投球障害肘改善のための肘伸展機能評価とアプローチ【トレーナーマニュアルvol.10】

投球障害肘改善のための肘伸展機能評価とアプローチ【トレーナーマニュアルvol.10】

C-I Baseballで投球障害肘についての記事を担当させていただいている新海 貴史です。

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普段は整形外科病院で投球障害の選手のリハビリテーションを行い、競技復帰をサポートしております。現場での帯同は行っておりませんが、臨床目線でお話させていただければと思います。

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2021年度のC-I Baseballが発信する「トレーナーマニュアル」では、
野球のケガに関わる専門家向けの臨床編
選手のパフォーマンスに関わる現場編について配信していきます。

今回は臨床編として”投球障害肘改善のための肘伸展機能評価とアプローチ”について私なりの意見も含めながら説明させていただきます。

最後までお読みいただけると幸いです。

はじめに

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皆さんは現場や医療機関などで投球障害肘を呈した野球選手を対応する際にどういった箇所に介入することが多いでしょうか?

投球動作は全身を使った動作になるため様々な箇所に対して介入を行うと思いますが、肘関節可動域制限、特に”肘伸展制限”はマストで介入するポイントではないでしょうか。私も必ずと言っていいほど介入をします。

病院で投球障害肘の選手を対応していると、小学生のような比較的若年期であっても肘伸展可動域の左右差が生じている選手をしばしば見受けます。もちろん高校生や大学生といった成長期が終わった世代でも同様に肘伸展制限は多く、中には頑固な制限を呈している場合も少なくないと感じています。

皆様の中でも学生の時に野球をやっていて投球側の肘が伸びきらない方がいらっしゃるのではないでしょうか?

また例え可動域制限がなくても、肘伸展の筋出力が弱化している選手も多く見受けられます。

大きく”投球障害肘”と言っても軟部組織の問題や、骨軟骨組織の問題など病態は様々ですので、まずは目の前の選手の肘がどのような病態にあたるのかを正確に把握する必要があるかと思います。

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投球障害肘の病態の捉え方は前回のnoteで説明させていただいておりますので是非そちらも参考にしてもらえればと思います🔽

今回は投球障害肘の対応をする上で必要不可欠な肘関節の伸展機能について、その評価と介入方法を私見も含めてご説明させていただきたいと思います。

この記事を読み終えた皆様の介入の幅が少しでも広がれば幸いです。

なぜ野球選手において肘伸展制限が生じるのか

投球動作において肘関節伸展制限が生じる原因を以下に説明していきます。

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①肘関節(含:前腕)の要因

前腕回内屈筋群は肘伸展角速度に対して負の貢献をしていると報告され、屈筋群によるブレーキングがなされています。

また前腕回内屈筋群は投球時の肘外反ストレスを動的に制動する役割も果たしているため、繰り返される投球負荷によりタイトネスや滑走不全・過緊張などを引き起こしやすいです。

UCL損傷等により肘内側の構造的な不安定性が生じているケースであれば、前腕回内屈筋群が投球時の肘外反ストレスに対して過剰に働くことが考えられるためさらなる過緊張を生じる可能性があると考えます。

投球動作におけるボールリリースの際には、肘関節は伸展・回内します。上腕二頭筋はこれらの運動にブレーキをかける役割を果たすためタイトネスにより肘伸展制限の要因となります。

②肘関節以外の要因

また、患部(肘関節)以外からの影響も非常に大きいと考えます。

投球動作は全身運動であり、下肢から生み出されたパワーを体幹、上肢へと繋げていく運動です。

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野球選手においては繰り返される投球の負荷により投球側の肩関節周囲の機能(柔軟性や筋出力)低下が非常に多くの症例で認められます。投球動作ではその肩関節周囲の機能低下を肘関節や前腕の過剰な使用で補っている場合が多く、その状態で長期間投球動作を繰り返すことによって肘関節周囲の障害が発生してくると考えます。

例えば、肩後方筋群・後方関節包のタイトネス挙上位の内旋筋出力低下により投球動作中の肩内旋運動がスムーズに遂行されなければ、前腕の回内や手関節の掌屈が過剰に生じます。結果的に前腕回内屈筋群のタイトネスが発生し、肘関節伸展制限の原因となります。

