原正文:投球障害肩の診察方法(メディカルチェックを中心として). 骨・関節・靭帯. 20. 301-308. 2007

投球動作に関してみるために、
自動運動でのHERTを評価しています。

また、SATでの肩甲骨誘導ですが、
従来の方法では、肩甲骨は後傾と上方回旋のみの誘導です。

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※Pluim BM. Scapular dyskinesis: practical applications. Br J Sports Med. 2013 Sep;47(14):875-6.

肩甲骨運動は、3軸2方向の運動があるといわれており、
その方向で示すことが重要です。

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※Aoi Matsumura, et al.:J Electromyogr Kinesiol. Feb;44:46-55. 2019 

上記を踏まえて、我々は、
類似する肩甲骨運動方向をまとめた3方向でのSAT(以下3方向SAT)を用いています。

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3方向SATを用いて、痛みが軽減すれば、
肩甲胸郭関節の動きが問題。

痛みが変化なかったり、増加したら
肩甲上腕関節の動きが問題と考えています。

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ちなみに、

痛みの軽減は、NRS2以上の軽減が臨床的に意味があるといわれています。

※Farrar JT, et al.: Clinical importance of changes in chronic pain intensity measured on an 11-point numerical pain rating scale. Pain. 2001;94:149-158.

実際の評価方法

ここからは、動画も踏まえて評価方法を示していきます。

まずは実際にどのように3方向SATを実施しているかです。

このように肩甲骨の誘導をしています。

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投球障害肘改善のための肘伸展機能評価とアプローチ【トレーナーマニュアルvol.10】

C-I Baseballで投球障害肘についての記事を担当させていただいている新海 貴史です。

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普段は整形外科病院で投球障害の選手のリハビリテーションを行い、競技復帰をサポートしております。現場での帯同は行っておりませんが、臨床目線でお話させていただければと思います。

Twitterでも臨床目線で発信をしていますのでフォローしていただけると嬉しいです🔽

2021年度のC-I Baseballが発信する「トレーナーマニュアル」では、
野球のケガに関わる専門家向けの臨床編
選手のパフォーマンスに関わる現場編について配信していきます。

今回は臨床編として”投球障害肘改善のための肘伸展機能評価とアプローチ”について私なりの意見も含めながら説明させていただきます。

最後までお読みいただけると幸いです。

はじめに

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皆さんは現場や医療機関などで投球障害肘を呈した野球選手を対応する際にどういった箇所に介入することが多いでしょうか?

投球動作は全身を使った動作になるため様々な箇所に対して介入を行うと思いますが、肘関節可動域制限、特に”肘伸展制限”はマストで介入するポイントではないでしょうか。私も必ずと言っていいほど介入をします。

病院で投球障害肘の選手を対応していると、小学生のような比較的若年期であっても肘伸展可動域の左右差が生じている選手をしばしば見受けます。もちろん高校生や大学生といった成長期が終わった世代でも同様に肘伸展制限は多く、中には頑固な制限を呈している場合も少なくないと感じています。

皆様の中でも学生の時に野球をやっていて投球側の肘が伸びきらない方がいらっしゃるのではないでしょうか?

また例え可動域制限がなくても、肘伸展の筋出力が弱化している選手も多く見受けられます。

大きく”投球障害肘”と言っても軟部組織の問題や、骨軟骨組織の問題など病態は様々ですので、まずは目の前の選手の肘がどのような病態にあたるのかを正確に把握する必要があるかと思います。

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投球障害肘の病態の捉え方は前回のnoteで説明させていただいておりますので是非そちらも参考にしてもらえればと思います🔽

今回は投球障害肘の対応をする上で必要不可欠な肘関節の伸展機能について、その評価と介入方法を私見も含めてご説明させていただきたいと思います。

この記事を読み終えた皆様の介入の幅が少しでも広がれば幸いです。

なぜ野球選手において肘伸展制限が生じるのか

投球動作において肘関節伸展制限が生じる原因を以下に説明していきます。

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①肘関節(含:前腕)の要因

前腕回内屈筋群は肘伸展角速度に対して負の貢献をしていると報告され、屈筋群によるブレーキングがなされています。

また前腕回内屈筋群は投球時の肘外反ストレスを動的に制動する役割も果たしているため、繰り返される投球負荷によりタイトネスや滑走不全・過緊張などを引き起こしやすいです。

UCL損傷等により肘内側の構造的な不安定性が生じているケースであれば、前腕回内屈筋群が投球時の肘外反ストレスに対して過剰に働くことが考えられるためさらなる過緊張を生じる可能性があると考えます。

投球動作におけるボールリリースの際には、肘関節は伸展・回内します。上腕二頭筋はこれらの運動にブレーキをかける役割を果たすためタイトネスにより肘伸展制限の要因となります。

②肘関節以外の要因

また、患部(肘関節)以外からの影響も非常に大きいと考えます。

投球動作は全身運動であり、下肢から生み出されたパワーを体幹、上肢へと繋げていく運動です。

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野球選手においては繰り返される投球の負荷により投球側の肩関節周囲の機能(柔軟性や筋出力)低下が非常に多くの症例で認められます。投球動作ではその肩関節周囲の機能低下を肘関節や前腕の過剰な使用で補っている場合が多く、その状態で長期間投球動作を繰り返すことによって肘関節周囲の障害が発生してくると考えます。

例えば、肩後方筋群・後方関節包のタイトネス挙上位の内旋筋出力低下により投球動作中の肩内旋運動がスムーズに遂行されなければ、前腕の回内や手関節の掌屈が過剰に生じます。結果的に前腕回内屈筋群のタイトネスが発生し、肘関節伸展制限の原因となります。

肘伸展機能が投球動作に与える影響

では投球側の肘が伸びない、あるいは可動域はあっても出力が落ちている場合、投球動作にどのような影響が出てくるのでしょうか。

肘伸展制限による影響

肘関節伸展制限が生じると、上腕二頭筋は短縮位になります。長さー張力曲線の関係からも短縮位となった上腕二頭筋は十分な筋出力を発揮できないことが考えられます。

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肘関節において上腕二頭筋は肘伸展時のブレーキングとして機能していると考えられています。臨床においても二頭筋のエクササイズ後に投球時やシャドーピッチングの痛みが減弱する例もしばしば認められます。

上腕二頭筋の柔軟性低下は肘伸展時のブレーキング機能を低下させたり、腕橈関節周囲の柔軟性低下を引き起こし、結果として肘関節の疼痛を惹起する可能性があります。

肘最終伸展域での筋出力

肘伸展可動域が保たれている場合でも最終伸展域での出力が発揮されていなければ障害のリスクがあるといった報告もあります。

野球肘群は肘屈曲位での肘伸展筋力を発揮できるが、最終伸展域まで肘伸展筋力を維持しておくことが困難であった。肘最終伸展域での伸展筋力を発揮できないと、ボールリリースでの肘伸展位保持が困難となる。この結果として、ボールリリースで肘屈曲位となり、「肘下がり」の状態となってしまう。

田村 将希,千葉 慎一,他:肩挙上位での肘伸展運動の検討ー投球動作との関連性ー.日本肘関節学会雑誌.2017; 24(2): 382-384.

