今回は、過去に開催したオンラインセミナーの内容を動画で配信します。
講師は、C-I Baseballスタッフの高橋塁です。
今回のテーマは、「ピッチングパフォーマンスを上げるための自己分析方法」です。
ピッチングパフォーマンスを上げるというと、
「球速を上げる」
「投球フォームを改善する」
というところから考えることが多いと思います。
もちろん、この2つは非常に重要です。
ただ、ピッチャーのパフォーマンスを考えるためには、球速とフォームだけではなく、球種ごとの特徴、回転数、回転効率、変化量、リリース位置、そして打者の反応まで含めて多角的に見ることが必要になります。
今回は、そういった情報から自分のピッチングを分析し、
現在の自分はどのような投手なのか。
そして、これからどのような投手を目指すのか。
というところまで考えていきます。
■現代野球で求められる投手像
現在の野球では、上のカテゴリーを目指すほど、球速は重要な要素になっています。
実際に球速帯が上がるほど空振り率が上昇する傾向もあり、高校野球でも150km/hを超える投手が珍しくなくなってきました。
そのため、長期的に考えれば球速を向上させることは非常に重要です。
一方で、すべての選手が短期間で球速を大きく伸ばせるわけではありません。
例えば、秋の大会が数週間後に迫っている選手に、
「まず10km/h球速を上げよう」
という目標を立てても、現実的ではないことがあります。
そこで重要になるのが、
今持っている能力の中で、どうすれば打者を抑えられるのか
という考え方です。
現在の投手には、大きく分けると2つの役割があります。
ひとつは、短いイニングで高い出力を発揮するタイプ。
もうひとつは、変化球や配球も使いながら、長いイニングを効率よく抑えていくタイプです。
自分がどのような役割を求められているのかによっても、伸ばすべき能力は変わってきます。
■球速と同時に見ておきたい「球質」
球速と同じように重要になるのが、ボールそのものの「質」です。
そのひとつが回転効率です。
同じ球速のストレートでも、回転効率が違えば、打者から見たボールの印象は変わります。
有効回転が多く、回転効率が高いストレートでは、ホップ成分が大きくなることがあります。
一方で、ジャイロ成分が強く有効回転が少ない場合には、球速が出ていても、打者からはそれほど速く感じられないことがあります。
そのため、
「何km/h出ているか」だけでなく、「その球速がどのような回転で投げられているか」
まで見ていく必要があります。
特にアマチュア選手の場合、球速を短期間で大きく変えることは難しくても、回転効率は比較的短期間で変化するケースがあります。
大会までの期間が短い選手であれば、
「球速を上げること」だけでなく、
「今の球速を、より打ちにくいボールにすること」
も一つの選択肢になります。
■回転数・回転効率・変化量を組み合わせて見る
ストレートの球質を考える場合、回転効率だけではなく回転数も見ていきます。
回転効率が高く、さらに回転数も多ければ、縦方向の変化量、いわゆるホップ成分も大きくなりやすくなります。
ここで大切なのは、
一つの数字だけでピッチングを評価しないことです。
球速、回転数、回転効率、変化量。
それぞれを組み合わせて、その投手のボールがどのような特徴を持っているのかを見ていきます。
RapsodoやTrackManなどを使用できる環境があれば、まず一度、自分のボールを測定してみることをおすすめします。
「自分では伸びるストレートだと思っていたけれど、実際にはジャイロ成分が強かった」
「スライダーとカーブを投げ分けているつもりだったけれど、変化量を見るとほとんど同じだった」
ということもあります。
感覚と実際のデータが一致しているとは限りません。
■球種を組み合わせて打者を抑える
トラッキングデータを見ることで、単独の球質だけではなく、球種同士の組み合わせも考えられるようになります。
その一つが「ピッチミラーリング」です。
例えば、ホップ成分の大きいストレートを投げられる選手であれば、その反対方向に大きく変化するカーブを組み合わせることで、打者にとって異なる軌道を作ることができます。
もう一つ重要なのがピッチトンネルです。
どれだけ速いストレートを投げても、球種によってリリース位置が大きく変わってしまえば、打者に球種を予測されやすくなります。
