今回は、野球選手の腰痛についてまとめた
① 過去の記事
病態ごとにまとめた4本のnote記事を、リンクとともにご紹介します。
② 臨床コース
私が担当する「野球選手の腰部障害の病態」の内容と、オンライン・ハンズオンでの取り組みをご紹介します。
③ 病態と評価
腰痛の疫学やリスクに関わる要素を整理し、評価シートをもとに、所見から病態を推測して治療方針を考える流れを解説します。
④ 筋筋膜性腰痛の治療
胸腰筋膜を中心に、周囲の筋との位置関係を踏まえた評価と、実際に行っている介入を紹介します。
1.病態別noteのご案内
これまで、野球選手の腰痛について
病態ごとに4本の記事にまとめてきました。
それぞれの病態や評価、介入の考え方を紹介していますので、気になる内容や担当している選手の症状に合わせてご覧ください。
今回に合わせて内容もアップデートしています。
以前読んでくださった方も、改めて確認していただければと思います。

Vol.1:総論・腰椎椎間板ヘルニア編
Vol.2:腰椎椎間板・椎体終板変性編
Vol.3:椎間関節性編
Vol.4:腰椎分離症編
2.臨床コースで伝えていること
C-I Baseballの臨床コースでは
私は「野球選手の腰部障害の病態」を担当しています。
オンラインセミナーと現地ハンズオンセミナーの2日間で、病態の理解から実際の評価・治療までを扱います。


【オンラインセミナー】:病態の知識を整理する
①腰痛の疫学や野球との関わりとそのエビデンス
②見逃してはいけない成長期の腰痛として腰椎分離症
③成人期で長引きやすい腰痛として椎間板変性や椎間板ヘルニア
③現場でよく遭遇する筋筋膜性腰痛
について解説しています。

【現地ハンズオンセミナー】:知識を評価と治療につなげる
現地ハンズオンでは、オンラインやnoteで取り上げた病態の知識をもとに、
①どのように評価し、鑑別を進めるかを実践します。
参加者の皆さんと一緒に評価を行い、得られた所見から何を考えるのかを確認していきます。
②治療では、筋筋膜性腰痛を取り上げ、特に胸腰筋膜に着目しています。解剖を確認しながら、触診や徒手操作を実際に行うプログラムです。

C-I Baseball臨床コースの詳細はこちら👇👇
https://sites.google.com/view/c-i-baseball-rinsyo2026?usp=sharing
ここからは、講座で扱っている内容に沿って、野球選手の腰痛を捉える視点から紹介します。
3.野球選手と腰痛
肩・肘だけでなく、腰痛にも目を向ける
野球といえば
「肩関節」 「肘関節」
の障害に注目が集まりがちですが、実際には腰痛は肩・肘に次いで発生頻度が高い重要な障害です。
腰部傷害に関する報告をみると、高校生からプロ野球選手まで、各年代で一定数の傷害が生じています。

一方、「腰部傷害」ではなく「腰痛の経験」を調べた研究では、競技を休むほどではない症状も含まれるため、対象となる選手の範囲が広がります。

小学生でも、腰痛を経験している選手が報告されています。

ほかのスポーツと比較し、大学生を対象とした研究では
各種スポーツの中でバレーボールに次いで、野球が腰痛発生率第2位

これらの疫学が示すように、
野球選手は腰痛を一定数抱えていることがわかります。
よって、”野球選手の痛み”をサポートしていく上では
肩痛、肘痛に加えて、腰痛の理解も必要だと考えます。
さらに、休養を要するレベルではなく
「練習や試合は可能だが、腰が痛い」
このような選手は多くいるため、上記の報告以上に
野球選手は”腰痛”を抱えていると思います。

よって、
一定期間の休養が必要な”腰部傷害”の選手
試合や練習は行えるが”慢性的な腰痛”の選手
これらの2つの属性があると思います。
これに対して、医療と現場ではである選手のレベルにギャップがあるため
野球選手を医療も現場もトータル的にサポートするためには両方の知識を抑えていく必要があります。

これらの知識を結びつけることが
我々、野球選手にかかわる医療従事者やトレーナー、治療家が持っておかなければいけない基本的な知識であり
そこから各専門性に分かれていくことが重要だと思います。

