こんにちは。
C-I Baseballの1期生の北山達也です。
今回はサポートメンバーからの投稿となります。
はじめに
投球動作は全身運動であり、全身の身体機能の影響を受けます。

例えばこの図のように、下肢の機能低下を認めるにも関わらず表出されるパフォーマンスが変わらない場合、その代償として上肢がオーバーユースになっていることがあります。
このようなケースでは下肢機能低下によって投球障害が引き起こされていると考えられます。
つまり投球障害は患部の機能のみならず、全身の身体機能を評価していくことが求められます。
全身の身体機能を1つ1つ評価し機能低下を見つけようとした場合、膨大な時間がかかってしまいます。
選手は評価されるために我々の目の前にいるわけではないため、コストパフォーマンスが悪くなってしまいます。
そこで有益であると考えるのが今回のテーマにしたスクリーニングテストです。
スクリーニングテストは局所の細かい評価ではなく、おおまかに全身のどの辺に機能低下がありそうか抽出するようなイメージで考えています。
そのため勘違いして欲しくないのは、スクリーニングテストで陽性になったから即介入するというわけではないということです。

投球動作に必要な機能
まずは患部(肩・肘関節)にかかるメカニカルストレスから考え、そこからどのような機能が必要か考えていきましょう。
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まず肩関節障害の病態としては、腱板断裂やSLAP、各種インピンジメント、リトルリーガーズショルダーなどが挙げられます。
これらを考えるとメカニカルストレスは、圧縮や剪断を伴う回旋のストレスであると考えられます。
肩関節障害を有する場合、肩関節が過剰な運動(水平外転や外旋)が生じている場合や後方の硬さによって骨頭が変位しながら回旋している場合があります。
過剰な運動が生じている場合は、他部位の機能低下による代償動作であることが推測できます。
主に障害が発生するフェーズは最大外旋位(MER)であると言われています。
このフェーズではTotal External Rotation(TER)の考え方を基に肩関節への局所的なストレスを回避する必要があります。

具体的には肩甲上腕関節が106°、肩甲骨後傾が24°、胸椎伸展が9°を合わせてTERを作っていくという流れになります。
つまり肩甲骨の後傾や胸椎の伸展の制限がみられる場合、その代償は肩甲上腕関節となる可能性が高くなります(MERにおける主動作のため)。
後方の硬さによって骨頭が変位している場合は、シンプルに肩関節後方の硬さが原因となります。
投球動作においてリリースの後は減速期となり、肩関節へブレーキをかける局面となるため後方の筋群は遠心性収縮を強いられるため、硬くなりやすい競技特性があります。
つまり肩関節障害から考えた投球動作における必要な身体機能として肩関節後方の柔軟性、肩甲骨後傾可動性、胸椎伸展可動性になると考えられます。
次に肘関節障害の病態としては、内側側副靱帯損傷、離断性骨軟骨炎などが挙げられます。
これらは肘外反ストレスによって伸長ストレスや圧縮ストレスが生じております。
肘関節においても最も障害が発生するフェーズはMERであると言われています。
つまり肘関節障害においてもTERを目指すべく、肩甲骨後傾や胸椎伸展が必要な機能となります。
また肘においては肘下がりがよく見られることから、肩関節下方の柔軟性も必要となります。
つまり肘関節障害から考えた投球動作における必要な身体機能として肩関節下方の柔軟性、肩甲骨後傾可動性、胸椎伸展可動性になると考えられます。
また投球フェーズからも必要な機能を考えてみましょう。