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肘最終伸展域で伸展筋力を発揮できない状態は、リリースにおいて”肘下がり”の状態となったり、肘関節外反ストレスを強めやすかったりと、野球肘のリスクファクターとなりうると考えられると報告されています。

評価

肘伸展機能に介入するにあたって評価するポイントをいくつか紹介していきます。

肘外反アライメント

✅carrying angle(運搬角)・肘角

運搬角とは上腕骨長軸と前腕長軸のなす角度のことを指します。一般的に上腕骨長軸に対して前腕は軽度外反位(生理的外反)にあります。

carrying angleは可能な限り完全伸展位前腕回外位で評価するようにします。伸展制限や回外制限が残存した状態では見かけ上外反が強くなることがあるので注意します。

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基本的に女性>男性、利き手>非利き手で外反角度が大きいことが多いです。また、運搬角は年齢とともに自然に増大していくことが報告されています。

一般的には肘角が20°以上の場合を「外反肘」と呼びます。

前腕回内位

野球選手においては投球動作に特性から前腕回外制限が頻発し、通常の状態でも前腕が回内位を呈している場合が多いです。

アライメントチェックの際は上腕骨の回旋に左右差が生じないように背臥位にて上腕骨内側上顆・外側上顆を結んだ線が床面(またはベッド)と平行となるようにします。

野球選手においては投球側の上腕骨後捻角の増大や肩後方タイトネスなどの影響から静止時においても投球側の肩関節が外旋している場合があるので注意して下さい。

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橈骨頭前方偏位

肘関節の可動域を評価する際は、腕橈関節の適合性が重要になります。

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橈骨頭が前方に偏位した状態、すなわち橈骨頭の後方への可動域が制限されている状態は尺骨の不良アライメントを引き起こし、肘伸展制限に繋がります。また、上腕骨小頭と橈骨頭窩の回旋軸のズレが生じることにより前腕回旋制限が生じる可能性があります。

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Huter線・Huter三角

基礎的な評価でご存知の方も多いとは思いますが重要な評価のため、確認のために記載せさせていただきます。

Huter線とは「上腕骨内側上顆」「上腕骨外側上顆」「尺骨肘頭」が肘完全伸展位で一直線に並ぶことを意味します。

Huter三角は「上腕骨内側上顆」「上腕骨外側上顆」「尺骨肘頭」が肘屈曲位で二等辺三角形になることを意味します。

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尺骨アライメントが不良である場合、肘頭の肘頭窩への適合性が低下し肘関節伸展制限の要因となります。

✅尺骨内旋位▶︎肘頭先端が内側に向き、腕尺関節外側が狭小化する

✅尺骨外反位▶︎肘頭が内側に偏位し、腕尺関節内側が狭小化する

介入順序・介入箇所の決定

伸展機能の改善と言ってもアプローチする箇所は数多くあるため、どこから介入する方が良いかをある程度は絞っていく必要があります。

介入する手順を決めるシンプルな評価を動画に載せておきます。参考にしてみて下さい。

介入できる時間にも限りがあると思いますのでその時間にもよりますが個人的には「アプローチしてみて変化がなければ別の箇所」でも良いと思っています。

介入手順

肘伸展機能の獲得に関してはまず前腕中間位で肘関節完全伸展位を獲得することを目標にします。

最終的に求めたいのは肘完全伸展位での前腕回外位の可動域獲得ですが、前腕回旋機能の評価とアプローチに関しては以前書いたnoteにも記載しています🔽

次回の記事でさらに詳しく前腕回内外の評価とアプローチについて説明させていただきますので今回はご了承下さい。

❶皮膚・皮下脂肪への介入

肘伸展時に皮膚や皮下脂肪のつっぱり感や高い緊張を感じた場合はまず最初にここの治療を行います。浅層に存在する組織にしっかりと介入することでその後に実施する筋への治療効果が出やすくなります。

-肘窩上皮膚・皮下脂肪リリース

-上腕〜肘外側皮膚・皮下脂肪リリース

❷橈骨頭後方可動性獲得

肘伸展時に橈骨を後方に誘導させた時に伸展可動域の改善、外反アライメントの改善、疼痛の消失が認められた場合はここの治療を行います。二頭筋の過緊張は野球選手に頻発している印象がありますので必ず介入します。

-上腕二頭筋リリース

-橈骨頭後方押し込み+肘伸展可動域訓練

-前腕伸筋群へのアプローチ

❸外側組織の柔軟性獲得

肘の外側組織の滑走不全による肘外反アライメントがある場合や、肘外反を抑制した時に肘伸展可動域が改善する場合は外側組織のリリースを行います。一見、肘内側組織(回内屈筋群)の緊張が高いと感じる選手も外側組織の過緊張が原因となって引き起こされたものである可能性がありますので外側組織への介入は必須と考えています。

-外側筋間中隔への介入

-腕橈骨筋リリース

-長橈側手根伸筋リリース

-円回内筋・腕橈骨筋への介入

-腕橈骨筋ストレッチ

❹前腕回内屈筋群の柔軟性獲得

外側組織の緊張を改善した場合においてもなお内側組織の過緊張や硬さが認められる場合は前腕回内屈筋群に対する治療を行います。

-円回内筋リリース

-前腕屈筋群への介入

-前腕屈筋群のストレッチ

❺後方の詰まり感の改善

肘を伸展した際に前面の張りではなく後方の違和感や詰まり感を訴えた場合は後方に存在する脂肪体の動きが不良になっている可能性があります。

-後方脂肪体の柔軟性への介入

❻上腕三頭筋促通

他動運動で肘伸展可動域が獲得できたら最終域までしっかりと出力が出るように上腕三頭筋のエクササイズを実施します。

-上腕三頭筋の筋アライメントへの介入

-三頭筋セッティング

-腹臥位肘伸展エクササイズ

-挙上位三頭筋エクササイズ

完全にこの手順通りでなくとも効果は出ると思います。複数の要因が絡み合って制限となっていることが多いため、手順が変わっても一つ一つの要因を確実に潰していけば伸展制限を除去することができると思います。

具体的な介入方法の詳細は次の項目で説明していきます👇

アプローチの実際

ここからはアプローチの実際を動画で説明していきます🎥

徒手治療

1. 肘窩上皮膚・皮下脂肪リリース

肘伸展時の肘窩上にある皮膚のつっぱり感を感じた場合はここにアプローチしていきます。長期間にわたって肘の伸展制限がある場合は筋腱だけではなく、皮膚や皮下脂肪レベルで柔軟性や滑走性が低下している場合が多いです。

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投球障害を足部から改善するための、横足根関節評価・アプローチ・テーピング編【トレーナーマニュアルvol.9】

足部評価苦手な方が多いと思います。

それはなぜか?

