C-I Baseballの現場編記事を担当する佐藤康です。
学生野球が試合期に入り、投球障害だけでなく、捻挫や打撲・骨折などの競技中の外傷により受診する選手をみることが多くなっています。その中で、肩関節の脱臼したケースの競技復帰に向けた基準・判断は対応に悩むことも多く感じています。
日常生活レベルの動作の獲得まではクリアできても、グラウンドレベルでの実践の動きの獲得に向けたゴールの設定については、試行錯誤の連続です。
そこで今回は脱臼肩をテーマに病態を整理したうえで、競技復帰プログラムやその条件について、アスリハを中心に考えていきたいと思います。
野球の場面で起こる脱臼
脱臼とは
まずはじめに、
肩関節の脱臼について整理していきます。
肩関節脱臼の発症は
接触や転倒などによる外傷性と
オーバーヘッドスポーツなどの反復動作による非外傷性
に大きく分けられ、発生頻度は外傷性によるものが多くみられます。
また、外傷性肩関節脱臼の
90%以上は前方への脱臼です。
前方脱臼は肩甲上腕関節において、
上腕骨が上腕遠位後方へ引かれる(外転外旋位での水平伸展強制や過屈曲する)ことによって、骨頭が前方へ移動しようとする力が加わります。
その結果、関節包、関節唇 (Bankart損傷) が損傷し, 同時に関節窩の骨折や上腕骨後外側の骨欠損 (Hill-Sachs 病変) が起こります。
若年層では高い確率で脱臼を繰り返してしまう反復性脱臼に移行するケースが多く、スポーツを継続する場合、Opeが必要となってきます。
<Opeの必要性と保存療法の判断とは>
Opeが必要か否か、医師の判断により、さまざまな報告がありますが、初回脱臼例では、まず保存療法を行い、再脱臼・再亜脱臼例にはBankart修復術等により対応されます。
一般的には以下のような対応が多いのではと思います。
脱臼の誘因動作
野球選手の外傷性脱臼は
どのような場面で発症することが多いのでしょうか。
画像でも前述しているため、
既にイメージできる方もいるかもしれませんが、
▶走塁時のヘッドスライディング
▶守備でのダイビングキャッチ
が主な受傷機転となり、最も肩関節脱臼のリスクが高いといえます。
▶走塁時の受傷
下図を参照にしていきます。
ランナーの帰塁動作時では、左に反転し、右手を伸ばしてベースの角に触れるようにスライディングをしていきます。
そこに守備側のタッチや相手の体が乗りかかってしまうことで、肩後方から前方への強い外力により、右肩の脱臼の危険性が高くなります。
つまり、右投げの選手の場合、
投球側の受傷をきたしてしまいます。
▶守備時の受傷
ダイビングキャッチによる捕球時は、右投げの場合はグラブ側の左腕を伸ばして捕球をします。
着地時に過度な水平伸展や外転/外旋位・過屈曲位が強いられることで受傷します。
そのため、非利き手側の受傷頻度が高くなります。
これらの動作は、飛び込んだ際に、受け身が取れず手だけで支えようとすると脱臼につながりやすいといえます。後述しておりますが、復帰に向けたリハビリにおいても上記の動作の獲得・復帰については精査していく必要があると思います。
投球側の受傷・非投球側の受傷、両者においても競技復帰する上で十分な可動域等の機能の回復が求められますが、特に投球側の場合、投球動作を行うことのできる肩の回旋機能が求められるため、投球側の受傷の場合は受傷前のパフォーマンスレベルに戻ることが難しくなることも少なくありません。(例:受傷前:投手→受傷後:野手)
リハビリテーション目標
肩関節脱臼における
リハビリテーションの目標として
競技復帰+再脱臼予防を
第一に進めていきます。
再脱臼の予防
先述しましたが、
関節唇や骨転位が軽度の場合、
保存療法が選択されることが多いと思います。
外来臨床の場面でも保存療法での対応が多いことや文献での報告も少ないため、今回は保存療法での対応を中心にまとめていきます。
保存療法の場合、受傷後の診断後、
一般的に約3週間の固定期間の後に、
リハビリを開始し、3ヵ月程度で復帰する目安で考えられています。
スポーツ選手における再脱臼率の比較として、
保存療法群:47~95%
手術療法群:4~16%
上記により手術療法群で良好な成績が報告されていることから、早期より選手に対して手術療法の選択が勧められている傾向です。
脱臼しやすい動作や機能回復が不十分のまま競技復帰をしてしまうと、競技中にその動作を繰り返してしまうため、再脱臼する外力がかかる可能性があります。
そのため、初回脱臼時、もしくは習慣的に脱臼がどのようにして起こったのか?について詳細に把握しておく必要があります。
メディカルリハビリテーションの目標
メディカルリハビリテーションにおいては、
可動域の獲得に加え、上腕骨の骨運動を適切に求心位で保持できることがポイントとなります。
特に難渋しやすいのが、外転外旋可動域です。投球側の受傷の場合、この可動性が低下することで投球パフォーマンスの低下に直結してきます。また、肩甲上腕リズムの破綻は、肩関節外転運動時における上腕骨頭の求心性を低下させ、前方偏位を助長する要因となります。
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