はじめに
本稿のテーマは、椎間関節由来の腰痛(facet joint–related low back pain)です。臨床で想起しやすいのは、いわゆる「反って痛い」タイプで、立位で腰椎伸展や回旋ストレスが加わる場面で症状が出やすい印象があります。

具体的には、立ち上がり後、立位保持、走行中などで誘発されることが多く、野球動作ではバッティングやピッチング時に遭遇しやすいと感じます。

また、投げる・打つ以外でも、ランニングや伸展・回旋系エクササイズ、ウェイトトレーニング(バックスクワット、ルーマニアンデッドリフトなど)で症状が出ることがあり、野球選手に関与が深い腰痛のひとつです。
そこでまず、解剖と病態を簡潔に整理したうえで、他疾患との鑑別、局所治療、患部外アプローチまで一連の流れとして提示します。
椎間関節の解剖
椎間関節は、
上位椎体の下関節突起
下位椎体の上関節突起
から構成される、脊柱後方要素の関節です。

脊椎は一般に、椎間板と左右の椎間関節の3要素で機能単位を形成し、相互に連携して椎間可動性と安定性を生み出します。
荷重伝達については、椎間板が約70%、左右の椎間関節が約30%とされます

このため、椎間板変性が進むと椎間関節への荷重が相対的に増え、椎間板変性と椎間関節変性が相互に影響する可能性が示されています

椎間板変性は20歳代と比較して30歳代で増加し、3〜4倍に増えるという報告もあり、大学以降の野球選手では椎間板変性を背景に椎間関節症状が出やすい可能性を考えます。
変性の好発はL4/5、L5/Sに多く、臨床で伸展時痛が出やすい部位とも一致します。
Morimoto M, Okada R, Sugiura K, et al. Low Back Pain and Lumbar Degeneration in Japanese Professional Baseball Players. Orthop J Sports Med. 2022.
椎間関節は、他関節と同様に
関節軟骨・滑膜・関節包から構成されます。
加えて、椎間関節内にはmeniscoid(滑膜・脂肪組織)が存在し、関節運動の円滑化や負荷軽減に寄与する一方、疼痛源になり得るとされています。

具体的には、
椎間関節に圧縮ストレスが加わるとインピンジメントが生じ
逆に関節が離開する状況では関節包に牽引されて表層へ移動する
とされます。したがって、椎間関節への過度な圧縮ストレスは疼痛に結びつく重要な要素になります。

では、どの運動で圧縮ストレスが増えるか?と考えます。
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椎間関節への圧縮ストレスが増える関節運動
腰椎においては
・伸展
・同側側屈
・対側回旋
椎間関節への圧縮ストレスが大きいと報告されています。
その中でも伸展・回旋>側屈で圧力が高まるので、伸展位での回旋運動においては特に注意が必要です。
Niosi CA, Wilson DC, Zhu Q, Keynan O, Wilson DR, Oxland TR. The effect of dynamic posterior stabilization on facet joint contact forces: an in vitro investigation. Spine (Phila Pa 1976). 2008;33(1):19-26.
バイオメカニクスのデータに加えて、骨模型で椎間関節の距離を見てみるとイメージしやすいです。
青:離開方向
赤:圧縮方向

動画でもご確認ください。
椎間関節がなぜ痛みが出る?
疼痛発生源として重要なのは、
第一に、関節包や滑膜が神経支配を受けることです。これらの組織は線維化などの変化を通じて症状に関与し得ます。
第二に、椎間関節痛では炎症が関与する可能性が示されています
①Cavanaugh JM, Ozaktay AC, Yamashita HT, King AI. Lumbar facet pain: biomechanics, neuroanatomy and neurophysiology. J Biomech. 1996;29(9):1117-1129.
②Kalichman L, Hunter DJ. Lumbar facet joint osteoarthritis: a review. Semin Arthritis Rheum. 2007;37(2):69-80.
つまり臨床的には、椎間関節痛の背景として、
椎間関節周囲の炎症と
椎間関節の拘縮(離開制限)
のいずれか、または両者が疼痛に関与している可能性があります。整理すると、炎症優位では局所刺激を避けて負荷管理を中心にし、拘縮優位では離開方向を意識した可動性介入を並行する、という方針と考えています。
【炎症が関与している場合】
・基本的には安静を主体とした
・腰椎への負荷を減らすような隣接関節や体幹安定性exが重要
【拘縮が関与している場合=椎間関節の離開制限】
・腰椎屈曲や対側側屈の可動域改善を図りながら
・腰椎への負荷を減らすような隣接関節や体幹安定性exが重要