評価がわからない・難しいから……?

特に横足根関節なんてチンプンカンプン🌀

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今回のnoteはそんな横足根関節の評価をスライドを多くして見やすくわかりやすくしております。

横足根関節はTerminal Stanceからの縦軸・斜軸の動きを徒手的に評価できると、その足が機能するのかどうかの判断することができます。

投球や打撃を行う際に、『蹴り出し』『踏ん張り』が必要です。それらの動きを行うのが『足部』です。


wind-up〜cockingで軸足の構造破綻が起こると下腿内旋し、骨盤の早期回旋が早まってしまいます。さらには、体幹の投球側へ側屈し、肘下がりを起こしてしまいます。足部が崩れるとリリースまでが破綻するケースは多々あります。

ですから、足部を理解することは重要です。

今回は『横足根関節』です。


横足根関節評価は難しくてできないという方が多いと思います。

関節軸は二軸で歩行時の動きが複雑。距骨下関節と組み合わせるとさらに複雑さが増してしまう…

そんな横足根関節ですが今回のnoteで理解できるように作成いたしました。
スライドと動画をご覧になっていただき繰り返し練習してください。
上達する近道は、『とにかく触る』です。

前回の距骨下関節評価と今回の横足根関節評価が出来れば、ほぼ足部評価はバッチリです!(足趾も重要です)

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苦手だという方が多いと思いますが、是非お付き合いください!

自己紹介

C-I Baseballの須藤慶士です。
6月になりC-I Baseballも2年目を迎えることができました!
今年のC-I Baseballが発信する「トレーナーマニュアル」では、野球のケガに関わる専門家向けの臨床編と選手のパフォーマンスに関わる現場編について配信していきます。

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今期はスタッフを増員し、さらにパワーアップした情報を配信していきますので、引き続き、ご参考いただけたらと思います。
これまで多くの方にご購読頂き大変感謝しています。
2021年「トレーナーマニュアル」もぜひご活用ください!

野球トレーナーマニュアル|C-I baseball|note【C-I Baseballトレーナーのトレーナーマニュアル】 投球障害肩・肘、腰痛、捻挫、肉離れ、下肢障害など野球におけるnote.com

臨床編は『肩』『肘』『足』を配信してまいります。

『肩』小林弘幸

『肘』新海貴史

『足』須藤慶士

半年かけてnoteを読むことでインソールができるようになるように記事を作成しております!

6月:距骨下関節評価・アプローチ・テーピング
7月:横足根関節評価・アプローチ・テーピング
8月:足趾評価・アプローチ・テーピング
10月:距骨下関節インソール
11月:横足根関節インソール
12月:距骨下関節〜足趾インソール

今回記載してある写真・動画はご家族・ご本人に了承を得て撮影させていただきました。
無断での転載はご遠慮ください。

・・・・・・・・以下、本文・・・・・・・・

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横足根関節

横足根関節は距舟関節と踵立方関節から構成されています。
横足根関節は『縦軸』『斜軸』の二つの軸が存在します。

縦軸:回内・回外
斜軸:底屈−内転・背屈−外転

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それぞれの軸が距骨下関節の動きと連動することで足趾へ力が伝わっていきます。

この『縦軸・斜軸』でどのくらいの可動性があるのか?どのような動きをするのか?

これらを徒手(非荷重位)で評価することで動作時における横足根関節の動きを把握することができます。

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歩行時の距骨下関節・横足根関節の動き(図)

Loading Responseで距骨下関節最大回内位になり運動方向は徐々に回外へと動いていきます。

距骨下関節回内位では、横足根関節は柔らかくなるので可動性が向上します。

Loading ResponceからMid stance前半までの相では地面から足部に対しての影響が大きいのでバランスを取る目的で横足根関節は柔軟に対応しなければなりません。

この相では横足根関節縦軸回外、斜軸は背屈・外転します。

この動きにより、足圧中心は外方へと移動することで第4・5趾が働きやすようになります。

Mid stance中期以降は距骨下関節の動きが徐々に回外へと向き、横足根関節の剛性剛性を高めて蹴り出しの準備に入ります。

この時の横足根関節縦軸は回内、斜軸は底屈・内転位となり母趾へ足圧中心を移動していきます。

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横足根関節 評価

横足根関節の動き

『回内位(柔らかい)』『回外位(硬い)』

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組み合わせは以下の6つです。

①距骨下関節回外ー横足根関節回外
②距骨下関節回外ー横足根関節回内
③距骨下関節回外ー横足根関節中間位
④距骨下関節回内ー横足根関節回外
⑤距骨下関節回内ー横足根関節回内
⑥距骨下関節回内ー横足根関節中間位

多いのは距骨下関節回外位①ですが、距骨下関節回内位の④⑤もよくあります。

①の足部から考えられる疾患
扁平足・シンスプリント・後脛骨筋炎・有痛性外脛骨・シーバー病・膝の痛み・腰痛など。


②⑤のように横足根関節回内位で柔らかい足部で考えられる疾患
シンスプリント・種子骨症・腸脛靭帯炎・膝の痛み・股関節の痛み・腰痛など。

どちらも病名では被るものはありますが、硬い足と柔らかい足では発生機序が異なります。

横足根関節評価判定


横足根関節評価でMPラインが距骨下関節指標中間位時の踵骨底面ラインと並行になる位置が『横足根関節中間位』です。

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試合期のトレーニング−野手編−【トレーナーマニュアルvol.8】

C-I Baseballの増田稜輔です。
7月半ばも過ぎ、大会中のチーム、新体制となり次の大会を目指しているチームなど様々あると思いますが、どちらにもどのチームにも共通しているのが【試合期】であることです。

「試合期のコンディショニング・パフォーマンス」は
試合
結果につながる重要な時期であり
トレーナーへ求められることは多いです。今回は「試合期のトレーニング−」を野手にフォーカスして解説していきます。

「試合期のトレーニング−投手編−」はこちらから

今回はイメージしやすいように
仮想チームを設定して話を進めていきます。

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高校野球部で部員数60名
夏の大会に敗退し新チームとなって7月20日より始動します。
監督さんより
「9月の大会に向けてパフォーマンスアップ・コンディショニングメニューを作成してくだいさい」と頼まれました。

みなさんならどうようなメニューを作成しますか?

■悩むポイント

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・パフォーマンスを上げるためのトレーニングってなにかな?
・トレーニングの種類は知っているけどれをやればいいかな?
・ウエイトトレーニングと有酸素運動って同じ日にやっていいの?
・何セットやれば効果がでるのか?休憩ってどのくらい必要かな?

みなさんトレーナーとして同じような悩みを抱えたことはないでしょうか?

トレーニングメニューを作成するときに
ただトレーニング方法を列挙するだけはNGです!!
選手には具体的なメニューを伝えましょう!

今回はみなさんが悩む「トレーニングプログラム」の作成方法について
解説していきます!

