投球障害肩肘の評価、”頚部”のチェック抜けてませんか?【トレーナーマニュアルvol.195】

投球障害肩肘の評価、”頚部”のチェック抜けてませんか?【トレーナーマニュアルvol.195】

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はじめに

投球障害肩肘の症例を診ている中で、
” 頚部 ” について考えたことはありますか?

私は、特に改善が乏しいような症例には、
必ず”頚部の評価をする!”というような思考になります。

なぜかというと、
頚部由来の症状ははっきりしないことが多く、
また症状が多岐にわたることが多いからです。

投球障害の“盲点”としての頸部

肩や肘の違和感、痛み、しびれ。これらを訴える選手を評価する際、患部周辺の可動域や筋出力、動作分析などを丁寧に行うと思います。

しかし、それでもなかなか症状が改善しない。あるいは、症状と動作や評価結果がうまく結びつかない――そんな経験はありませんか?

そういったとき、私は必ず“頚部”の評価をルーティンに入れるようにしています。

なぜ頚部を評価するのか?

頚部は、神経の出発点でもあり、そこに機能的な障害があると、遠隔部位に多様な症状を引き起こすことがあります。

特に、ダブルクラッシュシンドロームは、上肢の症状に密接に関係しています。

つまり、頚椎からでる末梢神経の明確な圧迫部位があると上肢の症状を増加させる可能性があるということです。

ダブルクラッシュ症候群(Double Crush Syndrome)は、末梢神経の走行に沿って2か所以上で明確な圧迫が生じている状態であり、それらが共存することで症状の強度を相乗的に増加させる可能性があります。

Kane PM, Daniels AH, Akelman E. Double Crush Syndrome. J Am Acad Orthop Surg. 2015 Sep;23(9):558-62. doi: 10.5435/JAAOS-D-14-00176. PMID: 26306807.

よって以下のようなケースでは、頚部由来の問題が隠れている可能性が高いと感じています。

  • 明確な外傷がないにも関わらず、肩や上腕にしびれや脱力感を訴える
  • 夜間痛があるが、患部を押しても再現痛が得られない
  • 投球動作の「リリース〜フォロースルー」で肩や肘の症状が誘発される
  • 症状の波が大きく、日によって訴えが異なる

明確な症状がある、明確な理学所見が取れるというよりも、
はっきりしないけど、症状が長引いてしまう。
パフォーマンスが上げきることができない、などの症状があることが多いと考えています。

実際の頚部評価

チェックすべき“頚部”のポイント

頚部由来の投球障害を見逃さないために、以下の評価を行います。

  1. 頚椎の可動性チェック
    • 特にC5~C7の伸展・回旋で症状の誘発がないか確認
  2. 神経根テスト(Spurlingテストなど)
    • 上肢の放散痛や違和感の有無を観察
  3. 上肢神経テンションテスト(ULNT)
    • 正常な神経滑走が行えているか
  4. 姿勢評価
    • 頚部前方位姿勢、胸郭の硬さ、肩甲骨の位置関係
  5. 頚部周囲筋の過緊張
    • 斜角筋・胸鎖乳突筋・肩甲挙筋などの筋緊張を確認

上記のポイントについて、図を用いて確認します。

頚椎の可動域

頚部もROM-tは必要だと考えています。
他の肩関節や股関節などと同じようにROM-tを確認することはとても大切だと考えています。

様々な方向の参考可動域を元に、
過小な部分や過剰な部分をみます。

まずは、屈伸の参考可動域です。

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Augustus A. et al.: Clinical biomechanics of the spine second edition.Lippincott Williams & Wilkins, 1990 . 図を引用改変

C0-1の屈伸の可動域が一番大きいです。

次に側屈の可動域です。

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Augustus A. et al.: Clinical biomechanics of the spine second edition.Lippincott Williams & Wilkins, 1990 . 図を引用改変

側屈は、おおよそ平均的に動くことがわかります。

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Augustus A. et al.: Clinical biomechanics of the spine second edition.Lippincott Williams & Wilkins, 1990 . 図を引用改変

回旋に関しては、
環椎後頭関節が屈曲伸展の貢献度が一番高いとされています。

上記の可動域を参考にし、
正常よりも過小な部分や過大な部分を判断して
ROMを診てもらいたいと思います。

頚椎神経根テスト

神経根が原因で上肢の出力が入らないということがあります。

頚椎神経根の症状があるかないかの評価は、
Jackson compression testや、Spurling’s testで頚部から上肢にかけての症状があるかないかで評価します。

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上記では神経が出る、椎間孔が小さくなることで神経の圧迫が生じ、症状が出ます。

症状の出る部位は下記の通りです。

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上記のような症状が出ると、上肢の筋出力の低下がみられることが多いです。

上肢神経テンションテスト

Upper limb neurodynamic test(以下ULNT)では、臨床的に神経の伸長最終域にて症状が誘発されるかを診ます。

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A:正中神経のULNT最終肢位
B:橈骨神経のULNT最終肢位
C:尺骨神経のULNT最終肢位
上記肢位で放散痛が生じたら陽性。

症状が誘発されるのであれば、末梢神経の走行に沿った筋の柔軟性が低下し、エントラップメント(絞扼)が生じている可能性があります。

その部位の筋の柔軟性改善が必要です。

姿勢評価

主にフォワードヘッドポスチャー(FHP)が原因で頚椎の伸展が強調され、頚椎神経根症状を生じることがあります。

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頚部の深層前面筋が弱化し、胸鎖乳突筋が過剰に働いてしまうことでも生じます。

頚部周囲の筋緊張

斜角筋・胸鎖乳突筋・肩甲挙筋などの筋緊張を確認します。

斜角筋は胸郭出口症候群との関連があり、
胸鎖乳突筋はFHPとの関連があります。

肩甲挙筋に関しては、肩甲挙筋症候群(Levator scapulae syndrome)と呼ばれる頚部痛があります。

肩甲挙筋の柔軟性が失われると、肩甲骨の上方回旋もうまくいかないですし、頸部痛も出現します。

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FHPになると、肩甲挙筋が伸張されて肩甲骨の上角が前上方へ引っ張られます。そうすると、肩甲骨の運動を制限します。

圧痛やROMなどで評価するとよいと思います。

症例:頸部アプローチで改善した投球障害

高校1年・投手のケース: 春先から肩の張りが続き、インピンジメント様の症状が取れない状態。
肩関節周囲には著名な可動制限もなく、治療に反応する日もあればしない日もある。
頚部の評価で伸展で症状誘発があり、斜角筋と肩甲挙筋に強い過緊張。
頚部の可動域改善と神経滑走エクササイズを併用することで、2週で症状大幅軽減。

現場でできるシンプルな頚部アプローチ

①神経モビライゼーション(ULNT)

  • 橈骨神経ULNT
  • 尺骨神経ULNT
  • 正中神経ULNT

②頚部ストレッチ

  • 肩甲挙筋ストレッチ

③チンインエクササイズ

まとめ

投球障害の評価において、“頚部”はときに非常に重要な要素となります。

原因が見えにくい、改善しにくい症例ほど、神経・筋・関節を統合的に見る「頚部評価」が鍵を握るかもしれません。

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