いずれの病態でも共通するのは、
腰椎椎間関節への過剰な伸展・側屈・回旋ストレスを減らすという目標です。炎症が疑われる急性期では腰部ROMは控え、一定期間の局所安静と負荷調整を優先し、炎症が前面に出ていない場合はROMも並行するが良いかと考えています。
①Binder DS, Nampiaparampil DE. The provocative lumbar facet joint. Curr Rev Musculoskelet Med. 2009;2(1):15-24.
②Van den Heuvel SAS, Cohen SPC, de Andrès Ares J, Van Boxem K, Kallewaard JW, Van Zundert J. 3. Pain originating from the lumbar facet joints. Pain Pract. 2024;24(1):160-176.
投球ではどの場面でストレスが生じるか?
打撃・投球動作はいずれも回旋要素が大きい動作です。
特に投球では体幹回旋角度や角速度が球速と関連するという報告も多く見られます。

投球中に大きな体幹回旋が生じやすい局面として、ストライド脚接地期(SFC:stride foot contact)が挙げられます。
SFC前後では、
体幹に対して先行して骨盤が投球側へ回旋し
→結果として体幹(胸郭)は非投球側へ回旋運動が生じます。
その際に右投手であれば体幹右回旋が生じることになるので
左腰椎椎間関節への圧縮ストレスが増大します。

したがって、体幹安定性が不十分な選手や胸椎可動性が低い選手では、回旋が腰椎中心に偏り、椎間関節性症状につながる可能性を考えます。もちろん下肢要因も関与し得ますが、まずは体幹の安定性と胸椎の可動性を徹底して整えることを重視しています。
身体評価
運動時痛&鑑別検査
では椎間関節性腰痛の特徴的な所見を整理します。
基本的には椎間関節に圧ストレスが加わった場面であるとすると
後屈時痛
Kemp test(側屈・伸展)
となります。
それを踏まえて他の症状との鑑別を考えると下記の表のように考えております。

椎間関節性の腰痛と同様に後屈やKemp testで陽性となるのは
・腰椎分離症
・椎間板ヘルニア(椎間孔型)となります。
鑑別に関して
腰椎分離症では
・小学生~高校生の成長期の選手で
・腰痛の持続
・安静時痛や日常生活での痛み < 運動時痛の痛み
・側屈時痛でも症状
臨床では、年齢、痛みの持続、誘発動作(伸展だけでなく側屈でも症状が出るか)を丁寧に確認し、疑わしい場合は医療機関受診を検討する必要があると考えます。
腰椎椎間板ヘルニアの椎間孔型に関しては
・SLR testを追加して症状の有無を確認
・筋力検査、感覚検査など神経学的検査の確認
これらが必要になります。
上記のように鑑別することで、ほかの病態との鑑別につながります。また運動時痛だけでは筋性疼痛などとの鑑別が難しいため、椎間関節由来を疑う場合は、次の圧痛所見を組み合わせています。
圧痛所見
L4/5椎間関節の圧痛評価は、ランドマークを明確にし、圧を加える部位や強さを一定化することが重要です。
方法(L3/L4の椎間関節の場合)
①L3の棘突起の上端を確認
②上端から1.5横指外側、1横指下方に指を置く
③ゆっくり鎮めるように圧をかける
④指が沈まなくなって”何か”に指がぶつかるような感触を確認
⑤そこからさらに深部に圧をかけながらそのまま尾側にずらして、椎間関節へ圧を加える。
この所見は無症状者でも一定程度の疼痛が出ることがあるため、患側だけで判断しないことが重要です。症状がある側と対側で同様に評価し、普段の痛みの再現性(質・部位・強さ)を確認したうえで「椎間関節の圧痛所見あり/なし」を解釈します。圧痛所見は臨床的に意義のある圧痛なのか、そうでないのかを常に考えながら行う必要があります。
徒手的治療
多裂筋