試合期とは

具体的な話に入る前にまずは「試合期」について整理しておきましょう。

野球は1シーズンは4つに分類できます。
・準備期
・移行期
・試合期
・第2移行期(回復期)
4つの時期の中で最も試合が多い時期を
「試合期」といいます。
カテゴリーによって多少前後がありますが
おおよそ3月中旬から10月までの時期を指します。

・中学生野球の年間スケジュール

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※佐藤康:中学野球のピーキングを考えるより引用

・高校野球の年間スケジュール

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※高橋塁:高校野球のピーキングを考えるより引用

・大学野球の年間スケジュール

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では、今回、例として考える高校野球の試合期はどのように捉えればよいでしょうか?

|高校野球の試合期の位置づけ

高校野球では練習試合が解禁となり春季大会が開催される
3月中旬から秋季大会が終了する10月下旬までの間を「試合期」とします。

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|試合期の週間スケジュール

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高校野球では平日は授業+練習、土日に練習試合を行います。
試合期のほとんどの時期を上記のスケジュールで進めていきます。

|試合期に行うトレーニング・コンディショニングの意義

試合期では”結果”を求めることが多く
技術練習や試合に割く時間が多くなります。
このような時期に行うトレーニングやコンディショニングに
どんな意義があるのでしょうか。

今回のケースが考える大きな目的は
「秋季大会に向けてパフォーマンス・コンディショニングをアップする」

そのためにトレーナーが試合期で求められること
・パフォーマンスの維持
・障害予防

・パフォーマンスの維持

パフォーマンスにアップのためのトレーニングは
試合期だけでなく通年で取り組んでいきます。
試合期ではオフシーズンに強化してものを維持して必要があります。
練習や試合の割合が多くなったことでトレーニング量が過度に
現象するとパフォーマンスレベルが低下する可能性があります。
選手の疲労度を考慮しつつ適度なトレーニングをプログラムしていきます。

・障害予防

練習、試合が多くなる時期であるため選手の”疲労度”をかなり高くなります。試合期ではオーバーユースによる障害が多く発生します。
野手においては
・腰痛
・手関節尺側部痛
・投球障害
・筋性障害
などが発生しやすいです。
疼痛がない状態で試合期を過ごすためにはコンディショニングも重要な要素のひとつになります。

ここまでの話をまとまると
「高校野球の試合期に求められること」は
秋季大会に向けて
・パフォーマンスを維持しつつ障害を予防すること

ーーーーーーーーーーーーー

ここからは
目的を達成するための具体的な内容に進んでいきます。

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チームの目的を達成するために
トレーナーはトレーニング・コンディショニングプログラムを作成します。
ここでみなさんがよく悩むポイントが登場します。

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実際にどんなトレーニング・コンディショニングプログラムを
デザインしていくのか悩むポイントを踏まえて一緒に考えていきましょう!

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試合期のプログラムデザイン①
ートレーニング・コンディショニングに必要な要素を知るー

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まずみなさんが悩むのが
パフォーマンスアップや障害予防ってどんなメニューを選択すればよいか?
こんな疑問ではないでしょうか?

これを解決するのに必要なのが
・パフォーマンスの構成要素の理解
・障害発生因子
上記の2つです。
2つの要素を理解することで必要なトレーニングやコンディショニングが
明確になってきます。

|パフォーマンスの構成要素

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野手のパフォーマンス要素は
バッティング、走塁、守備の3つです。
この3つのパフォーマンスは
筋力、パワー、スピード、アジリティ、可動性の5つの要素から構成されます。

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野手は投手と比較して
同じ動作を反復するよりも
瞬間的に力を発揮するシーンが多いです。

すなわち、
5つの要素が瞬発的に発揮できることが
パフォーマンスアップに繋がります。

トレーニングプログラムを作成する時は
・バッティング、走塁、守備に必要な
5つの要素を向上、または維持するような
メニューを構成していきます。

|障害発生因子

試合期では、練習や試合が多くなります。
技術的な練習時間が長くなるため
トレーニングやコンディショニングに使う時間は減ってきます。
したがって、疲労が蓄積し
筋性疲労や可動性の制限を引き起こし
・腰痛、・投球障害、・筋性トラブルが発生しやすくなります。

障害を予防するためには
筋の疲労を蓄積させず可動性を獲得しておくことが必要です!

筋性の疲労メカニズムやパフォーマンスとの
関係は前回のnote「連戦に備えたコンディショニング-野手編-」で解説してますので
こちらを参考にしてください。

試合期のプログラムデザイン②
ー優先順位をつけるー

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プログラムを作成する前に優先順位を決めます。
ゴールとなる秋季大会に向けて
維持、向上させるパフォーマンス要素はなにか?
予防すべき障害と必要なコンディショニングはなにか?
チームのスタイルや状況、選手のコンディション、発生頻度の高い障害から
優先順位が高いものをピックアップしていきます。

|パフォーマンス要素の優先順位
優先順位を決める上で重要なのが
”競技特性”を理解することです。

野手の競技特性を考えるとほとんどが
パワー・スピードに関連するものになります。
バッティング:瞬発的な回旋能力
走塁:スプリント アジリティ
守備:アジリティ スローイング


野手では投手のように同一リズムで反復した動きではなく
瞬発的な動きを繰り返すことが多いです。
そのため
瞬発的な動きを生み出す”筋力”の維持向上が必須になります。

経験上、試合期の選手は
下肢や上背部筋の筋の出力が低下するケースが多く
スイングが鈍い、足が動きにくく打球に追いつかないなど
瞬発的なパフォーマンス低下に繋がります。

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試合期に優先順位が低い項目としては
長時間、長距離の走り込みなどの”有酸素性持久力”です。
有酸素性持久力トレーニングの目的としては
最大酸素摂取能力の向上であり、30分以上継続して運動することが有効であるとされています。

しかし、野手においては30分以上継続して運動する機会は皆無なので
有酸素性持久力を高めるのであれば5−10分程度の高強度トレーニングを選択します。

|障害予防の優先順位

試合期に発生する障害のほとんどが
疲労が原因になってきます。
特に
・スイング量の増加による腰部や手関節周囲の障害
・投球回数の増加による肩関節・肘関節障害
が多く発生します。


どの障害も
疲労による筋コンディショニングが低下し
可動域が減少することでフォームエラーが生じます。
特定の関節や部位に過剰負荷が加わります。
障害を予防しコンディションを高めるには
可動性の確保が必須になります。