野球動作と腰部への負荷を考える
ここから先は有料部分です
次に、どのような要素が腰痛と関連するのかを確認します。
野球選手は
・投げる
・打つ
・守る・走る
・レベルによってはウェイトトレーニング
などさまざまな動きを行います。
大きく分けると
水平面上での動きが多い回旋動作
矢状面での動きが多い屈伸動作
があります。

これを
・高強度で
・瞬発的に
・非対称的に
・反復して
行うことが練習や試合で求められます。
このような競技特性は、腰部への負荷を考えるうえで重要です。
野球選手の慢性腰痛に関するレビューでも、反復する回旋動作などが、腰痛の背景として検討されています。

腰痛のリスクに関わる身体機能は何か
では、どのような身体機能が、その後の腰痛と関連するのでしょうか。ここでは、選手を追跡して腰痛の発症との関連を調べた、前向き研究を整理します。
前向き研究とは
研究を始めた時点から対象者を追跡し、その後に何が起こるかを調べる研究です。「今の状態や条件を確認して、未来の結果を観察する」と考えるとわかりやすいです。
例えば、腰痛のない野球選手を集め、最初に股関節の可動域を測定します。その後、1年間追跡して、誰に腰痛が生じたかを記録します。これにより、「最初に股関節の可動域が小さかった選手は、その後、腰痛を発症しやすかったか」を調べられます。
いろいろな報告をまとめると以下のようになります。
肩関節:投球側の水平内転制限
股関節:大腿四頭筋のタイトネス
ハムストリングのタイトネス
非投球側の股関節内旋制限
膝・足関節:報告乏しい。
胸椎・腹筋:報告乏しい。

これらの結果からわかることは少なくとも
・肩関節
・股関節~大腿四頭筋/ハムストリング
の可動性や柔軟性の要素が重要そう…
つまり、回旋可動域が大きい
肩関節と股関節といった球関節が大事になります。

これらの関節の間にあるのが脊柱であり
その中で回旋に弱い関節は、”腰椎”です。
肩関節や股関節の可動域が低下し
投げる打つなどの回旋動作において、その隣接関節である
”腰椎”が代償的に大きな運動を求められる。
これが野球選手の腰痛の1つだと考えています。
よって、胸椎や腰椎の可動性のみでなく
股関節、そして肩関節の可動域までみていくことが野球選手の腰痛を考えていくうえで重要な要素になります。
いわゆる一般的な
肩や股関節へのストレッチなどのセルフエクササイズは非常に重要です。


肩関節や股関節の可動域は、シーズンを通して変化することも報告されています。初回の評価だけで判断せず、練習量や症状の変化に合わせて確認することも大切です。


4.病態・評価を治療方針につなげる
なぜ、病態の知識と評価が大切なのか
腰痛の治療方針を考えるには、病態の知識と、それを推測するための評価が欠かせません。
例えば、「前屈すると腰が痛い」という訴えでも、
筋性疼痛、椎間板性疼痛、椎間板ヘルニアなどが考えられます。

筋性疼痛であれば、筋がどのような状態で痛みを生じているかを考え、その要因を減らします。
椎間板性疼痛であれば、症状を誘発する椎間板への負荷を調整し、
椎間板ヘルニアであれば、神経への圧迫や刺激を避けることも方針の一つになります。
つまり、「前屈で痛い」という所見は入口であり、そこから何が関与しているかを考えることで、介入の方向が具体的になります
病態がわかれば治療方針が決まる
病態を考えずに前屈時の痛みだけをみていると、腰部への負荷を増やす動作や、可動域・筋力の問題だけに目が向きやすくなります。もちろん、それらへの介入も必要です。ただ、組織の状態によっては、動作を修正するだけでなく、負荷を抑える期間や回復の見通しも考えなければなりません。
例えば、椎間板ヘルニアでは、突出の部位や形態、神経症状などを踏まえて経過を考えます。自然退縮が期待される場合にも、すぐに変化するとは限らないため、医師の説明と整合する見通しを選手と共有することが大切です。「何を改善するか」に加えて、「どの程度の時間をかけて経過をみるか」も治療方針に含まれます。

