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1. はじめに
投球障害肩を評価・治療する際に、腱板(rotator cuff)の理解は欠かせません。
腱板は「肩を動かすための筋群」として広く知られていますが、実際にはそれ以上に「肩関節を安定させる動的スタビライザー」としての役割が重要です。
特に投球動作は高速かつ反復性の高い運動であり、腱板にかかるストレスは日常生活の比ではありません。
腱板を単なる解剖学的知識として理解するのではなく、「どの動作期に、どの筋が、どのような負荷を受けるのか」まで把握することで、臨床推論・評価・治療戦略の精度を高めることができます。
2. 腱板の解剖概論
腱板は 棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋 の4つの筋と腱から成り、上腕骨頭を取り囲むように付着しています。

- 棘上筋
上腕骨大結節上部に付着し、肩外転の初動を担います。肩峰下スペースを通過するため摩耗や断裂が起こりやすく、特に前方線維が障害を受けやすい部位です。 - 棘下筋
大結節後上部に付着し、外旋と後方安定化を担います。投球後期やリリース直後の減速動作で大きな遠心性負荷を受けます。 - 小円筋
大結節下部に付着し、棘下筋と協調して外旋を担います。投球障害症例では小円筋の機能低下がよく見られます。 - 肩甲下筋
小結節に付着し、内旋と前方安定化を担います。レイトコッキング期に伸張負荷が大きくかかり、前方不安定性やSLAP病変と関与することが多い筋です。
さらに腱板には特徴的な線維構造として rotator cable(強靭な線維帯)と rotator crescent(薄い部分)が存在します。部分断裂の好発部位や、力学的に脆弱なポイントを理解するうえで重要です。
3. 投球動作における腱板の役割
肩関節に大きな負荷が加わるフェーズは3つに分けられ、それぞれの局面で腱板は異なる負荷を受けます。

|Late-cocking で肩関節にかかる負荷

肩関節可動域
・肩外旋角度は158〜178°がトップ投手で計測されている(MER; Max External Rotation)。
・肩甲骨後傾が減少している場合は外旋角度が増加(SD群:140±11°、正常群131±13°)。
Ueda A, Matsumura A, Shinkuma T, Oki T, Nakamura Y. Shoulder kinetic during pitching in baseball players with scapular dyskinesis. J Bodyw Mov Ther. 2024 Jan;37:57-62. doi: 10.1016/j.jbmt.2023.11.012. Epub 2023 Nov 17. PMID: 38432842.
関節にかかる力(Force)
MER期に肩関節前方剪断力が310N(約32kg)、上方 250±80N、 関節窩 480±130Nまで上昇する。
Fleisig GS, Andrews JR, Dillman CJ, Escamilla RF. Kinetics of baseball pitching with implications about injury mechanisms. Am J Sports Med. 1995 Mar-Apr;23(2):233-9. doi: 10.1177/036354659502300218. PMID: 7778711.

関節にかかるトルク(Torque)
ピーク値は推定約60〜80 Nm(参加者平均身長183 cm、体重83 kg の高校生投手が対象)。
Hurd WJ, Kaufman KR. Glenohumeral rotational motion and strength and baseball pitching biomechanics. J Athl Train. 2012 May-Jun;47(3):247-56. doi: 10.4085/1062-6050-47.3.10. PMID: 22892405; PMCID: PMC3392154.
|Acceleration で肩関節にかかる負荷

肩関節可動域
MER(最大外旋)から内旋へ、急速に可動域が変化する(内旋速度は最大約7,000〜8,000°/秒)。
Hurd WJ, Kaufman KR. Glenohumeral rotational motion and strength and baseball pitching biomechanics. J Athl Train. 2012 May-Jun;47(3):247-56. doi: 10.4085/1062-6050-47.3.10. PMID: 22892405; PMCID: PMC3392154.
関節にかかる力(Force)
前方剪断力はこの時期も高く維持されるが、Late cockingのピーク値が引き継がれる。
Ueda A, Matsumura A, Shinkuma T, Oki T, Nakamura Y. Shoulder kinetic during pitching in baseball players with scapular dyskinesis. J Bodyw Mov Ther. 2024 Jan;37:57-62. doi: 10.1016/j.jbmt.2023.11.012. Epub 2023 Nov 17. PMID: 38432842.
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関節にかかるトルク(Torque)
内旋トルクが急激に上昇し、最大時(Acceleration期)は0.61±0.08 Nm·height^–1^·mass。
Hurd WJ, Kaufman KR. Glenohumeral rotational motion and strength and baseball pitching biomechanics. J Athl Train. 2012 May-Jun;47(3):247-56. doi: 10.4085/1062-6050-47.3.10. PMID: 22892405; PMCID: PMC3392154.
|Follow-through で肩関節にかかる負荷