障害予防における優先順位が高い項目
・胸郭 脊柱の回旋可動性
・股関節の可動性
・肩 肩甲骨周囲の可動性

プログラムにデザインするトレーナーとしては
上記に上げた項目を優先順位に沿ってプログラムしていくことが求められます。

試合期のプログラムデザイン③
ートレーニング・コンディショニングエクササイズを選択するー

トレーニング

ここからは実際にトレーニング・コンディショニングに必要なエクササイズについて考えていきます。

ここでの悩むポイントは
・どんなエクササイズを選択するのか
・エクササイズの組み合わせ方法
ではないでしょうか。

エクササイズの選択は
・目的
・競技特性
・優先順位
・使用できる環境 
などをもとに選択していきます。

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|ウエイトトレーニング

パワー、スピード、アジリティの要素の中に必ず必要となるのが筋力です。
筋力を維持・向上するためにはウエイトトレーニングを行います。

優先順位の結果や試合期で低下する部位を考えると
下肢筋と背部筋を中心的にトレーニングしていく必要があります。

トレーニングの種類は①中心的エクササイズと②補助的エクササイズに分類できます。
①中心的エクササイズ
大筋群で2つ以上の関節運動を必要とするトレーニング
②補助的エクササイズ
小さな筋群(上肢筋等)で単関節運動

①中心的エクササイズの選択
試合期の中心的エクササイズは
「下肢・背部筋」を中心に選択していきます。
基本的には野球動作パターンに沿って必要な筋群を中心に構成します。

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試合期のトレーニング‐投手編‐【トレーナーマニュアルvol.7】

C-I Baseballの佐藤康です。
高校野球が各地で開幕し、中学野球の総体も開幕を迎える時期となりました。関わってきたチームの集大成となる大会に選手をはじめ、チームがベストなコンディションで迎えるための準備がトレーナーとして求められます。

そこで、トレーナーマニュアルでは、
今週・来週の2回にわたり、
「試合期のトレーニング・コンディショニング」について考えていきます。

今回のnoteの流れを簡単にご紹介します。

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試合期の位置づけ

はじめに、シーズンにおける試合期の位置づけをまとめていきます。
ここでは、「ピーキング」の理解が必要となるため、定義をまとめます。

※ピーキング(peaking)
目標とする重要な試合にベストのコンディションで臨めるように、コンディションを上げていき、そのピークを合わせること。

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野球の1シーズンを考えた時に、
試合を含めた実践が多い試合期
一般的にシーズンオフといわれる準備期
に大きく分けられます。

技術練習とトレーニングメニューの割合は時期によって異なり、シーズン中とオフでは、その練習メニューやトレーニングは違うことは想像しやすいのではないでしょうか。

今回のテーマでもある試合期は
「学生野球では主に春季大会のある4月、
総体や選手権大会がある夏季、
新人戦のある秋季(9-10月)」
を指します。
※細かいピーキングの期間はここでは割愛します。

試合期とされる、この時期を中心に試合に向けた関わりが求められます。

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ピーキングの理解を深めたい方はコチラ!
<ピーキングの詳細はこれまでに配信した記事がございますのでご参考ください!>

試合期に強化すべき要素

試合期でのフィジカル面の強化は、
試合におけるパフォーマンスに対し、
疲労などの面も考慮して設定していく必要があります。

野球をする世代の多くのカテゴリーで4-10月の半年間は試合期となります。半年間の中でベストなパフォーマンスの状態を発揮するためには、身体づくりを考慮しながらトレーニング強度を考慮していくことが大切です。

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ちなみに私が担当するチームでは部員が約70名います。70名いると、試合に出場する機会の多い選手がいれば、そうでない選手もいます。また、先発投手もいれば、リリーフでの登板をすることの多い投手や野手と兼務する選手もいます。

準備期であれば、投手の場合、基本的に全選手に同様の負荷でのメニューを設定していますが、試合期では試合出場頻度、投球頻度などを考慮していかなければなりません。

つまり、試合期の関わりとして、登板機会の少ない投手に対しては、多い投手に比べて、試合後に補強をするトレーニングは多くなり、差をつけるなどコンディション面を考慮していく必要があります。

試合期の期間と強化ポイント

学生野球では主に週末に試合をすることが多いかと思います。大会直前だけ急なメニューを変更するのではなく、大会期間を踏まえたコンディションをつくることが特に投手では大事であると思います。

①大会2か月前~
週末の試合を想定し1週間の中で試合に向けたコンディションづくり

②大会2週間前~
疲労感の残らないメニュー・量の調整/移行

③大会中
カラダの状態に合わせたトレーニングメニューの選択

トレーニング量と強度

下の図にあるように、ピーキングを考慮した試合期のトレーニングでは、トレーニング強度を上げて、セット数を含めた量は少なくすることが特徴です。

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準備期:中/高強度・高回数
移行期:高強度・中回数
試合期:高強度・低回数

全体的な傾向として、試合期に近づくにつれて、強度を増し、これに反比例するようにして量を減らしていきます。

リカバリー

試合期では、翌日や翌週など試合間隔に対し、疲労に対するリカバリーの考えが重要です。試合中・試合後の対応はケガ予防などコンディショニングを考えることが大切であり、トレーニングと並行して頭に入れておきたい部分です。

以下に記事がまとめられておりますので是非ご参考下さい!

トレーニングの負荷量設定

先程、「トレーニングの量と強度の関係」についてお伝えしましたが、次にトレーニングの負荷量についてまとめていきます。

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チームトレーナーの活動(学童野球)【トレーナーマニュアルvol.6】

C-I Baseballスタッフの高橋塁です。

今回から定期的に、私の担当で各カテゴリーの『チームトレーナー活動』についてにこちらのNOTEにてお伝えしていきます。

まずは、私の自己紹介から。

高橋塁プロフ写真①

現在、私は学童野球にはじまり、中学硬式、高校野球、大学野球のチームトレーナーを務めています。

このような経験から各年代ごとにトレーナーとしてどのように関わっているかを紹介していきたいと思います。

 私が過去にNPB(プロ野球)でトレーナーをしていた経験から、プロ野球選手と接するように、各年代のアマチュア選手にも同じように接しているわけでもありませんし、各年代でいろいろとアプローチは変えていっています。

まずは、今回は学童野球(小学生)を対象としたトレーナーとしての関わり方を紹介していきたいと思います。

過去の記事の復習にはなりますが、学童野球(小学生)のカテゴリー指導する上でまずは、理解しておくべきことを列挙していきます。

未成年世代へのアプローチで、まず、理解しておくべきことは

「スキャンモンの発達曲線」

です。

過去の記事の復習にもなりますが、まずは、ご一読ください。

スキャンモンの発達曲線

子どもの成長は『スキャモンの発達曲線』で表されます。

これを踏まえて、
発達が著しい時期にその機能を伸ばすトレーニングを行っていくことが重要となります。

スキャンモン曲線

また、学童野球のクライマックスは小学5年~6年(10~12歳)にかけてです。

この年齢こそ、

『ゴールデンエイジ』

と言われています。

|ゴールデンエイジ理論



それぞれの期間に伸ばすべき身体能力を示したものです。

ゴールデンエイジ

| プレゴールデンエイジ(5~8歳)

動作の基本と感覚を身につける時期。

脳や神経の発達が著しい時期。バランスや調整力、動体視力なども養われる。

多種多様な遊びやスポーツによって、さまざまな動作を経験させることがよい。

| ゴールデンエイジ(9~11歳)


