C-I Baseball「トレーナーマニュアル」をご購読頂きありがとうございます。
はじめに
前置きが長くなりましたがここから今回の内容に入ります。
今回はポイントを3つに絞っておりますので是非最後までお読みいただき、少しでも参考になれば幸いです。
今回は野球選手の投球動作において可動域を獲得するときのポイントを解説させていただきます。
スタビリティー・モーターコントロール機能不全
FMSが提唱する概念の中で、スタビリティー・モーターコントロール機能不全という言葉があります。
”動作を実施する潜在的なモビリティーはあるが、入力または処理に機能不全があるために動作のコーディネーションが示されていない時に存在する。
ある部位の完全なモビリティーが自動的にまたはスタビリゼーションの要求度が変化した時または他動的に示されたときにSMCDと言う所見へと至る。”
このように記されています。
例えば他動SLRは90°上がるのに、ASLRだと70°しか上がらない場合はこのSMCDに該当します。
筋・関節の可動域としては確保されているが、自分でコントロールして操作できる可動域に制限がある場合、
他動可動域と自動可動域のラグがある場合、機能的可動域の制限があると言えます。
投球動作においては自動と他動の可動域の差異を減らすことに加えて、遠心性収縮でも最大可動域をコントロールできる機能が大切になります。
これは投球動作に限った話ではないですが、スポーツ動作においては特にこの機能的な可動域が重要になると考えています。
肩甲上腕関節を例に挙げると、他動的な可動域と自動で動かせる可動域に差が大きくある場合、自分でコントロールできる可動域の制限があるということになるため、関節内で骨頭が暴れてインターナルインピンジメントや腱板損傷などのリスクが高くなると考えております。
投球動作における機能的可動域のポイント3選
①上肢挙上
野球選手に限らずオーバーヘッド動作を用いるスポーツでは必ず肩関節の屈曲可動域を評価すると思います。
基本的な動作にはなりますが屈曲の仕方によっては出力低下を招いているケースも多く見られます。確実に評価できるようにしておきましょう。
|ポイント
●出力が出る上肢挙上と出力低下を招く上肢挙上
挙上最終域で出力低下が生じるパターンとしては胸鎖関節主体の肩甲骨上方回旋が生じるケースです。この場合、上肢を挙上した際にシュラッグ動作が大きく入り、三角筋と耳の距離が他の2パターンに比べて接近します。
肩鎖関節と胸鎖関節がそれぞれ調和をとりながら上方回旋が行われている場合、最終域で上肢に抵抗をかけても出力が保たれます。
●過度な肋骨外旋(リブフレア)を伴う上肢挙上運動
続いては、過度な肋骨外旋パターンです。
ウエイトトレーニングなどの影響で胸を開く意識が日頃から強く残っている場合、胸椎の伸展や肋骨の拡張が過剰に生じた上肢挙上運動となります。
そのため、腹圧機能が十分に働かず体幹が不安定になり上肢の出力低下を招くと考えます。
肩関節の屈曲制限がある場合も、代償的にこの部分の可動性を出して挙上可動域を確保しているケースがあるため、評価していきます。
|獲得方法
●肩甲上腕関節の可動域改善
まずは肩甲上腕関節でしっかりと屈曲可動域を確保できるようにアプローチをしましょう。評価方法としてはCAT(Combined Abduction Test) 、HFT(Horizontal Flexion Test) などを用いて可動域を評価し、拘縮があればそれに対しアプローチします。
また、背臥位で万歳をしたときにどの程度肋骨が浮いてくるのか、 下位肋骨が拡張してくるのを抑えた状態でどの程度肩関節が屈曲できるのかを見てみるのも良いと思います。
●肩鎖関節を軸とした肩甲骨上方回旋運動の獲得
肩関節屈曲最終域での出力低下が生じている多くの選手は肩甲骨の上方回旋を胸鎖関節軸で起こしている傾向があります。
獲得のためのアプローチとしては鎖骨を押さえた状態で肩甲骨の上方回旋をさせ、肩鎖関節を軸とした肩甲骨の上方回旋運動を繰り返します。
●デッドバグ
過剰な下位肋骨の拡張を抑制した状態で上肢挙上動作を獲得させるために有効なエクササイズになります。
鼻から大きく息を吸い、お腹に空気をため込みます。 その状態で息を止めて腰が過剰に反らないように万歳をしていきます。
バリエーションとしては、ストレッチポールやバランスボールなどを用いて腹圧をかけやすくしてあげると肋骨の開きを抑制しやすくなります。
●90-90ポジションでの上肢挙上エクササイズ
デッドバグで腹圧をかけた状態で上肢の挙上動作を獲得することができたら、プログレッションとしてダンベルを用いてエクササイズを行います。
膝関節と股関節を90度に屈曲し、90-90のポジションをとります。 呼吸はデッドバグと同じ方法で、鼻から大きく息を吸いお腹に息をためて腹圧をかけた状態でゆっくりと上肢を最大挙上していきます。ダンベルが地面とすれすれまで落ちたら息を吐きながら前ならえのポジションまで上肢を戻していきます。
肩関節2nd外旋
投球障害の選手の多くは最大外旋(MER)のフェーズで動作のエラーが起きます。
胸椎伸展可動域や肩甲骨後傾可動域、前鋸筋や僧帽筋といった肩甲骨を安定させる筋群の出力なども大事になってきますが今回は肩甲上腕関節に絞って説明させていただきます。
|ポイント
投球動作における肩関節2nd外旋の可動域のポイントとしては、
・自動可動域と他動可動域のラグが少ないこと
・外旋最終域まで内旋筋による遠心性コントロールが可能であること
の2つであると考えております。
|獲得方法
●腋窩神経へのアプローチ
腋窩神経への実際のアプローチ方法は小林先生のnoteをご参照ください。
腋窩神経への徒手介入後に挙上位での外旋筋機能(小円筋)が改善していればOKです。
Hornblower’s testが陰性になるように徒手介入を行なっていきます。
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