肩関節可動域
Ball release(BR)直後から内旋位維持→減速期。可動域は急速に減少し、関節安定化筋群への負担が増す。
Hurd WJ, Kaufman KR. Glenohumeral rotational motion and strength and baseball pitching biomechanics. J Athl Train. 2012 May-Jun;47(3):247-56. doi: 10.4085/1062-6050-47.3.10. PMID: 22892405; PMCID: PMC3392154
関節にかかる力(Force)
減速期では前方剪断力は減少するが、関節後方組織へ牽引力・減速ストレスがかかる。
Ueda A, Matsumura A, Shinkuma T, Oki T, Nakamura Y. Shoulder kinetic during pitching in baseball players with scapular dyskinesis. J Bodyw Mov Ther. 2024 Jan;37:57-62. doi: 10.1016/j.jbmt.2023.11.012. Epub 2023 Nov 17. PMID: 38432842.

関節にかかるトルク(Torque)
水平外転モーメント・外旋モーメント等は減速するが、内旋筋群への遠心的負荷は最大になる。
Hurd WJ, Kaufman KR. Glenohumeral rotational motion and strength and baseball pitching biomechanics. J Athl Train. 2012 May-Jun;47(3):247-56. doi: 10.4085/1062-6050-47.3.10. PMID: 22892405; PMCID: PMC3392154
このように、投球動作ごとに肩関節においてストレスを受ける場所は異なってきます。
上記を理解することで、痛みがどの部位に出ているのか?
なぜこの部位に痛みが出るのか?
それを理解する手掛かりになると考えています。
あくまで肩甲骨の関節窩と上腕骨頭がまっすぐに向き合っていることが重要です。
4. 腱板の詳細な解剖
|棘上筋
棘上筋は解剖学的に脆弱性があります。

特に関節面の脆弱性があります。
野球の投球フォームの中では、ひねりや摩擦が加えられるため、関節面の損傷や関節内のインピンジメントが生じやすいと考えられます。
また、前部線維と後部繊維では筋線維の特徴が異なります。

※M Vahlensieck, M Pollack, P Lang, S Grampp, HK. Genant Two segments of the supraspinous muscle: cause of high signal intensity at MR imaging? Radiology, 186 (1993), pp. 449-454
前部線維が強い腱性部になるため、特に外旋位での内転制限に関与すると考えます。
|棘上筋の起始停止
起始:肩甲骨の棘上窩
停止:上腕骨の大結節上部、肩関節包
停止部分に関しては、教科書的な大結節というものと、詳細にわけた報告があります。

棘上筋は少し前方へ付着するといわれています。
|棘上筋の支配神経
支配神経:肩甲上神経(C5~C6)
肩甲上神経の走行も理解するとよいと思います。
C5~6から出た肩甲上神経は、前方から後方へ走行します。

その後、棘上筋前方から深層へ侵入し、肩甲切痕を通過します。

この肩甲切痕部で絞扼が生じやすいといわれています。

|棘下筋
三角形で肩甲骨棘下窩を占有しますが、すべて棘下窩に付着するわけではなく、棘下筋下脂肪体が存在します。

|棘下筋の起始停止
起始:肩甲骨の棘下窩
停止:上腕骨の大結節中央部、肩関節包
詳細な付着部は、棘上筋のところで述べているので割愛します。
|棘下筋の支配神経
支配神経:肩甲上神経(C5~C6)
棘上筋と同様に、肩甲上神経が支配します。
棘上筋の前方から走行し、棘上筋の深層へ入り棘下切痕を通過し棘下窩へと走行する。
この棘下切痕部での公約も生じやすいといわれています。

|肩甲下筋
肩甲下筋は、体表には観察されにくいため、非常にイメージがつきにくいと思います。
実は、回旋筋腱板の中で一番大きい筋肉であり、
生成する力は、腱板の中で半分以上の力を持っています。
投球障害を考えるうえで、かなり重要な筋肉であると考えられます。