運動の技術とセンスを習得する時期。

運動能力が最も大きく伸びる時期。

基本動作の習得や基礎体力の向上に適している。神経系が発達しているので動作の習得が早い。


| ポストゴールデンエイジ(12~14歳)

技術のレベルを維持し、さらに磨きをかける時期。

神経系がほぼ完成し、技術習得の速度が鈍るので、これまで習得した技術のレベル維持と質的向上を図る。

思考力や精神力、集中力を高め、考えた動作を促す。

トレーニングで求めるフィジカル要素


これらを踏まえて、成長期の選手にはカラダの成長の特徴に応じたトレーニングデザインが求められます。

カラダの成長

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投球障害肩の問診と動作観察【トレーナーマニュアルvol.5】

C-I Baseballの小林弘幸です。

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元NPBチームドクターのスポーツDrと一緒にエコーを用いて、
選手の病態を理解し障害の原因追及、症状改善を大切にしています。

投球障害肩の原因は多岐にわたり、非常に難しいです。

しかし、皆様に少しでも自分の考えを共有していただき、
ご意見をいただきながら、現場の選手に少しでも還元できたら
うれしく思います!

CIB第2期で小林が担当する、臨床編の記事(予定)です↓↓↓

①投球障害肩の問診と動作観察(今回)
②投球障害肩の評価  -肩甲胸郭関節-
③投球障害肩の評価  -肩甲上腕関節-
④投球障害肩の評価  -その他の部位-
⑤投球障害肩の治療  -徒手療法-
⑥投球障害肩の治療  -運動療法-

これらの記事を通じて、
私の臨床での考え方、思考過程を共有させていただき、
様々なご意見をいただけたらと思います!]

投球障害肩の問診と動作観察

はじめに

投球障害肩には、様々な病態があります。

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その中で、病態を理解することは、とても大切です。

病態を理解することで、その障害となった痛みの『結果』が
はっきりすると思います。

結果がわかると、『原因』を考えることができます。

このあたりの理解は、以前の記事を参考にされてください。

病院や現場において、肩が痛い選手と対峙した際に、
とても大切なこととしては、

『今の状態を把握すること』

です。

これを把握せずに、

選手:『肩が痛いです。』

トレーナー:『じゃあ、肩甲骨の運動をしよう!』

選手:『それだけでは痛みなくなりません。』

トレーナー:『それなら、インナートレーニングしよう。もっと頑張ってやって!』

といった問答がされることは望ましくありません。

図2

そうではなく、

選手:『肩が痛いです。』

トレーナー:『いつから?どうすると痛い?どのときに痛い?こうすると痛みはどうなる?・・・・・・・・・』

選手:『これは少し痛いですけど、こうすれば少し痛み減ります!』

トレーナー:『では、これで力はいるかな?』

選手:『全然力はいらないです。。。』

トレーナー:『じゃあ、この動きが足りないし、この力も足りないから、このトレーニングやストレッチをしっかりやっていこう!』

などなど、聞くことはたくさんありますし、
まずは選手自身にも理解してもらわなくてはいけません。

そうでないと、いつまでも、自分でケアできずに、トレーナーやコーチに依存し、自分一人では何も解決できない選手になってしまいます。

そして、
選手個人個人で問診をたくさんすることで足りない機能やどんな意識でやっているのかなど、治療やトレーニングに役立つ情報が多くあると思います。

図3

逆に
選手に伝えたいのは(特に痛みがあるとき)、
自分の関わっているトレーナーが選手自身の訴えも聞かず、
動きも見ずに、

『これをやれば良くなるよ!』
といったような回答をされたときは、
しっかりと自分に足りない身体の使い方を見られていないので、
注意が必要です。

選手を見ずに、世間一般に言われている【良い】といわれていることを
考えもなしにやることで、自分の身体、パフォーマンスが下がってしまうことが多くあります。

選手には、しっかりと、自分自身でトレーナーを見極める力も付けていってほしいと思います!

(自戒の念も、大きく込めて、この上の文章を書いています。。。)

そんなことから、
第二期の最初は、問診をどのような意図で、どんなことを仮説を立てながら行っているのかを述べていきたいと思います。

問診の重要性

投球障害肩とひとくくりに言っても、
個人個人によって全くと言ってよいほど、環境が違います。

野球選手に対しては、環境によって特徴が異なるので、
その部分に関しては、しっかりと聞いて考えなくてはなりません。

それぞれ環境に対しても、問診していく必要があります。

年代

まず一番最初に考えなくてはならないことは、年代についてです。

特に成長期の選手に対しては、
筋骨格系の作りが違います。

図4

一般的に成長期とは、小学生~中学生にかけてです。

大人の身体の考え方を押し付けてしまうことは
非常に危険です。

https://twitter.com/kobaseball3/status/1270855093810683904?ref_src=twsrc%5Etfw%7Ctwcamp%5Etweetembed%7Ctwterm%5E1270855093810683904%7Ctwgr%5E13bcfd208a169fedff7fe5c9a034abf21886343c%7Ctwcon%5Es1_&ref_url=https%3A%2F%2Fnote.com%2Fheroheroyuki%2Fn%2Fn227c4cfe8153

※CIB第1期育成メンバー:吉田昴平さんのtweetより

成長期と成人期では考え方を変えなくてはなりませんし、
成長期での障害では、その場の安易な判断で、
その選手の将来の野球人生を終わらせてしまうこともあります。

上記の特徴を踏まえながら、
しっかりと病態の理解が必要です。

図5

また、この年代においての特徴としては、
自身の身体のコントロールがうまくないということです。

投球障害肩になる要因としては、

身体機能 <<< 投球動作の習熟度

が大きく関わるといわれております。

さらに、成人期の選手に対しても、病態が異なります。

図6
図7

これらも、しっかりと問診をして仮説を立てたうえで、
病態解釈をしていくことが大切かと思っています。

競技レベル

競技レベルによっても考え方、問診の仕方を改めなければなりません。

①NPBや独立リーガーなど、野球を職業にし、毎日活動している選手

②学生野球選手など、毎日活動しているが、指導者や知識が乏しい選手

③草野球レベルで週に1回程度活動し、ほとんどは他の仕事をしている選手

大きく、この3つくらいの枠組みで考える必要があります。

職業として野球を選択している選手に関しては、基本的に
身体に対する意識が高いことが多いです。

①NPBや独立リーガーなど

一般的に言われている、
投球に関して、これは大切。このような動きが大切といったことを
熟知している選手は多くいます。
(もちろん、身体に無関心での選手もいて、感覚だけでプレーしている選手も多くいます。)

例えば、
投球に関して、肩甲骨の動きは大切!といったことや、
胸郭、股関節の動きが大切!といったことは、
意識の高い選手であれば、日ごろからケアしています。

では、そのような選手に対しては、どのように関わっていくべきなのでしょうか?

