肘下がり~観察すべきポイントとその対応~【トレーナーマニュアルvol.113】

肘下がり~観察すべきポイントとその対応~【トレーナーマニュアルvol.113】

はじめに

今回の内容は5/20にencounterさんとのコラボセミナーでお伝えさせていただいた内容を改変したものになります。

投球障害で、
【肘下がり】という言葉はよく使用されます。

確かに肘下がりというものは、
肘関節や肩関節に負担をかけます。

必要なくその動作が行われているのであれば、
改善していくべきものと考えます。

ただ、その肘下がりの定義は、曖昧なまま使用されることが多いです。

その定義をはっきりとさせてから議論していく必要があるかと思います。

今回は、
投球障害肘と合わせて、肘下がりをどのように評価していくのか、
またどのように治療していくのかを紹介していきたいと思います。

投球障害肘とは?

投球障害肘について説明します。

大きく分けて3グループあり、
・外側
・後方
・内側
に分けられる。

外側は、特に
・離断性骨軟骨炎
が上げられ、成長期特有の疾患です。

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後方は、
・肘頭疲労骨折
・後方インピンジメント
が上げられ、成人期に生じる疾患です。

後方インピンジメントは、後内側インピンジメントもあり、
その場合は、内側後方に痛みを感じることも多く、
内側野球肘と区別しなくてはなりません。

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最後に、一番罹患率の多い内側です。
・前腕屈筋群の損傷
・尺側側副靭帯損傷
・尺骨神経症状
・上腕骨内側上顆裂離骨折(成長期)
などがあげられ、複数の疾患が存在します。

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※Pearce McCarty L 3rd. Approach to Medial Elbow Pain in the Throwing Athlete. Curr Rev Musculoskelet Med. 2019 Mar;12(1):30-40.

部位によって病態が異なりますが、
しっかりと評価し、疼痛が発生しないように投球させることが大切であると考えます。

尺側側副靭帯損傷について

近年、尺側側副靭帯損傷に対するトミージョン手術や、PRP療法という言葉は聞き慣れて、身近になってきています。

少し病態について触れていきたいと思います。

尺側側副靭帯は3つの線維に分けられます。
・前斜走線維 AOL
・後斜走線維 POL
・横走線維 TL
です。

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線維の幅があるので、
屈曲伸展した際に伸張される場所が異なります。

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特に尺側側副靭帯損傷は
AOLが損傷されやすいとされており、
その理由も解剖学的特徴から判断できます。

AOL後部線維が伸張される肢位と、
投球動作で、一番肘にストレスがかかるといわれているMERでの
肘屈曲角度が似ているためと考えられます。

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※Tribst MF, et al.: Anatomical and functional study of the medial collateral ligament complex of the elbow.   Acta ortopedica brasileira. 2012 Dec;20(6):334-8.

そのため、
AOLが損傷しやすいと考えられます。

また、尺側側副靭帯でも損傷組織の場所により、
回復しやすい部位とそうでない部位が存在します。

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※伊藤恵康ほか:スポーツによる肘関節尺側側副靱帯損傷.整・災外, 46: 211-227. 2003

このような解剖学的特徴を踏まえると、
病態の特徴が理解できて、
予後の予測に役立つと考えられます。

肘内側の評価としては、エコー評価が役に立ちます。

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※宮武和馬他:スポーツ障害・外傷の超音波診断 投球時の肘痛. 臨床スポーツ医学. Vol33.  No5. 2016

肘内側の動揺性があるかどうかの評価をし、
ある場合は内側の安定性が欠如していると考えられます。

肘関節にストレスが強くかかるフェイズ

投球フェイズの中で、肘関節に大きく負担のかかるフェイズが存在します。

それは、
MERとボールリリースのフェイズです。

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※Fleisig GS, et al.: Biomechanics of the elbow during baseball pitching. Am J Sports Med, 23. 233-239, 1995
※Solomito MJ, et al.: Elbow flexion post ball release is associated  with the elbow varus deceleration moments in baseball pitching. Sports Biomeca: 1-10, 2019.

これらのフェイズでどのようなストレスがかかるのかを見ていきます。

まずは、MERでの肘関節にかかるストレスです。

肘関節の伸展・外反ストレスが肘内側や後方にストレスをかけます。

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※Wilspn, F, D, et al.: Valgus extention overload in the pitching elbow. Am J Sports Med. 11: 83-88. 1983

次にリリースフェイズでのストレスです。

肘関節の過剰な伸展ストレスが加わり、肘後方にストレスをかけます。

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※Wilspn, F, D, et al.: Valgus extention overload in the pitching elbow. Am J Sports Med. 11: 83-88. 1983

これらのストレスが加わることで、
投球障害肘が生じやすくなると考えられます。

ではどのように考えていくかというと、
このフェイズに肘関節にストレスをかけないようにするために、
投球していく必要があると思います。

そこで観察すべき点で大切なので
【肘下がり】です。

では、肘下がりとは、
どのフェイズでの話で、
どこを見たら良いのかを後半では述べていきます。

肘関節にストレスが加わりにくいフォーム

まずは、肘(肩)関節にストレスが加わりにくいフォームはどのようなものかを確認していきます。

まずは大きくとらえるために
主にMERを観察し、
Throwing plane conceptを考えて観察していきます。

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※瀬戸口芳正:投球フォームと肩・肘障害. 臨床スポーツ医学, Vol 30, No9. 2013 引用改変

このフェイズで
Single-planeになっているかどうかを観察します。

しっかりと前後から観察し、
肘関節の屈伸運動だけで投球が行われているか、
内外反が生じていないかを観察します。

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大まかに観察するには、このような前後からの観察が役に立ちます。

