C-I baseballの【Advance course 野球選手のみかたを深める】の発信を担当する小林弘幸です。
スポーツDrと一緒にエコーを用いて、選手の病態を理解し
障害の原因追及を大切にしています。
病態を理解し、しっかりと評価することによって
現在の傷害の原因をはっきりることができれば、
医療機関と現場との橋渡し的な役割を果たすことができると思います。
投球障害肩とは、
肩関節周囲が痛くて投球が完全にはできない状態のことを指します。
成長期の肩障害と成人期の肩障害では
考え方が異なりますので、
その部分はBasic courseの投球障害肩の病態の部分を参考にしてください。
Advance courseでは、
実際に評価治療していることを中心に話し、
最後に実際の症例を提示して評価治療の流れを示していきたいと思います。
※記事で紹介する症例すべての方には説明・同意を得た上で、
紹介させていただいております。
投球障害肩での大切なこと
私が投球障害肩で大切にしていることは、
・何が痛いのか
・なぜ痛いのか
・どのようにしたら痛くないのか
・治療方針の優先順位をつける
です。
一つ目に関しては
結果の把握をしっかりしてから、
原因を追究をするといった具合です。
この結果の把握を行わないと、
肩が【どのように】痛くなっているのかがわかりません。
【どのように】痛くなっているのかがわからないと、
その選手が【なぜ】肩が痛くなったのかが不明確のままです。
この【なぜ】【どのように】がわからないと、
投球障害肩の繰り返しになってしまいますし、
選手に明確な治療方針を示すことが難しくなってしまいます。
再発した時には、
以前の問題点が引き続き存在しているのか、
新しい問題点が出てきたのか、判断できません。
(私は、少なからずこのような感じでした。
どのように痛くなっているかの病態把握もせずに、
痛みがなくなれば良い。【なぜ】は考えていましたが、
【どのように】という部分に関しては、かなり疎かったです。。。)
診断をするのではなく、
選手の病態を理解し、【どのように】痛みがでているのか、
選手の痛みの原因を考え、【なぜ】痛みが出ているのかを、
考えていくことが投球障害肩の評価治療で(現時点で)一番大切なことだと考えています。
肩関節複合体での評価をしっかり行う
そして、もう一つの大切なことについてです。
あくまで私見ではございますが、
投球障害肩を見る・語る場面で、しばしば散見される議論は
・肩関節(肩甲上腕関節)が大切だ!
・肩甲骨(肩甲胸郭関節)が大切だ!
・体幹が大切だ!
・下肢が大切だ!
といった具合かと思っています。
では何が大切でしょうか?
これは私の意見ですが、
全て大切かと思っています。
ただし、
【優先順位】はあると思うので、
その優先順位をつけて投球障害肩の選手をみる
というのが、私の意見になります。
その中でまずは、
肩関節に直接関係する
・肩甲上腕関節(GH)
・肩甲胸郭関節(ST)
のどちらの優先順位が高いのかを判断して評価治療していきます。
この評価方法に関しては、
後述したいと思います。
選手自身は、肩を痛めているので、
その肩の状態を知りたいはずです。
それを、
単に肩甲骨が動いてないから、
体幹が弱いから、
足が弱いから、
で片付けてしまうのではなく、
肩の状態から把握し、
全体を理解するといったことが大切だと思います。
しっかりと肩関節の病態を理解・把握したうえで、
治療に入っていけることが重要だと思っています。
評価治療の流れ
投球障害肩の選手が来院した際に行う評価治療の流れを
お示しします。
(病院の場合)
・事前情報収集(画像所見)
・診察見学
(病院・現場共通)
・問診
・疼痛疑似肢位確認
・肩関節複合体評価(GHorSTの治療優先順位の決定)
・他関節評価(既往歴の確認)
・情報共有
・治療
・再評価
上記の流れで投球障害肩に関しては、
対応するのが基本としています。
事前情報収集(画像所見)
野球選手の画像所見に関しては、
一言でいうと、私はあまり参考にしていません。
もちろん、リスク管理という視点では、画像所見を把握して、
病態を理解するということは大切なことです。
しかし、
野球選手の投球障害肩における画像所見は下記の特徴があると私は思っています。
レントゲン:ほとんど異常なし
CT :ベネット骨棘等が観察されることはあるが、大きな障害無し
MRI :筋腱の微細損傷やSLAP損傷などしばしば損傷が見受けられる
MRI等の軟部組織が観察される画像所見に関しては、
しばしば損傷等の異常が見つかることが多いです。
しかし、その画像所見と実際の選手の痛みや動きが
リンクしないことが多いのが野球選手の特徴です。
長年、野球をハイパフォーマンスのレベルで行っている選手は
多くの選手で肩関節の損傷が見つかるといっても
過言ではありません。