起始部である腸骨・仙骨側から
停止部である各腰椎棘突起にむけて筋線維を収縮させるように
徒手的な操作を行い、筋の攣縮や柔軟性改善を図る。
運動療法
骨盤後傾運動&ドローイン
腰椎の大きな関節運動を伴いにくく、急性期から導入しやすい内容です。腹横筋・内腹斜筋など深部体幹筋の収縮を促し、背筋群の過緊張を抑えながら、結果として腰椎屈曲方向の可動性獲得につなげます。
重視している運動:フロントプランク①
腰椎を過伸展させずに体幹の剛性を高めやすく、椎間関節への過剰ストレス低減に結びつけやすいと考えています。
ポイントは、
①胸椎の過剰屈曲を避けつつ
②骨盤後傾位で腰椎を屈曲〜中間位に保持すること
③加えて、肩甲骨外転を意識して前鋸筋の収縮も引き出します。
重視している運動:フロントプランク②
床で上記ポイントを安定して行えるようになったら、ストレッチポール上で同様に実施します。
ポール上では、肘で垂直方向に押すことが求められるため、肩甲骨外転と前鋸筋収縮を誘導しやすくなります。
また、前後方向に重心がずれるとポールが転がるため、体幹の微調整が必要になり、左右差や偏りの抑制にもつながります。
腰部中間位でのモーターコントロールex
上肢挙上位でのフロントプランクでは、上肢挙上に伴う肋骨の開きを制御しながら腹筋群の収縮を維持します。
Dead bugでは、骨盤後傾・腰椎後弯位を保持したまま上下肢を動かし、腰椎を動かさずに四肢を操作する課題にします。
上肢挙上位でのモーターコントロールex
さらにインチワームやTRXなどを用い、上肢挙上角度を段階的に増やしながら、骨盤・腰椎を中間位に保つ制御能力を高めます。
胸椎伸展ex
胸椎伸展は、腰椎代償を減らして回旋負荷を分散させる観点で重要です。上肢挙上を伴う胸椎伸展エクササイズを併用し、投球・打撃の動作課題へつなげます。
上肢挙上を伴う胸椎伸展ex
まとめ
本稿では、椎間関節性腰痛を、解剖と病態から評価・介入まで一連の流れで整理しました。特に重要なのは、受傷起点や発症後数日といった炎症期が疑われる場面では、無理なエクササイズが症状増悪につながり得る点です。まず急性期かどうかを見立て、椎間関節への過剰な伸展・側屈・回旋ストレスを減らす方針に落とし込みます。
介入としては、胸椎可動性と腹筋群を中心とした運動制御を徹底し、腰椎中心の回旋へ偏らない機能を作ることを重視しています。野球は上肢・下肢運動が複合した回旋スポーツであり、体幹安定性が競技特性としても求められるためです。
おわりに
このシリーズでは野球選手の腰痛について、診断から治療、リハビリテーションまで一連の流れを解説していきます。
現場や医療で働く我々にとって、この腰痛決して珍しいものではありません。だからこそ、適切な知識と技術を身につけ、選手一人ひとりに最適なアプローチを提供することが求められます。
科学的根拠に基づきながらも、目の前の選手の声に耳を傾けること。 そして、焦らず段階的に治療を進めていく忍耐を持つこと。これらが、選手の競技復帰を成功に導く鍵となると思っています。
この記事が、日々現場で奮闘される皆さんにとって、少しでもお役に立てれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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