私が大切だと思っていることは、
選手本人が思っているイメージと身体機能の乖離を見つけることと、
本人たちが気が付かない機能低下の場所が隠されていることを見つけることだと思っています。

これは問診や簡単な評価からも情報が得られると思っています。

例えば、
『トップの位置で、腕が安定しない』などといった、腱板筋力低下を生じている選手に対しては、
肩甲骨固定をすると筋力改善する症例を経験します。

これは、筋肉の筋厚を測定すると肩甲骨固定化では筋厚が厚くなり、
筋出力も強くなるということを経験します。

その症例に対しては、
まずは肩甲骨のトレーニングをしていけば、
力も入るようになり、トップの位置も安定すると思います!

と問診をしていくようにしています。

本人たちはこの自分の身体機能の細かなところに気がついていないことがかなり多いです。

そもそも、
投球側の筋力が低下していることすら気が付いていないことが多いのが現状かと思います。

この、
本人が気が付いていない機能低下を、目の前で体験してもらい、
変化を感じてもらい、
その後のトレーニングへつなげていってもらえることが
この競技レベルでは大切かと思います。

プロの選手の問診例
・日頃、投球に対してどのような意識で投げているのか
・何が自分では足りないと感じているのか
・どうなれば投げられるようになると考えているのか
・日頃からどのようなトレーニングやストレッチを行っているのか

図8

②学生野球選手など

学生(中学・高校・大学)は毎日活動していますが、
指導者や知識が乏しい選手などは、レベルが大きく異なります。

まず聞くことは自分の学年現在の立ち位置(レギュラーやメンバーなのか、補欠なのか)です。
部員数なんかも大切な情報になります。

レギュラーやメンバーであれば、大会後にケガして受診してくることが多いです。

大会中に投げすぎて、肩痛を発症していたが、我慢して投げ続けていたら、痛みが増悪したということも少なくありません。

もしくは、大会中は気になるくらいで肩があったまったら痛みが無くなったので、大会終了後数週間ノースローにしていて、
投球再開後に痛みが増悪していたということもよくあります。

また、レギュラーメンバーではなく、投球数も多くないが、
肩を痛めたという場合もあります。

それは、投球フォームの習熟度が低かったり、
中学から高校へ上がったばっかりで、ボールの重さが変わったりで
肩痛めることがあります。

時期やその時の状況によって、全く環境が異なるので、
このあたりの情報収集は必ずしないといけないと考えています。

学生選手の問診例
・今現在何年生なのか
・部員は何人か
・メンバーに入っているのか
・自分が一番重要視する大会はいつなのか
・週の練習はどの程度か

図9

③草野球選手

社会人で、週に1回ないし月に数回程度活動し、ほとんどは他の仕事をしている選手では、日ごろの生活習慣や運動習慣で身体機能が決まってきてしまいます。

日頃の仕事内容はどのようなものなのか?

デスクワークであれば、
日中はずっと座りっぱなしで、頭部前方位(FHP)となり、
骨盤帯の前後傾の動きがなく、股関節もずっと屈曲位のまま動かないことが多くなります。

すると股関節周囲の機能低下が生じます。
胸郭の拡張障害も生じます。

投球に関して、良くないことばかり生じます。

仕事内容によっては、仕事中の休憩時間に身体を動かすようなことをしてもらわなくてはなりません。

また、
今現在で、どの頻度で野球をしているのかも重要です。

月に一回程度となってしまうと、投球にて肩関節周囲筋力の微細損傷が、修復、循環せずにその場にとどまってしまうことで、
次回投球するときには、肩の中を固めてしまうということがあります。

後は、社会人になり、草野球等を始めるにあたり、
それまでのブランクがどの程度あったのか。

またどのくらいのレベルで野球を行っていたかを聞く必要があります。

学生時代に野球をやっていて、ブランクが長く空き、社会人となってやる場合も注意が必要です。

当時痛めた肩の部分は、時間が経ってもよくなっていないことが多いです。

このあたりも、すり合わせができるとよいと考えています。

図10

実際の問診→評価場面

では、私がどのような感じで問診をしているのか、
実際の選手との問診場面を共有したいと思います。

参考にしてみてください。

(※動画内の選手については、本人に了承を得て、掲載する旨を了承いただいたうえで記載しています。)

問診日:2021年6月末(2回目来院)

診断名:投球障害肩(ここでは詳細は書きません)

現在ノースロー期間。
投球開始は、疼痛所見すべて陰性化してからとの指示。

(  )の中、網掛けの部分は、私の思考、仮説仮定です。

___以下、問診(初回と仮定している。本人了承済み)___

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投球障害肘の病態の捉え方 -前腕と手をなぜみるのか-【トレーナーマニュアルvol.4】

C-I Baseballで投球障害肘について担当することになりました新海 貴史です。

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普段は整形外科病院で投球障害の選手のリハビリテーションを行い、競技復帰をサポートしております。現場での帯同は行っておりませんが、臨床目線でお話させていただければと思います。

Twitterでも臨床目線で情報発信をしています🔽

今年度のC-I Baseballが発信する「トレーナーマニュアル」では、
野球のケガに関わる専門家向けの臨床編
選手のパフォーマンスに関わる現場編について配信していきます。

今回は臨床編として投球障害肘の病態の捉え方と、投球障害肘を診る際になぜ前腕や手にアプローチしなければならないのかについて私なりの意見も含めながら説明させていただきます。

はじめに

投球障害肘は野球においてボールを投げるという動作によって生じる肘障害の総称です。下の画像で表すように、投球障害肘と言ってもその内容としては様々な疾患や病態が含まれています。

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投球障害肘の細かな病態については小林弘幸さんが解説して下さっています👇