それでも、損傷や病態がありながら
高いレベルのままプレーし続けている選手はたくさんいます。
※選手には掲載の許可をいただいています。
※独立リーガー捕手
(SLAP損傷:他院にて手術適応との診断もリハにてプレー続行可)
ですので、
身体機能を高めていく、トレーナーや、PTの存在は
大きいと思っています。
診察見学
我々の場合は、スポーツDrとタッグを組んで選手に対応しています。
常日頃からDiscussion、情報共有し、
Drの評価とPTの評価とを掛け合わせて
選手に対して、Bestの治療方針を、同じ方向で行っていきたい
ということを大切にしています。
ですので、診察室で行われている会話だったり、
理学所見のとり方、診断に対する説明を聞いて、
選手がどのように理解しているのかを
事前情報として理解しておくことが大切かと思っています。
さらには、エコーを用いて一緒に評価することもあります。
選手を取り巻くすべての人が協力し合って、
その選手の復帰へ向けた治療が一緒の方向性を向くことが最善の方法かと思っています。
問診
問診は一般整形の患者さんもそうですが、
投球障害肩の選手においても、とても大切だと思います。
特に投球障害肩では以下のことを大切にしています。
・いつから痛いのか?
・投球のどのフェイズで痛いのか?
・一球のエピソードがあるかどうか?
・今までの強度はどうだったのか?
・肩のどこが痛いのか?(one point indication or palmar indication)
・投球中に痛いのか?投球後に痛いのか?痛みが続くのか?
①いつから痛いのか?
今回のコロナ禍で多かったのが、コロナの緊急事態宣言中に
投げられずに、再開後投球したら、肩がすごく軽く調子が良かった。
しかし、そのまま投げ続けたら
今までにないような痛みが出た。
という選手が多かったです。
また、
中学野球、高校野球受験後(受験勉強で座りっぱなし)や、
定期考査後の練習、
入学して新天地で野球を始めた後に痛みが出たということもあります。
このような場合はGH内の炎症が強いこともありますので、
安静が必要です。
そして、その期間にどんな生活をしていたのかを
聞く必要があると思います。
ずっと家に引きこもって
スマホばかりいじっているとか、受験勉強していたとかは
重要な情報です。絶対に聞き逃してはいけないと思います。
このような選手は、間違いなく、胸郭脊柱の硬さが出ると思っています。
※選手には掲載の許可をいただいています。
※大学1年野球外野手
(肩後方インピンジメント:受験勉強後、新入生として練習参加数週間より疼痛)
そのほかにも、学生のころから、
何十年もの間、投球時痛があるという症例です。
このような選手に対しては、
痛みがあって投げている状態が【普通】になってしまっているので、
運動療法はもちろんですが、認知面での介入も必要かと思います。
※クニヨシTVのクニヨシさん。ご本人には、顔出しと動画掲載の許可をいただいております。
※10数年痛みがあったので、アーリーコッキング~アクセレレーションにかけての逃避性の肘下がりが見られる。
※草野球選手:高校・大学野球時から肩痛有。投球時痛を感じている期間は約10数年。
痛くないフォームで投げられるということを、
身体と頭で理解する必要があるかと思います。
自分では腕が振れているつもりでも、
逃避性のフォームになっていることがしばしばあるかと思います。
※Johan W S, et al.: Fear-avoidance and its consequences in chronic musculoskeletal pain: a state of the art. Pain 85 (2000) 317-332
図を引用改変(著者和訳)
痛みの経験が減ってきて、不安感がなくなるまでは、
逃避性の動きが出てしまうこともあります。
練習としては、こんな練習を取り入れていました。
後半でクニヨシさんの介入の解説も触れていきたいと思います。
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓クニヨシTVより抜粋。↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
まだ怖さはあるものの少しずつ投げられてきた様子の場面。
②投球のどのフェイズで痛いのか?
投球のフェイズで疼痛が出るフェイズで
病態の【予測】はできると思います。
MER付近でGHの後方部痛があれば、
後上方インピンジメント(PSI)が疑われます。
リリースからフォロースルでGHの前方部痛があれば、
前上方インピンジメント(ASI)が疑われます。
予測はできますので、
しっかりと問診をして、どのタイミングで痛みが出るのかを
把握することが大切です。
③一球のエピソードがあるかどうか?