病態を確定し、診断するのは医師の役割です。一方で、理学療法士やトレーナーにも、所見から病態を推測し、必要な情報を医師と共有するための知識が求められます。病態に合わない介入は症状を悪化させる可能性もあるため、評価と、その後の反応を確認しながら進めていきます。
現地ハンズオンセミナーで使用している評価シート
現地ハンズオンでは、下記の評価シートを使用しています。
特別な技術に頼るのではなく、評価する人が変わっても所見を共有しやすいよう、肢位や手順、症状の確認方法を揃えることを意識しています。

評価の方法としては、特別な技術を必要とする方法ではなく
だれがやっても同じ結果になるように意識しています。
・痛みの局在、下肢への放散痛の有無
・運動時痛(前屈、後屈、側屈、回旋、Kemp test)
・Nerve tension test(SLR test、FNS test)
・神経学的な筋力評価(Myotome assesment)
普段から行っている評価でも、肢位や動かし方、症状の聞き方によって、得られる所見は変わります。ハンズオンでは、その細かな工夫まで一緒に確認します。
派手な技術ではありませんが、この基本的な評価にこそ力を入れています!!!!


5.筋筋膜性腰痛の治療
痛む場所だけでは原因を決められない
「投球すると腰が痛い」「打撃で腰の外側が張る」
こうした訴えに対して、痛む場所や触診で感じる硬さから、特定の筋(例:腰方形筋、脊柱起立筋など)の問題を考えることがあります。
しかし、痛む場所と、痛みを生んでいる組織は必ずしも一致しません。
筋に圧痛があっても、周囲の組織や神経の関与が重なっている可能性があります。そのため、圧痛や硬さだけで原因を決めず、ほかの所見と合わせて考える必要があります。
ここが、腰痛の評価で難しいところです。
Steen JP, Jaiswal KS, Kumbhare D. Myofascial Pain Syndrome: An Update on Clinical Characteristics, Etiopathogenesis, Diagnosis, and Treatment. Muscle Nerve. 2025 May;71(5):889-910.
触診や運動時痛の評価では、
「その痛みは、普段感じている痛みと似ていますか」と確認します。
圧迫で普段の痛みが再現され、収縮や伸張でも似た症状が出る場合は、筋・筋膜の関与を考える材料になります。ただし、それだけで原因を確定できるわけではなく、ほかの病態を示す所見も合わせて確認します。
どの筋が疼痛要因か判別していく
筋の関与を考える際には、ただ前屈や側屈を行うだけでなく、
・各筋が伸張される肢位での症状
・疼痛を訴える場所
の確認が重要です。
動作による症状と解剖学的な位置関係を照らし合わせ、腰方形筋、腸肋筋、多裂筋などの関与を検討します。さらに、その部位に痛みを生じるほかの病態の評価を組み合わせて、推測を絞っていきます。

疼痛誘発方向と
疼痛場所が合致してくると、その部位の筋である可能性が
高まっていきます。
そこで、その部分に疼痛を示す他の疾患の鑑別評価を合わせることで、
筋性なのかどうか
筋性の中でも何筋なのか
を推測していくことにつながります。
一方で、
臨床では、筋ごとの反応が明確に分かれるケースばかりではありません。
「前屈も側屈も回旋も痛い」
「この辺り全体が痛い」
と複数の方向で痛みが出て、広い範囲を示す選手もいます。
そうした場合には、個々の筋だけでなく、筋を取り巻く組織にも目を向けます。

腰背部筋は層構造→そこから考える疼痛要因は?
あらゆる方向で痛みがある点から考えて
廃部の解剖をもう一度整理していきます。
腰部の筋は層構造を呈しています。
表層から
・僧帽筋・広背筋
・菱形筋、上・下後鋸筋
・脊柱起立筋(多裂筋、最長筋、腸肋筋)

この層構造の部分では
「胸腰筋膜」
という組織が各筋を立体的に包み込んでいます。
胸腰筋膜とは、腰背部の筋や腹壁の筋とつながる筋膜・腱膜の複合体です。腰部では、3層モデルを用いると、前葉・中葉・後葉を次のように整理できます。
前葉(Anterior layer)は、腰方形筋の前面を覆う
中葉(Middle layer)は、腰方形筋と背部の筋群の間に位置
後葉(Posterior layer)は、背部の筋群の後方に位置