肘伸展機能が投球動作に与える影響

では投球側の肘が伸びない、あるいは可動域はあっても出力が落ちている場合、投球動作にどのような影響が出てくるのでしょうか。

肘伸展制限による影響

肘関節伸展制限が生じると、上腕二頭筋は短縮位になります。長さー張力曲線の関係からも短縮位となった上腕二頭筋は十分な筋出力を発揮できないことが考えられます。

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肘関節において上腕二頭筋は肘伸展時のブレーキングとして機能していると考えられています。臨床においても二頭筋のエクササイズ後に投球時やシャドーピッチングの痛みが減弱する例もしばしば認められます。

上腕二頭筋の柔軟性低下は肘伸展時のブレーキング機能を低下させたり、腕橈関節周囲の柔軟性低下を引き起こし、結果として肘関節の疼痛を惹起する可能性があります。

肘最終伸展域での筋出力

肘伸展可動域が保たれている場合でも最終伸展域での出力が発揮されていなければ障害のリスクがあるといった報告もあります。

野球肘群は肘屈曲位での肘伸展筋力を発揮できるが、最終伸展域まで肘伸展筋力を維持しておくことが困難であった。肘最終伸展域での伸展筋力を発揮できないと、ボールリリースでの肘伸展位保持が困難となる。この結果として、ボールリリースで肘屈曲位となり、「肘下がり」の状態となってしまう。

田村 将希,千葉 慎一,他:肩挙上位での肘伸展運動の検討ー投球動作との関連性ー.日本肘関節学会雑誌.2017; 24(2): 382-384.

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肘最終伸展域で伸展筋力を発揮できない状態は、リリースにおいて”肘下がり”の状態となったり、肘関節外反ストレスを強めやすかったりと、野球肘のリスクファクターとなりうると考えられると報告されています。

評価

肘伸展機能に介入するにあたって評価するポイントをいくつか紹介していきます。

肘外反アライメント

✅carrying angle(運搬角)・肘角

運搬角とは上腕骨長軸と前腕長軸のなす角度のことを指します。一般的に上腕骨長軸に対して前腕は軽度外反位(生理的外反)にあります。

carrying angleは可能な限り完全伸展位前腕回外位で評価するようにします。伸展制限や回外制限が残存した状態では見かけ上外反が強くなることがあるので注意します。

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基本的に女性>男性、利き手>非利き手で外反角度が大きいことが多いです。また、運搬角は年齢とともに自然に増大していくことが報告されています。

一般的には肘角が20°以上の場合を「外反肘」と呼びます。

前腕回内位

野球選手においては投球動作に特性から前腕回外制限が頻発し、通常の状態でも前腕が回内位を呈している場合が多いです。

アライメントチェックの際は上腕骨の回旋に左右差が生じないように背臥位にて上腕骨内側上顆・外側上顆を結んだ線が床面(またはベッド)と平行となるようにします。

野球選手においては投球側の上腕骨後捻角の増大や肩後方タイトネスなどの影響から静止時においても投球側の肩関節が外旋している場合があるので注意して下さい。

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橈骨頭前方偏位

肘関節の可動域を評価する際は、腕橈関節の適合性が重要になります。

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橈骨頭が前方に偏位した状態、すなわち橈骨頭の後方への可動域が制限されている状態は尺骨の不良アライメントを引き起こし、肘伸展制限に繋がります。また、上腕骨小頭と橈骨頭窩の回旋軸のズレが生じることにより前腕回旋制限が生じる可能性があります。

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Huter線・Huter三角

基礎的な評価でご存知の方も多いとは思いますが重要な評価のため、確認のために記載せさせていただきます。

Huter線とは「上腕骨内側上顆」「上腕骨外側上顆」「尺骨肘頭」が肘完全伸展位で一直線に並ぶことを意味します。

Huter三角は「上腕骨内側上顆」「上腕骨外側上顆」「尺骨肘頭」が肘屈曲位で二等辺三角形になることを意味します。

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尺骨アライメントが不良である場合、肘頭の肘頭窩への適合性が低下し肘関節伸展制限の要因となります。