投球時にどのように痛めたかの中で、
一球のエピソードがあるかどうかは重要です。
例えば、
・一球スライダーがすっぽ抜けた後から痛みが出た。
・チェンジアップの練習していたら、痛みが出た。
・遠投で思いっきり投げたら痛みが出た
などは要注意かと思います。
一球のエピソードがある選手は、
強いエネルギーがかかった外傷の要素があり、
肩関節の病態があることがあります。
④今までの強度はどうだったのか?
これは、投球開始していった選手によくあることですが、
例えば、
ノースローの期間があった後、急に投げて痛めたのか、
徐々に強度を上げていって、痛めたのか
どのように強度を上げていったのかを聞くことも
大切です。
(経験則ですが、徐々に投球強度を上げていった症例でも、
塁間から、対角線(1-3塁の距離)に強度を上げた時、
遠投を始めた時
に疼痛を再度訴えることも多くあります。)
※CIB代表の増田稜輔さんの記事より抜粋
ですので、しっかりと段階的に強度を上げていくことがとても重要です。
⑤肩のどこが痛いのか?
(one point indication or palmar indication)
これは、実際に選手に疼痛部位を指さしてももらいます。
その際に、
・ここです(one point indication)
・この辺です(palmar indication)
と答えることがあります。
※one point indication
※palmar indication
この2つのパターンはとても大切で
one point indicationであれば、その部位の局所的な問題、
palmar indicationであれば、その周囲に関連する神経的な問題
が関与していることがあります。
末梢神経の絞扼のような問題であれば、
寒冷感覚をチェックすることも重要です。(palmar indication)
※寒冷感覚の評価(アルコール綿にて知覚の評価)
冷感が患側で低下しているのであれば、
末梢神経の要素も考えられます。(三角筋領域の腋窩神経絞扼)
肩のどこが、どのように痛いのかを
チェックすることも重要です。
⑥投球中に痛いのか?投球後に痛いのか?痛みが続くのか?
これを聞くことで、
・メカニカルストレス的な問題なのか、
・パフォーマンス的(筋疲労的含む)問題なのかを
【予測】できることができると思います。
上記の様に問診でも、様々な情報が得られます。
選手と関わっていくうえでも、
色々と話しをしてみると、
ヒントになることが多く隠されていると思います。
たくさん、【予測】をしていくことで、
病態理解・今後の治療方針の決定に役立つと思っています。
疼痛疑似肢位確認
投球障害肩において、
理学所見をとるときに、その投球動作の疑似肢位にて評価することが大切です。
まずはactiveで疼痛の有無を確認。
その時に一方向の角度だけにならないように、多様な角度で評価します。
次にpassiveでの評価です。
これも方向を変化させて、GHの状態を確認します。
疼痛がなくなるように、GHや肩甲骨の誘導ができると、
治療の方針が決まってきますので、
色々な方向での評価が大切です!
①Early-cocking
・activeでのGH外転評価
・passiveでのGH外転評価
②Late-cocking
・activeでの挙上位GH外旋評価
・passiveでの挙上位GH外旋評価
③Release・Follow-through
・activeでのGH屈曲内旋評価
・passiveでのGH屈曲内旋評価
肩関節複合体評価(GHorSTの治療優先順位の決定)
一般的な肩関節周囲炎等の肩関節疾患の患者さんに比して
投球障害肩においては、
著明な可動域制限を認められる選手は少ないです。
そのため、評価を細かく行う必要があるのかなと
考えております。
そして、この評価で、治療の優先順位を決めていきます。
現時点の治療介入をするうえで、
・肩甲上腕関節を優先にすべきか
・肩甲胸郭関節を優先にすべきか
を考えていく必要があります。
詳しくは下記に示していきます。
評価項目(動画順)
ROM
①肩屈曲と外転
②肩屈曲と外転(肩甲骨の動き観察)
③肩外転(passive)
④肩外転(肘屈曲位:上腕三頭筋の制限)
⑤疼痛疑似肢位でのSAT( Scapula Assistant Test:内転・上方回旋・挙上)
MMT
⑥Full can test(棘上筋)
⑦Empty can test(棘上・棘下筋)
⑧ISP test(棘下筋)
⑨Belly press test(肩甲下筋)
⑩Hornblower test(小円筋)
ROM
⑪CAT
⑫HFT
⑬1/2内外旋
⑭2nd 内外旋
⑮1st 内外旋
⑯3rd 内外旋
⑰後方タイトネスによる骨頭偏位
ーーー下記、評価の動画ーーー
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