となると、胸腰筋膜へはさまざまな筋の要素が加わって症状に結び付く可能性があると私は考えています。
実際に、胸腰筋膜は痛みを感じる組織であることが研究でも報告されているため、胸腰筋膜由来の筋性疼痛があると思います。
さらに、よく痛みの要因として言われている
脊柱起立筋
も胸腰筋膜に覆われている組織のため、胸腰筋膜の柔軟性低下や緊張の増加などにより、脊柱起立筋への負荷も増えて、
脊柱起立筋のコンパートメント症状が出やすくなることにもつながると考えています。

臨床では、胸腰筋膜周辺への介入後に動作時痛を確認し、必要に応じて個々の筋への介入を進めています。これは私自身の臨床経験に基づく進め方であり、反応を確かめながら選択しています。
介入:胸腰筋膜の徒手操作
治療していく部位は
Anterior Layer:大腰筋と腰方形筋の間から横突起前方へ
Middle Layer:腰方形筋と脊柱起立筋の間から横突起側方へ
を狙いに行きます。
この部分は腰方形筋を中心として
前方がAnterior Layer
後方がMiddle Layerになるので
これらの位置関係を捉えるには、まず腰方形筋を的確に触診することが必要になります。
現地ハンズオンセミナーでは
エコーを用いて腰方形筋と周囲の組織を確認し、触れている場所と画像を照らし合わせます。
*操作はサポートしますので、操作に慣れていない方にも、位置関係を確認しながら参加していただけます。
エコーでみてみるとこのような絵が映ります。

位置を確認したうえで。下記の操作を行います。
①Anterior Layerへの滑走操作:大腰筋ー腰方形筋の間から横突起へ
②Middle Layerへの滑走操作:腰方形筋と脊柱起立筋の間から横突起へ
操作後は、最初に確認した動作を再評価し、痛みや動きがどう変わったかを確かめます。

介入:腹横筋の収縮も胸腰筋膜へ有効?
胸腰筋膜への介入では、腹横筋の収縮にも目を向けています。
腹横筋の腱膜は、胸腰筋膜の中葉・後葉につながるといわれており腹横筋の収縮も重要になります。
ハンズオンでは、徒手操作に加えてドローインを行い、エコーで収縮時の変化を確認します。実際の操作と画像を見比べながら、介入前後の症状や動作の変化も一緒に評価していきます。
実際に、エコーで徒手操作・Draw-inを行っているところが👇になります。
5.おわりに
野球選手の腰痛を評価する際には、痛む場所や動作だけで判断せず、症状の経過や身体所見を病態と結びつけて考えることが大切です。また、腰部だけでなく、肩関節や股関節の可動域、実際の野球動作にも目を向けながら、必要な対応を考えていきます。
臨床コースでは、
こうした知識をオンラインで整理し
ハンズオンで実際の評価と治療につなげています。本記事と病態別の4本の記事を、日々の臨床で所見を整理し、次の対応を考える際に活用していただければと思います。
この記事が、日々現場で奮闘される皆さんにとって、少しでもお役に立てれば幸いです。
――――――――――――――――――
最後までお読みいただきありがとうございました。
C-I Baseball メソッドでは、今後も野球選手に関わる理学療法士・トレーナーに向けて、臨床・トレーニング・現場対応
に関する記事を配信していきます。
投球障害への評価や介入、競技復帰、再発予防、トレーニング、野球現場での判断など、日々の臨床や現場で活かせる内
容をお届けしていきます。
――――――――――――――――――
C-I Baseball では、選手も理学療法士も安心して活躍できる環境を整えるために、臨床・トレーニング・野球現場をつな
ぐ学びを届けています。
引き続き、C-I Baseball メソッドをよろしくお願いいたします。
ライタープロフィール
Writer|久我 友也
理学療法士

この情報へのアクセスはメンバーに限定されています。ログインしてください。メンバー登録は下記リンクをクリックしてください。