肩関節
EC~LC:内旋位外転から外旋位外転(水平外転が伴う)
Acceleration:最大外旋位
BR~FT:水平内転を伴いながら屈曲位内旋から伸展運動
肩甲骨
EC~Acceleration:内転位での上方回旋、後傾、外旋
BR~FT:外転・内旋運動と下方回旋
胸郭
EC~LC:伸展、右偏位(左側屈)、投球側回旋
Acceleration:伸展、左側屈
BR~FT:屈曲、非投球側回旋
投球フェーズからはこのような機能が必要であることがわかります。
スクリーニングテストではこれらの機能を反映したものにしていく必要があると考えます。
スクリーニングテストの方法
現在スクリーニングテストは3つに絞って活用しています。
この3つのスクリーニングテストについて紹介していきます。
スクリーニングテストは細かい数値化などは行わず、基準を設けてできるかできないかというかたちで評価していきます。
オーバーヘッドスクワット
方法:
足幅を骨盤幅程度とし上肢は最大挙上位とする。その姿勢からフルスクワットを行う。その際、つま先からの垂線より前に体の一部が前に出ずに行えた場合は陰性とする。
陽性となった場合は、上肢を胸部でクロスさせ再度フルスクワットを行う。もしこれで陰性化した場合は上半身に機能低下があることを示唆する。
両方で陽性の場合は上半身と下半身の両方に機能低下がある可能性がある。
機能:
主に全身的な矢状面上のmobility
上半身は肩屈曲、肩甲骨上方回旋・後傾、胸椎伸展
下半身は股関節屈曲、膝屈曲、足関節背屈
トランクスタビリティープッシュアップ
方法:
腹臥位となり、両母指を顎の硬さになるように顔の横に置く。その姿勢から頭部から足部まで一直線のまま全身をプッシュアップの開始肢位まで挙上する。
挙上する過程で全身を一直線で保てない場合は陽性とする。
機能:
主に全身的な矢状面のstability(特に上半身)
腱板筋力、前鋸筋、腹筋群
ショルダーモビリティ
方法:
片側の手を結髪方向から、もう一側の手を結帯方向から回し、背部で手指同士が触れられるかどうか評価する。
手指同士が触れられなかった場合は陽性とする。
この評価は結髪方向からと結帯方向からの両肢位を実施するようにする。
機能:
上肢・胸郭のmobility
結髪方向→肩関節屈曲、肩甲骨上方回旋・後傾、肘関節屈曲
結帯方向→肩関節伸展・内旋・内旋位外転、肩甲骨下方回旋・内転、胸郭伸展
スクリーニングテストの活用
スクリーニングテストを終えるとその選手のおおまかな全身の身体機能が見えてくると思います。
それに選手の疼痛が出現するフェーズや、動作のエラー、再現痛が取れるストレステストなどと照らし合わせることをしていきます。

例えばMERで肩痛を認め、肩甲骨の上方回旋や後傾、胸椎の伸展などで疼痛が軽減するような選手がいた場合、オーバーヘッドスクワットやショルダーモビリティの投球側が結髪方向で陽性となるとスクリーニングテストに関連因子が含まれていることがわかります。
この照らし合わせることが大事な視点となります。
スクリーニングテストを知るとスクリーニングテストを陰性化することが目的となってしまう場合があります。
しかし目的は目の前の選手の主訴を改善することです。
選手の主訴を我々の専門知識で表現できるようにすることを目標に進めていくと目的のすり替えが起こらず済むかと思います。
照らし合わせができたらここからは各局所の詳細な評価に入っていき、どの部位の問題なのか、mobilityの問題なのか、stabilityの問題なのかなどを詰めていく作業となります。
このあたりは通常の臨床で行っていることと同じだと思います。

上記の例でいくと、肩甲骨上方回旋や後傾は単純な肩関節屈曲運動でも評価することができると思います。
肩関節屈曲運動でエラー動作が見られれば、上方回旋誘導や後傾誘導などを行い改善が見られればこれらの動きを制限する因子の評価を行います。
これらの動きを同時に制限する因子としては小胸筋が挙げられます。
小胸筋の評価
・背臥位時の肩峰と床面の距離
・側臥位で体幹を回旋したときの肩峰と床面の距離
・他動での肩甲骨内転位での上方回旋や後傾運動の可動域や抵抗感
・圧痛や触知した際の硬さ
などがあります。
これらの評価をし陽性だった場合は小胸筋に対してアプローチしてみましょう。
アプローチをした後はこれまで行ってきた評価を戻るように再評価していきます。
そうすると「小胸筋の硬さは改善できたが肩関節屈曲運動は改善されないのであれば原因因子は小胸筋ではない」や「肩関節屈曲運動まで改善されたがオーバーヘッドスクワットは改善しない」などいろいろなパターンが出てくると思います。
このような展開に持っていけるとどこのレベルで引っかかっているのかが明確となり、治療方針を維持するのか変更するのか決断がしやすくなると思います。
おわりに
今回は投球障害に対するスクリーニングテストを紹介しました。
冒頭でも述べましたが、スクリーニングテストで陽性になったから即介入するというわけではないということがお分かりいただけましたでしょうか。
スクリーニングテストは短時間でかつ簡便で全身の身体機能をおおまかに把握できるため重宝します。
しかし陽性となる原因までは明確にすることはできないので、追加で詳細な評価が必要となります。
そのため場面に応じてうまく使い分けてもらえるとよいかなと考えています。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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