✅尺骨内旋位▶︎肘頭先端が内側に向き、腕尺関節外側が狭小化する

✅尺骨外反位▶︎肘頭が内側に偏位し、腕尺関節内側が狭小化する

介入順序・介入箇所の決定

伸展機能の改善と言ってもアプローチする箇所は数多くあるため、どこから介入する方が良いかをある程度は絞っていく必要があります。

介入する手順を決めるシンプルな評価を動画に載せておきます。参考にしてみて下さい。

介入できる時間にも限りがあると思いますのでその時間にもよりますが個人的には「アプローチしてみて変化がなければ別の箇所」でも良いと思っています。

介入手順

肘伸展機能の獲得に関してはまず前腕中間位で肘関節完全伸展位を獲得することを目標にします。

最終的に求めたいのは肘完全伸展位での前腕回外位の可動域獲得ですが、前腕回旋機能の評価とアプローチに関しては以前書いたnoteにも記載しています🔽

次回の記事でさらに詳しく前腕回内外の評価とアプローチについて説明させていただきますので今回はご了承下さい。

❶皮膚・皮下脂肪への介入

肘伸展時に皮膚や皮下脂肪のつっぱり感や高い緊張を感じた場合はまず最初にここの治療を行います。浅層に存在する組織にしっかりと介入することでその後に実施する筋への治療効果が出やすくなります。

-肘窩上皮膚・皮下脂肪リリース

-上腕〜肘外側皮膚・皮下脂肪リリース

❷橈骨頭後方可動性獲得

肘伸展時に橈骨を後方に誘導させた時に伸展可動域の改善、外反アライメントの改善、疼痛の消失が認められた場合はここの治療を行います。二頭筋の過緊張は野球選手に頻発している印象がありますので必ず介入します。

-上腕二頭筋リリース

-橈骨頭後方押し込み+肘伸展可動域訓練

-前腕伸筋群へのアプローチ

❸外側組織の柔軟性獲得

肘の外側組織の滑走不全による肘外反アライメントがある場合や、肘外反を抑制した時に肘伸展可動域が改善する場合は外側組織のリリースを行います。一見、肘内側組織(回内屈筋群)の緊張が高いと感じる選手も外側組織の過緊張が原因となって引き起こされたものである可能性がありますので外側組織への介入は必須と考えています。

-外側筋間中隔への介入

-腕橈骨筋リリース

-長橈側手根伸筋リリース

-円回内筋・腕橈骨筋への介入

-腕橈骨筋ストレッチ

❹前腕回内屈筋群の柔軟性獲得

外側組織の緊張を改善した場合においてもなお内側組織の過緊張や硬さが認められる場合は前腕回内屈筋群に対する治療を行います。

-円回内筋リリース

-前腕屈筋群への介入

-前腕屈筋群のストレッチ

❺後方の詰まり感の改善

肘を伸展した際に前面の張りではなく後方の違和感や詰まり感を訴えた場合は後方に存在する脂肪体の動きが不良になっている可能性があります。

-後方脂肪体の柔軟性への介入

❻上腕三頭筋促通

他動運動で肘伸展可動域が獲得できたら最終域までしっかりと出力が出るように上腕三頭筋のエクササイズを実施します。

-上腕三頭筋の筋アライメントへの介入

-三頭筋セッティング

-腹臥位肘伸展エクササイズ

-挙上位三頭筋エクササイズ

完全にこの手順通りでなくとも効果は出ると思います。複数の要因が絡み合って制限となっていることが多いため、手順が変わっても一つ一つの要因を確実に潰していけば伸展制限を除去することができると思います。

具体的な介入方法の詳細は次の項目で説明していきます👇

アプローチの実際

ここからはアプローチの実際を動画で説明していきます🎥

徒手治療

1. 肘窩上皮膚・皮下脂肪リリース

肘伸展時の肘窩上にある皮膚のつっぱり感を感じた場合はここにアプローチしていきます。長期間にわたって肘の伸展制限がある場合は筋腱だけではなく、皮膚や皮下脂肪レベルで柔軟性や滑走性が低下している場合が多いです。

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