投球障害肩の運動療法で大切にしているポイント【トレーナーマニュアルvol.121】

投球障害肩の運動療法で大切にしているポイント【トレーナーマニュアルvol.121】

C-I Baseball「トレーナーマニュアル」をご購読頂きありがとうございます。

2023年7月よりトレーナーマニュアルもリニューアルしてお届けしております。

今期のトレーナーマニュアル構成

①野球現場でのトレーナー活動
 チームトレーナー、育成年代への関わり、パフォーマンスについて

②臨床現場での選手への対応
 投球障害への対応、インソールからの介入

そして今期はなんと…
③ゲストライターの登場
 バイオメカニクス、栄養、各分野の専門家の方が執筆しています

④C-I Baseballメンバーの登場
 2020年からC-I Baseballへ加入し育成メンバーとして活動していたメンバーがいよいよライターとして登場します。


C-I Baseballで学び、成長していくメンバーの投稿もぜひお楽しみにしてください!

はじめに

投球障害肩の運動療法を実施する上で求められる事として重要視しているのは、”肩関節がどの肢位においても代償なく出力を発揮できる”ように機能を再建することだと考えています。

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ここで重要なのはMMTなどの筋力評価のテストで出力低下が認められたからといってすぐに筋力トレーニングが必要とは判断しないことです。

筋出力が低下する要因は様々です。
対象筋を支配している神経のentrapment(絞扼)筋の滑走障害、損傷など要因は多岐にわたります。それぞれの原因を考慮して出力低下を捉えることが重要です。

エコーを用いた神経へのアプローチは以前、小林弘幸先生のnoteで解説してくださっていますのでそちらをご参照ください👇

腱板機能・肩関節の筋出力に影響を与える因子

ここからは腱板に関してです。

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回旋筋腱板を構成する4つの筋
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腱板の機能

出力チェックの際、単に筋力の低下と捉えるのではなくどのような要因で出力低下が生じるのか、様々な視点から考えてみましょう。

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腱板機能・肩関節の筋出力に影響を与える因子

1.胸骨下角・肋骨の内外旋

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胸骨下角・肋骨の内外旋

静的な胸骨下角は70~90度と言われています。
胸骨下角のアライメント不良は腹部の筋の「長さ-張力曲線」の関係より、
腹圧機能の低下を招き、土台となる体幹部分が不安定な状態になってしまいます。
土台の安定性を欠く事で肩甲骨の安定性も失われ、腱板の出力は低下します。

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胸骨下角の拡大による影響(例)肩関節外旋

臨床では肋骨が過外旋しているケースが多く見受けられます。いわゆる”リブフレア”と呼ばれる状態です。
このような場合はPRIなどの呼吸系のエクササイズが有効になることもあります。

2.肩甲骨アライメント

肩甲骨の位置については“基準点に基づいて評価すべき”かと思います。
ただ「右側が下がっているから右肩下がり」ではなく、基準点に位置していれば右が正常で左肩が上がっていると評価します。
基準点に対する肩甲骨のズレ幅が腱板の働きに大きく影響しており、ここをしっかり捉えることが重要となります。

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肩甲骨の位置 基準点

腱板の強化を行う時は肩甲骨の高さを整えた上でエクササイズを実施することが重要と考えています。
その位置でエクササイズする事により、腱板の強化に加え肩甲骨をその位置で保持するための肩甲骨保持筋の賦活にも繋がります。

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腱板エクササイズ時の肩甲骨位置

肩甲骨の位置を修正すると最初は自分の今までの位置に対して違和感を感じる事があるかと思いますが、それは認知面の問題であり、運動を繰り返し行い学習することによって修正されていきます。

3.棘鎖角

肩甲骨の回旋度合いも腱板の機能に大きな影響を与えます。
鎖骨と肩甲棘が成す角を「棘鎖角」と呼びますが、それぞれ前額面に対して30度ずつ角度を成しており、合計60度で棘鎖角を成しています。腱板の機能はその棘鎖角に影響を受けます。
肩の1stポジションにおいて棘鎖角が60度の場合、筋出力は高くなるかと思います。

