C-I baseballの病態・動作の発信を担当する小林弘幸です。
スポーツDrと一緒にエコーを用いて、選手の病態を理解し
障害の原因追及を大切にしています。
病態を理解することによって、医療機関と現場との橋渡し的な役割を果たすことができると思います。
基本的な部分ですが、なるべくわかりやすく発信していきたいと思います。
肉離れの概論
肉離れとはスポーツ動作中に起こる代表的な筋損傷です。
自らの拮抗筋の収縮や介達外力により、筋が過伸展されて損傷するものです。
程度は異なりますが、肉離れでよく聞かれる選手の訴えとしては、
・一瞬、筋肉が離れたように感じる
・急激な痛みや脱力感がある
といったものが多くあります。
内的要因としては、
・筋力低下
・柔軟性低下
・拮抗筋との筋力アンバランス
・運動神経単位の破綻
外的要因としては、
・気温
・走路の硬さ
・脱水
などが考えられますが不明な部分が多いのが現状です。
スポーツ全体で観察すると、野球選手に肉離れは多くないですが、
急な走塁時やピッチングやバッティングのスイング時に生じることはあります。
まずは、肉離れの基本的な病態の部分を理解して行けたらと思います。
スポーツにおける肉離れ
トップアスリートによる肉離れの疫学調査です。(n=959)
・ハムストリングス(42%)
・下腿三頭筋(15%)
・大腿四頭筋(11%)
・骨盤筋群(10%)
ハムストリングスが一番の好発部位となります。
ハムストリングス内で分類すると、
・大腿二頭筋長頭(56%)
・半膜様筋(32%)
・半腱様筋(5%)
・大腿二頭筋短頭(1%)
となっており、羽状筋である大腿二頭筋長頭と半膜様筋が好発部位となります。
・トップアスリートにおける肉離れの現状。国立科学スポーツメディカルセンターに受診したアスリートの場合。 ※奥脇透:肉離れの現状. 臨床スポーツ医学. vol,34. (8). 2017 図を引用改変
ハムストリングスは
・大腿二頭筋長頭
・大腿二頭筋短頭
・半腱様筋
・半膜様筋
の4筋で構成されています。
大腿二頭筋長頭と半膜様筋は、羽状筋であり、
筋の生理学的特徴から、力の発揮に有利な構造となっています。
その筋発揮が大きいという特徴から、ハムストリングスが急激に
伸張された際に肉離れを生じやすいと考えられます。
走る動作が多いスポーツにおける肉離れは、ハムストリングスが多いことから、
基本的には、『走る』動作で多く生じると考えられます。
普段から、走塁時の癖や、ランニング時のフォームチェックなどをしておくことも野球に携わるトレーナーとしては
必要なことと考えられます。
つまり、普段のウォーミングアップから選手の特徴を捉えることが大切かと思います。
野球はスポーツ全体の中で、肉離れの頻度がどの程度なのかを調べたものがあります。(n=1239、種目数=64種)
・陸上競技(16.7%)
・サッカー(13.1%)
・野球(8.4%)
・アメリカンフットボール(7.3%)
となり、第3位に野球競技を行っている選手に肉離れが発生しています。
・スポーツ選手の種目別肉離れの症例数
※武田寧ほか:スポーツ損傷としての肉離れの疫学調査-スポーツ種目特性、年齢-. MB Orthop 23(12):1-10, 2010
そして、肉離れの発生部位は種目によって傾向が異なります。
各スポーツごとにおける肉離れの好発部位を理解しておくことが
その競技特性を理解することにつながると考えます。
では、野球選手における肉離れの好発部位はどうでしょうか。
野球選手における肉離れ
プロ野球選手における肉離れの特徴は以下の通りです。
(10年間1球団肉離れ72例)
・ハムストリングス(26.4%)
・腹斜筋(25%)
・股関節内転筋(11.1%)
・下腿三頭筋(9.7%)
・大腿四頭筋(8.3%)
・殿筋群(4.2%)
・腱板筋(4.2%)
・広背筋(2.8%)
・大胸筋、大円筋、前腕筋群、腰方形筋、脊柱起立筋、大腿方形筋(1.4%)
となっており、そのほかの種目と比較し腹斜筋が多い傾向となっています。
腹斜筋に関しては、この研究で詳細に調査することができた3年間での5件は全例内腹斜筋でした。
打者4人、投手1人となっており、打者については、非打撃側(右打者なら左側)、投手も非投球側でありました。
・アメリカメジャーリーグでも、試合を欠場する肉離れの原因としてハムストリングスが最多で、次に腹斜筋群となっている。※Ahmad, CS, et al.: Major and Minor League Baseball Hamstring Injuries: Epidemiologic Findings From the Major League Baseball Injury Surveillance System. The Am J Sports Med, 40:650-656. 2014
しかし、
プロではなく、一般スポーツ整形外科に来院する野球選手(n=104, 22.8±9.4, 11~51歳)では、
腹斜筋の割合が少なく、下肢筋の割合が多くなっています。
・スポーツ整形外科で肉離れと診断された野球選手の損傷部位の割合 ※武田寧ほか:スポーツ損傷としての肉離れの疫学調査-スポーツ種目特性、年齢-. MB Orthop 23(12):1-10, 2010 図を引用改変
これを考えると、
ハイパフォーマンスの野球選手において、
腹斜筋の肉離れが生じやすくなってしまうと考えることができます。
逆説的に考えると、パフォーマンス向上を目指すには
腹斜筋を含む体幹筋を、投球や打撃にてうまく動員することができたら
良いのかもしれません。
野球選手の筋の非対称性
ここでは、野球選手特有の腹斜筋群の肉離れを理解するために、
野球選手の骨格筋の非対称性を知ることが、肉離れの病態を知ることの一助になるかと思います。
野球のような一側性のスポーツでは、
筋厚に左右差が生まれてきます。
右利きの選手は、その回転方向(左回転)に働く筋が主に作用します。
先行研究では、野球選手の体幹部の筋肉において、
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