肘下がりを見極める

肘下がりを観察するためには、
どこを観察したらよいかを述べていきます。

それは2か所存在します。

1個目は、踏み込み足が設置した瞬間です。

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2個目はボールリリースの瞬間です。

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では、
どのようなフォームがストレスが加わり、
どのようなフォームがストレスが少なくなるか
これらを解説していきます。

下記図
左:踏み込み足接地時に観察すべきポイント
右:ボールリリース時に観察すべきポイント

ここから先は有料部分です

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両肩を結ぶ線より、肘関節が下がっているかいないか。

下がっている場合、肘下がりと判断してよいと考えます。

では、これらが生じている場合、どのようなストレスが加わるのか。

肩も肘も両者ともにストレスが加わってきます。

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左:※Matsuo T, et al.: Influence of shoulder abduction and lateral trunk tilt on peak elbow varus torque for college baseball pitchers during simulated pitching. J Appl Biomech. 2006 May;22(2):93-102.
右:※Tanaka H, et al.: Estimation of Shoulder Behavior From the Viewpoint of Minimized Shoulder Joint Load Among Adolescent Baseball Pitchers. Am J Sports Med. 2018 Oct;46(12):3007-3013.

基準となるのは、
肩ー肩ー肘のラインをしっかりと観察することだと思います。

このラインが作れている、
いわゆる負荷がかかりにくい角度はどの程度がを示します。

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左:※Matsuo T, et al.: Influence of shoulder abduction and lateral trunk tilt on peak elbow varus torque for college baseball pitchers during simulated pitching. J Appl Biomech. 2006 May;22(2):93-102.
右:※Tanaka H, et al.: Estimation of Shoulder Behavior From the Viewpoint of Minimized Shoulder Joint Load Among Adolescent Baseball Pitchers. Am J Sports Med. 2018 Oct;46(12):3007-3013.

臨床上、
投球動作の中では、細かく角度を測定するのは、不可能なので、
おおよそ、肩ー肩ー肘のラインが一直線上になっているかを観察します。

選手の投球動作をひるとき、肘下がりに着目して観察するのであれば、
Early-cockingから、ボールリリースくらいまでの流れを確認していきます。

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投球動作観察のポイント

個人的な動作観察のポイントをお伝えします。

前半と後半の肘下がりが存在している場合、
ボールを持っている手(肘)の軌跡が異なってきます。

前半で肘下がりが生じている場合、
ボールを投げ上げるような軌跡になります。

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後半で肘下がりが生じている場合、
ボールを押し出すような軌跡になります。

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理想的なフォームは、
ボールを投げる方向へ向かってきれいな半円を描いていくことが観察できます。

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動きの中での観察は、
動く軌跡を追っていくことがやりやすいかと思います。

肘下がりに対する対応(1例ずつ)

前半の肘下がりに対する対応

前半の問題では、
ちゃんと肩関節の可動域が確保できているのかを観察します。

純粋な肩関節外転可動域が確保できているのかが見落とすことが多いです。

特に、
上腕三頭筋のタイトネスが生じてしまい、
外転可動域が確保できていないことがあります。

肘屈曲位での可動域をしっかりとチェックしていくことが必要です。

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LHT-t=上腕三頭筋長頭の可動域

上腕三頭筋は、肘関節に付着しますが、
長頭は関節下結節に付着しますので、肩関節の可動域に大きく関与します。

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Nasu H, Baramee P, Kampan N, Nimura A, Akita K. An anatomic study on the origin of the long head of the triceps brachii. JSES Open Access. 2019 Mar 15;3(1):5-11. doi: 10.1016/j.jses.2019.01.001. PMID: 30976729; PMCID: PMC6443837. を参考に作図

こちらの可動域をしっかりと確認することが重要です。

肢位が変わると周囲との筋の位置関係がイメージしにくいので、
図示していきます。

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上腕三頭筋を取り囲むように、
・大円筋
・小円筋
が位置します。

この部位の動きがしっかり出るように徒手療法していきます。

後半の肘下がりに対する対応

後半の問題では、胸郭の可動性が問題になることがあります。

胸郭の拡張障害があると、
MERでの胸郭進展が生じず、
体幹が前傾し、いわゆる突っ込みのような形になり、
肘下がりが生じることがあります。

ブリッジなどで総合的に評価、判断することも重要です。

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また、肩甲骨が内転しないことで、胸郭の伸張性が作れないということもあります。

胸郭、胸椎が伸展しないことで、
肩関節や肘関節に過度なストレスをかけます。

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肩甲骨の内転には、
小胸筋のタイトネスが関与します。

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筋の走行から考えると作用としては、
肩甲骨の前傾・内旋(外転)・下方回旋・下制に作用します。

下記に、簡単に小胸筋と投球障害に関する報告を記載します。

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小胸筋の徒手療法を動画でお示しします。

実際にエコー観察しながら
徒手療法を行っていくことも重要かと思います。

まとめ

評価すべき点がわかれば、
おのずとその評価方法も明確となり、
治療方針が決まってきます。

前半と後半の肘下がりがあるということを理解し、
どのフェイズの動作が問題になって、
どの機能が足りていないのかをしっかりと評価していくことが必要です。

最後に

今回の記事では、肘下がり~観察すべきポイントとその対応~について解説させていただきました。

肘下がりがあるからといって
必ずしも悪というわけではなく、
その理由をしっかりと理解して解釈していくことが
一番大切なことかと思います。

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この記事が一人でも多くの野球選手のためになれば幸いです。今後とも宜しくお願い致します。

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