同じようなリリースから異なる軌道のボールが来ることで、打者は判断する時間が短くなります。
さらに、
打者が予測している軌道と、実際のボールの軌道にズレを作る
という考え方もあります。
例えば同じ130km/hのストレートでも、一般的な130km/hのボールよりホップ成分が大きければ、打者が予測していた場所より高い位置を通過する可能性があります。
逆に、ホップ成分が少ないことが、初対戦の打者にとって打ちにくさにつながるケースもあります。
つまり、
すべての数値を平均や理想値に近づければよいわけではありません。
自分の特徴を知ったうえで、それをどう使うのかを考えることが重要です。
■自分の強みと弱みを整理する4つの視点
トラッキングデータを測定したら、次に自分の強みと弱みを整理していきます。
私は大きく4つの視点から投手を見ています。
①トラッキングデータ
まずは球速、回転数、回転効率、変化量などを記録します。
定期的に測定することで、一回の数値を見るだけではなく、
以前と比べて何が変わったのか
を見ることができます。
②リリース位置
スマートフォンなどで投球を撮影し、リリース位置を重ね合わせて確認します。
球種によってリリース位置が大きく変化していないか。
ピッチトンネルを作れるリリースになっているか。
こうした部分も確認します。
③打者からのフィードバック
自チームで紅白戦などを行った際には、実際に打席に立った選手へ、
「どの球が見づらかったか」
「どの球が速く感じたか」
「どの球種が判断しにくかったか」
を聞きます。
数字だけでは分からない、打者が実際にどう感じたかも非常に重要なデータです。
④試合での結果
最後に、実際のゲームデータを確認します。
ストライク率はどうだったのか。
初球は狙ったところに投げられているか。
2ストライクに追い込んだ後、決め球でアウトを取れているか。
どれだけ良いボールを持っていても、試合で使えていなければ意味がありません。
トラッキングデータと実戦の結果をつなげて考える。
ここまでが自己分析です。
■球質だけでなく身体も見る
ピッチングの自己分析では、ボールのデータだけを見るわけではありません。
私は実際の選手を見る際に、
球速や球質
↓
ゲームでの制球
↓
配球・実戦結果
↓
投球数による球速の変化
↓
身体機能
まで合わせて評価しています。
例えば、投球を続けて何球目から球速が落ちるのか。
肩や肘の可動域はどうなのか。
ジャンプやスプリント、メディシンボールスローなどのフィジカル能力はどうなのか。
そうした情報も合わせて、
なぜ現在のピッチングになっているのか
を考えていきます。
そのため、選手一人だけですべてを行うのではなく、監督・コーチ・トレーナーが情報を共有することも重要です。
■投手を4つのタイプに分けて考える
選手の現在地を分かりやすくするために、私は投手を大きく4つのタイプに分類しています。
パワー型
球速が速く、球威によって打者を押し込み、三振を取れる投手です。
技巧派
変化球の精度が高く、緩急やコースを使いながら打者を抑える投手です。
コントロール型
四球が少なく、ストライクを先行させながらアウトを積み重ねていく投手です。
スマート型
打者や状況によってタイミングを変えたり、投球の組み立てを変えたりしながら、臨機応変に対応できる投手です。
ここで大切なのは、
どのタイプが一番優れているかを決めることではありません。
今の自分がどこにいるのかを知るための分類です。
例えば大会直前で、現在の球速が130km/h前後だった場合。
無理にパワー型へ変えようとするより、
「今持っている変化球をどう使うか」
「ピッチトンネルをどう作るか」
「球速差をどう作るか」
を考え、今回の大会では技巧派として勝負するという選択もあります。
そして長期的にはフィジカルを強化し、春や夏に向けてパワー型へ近づいていく。
このように、短期と長期で目指す投手像を変えることもあります。
■変化球は「球種の数」だけではない
変化球を4種類、5種類と投げられても、すべてが同じ球速帯になってしまうと、打者にとってはそれほど大きな違いにならないことがあります。
例えば、
ストレート
スライダー
カーブ
チェンジアップ
を持っている場合。
それぞれの球種に球速差があり、さらに変化する方向にも違いがあることで、打者は対応しにくくなります。
そのため、
「何種類投げられるか」ではなく、「それぞれの球が本当に違う特徴を持っているか」
