投球障害肘の実際【トレーナーマニュアル35】

投球障害肘の実際【トレーナーマニュアル35】

C-I baseballの【advance course 野球選手のみかたを深める】の発信を担当する小林弘幸です。

スポーツDrと一緒にエコーを用いて、選手の病態を理解し
障害の原因追及を大切にしています。

病態を理解し、しっかりと評価することによって
現在の傷害の原因をはっきりることができれば、
医療機関と現場との橋渡し的な役割を果たすことができると思います。

投球障害肘とは、
肘関節周囲が痛くて投球が完全にはできない状態のことを指します。

成長期の肘障害と成人期の肘障害では
考え方が異なります
ので、
その部分は投球障害肘の病態の部分を参考にしてください。

※紹介する症例すべての方には説明・同意を得た上で、
紹介させていただいております。

投球障害肘での大切なこと

投球障害肘の選手において大切にしていることは、

・局所評価をしっかり行う(評価)
・single-plainを獲得する(治療)
の2つです。

投球障害肘は、局所に症状が出ますが、
その局所だけが問題で肘関節に症状を生じることは少なく、
全身の問題から局所の問題へと波及してくることが多いと感じています。

そのため、
・肘関節の問題
・全身の問題

をしっかりと把握していくことが重要かと思っています。

図4

今回は、投球障害肘に多い、
【内側】肘障害について述べていきたいと思います。

内側の投球障害肘には大きく

・内側側副靭帯損傷
・上腕骨内側上顆裂離骨折
・肘頭骨折
・後内側インピンジメント症候群
・尺骨神経障害

などがあります。

病態に関しても考えながら、
実際の評価方法、治療を話していきます。

実際には、評価でしっかりと病態を把握し、
治療では、single-plainを獲得するというコンセプトで行うことが多いかと思います。

局所評価をしっかり行う

肘関節は単関節運動であるため、
内外反の動きには脆弱で、内側障害の場合は特に外反ストレスが原因で受傷してしまうことが多いと考えています。

投球動作という複雑な動きの中で、
肘関節、特にMERでは、出来る限り屈曲伸展の動きのみで投球動作を完結したいと考えています。

肘関節屈曲伸展のみでの投球動作

痛みを理解する、そのためには、
肘関節自体にどのように痛みが出て
どのようなストレスが加わっているのか
が明確にならないと、
自分が治療した後、なぜ良くなったのかを
解釈することができません。

解釈ができないと、その選手の再発にもつながります。

この部分は、しっかりと評価していく必要があると考えています。

single-plainを獲得する

肘関節は、他部位からの影響を大きく受け、
被害者になることが非常に多いと考えます。

運動連鎖を考えると、一部分の可動域が制限されると、
他部位の可動域が多くなり

投球動作のような下肢からエネルギーを伝えていくような動作では
より末梢に過負荷が生じてしまうと考えられます。

投球動作における運動連鎖の考え方
投球動作における運動連鎖の考え方2肘を考える

single-plainを考えることは、肘の外反ストレスが生じているのか否かを
把握できる
と考えております。

投球動作確認(Throwing plane concept)

MERでの肘関節外反ストレス軽減のためには、
MERで他の部位がどの程度動いているのかを知ることが大切です。

MERでの投球動作確認(Throwing plane concept)

肩甲上腕関節(GH)だけではなく、
肩甲骨や胸椎、股関節等がしっかりと可動することが重要です。

それらの部位が動かないと、
MERでのSingle-planeを獲得できず、
肘関節に外反ストレスが生じてしまう
のではないかと考えています。

MERでの投球代償動作確認
MERでの投球代償動作確認②ー1

なぜ、屈曲伸展以外の動きが生じてしまっているのか、
どうすれば改善できるのかを模索しながら治療に当たっていくことが
大切なこと
だと思っております。

そして、その答えは、肘関節以外に生じていることが多いのではないかと考えています。

肘関節評価の実際

肘関節の局所評価としては、

・関節可動域
・外反ストレステスト
・伸展ストレステスト
・圧痛
・MMT

を主に行います。

関節可動域評価

野球選手の肘関節関節可動域に関しては、
End-feelの確認を丁寧に行います。

屈曲伸展に関しては、
骨性に変形してしまい、制限が生じてしまう症例も少なくありません。

ただし、回内外に関しては筋性の制限があることも少なくないので、
End-feelを感じながら丁寧に評価します。

①屈曲伸展可動域

屈曲伸展に関しては、筋性の制限なのか骨性の制限なのかを分けて
評価をしています。

筋性の評価なのであれば、どの筋が制限を出しているのかをしっかりと見極める必要があるかと思います。

※右肘伸展制限有。

この後評価する、
前腕の回内外とも複合的に制限が出る部分ではありますので、
まずは屈伸に関しては把握するということが重要かと思います。

②前腕回内評価

野球選手において、前腕回内制限は多く生じると思います。

一見、回内ROMには問題ないように見える選手でも、
正確に評価すると制限があるような選手も見られます。

回内制限をきたすものとして、
・前腕伸筋群過剰収縮によるもの
・腕尺関節(輪状靭帯)由来のもの
・上腕筋と円回内筋由来によるもの

上記の要素を考えています。

回内運動においては、
尺骨を軸に橈骨が回旋するということを念頭に置かねばなりません。

回内運動の要素

それを考えた上で評価をすると、
尺骨を軸に回内を観察することが大切です。

評価する際には、
第5指を軸に回内を評価しています。

第5指をベッドに接地させたまま、上腕骨を固定して回内を観察します。

※患者には同意を得ています。
※野球選手ではありません。右の回内制限+。

この方法で評価すると、
制限のある選手が多くいます。

外側が詰まる選手には、
橈骨頭の回内運動を輪状靭帯が抑制していないかを評価し、
肘関節前面が詰まる選手には、
上腕筋と円回内筋間を評価します。

ここでは、前方のつまりを仮定し、
上腕筋と円回内筋の動態評価をします。
この部位に関しては、エコーを使用して評価します。

そうすることで、どのような動態をしているのかがわかります。

回内運動時の筋動態

上腕筋と円回内筋間は前腕の運動においては、非常に大切です。

回外においても同様の評価をします。

③前腕回外評価

野球選手において、前腕回外制限も多く生じると思います。

・前腕屈筋群過剰収縮によるもの
・方形回内筋由来のもの
・尺骨神経由来によるもの

これも病態がオーバーラップしていることが多いので、
しっかりと評価することが大切です。

ここでは、
前腕遠位回外制限と
前腕近位回外制限とを評価したいと思います。

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