また、CIB独自のデータでは、
シーズン中の内旋筋力は低下していることもあります。
その選手たちは無症候であるため、
常に筋出力は問題なく出力する必要があります。

肩甲下筋は
他の回旋筋腱板との繋がりも非常に密接であり、
肩甲下筋の断裂があると、棘上筋・棘下筋の断裂の所見がみられることがあります。
肩甲下筋断裂の他の所見との関係
・上腕二頭筋長頭が溝からずれた場合(88%)
・棘上筋/棘下筋複合断裂がある場合(71%)
・上腕二頭筋腱長頭が断裂している場合(69%)
・棘上筋断裂がある場合(54%)
※Adams CR, Brady PC, Koo SS, Narbona P, Arrigoni P, Karnes GJ, Burkhart SS. A systematic approach for diagnosing subscapularis tendon tears with preoperative magnetic resonance imaging scans. Arthroscopy. 2012 Nov;28(11):1592-600.
評価がしにくい筋肉でありますが、しっかりと機能しているかを観察していく必要があります。
|肩甲下筋の起始停止
起始:肩甲骨の前面、肩甲下窩
停止:上腕骨の小結節、小結節稜の上部
停止部分に関しては、小結節に付着するとされてはいるものの、
肩甲下筋腱”舌部”付着部という部分があり、
上腕二頭筋長頭腱の深層に裏打ちするように付着するのが観察することができます。

また筋の走行も特徴的で、まっすぐ内側に走行するのではなく、
胸郭の後ろへ走行するため、大胸筋や小胸筋との走行とは異なります。

exercise等行うときは、注意が必要です。
|肩甲下筋の支配神経
支配神経:肩甲下神経(C5~C6)
肩甲下神経は、上、中、下に分かれます。
上肩甲下神経は、肩甲下筋上部に
中肩甲下神経は、胸背神経から広背筋に
下肩甲下神経は、肩甲下筋下部と大円筋を支配します。

後神経束から、肩甲下筋表層に走行します。
|小円筋
小円筋は、上部・下部筋束に明確に分かれます。

これらは独立したものとされ、筋腹も神経も独立して分岐します。
|小円筋の起始停止
起始:肩甲骨後面の外側縁
停止:上腕骨の大結節、肩関節包
小円筋は、停止部の上部で円形に、下部で線状に骨へ停止するが、
両領域で関節包と腱が一体化しており、特に下部は筋肉および関節包の融合部位として組織学的融合が認められるとされている。
Sahu D, Phadnis A. Revisiting the rotator cuff footprint. J Clin Orthop Trauma. 2021 Jul 21;21:101514. doi: 10.1016/j.jcot.2021.101514. PMID: 34367915; PMCID: PMC8326747.
|小円筋の支配神経
支配神経:腋窩神経(C5~6)
神経支配は腋窩神経です。
後神経束へ入り込んだ神経は、
その後分岐し、上腕骨頭の下を通り後方へ走行します。

オーバーヘッドスポーツでは、
上肢挙上位での神経の走行が重要ですので、
挙上位の模式図もお示しします。

5. 投球障害肩と腱板機能不全
投球障害肩の多くは腱板機能不全を背景に持っています。
- 棘上筋部分断裂 → 外転初動の不安定性 → インピンジメント様症状。
- 棘下筋・小円筋機能低下 → 外旋筋力の低下 → 肘内側のストレス増大(UCL損傷リスク)。
- 肩甲下筋不全 → 前方不安定性増大 → SLAP病変リスク増大。
腱板の機能不全は肩関節内にとどまらず、肘障害を含む投球障害全体に波及することを理解しておく必要があります。
6. 腱板の臨床評価
腱板の状態を正しく把握するためには、多角的な評価が必要です。
詳細は下記の記事で。
7. 腱板機能改善アプローチ
腱板の解剖学的理解を踏まえて、治療戦略を立てます。
詳細は下記で。
7. まとめ
- 腱板は単なる肩の筋群ではなく、投球動作の安定化に不可欠な存在です。
- 解剖学的構造と動作期ごとの役割を理解することで、臨床推論をより具体的にすることができます。
- 投球障害肩を診る際は「解剖 → 評価 → 治療」を一貫して結びつけることが重要です。
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