投球障害肘の評価とアプローチの実際については須藤慶士さんが解説してくださっています👇

是非上記記事も参考にしてみて下さい。

投球障害肘の選手を対応する際には病態を正確に把握し、それぞれの病態に合った適切なアプローチをする必要があります。

投球障害肘の分類

ここでは4つの観点から投球障害肘を分類し、説明していきます。

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年齢による分類

✅12歳頃までの学童期に生じる「成長期の障害」

✅17歳前後以降に生じる「成人期の障害」

に分類することができます。13歳〜16歳までは「移行期」と言われています。

投球障害肘を対応する際は、年齢や画像所見・Dr.所見などから骨化が完了しているかを把握し、成長期の障害なのか成人期の障害なのかを把握することが必須となります。

成長期と成人期の障害を同じように考えてはいけません。

障害を受けている組織による分類

✅硬組

骨、軟骨といった硬い組織を指します。成長期では骨端の成長軟骨が脆弱であるため、障害を受けやすい組織となります。

✅軟部組織

筋、腱、靭帯、神経といった軟らかい組織を指します。成長期が終わり肘の骨化が完了すると硬組織は障害を受けにくくなり、これらの軟部組織が障害されやすくなります。

肘関節の部位による分類

肘関節を内側、外側、後方の3つの部位に分けて障害を捉えていきます。以下に代表的なものを列挙させていただきます。

✅内側

内側上顆骨端障害、内側上顆骨端裂離損傷、内側上顆骨端線閉鎖遅延・閉鎖不全、内側側副靭帯損傷、内側上顆骨端線離開、内側骨端核複合体離開、尺骨神経障害

✅外側

離断性骨軟骨炎、滑膜ヒダ障害

✅後方

肘頭骨端線離開、肘頭骨端線閉鎖不全、肘頭疲労骨折、肘頭先端骨軟骨障害(成長期の後方インピンジメント障害)、後方インピンジメント障害、変形性肘関節症

診断は医師が行いますが、投球障害肘と言っても各部位においてこれだけたくさんの障害があるということは我々も知っておかなくてはいけません。

障害のメカニズムによる分類

上記の部位による分類と合わせてそこに対してどのような外力(メカニカルストレス)が加わっているかによって分類します。

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成長期成人期に大きく分類した後、その中で代表的な投球障害肘を分類すると以下のようになります。この辺りは必ず押さえておきたいポイントです。

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前腕・手をなぜみるのか

ではなぜ投球障害肘を呈し肘関節が痛い選手の前腕や手に着目する必要があるのでしょうか?

現場や臨床では主に患部となりやすい肩関節や肘関節をターゲットとしてアプローチすることが多いと思います。しかし、投球動作は全身動作であり、下肢で生み出したパワーを体幹→上肢へと連動させていく運動になります。末梢も含め、全身の各関節がそれぞれしっかりと機能することが重要です。

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前腕では回内外運動に伴い、腕尺関節腕橈関節近位橈尺関節遠位橈尺関節で関節運動が生じます。この様に多くの関節が関わる前腕運動が破綻することによって、投球動作時の肘関節周囲へのメカニカルストレスが増大します。そして肘関節周囲のストレスが増大した状態で投球負荷が繰り返されれば様々な組織が損傷を受けやすくなります。

投球時における肘外反ストレスに対する動的制動機能として、前腕回内屈筋群の機能が重要であることは多くの研究や文献でも報告されています。投球時には内側側副靱帯の破断強度を超える外反ストレスが加わると言われています。ダイナミックスタビライザーとしての前腕機能は障害予防の観点から重要となります。

またパフォーマンスの観点から見ると、手関節や手指の機能は投球動作のphaseの中でも主にボールリリース前後で重要になってくると考えます。

先行研究においても以下のように述べられています。

”ボールに伝えられるエネルギーの大部分は手関節の関節力パワーに起因し、そのほとんどは体幹や肩関節の運動によって生み出されたエネルギーが関節や筋・腱を介して転移することによってもたらされることから、手関節や手指がボールリリースにおけるエネルギー伝達に重要な役割を果たしている。”
宮西 智久,藤井 範久,他:野球の投球動作における体幹および投球腕の力学的エネルギーフローに関する3次元解析.体力科学.1997; 46(1):55-68.

ボールに力を伝えるための最終的な効果器は「手指」になりますので、投球動作、投球障害を語る上で外すことはできません。

後に述べますが、神経障害がある場合は前腕や手指に何らかの症状が出ている場合も多いです。症状としては”肘の痛み”かもしれませんが、その病態を捉えるために前腕以遠の評価は必須となります。

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このように障害を理解する上でも、パフォーマンスの観点からも前腕や手の機能は非常に重要になります。

以上の理由から野球選手においては肩肘のみでなく前腕・手関節・手指の機能に着目する意義があると考えます。肘が痛いからと言って肘の周りだけを見ていれば良いという訳ではありません。

評価

ここからは実際臨床で投球障害肘の選手を担当することになった際の病態把握のための評価について説明していきます。評価の流れの例を下に示します🔽

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あくまで病態把握のための評価であり、介入の際には追加で筋力評価や患部外機能評価などが追加で必要になります。

問診

医療機関であれば基本的に医師による診察があるためリハビリに来る前に情報がある程度揃っていることが多いですが、不足している部分に関しては我々セラピストやトレーナーが聴取しなければなりません。病態把握のために問診は非常に重要であり、問診が正しく行えるとその後のリハビリのプランを決めるための多くの情報を得ることができます。ここでは、最低限必ず押さえておきたいポイントについて記載します。

①基本情報

✅身長、体重、ここ最近の身長の伸び具合、スポーツ歴、利き手…etc.

②野球歴・ポジション・○投○打(左/右)

③疼痛

✅いつから疼痛が出たのか

✅疼痛発症のきっかけ(誘因)▶︎”練習や試合でたくさん投げた”、”遠投をした”…etc.

👦「あの1球で…」➡︎”1球のエピソード”があるかどうか▶︎裂離損傷の可能性

✅疼痛の種類▶︎鈍痛、刺すようなシャープな痛み…etc.

✅疼痛の部位▶︎内側、外側、後方

✅疼痛出現のタイミング▶︎安静時痛、曲げ伸ばしでの痛み、ADLでの痛み、体育の授業で痛いか、投球時痛、MER付近、リリース付近…etc.

👆必ずとは言えませんが内側障害ではMER付近外側障害ではリリース後方障害ではリリース・フォロースルーで痛みを感じている選手が多いです。

✅疼痛の強さ▶︎NRS、VASなどで評価

④既往歴

✅今まで肘を痛めた既往があるかどうか、初発なのか

✅肘以外(肩、体幹、下肢)の障害の既往があるかどうか

⑤治療歴

✅専門医療機関 or 非専門医療機関

✅その時の診断

✅受診歴あればその際にどのような対応を受けたか

✅ノースロー期間、ノースローで疼痛軽減したのか

✅段階的に距離を伸ばし、日数をかけて復帰したのかどうか

⑥チーム環境

✅チーム内の立場(レギュラーか控えか)

✅チーム指導方針▶︎練習頻度・時間、休みの有無、指導者とのコミュニケーション

✅大会日程、目標とする試合や大会があるか

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問診が正確にできれば部位や重症度、どのようなストレスが原因で痛みを誘発しているかを大まかに捉えることが可能です。

💡障害を引き起こしてしまった原因を探り、選手の全体像やバックグラウンドをしっかりと把握しましょう❗️

次項からは身体所見の評価に移ります。

視診・アライメント評価

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問診が終わったら、両肘を伸ばしてもらい外反アライメント前腕尺側筋群の筋萎縮橈骨頭前方偏位母指球筋・小指球筋の筋萎縮の有無などをスクリーニング的にチェックします。合わせて伸展制限の有無や肘伸展運動に伴う疼痛の有無もチェックすると良いと思います。

触診・圧痛

次に、触診・圧痛所見の評価に移ります。

肘関節は小さい範囲に多くの組織が集合しているため触診や圧痛の評価を行う際は指腹ではなく必ず指尖でピンポイントに触るよう留意します。

◉内側

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