■はじめに

「ボールを離す瞬間に肩や肘が痛い」
「ボールが抜けてしまう」
「指先にボールがかからず、力が伝わらない」
投球障害のある選手を対応する中で、このような訴えを耳にすることは少なくありません。痛みの軽減に加え、選手が求める「ボールに力が伝わる感覚」を取り戻すことも、臨床で向き合う課題の一つです。
こうした問題を考える際には、リリースの瞬間だけでなく、最大外旋位(MER)からリリースに至る過程に目を向ける必要があります。
本記事では、その中でも挙上位での上腕骨の内旋と、肩甲骨・胸郭の動きのつながりに着目します。
私が臨床で重視しているのは、胸郭を伸展位に固定せず、必要に応じて丸くなる方向へ動かしながら、肩甲骨の動きと上腕骨の内旋を連動させられるかという点です。
単に背中を丸めることではなく、上肢の挙上を保ち、胸郭・肩甲骨・上腕骨を協調させる機能として捉えています。
本記事では、この臨床的な視点をもとに、リリース時の痛みやボールの抜け感を整理し、評価から運動療法へつなぐ考え方を紹介します。
評価やエクササイズを取り上げ、それぞれの目的と実施時のポイントを解説します。
エクササイズを行うこと自体をゴールにせず、投球時の症状や力の伝わり方にどのような変化が生じるかを確かめる、そのための評価と実践の手がかりを共有できればと思います。
■ボールリリースは肩内旋運動の途中で起こる

投球動作では、最大外旋(MER)からボールリリースまでの加速期に肩は急激に内旋し、リリース時点でも内旋運動が継続している
Diffendaffer AZ, et al. The Clinician’s Guide to Baseball Pitching Biomechanics. Sports Health. 2023;15(2):274–281.
Dillman CJ, Fleisig GS, Andrews JR. Biomechanics of pitching with emphasis upon shoulder kinematics. J Orthop Sports Phys Ther. 1993;18(2):402–408.
リリース時の肩の動きを理解するために、コッキング期から減速期までの流れを整理します。
|コッキング後期:外旋運動と、それに抗する内旋トルク
コッキング後期には、肩の外旋角度が増大し、最大外旋位(MER)に到達します。この過程では、肩が外旋方向へ動く一方で、それに抗する内旋トルクが生じています。
「内旋トルクが生じている」ことと、「肩が内旋方向へ動いている」ことは同じではありません。関節の運動方向と、その関節に作用するトルクの方向を分けて捉えることが重要です。
|加速期:最大外旋位から急速な内旋へ
MERからボールリリースまでが加速期です。肩は外旋から内旋方向へ転じ、肘の伸展などと共ににボールを加速させます。
この局面を評価する際には、肩の回旋角度だけでなく、内旋が進むタイミングや、体幹・肩甲骨・肘の動きとの関係にも目を向けます。
|ボールリリース:内旋運動の途中でボールが離れる
ボールリリースは、肩の内旋が完了してから起こるのではなく、内旋運動が続いている途中で起こります。
そのため、リリースの瞬間に肩が外旋位にあっても、内旋方向へ動いている場合があります。静止画で外旋位に見えることだけを根拠に、「内旋ができていない」「内旋が遅れている」と判断することはできません。MERからリリースに至る連続した動きとして確認する必要があります。
|減速期:リリース後も続く内旋を制動する
ボールが離れた後も肩の内旋運動は続き、その後、減速していきます。この局面では、肩後方筋群や肩甲骨内転筋群などが上肢の運動を制動する役割を担います。
リリース時の問題を考える際には、ボールが離れる瞬間だけでなく、そこへ至る加速と、その後の減速まで含めて捉えることが大切です。

■評価

|挙上位肩内旋可動域
・2nd / 3rd / zero positionのそれぞれのポジションで肩の内旋可動域を評価します。上腕を肩甲棘の延長線上に位置づけ、肘を屈曲した状態から肩を内旋させます。
可動範囲・疼痛・抵抗感、左右差を確認します。
zero positionからの内旋を見る際は臨床経験上、骨頭上方偏位が生じずに内旋10°行くかどうかを確認しています。
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