を見る必要があります。
変化量で考えるのであれば、
ストレートは縦方向。
スライダーは横方向。
カーブやフォーク、チェンジアップは下方向。
というように球種ごとの差を作る。
この変化量の広がりを大きくすることも、打者を抑えるための一つの考え方になります。
■自己分析の次は「どんな投手になりたいか」を決める
現在地を把握したら、次に行うのが目標設定です。
私はまず選手自身に、
「どんな投手になりたいか」
を考えてもらいます。
ただし、
「大谷翔平投手のようになりたい」
「山本由伸投手のようになりたい」
だけでは十分ではありません。
もう少し具体的に、
技術面ではどうなりたいのか。
フィジカル面ではどうなりたいのか。
メンタル面ではどうなりたいのか。
試合ではどのような役割を担いたいのか。
ここまで言語化していきます。
そのうえで現在の自分を、
球速
制球力
変化球
スタミナ
メンタル
などの項目に分けて評価します。
理想と現在地の差が、その選手の課題になります。
■SMART法で目標を具体化する
目標を決める時には、SMART法を使っています。
Specific
具体的で明確な目標であること。
Measurable
数値や行動として測定できること。
Achievable
現実的に達成可能であること。
Relevant
自分やチームの目標につながっていること。
Time-bound
期限が決まっていること。
例えば、
「球速を上げたい」
だけでは、何をすればいいのか分かりません。
それを、
「3か月後までにストレートを130km/hから140km/hにし、試合での四球を半減させる」
という形に変えることで、必要な練習やトレーニングを考えやすくなります。
もちろん、現在120km/hの投手が数か月後に150km/hを目標にするなど、現実から大きく離れた設定ではうまくいきません。
現状のデータを見ながら、達成可能な範囲で目標を決めることが重要です。
■成長プランは投球フォームだけで作らない
目標が決まったら、そこから実際の成長プランを作ります。
ここでも、投球フォームだけを改善するわけではありません。
技術面では、投球フォームや各球種の精度を高める。
フィジカル面では、筋力、パワー、ジャンプ、スプリントなどを向上させる。
メンタル面では、試合前のルーティンや日々の練習への入り方を決める。
さらに、実戦の中で監督・コーチ・捕手と検証を行う。
このように、複数の要素を組み合わせて一人の投手を作っていきます。
年間の大きな計画も必要ですし、1週間単位の小さな計画も必要になります。
私が指導している選手には、次の1週間で何を行うのかを自分で考えてもらうこともあります。
その計画に対してフィードバックを行い、1週間実践する。
そして週が終わったら振り返ります。
■「計画→実行→振り返り」を繰り返す
最終的に一番重要になるのが、
実行して、振り返り、改善することです。
計画を作っただけではパフォーマンスは変わりません。
実際に取り組み、
「目標に対してどこまで近づいたか」
「何がうまくいったか」
「何ができなかったか」
「なぜできなかったか」
「次は何を変えるか」
まで考えます。
その時に再び、
球速
球質
フィジカルテスト
試合での結果
などを測定します。
そして計画を微調整し、また取り組む。
このサイクルを何度も回していくことで、選手自身が自分の成長を考えられるようになります。
■今回の自己分析で確認してほしいこと
最後に、今回の内容を自分自身や担当している選手に当てはめて確認してみてください。
- 理想の投手像を具体的に言語化できているか
- 現在地を感覚だけでなく客観的なデータから見られているか
- 自分の強みと弱みを把握できているか
- SMART法を使って具体的な目標を設定できているか
- 1週間の取り組みを振り返っているか
- 定期的に計測し、計画を見直しているか
投手のパフォーマンスを上げるために必要なのは、エクササイズやトレーニングメニューを増やすことだけではありません。
まず評価する。
現在地を知る。
目標を決める。
実行する。
そして、もう一度評価する。
この繰り返しが、選手の成長につながっていきます。
■解説動画
元プロ野球トレーナーが教える
ピッチングパフォーマンスを上げるための自己分析方法①
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