投球における後方腱板筋群の役割とコンディショニング―棘下筋・小円筋の解剖から考える評価と治療―

投球における後方腱板筋群の役割とコンディショニング―棘下筋・小円筋の解剖から考える評価と治療―

1.はじめに

投球障害肩を評価・治療する際に、回旋筋腱板(rotator cuff)の機能を考えることは非常に重要です。

特に、棘下筋や小円筋といった後方腱板筋群は、肩関節の外旋筋として知られており、投球障害肩のリハビリテーションでも腱板エクササイズが広く実施されています。

しかし、後方腱板筋群の役割は、単純に肩関節を外旋させることだけなのでしょうか?

私自身、投球障害肩の選手を評価する際に、

  • なぜ後方腱板筋群に痛みが出現するのか?
  • なぜ棘下筋や小円筋のタイトネスが生じるのか?
  • なぜ外旋筋力を改善させても投球時痛が残ることがあるのか?
  • どのように後方腱板筋群をコンディショニングするべきなのか?

といったことを考える場面が多くあります。

これらを理解するためには、筋肉単独の機能だけでなく、投球動作において肩関節にどのような力が加わっているのかを理解する必要があると考えています。

今回は、

① 投球動作における肩関節への負荷
② 後方腱板筋群が担う役割
③ 棘下筋と小円筋の解剖学的特徴
④ エコーを用いた評価
⑤ 後方腱板筋群のコンディショニング

について整理しながら、臨床での考え方を紹介していきたいと思います。

2.投球動作で肩関節に最も大きな力が加わるのはいつか?

投球動作では、Late-cockingからAccelerationにかけて肩関節に大きな負荷が加わります。

肩関節は最大外旋位(MER:Maximum External Rotation)から急速に内旋し、ボールリリースへと移行します。

この一連の動作の中で、肩関節には大きな力が加わっています。

Fleisigら(1995)は、投球動作中の肩関節に加わる負荷について報告しています。

|MER期に加わる負荷

肩関節が最大外旋位に達する付近では、

  • 肩関節前方への剪断力:約310 N
  • 肩関節上方への力:約250 N
  • 肩関節圧縮力:約480 N
  • 肩関節内旋トルク:約67 Nm

といった大きな負荷が加わることが報告されています。

【図1:MER期に肩関節へ加わる負荷】

この時期には、上腕骨頭を前方へ移動させようとする剪断力が加わります。(ただし、前方剪断力が生じることと、実際に上腕骨頭が前方へ移動することは同義ではありません。)

そのため、前方組織へのストレスだけでなく、腱板筋群による上腕骨頭の安定化が重要になると考えられます。

|リリース付近から直後に加わる負荷

一方、私が今回特に注目したいのは、ボールリリース付近から直後にかけての負荷です。

Fleisigら(1995)は、リリース直後に肩関節へ約1,090 Nの圧縮力が生じることを報告しています。

【図2:Ball Release付近における肩関節圧縮力】

約1,090 Nというのは、重さに換算すると約111 kgfに相当する非常に大きな力です。

もちろん、これは肩関節にかかる力を示しており、111 kgの重りを肩で支えるという意味ではありません。

重要なのは、肩関節に非常に大きな圧縮力が作用するということです。

それでは、この大きな力を肩関節はどのように受けているのでしょうか?

|骨で受ける力と軟部組織で受ける力

肩関節は、上腕骨頭と肩甲骨の関節窩によって構成されています。

関節窩は上腕骨頭に比べて小さく、骨性の適合性だけで安定性を確保することが難しい関節です。

そのため、関節唇、関節包、靭帯、そして回旋筋腱板などが協調することで、肩関節の安定性が保たれています。

ここで私が重要と考えているのが、

上腕骨頭と肩甲骨関節窩が、どのような位置関係で向き合っているか?

ということです。

関節面が適切に向き合っていれば、関節面を介して圧縮負荷を支持しやすいと考えられます。

一方で、肩甲骨の位置や上腕骨の運動方向が変化し、関節面の位置関係が変わると、周囲の軟部組織による制御がより重要になる可能性があります。

つまり、肩関節に加わる負荷の大きさだけでなく、どのような肢位でその力を受けているのかが重要になると考えています。

【図3:関節窩と上腕骨頭の位置関係を示す模式図】
肩関節の水平内転が過剰になることで、後方筋群に加わる伸張負荷が増大する可能性がある。

もちろん、関節圧縮力のすべてを骨が受けるわけでも、後方腱板が直接受けるわけでもありません。

しかし、投球時の大きな負荷に対して、上腕骨頭の位置を適切に制御することは非常に重要です。

そこで注目したいのが、棘下筋と小円筋からなる後方腱板筋群です。

3.後方腱板筋群は投球時に何をしているのか?

後方腱板筋群である棘下筋と小円筋は、主に肩関節の外旋に作用します。

しかし、実際の投球動作では、外旋トルクの発揮だけでなく、上腕骨頭の安定化や上肢の減速にも関与すると考えられています。

特に重要なのが、リリース後の減速動作です。

|リリース後の減速動作

MERからボールリリースにかけて、肩関節は急速に内旋します。

その後、Follow-throughに移行する際には、上肢の運動を減速させる必要があります。

このとき、棘下筋や小円筋などの外旋筋群は、肩関節の急激な内旋運動を制御するために遠心性収縮を行い、上肢の減速に関与します。

【図4:投球フェーズと後方腱板筋群の遠心性収縮】

【図4:投球フェーズと後方腱板筋群の遠心性収縮】

つまり、後方腱板筋群は、

  • 上腕骨頭の動的安定化
  • 急速な内旋運動の制御
  • リリース後の上肢の減速
  • 肩関節後方の負荷への対応

といった役割に関わっています。

このように考えると、後方腱板筋群には非常に大きな負荷が加わることが想像できます。

|後方腱板筋群のタイトネスはなぜ生じるのか?

投球障害肩を呈する選手では、肩関節内旋可動域の低下や水平内転制限が認められることがあります。

これらの可動域制限には、後方関節包や後方筋群の柔軟性、上腕骨の骨性適応など、複数の要因が関係します。

その中でも、後方腱板筋群は投球動作中に繰り返し大きな負荷を受けるため、筋の緊張や伸張性の低下が生じている可能性があります。

ただし、内旋制限があるからといって、必ずしも棘下筋や小円筋が硬くなっているわけではありません。

私自身は、可動域制限だけでなく、筋力、疼痛部位、圧痛、肩甲骨の運動、さらにはエコーでの筋収縮動態を組み合わせて評価することが大切だと考えています。

【図5:Follow-throughにおける上肢・肩関節の運動と代償】

4.棘下筋の解剖学的特徴

ここからは、後方腱板筋群の詳細な解剖について紹介します。

まずは棘下筋です。

棘下筋は肩甲骨の棘下窩に位置し、上腕骨大結節に停止する大きな三角形の筋です。

起始: 肩甲骨棘下窩
停止: 上腕骨大結節および肩関節包
支配神経: 肩甲上神経(主にC5–C6)
主な作用: 肩関節外旋、上腕骨頭の安定化

【図6:棘下筋の解剖】

|棘下筋は一つの筋ではない?

棘下筋は単純な一つの筋として理解されることが多いと思います。

しかし、詳細な解剖学的研究では、棘下筋には異なる筋線維の走行が存在することが報告されています。

Katoら(2012)は、棘下筋を、

① 横走部(Transverse part)
② 斜走部(Oblique part)

に分けて報告しています。

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