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棘鎖角

チューブ・バンドなどで腱板のエクササイズを実施する時に肩甲骨の回旋の位置を正して行う事が重要となります。

4.上腕骨頭位置

関節窩に対して上腕骨頭がどの位置にいるのかによって腱板の出力は大きく異なります。

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上腕骨頭位置

元々定位置でありながら筋や関節包の伸張性低下によりobligate translationするようなケースでは、初期は出力は良いが最終域に近付くと出力が低下するのが特徴になります。
一方、定位置の時点でその位置が不良な場合は中間位の時点で出力が低下しています。そのため、出力を評価する場合は中間位での出力と最終域近くでの出力と少なくとも2つは見るべきかと思います。

定位置がずれているかどうかの確認は骨頭を前方に偏位させた場合の出力と後方に偏位させた場合の出力の両方をチェックしてみると評価しやすいと思います。
臨床的には多くの選手は骨頭が前方に偏位しているため、骨頭を押し込んだ状態で出力をチェックすると向上することが確認出来るかと思います。

またその押し込み具合に関しても、どの程度まで押し込むとより良い出力になるのかを確認する事で治療するべき移動の幅も確認出来るため、方向に加えその移動量も意識して介入する事をお勧めします。

5.筋腱の近位滑走性

過剰使用などにより筋・腱の滑走制限が生じているケースの場合は滑走不全が生じている部位に対して、関節運動の時に筋・腱の動きを促す方向に誘導する事で出力の向上を認めます
また出力低下のみならず、滑走不全が起きている場合は滑走不良部位に集約するようなストレスをかけると、そこで圧縮ストレスが生じて痛みが生じる場合があります。
棘下筋が棘下窩外側で脂肪体と滑走不良になって、肩外旋動作時に後方でインピンジメントするようなケースがそれにあたるかと思います。

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筋腱の近位滑走性

棘上筋に関してだと、肩峰の内側にsubacromial fat padと呼ばれる脂肪体が存在すると言われているため、その部位の滑走不全・拘縮による出力不良も多く見受けられます。

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subacromial fat pad

6.筋硬結・癒着による遠位滑走不全

次は先程と異なり、逆方向に誘導すべきケースです。
代表的なケースは腱板損傷などにより筋硬結が生じている場合や、僧帽筋と棘上筋筋腹との間で滑走不全が生じているような場合になります。

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筋硬結

そのようなケースでは筋全長の中で過度に短縮している部位と過度に伸張されている部分が混在しており、過度な伸張が加わっている部分には大きなストレスが生じます。
この場合、短縮している部分を引っぱり出す事によって筋の伸張の割合を均一にする事により局所のストレスが減り、出力が向上します。
日頃の評価で意識するべき着眼点かと思います。

7.手のアーチ

遠位の関節機能によっても腱板の出力は変化します。

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手のアーチと腱板

手根骨のアーチがしっかり保たれている状態の場合、橈骨手根関節への適切な軸圧が保たれた状態となり、腱板の出力は安定します
一方、手根骨のアーチが低下した状態では、肩甲上腕関節への圧が低下し、肩関節が不安定となります。その代償として抵抗運動に対して過剰な努力が必要な状態となってしまいます。

肩甲上腕関節の求心位について

求心位

求心位は肩甲骨関節窩と上腕骨頭が適切な位置関係を保ち続けられることで得られます。

求心:Centripetal
中心に近づこうとすること


位:Position
物がある所、物があるべき場所、ある場所を占めること

肩関節に存在する特殊な固有受容情報が脳に送られ、
『関節の随意制御』『滑らかさと協調性』『運動学習』 『間違いの修正』『運動中の姿勢の安定性』に作用しています。

求心位獲得の流れ

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