投球障害肘の病態の捉え方 -前腕と手をなぜみるのか-【トレーナーマニュアルvol.4】

投球障害肘の病態の捉え方 -前腕と手をなぜみるのか-【トレーナーマニュアルvol.4】

C-I Baseballで投球障害肘について担当することになりました新海 貴史です。

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普段は整形外科病院で投球障害の選手のリハビリテーションを行い、競技復帰をサポートしております。現場での帯同は行っておりませんが、臨床目線でお話させていただければと思います。

Twitterでも臨床目線で情報発信をしています🔽

今年度のC-I Baseballが発信する「トレーナーマニュアル」では、
野球のケガに関わる専門家向けの臨床編
選手のパフォーマンスに関わる現場編について配信していきます。

今回は臨床編として投球障害肘の病態の捉え方と、投球障害肘を診る際になぜ前腕や手にアプローチしなければならないのかについて私なりの意見も含めながら説明させていただきます。

はじめに

投球障害肘は野球においてボールを投げるという動作によって生じる肘障害の総称です。下の画像で表すように、投球障害肘と言ってもその内容としては様々な疾患や病態が含まれています。

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投球障害肘の細かな病態については小林弘幸さんが解説して下さっています👇

投球障害肘の評価とアプローチの実際については須藤慶士さんが解説してくださっています👇

是非上記記事も参考にしてみて下さい。

投球障害肘の選手を対応する際には病態を正確に把握し、それぞれの病態に合った適切なアプローチをする必要があります。

投球障害肘の分類

ここでは4つの観点から投球障害肘を分類し、説明していきます。

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年齢による分類

✅12歳頃までの学童期に生じる「成長期の障害」

✅17歳前後以降に生じる「成人期の障害」

に分類することができます。13歳〜16歳までは「移行期」と言われています。

投球障害肘を対応する際は、年齢や画像所見・Dr.所見などから骨化が完了しているかを把握し、成長期の障害なのか成人期の障害なのかを把握することが必須となります。

成長期と成人期の障害を同じように考えてはいけません。

障害を受けている組織による分類

✅硬組

骨、軟骨といった硬い組織を指します。成長期では骨端の成長軟骨が脆弱であるため、障害を受けやすい組織となります。

✅軟部組織

筋、腱、靭帯、神経といった軟らかい組織を指します。成長期が終わり肘の骨化が完了すると硬組織は障害を受けにくくなり、これらの軟部組織が障害されやすくなります。

肘関節の部位による分類

肘関節を内側、外側、後方の3つの部位に分けて障害を捉えていきます。以下に代表的なものを列挙させていただきます。

✅内側

内側上顆骨端障害、内側上顆骨端裂離損傷、内側上顆骨端線閉鎖遅延・閉鎖不全、内側側副靭帯損傷、内側上顆骨端線離開、内側骨端核複合体離開、尺骨神経障害

✅外側

離断性骨軟骨炎、滑膜ヒダ障害

✅後方

肘頭骨端線離開、肘頭骨端線閉鎖不全、肘頭疲労骨折、肘頭先端骨軟骨障害(成長期の後方インピンジメント障害)、後方インピンジメント障害、変形性肘関節症

診断は医師が行いますが、投球障害肘と言っても各部位においてこれだけたくさんの障害があるということは我々も知っておかなくてはいけません。

障害のメカニズムによる分類

上記の部位による分類と合わせてそこに対してどのような外力(メカニカルストレス)が加わっているかによって分類します。

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成長期成人期に大きく分類した後、その中で代表的な投球障害肘を分類すると以下のようになります。この辺りは必ず押さえておきたいポイントです。

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前腕・手をなぜみるのか

ではなぜ投球障害肘を呈し肘関節が痛い選手の前腕や手に着目する必要があるのでしょうか?

現場や臨床では主に患部となりやすい肩関節や肘関節をターゲットとしてアプローチすることが多いと思います。しかし、投球動作は全身動作であり、下肢で生み出したパワーを体幹→上肢へと連動させていく運動になります。末梢も含め、全身の各関節がそれぞれしっかりと機能することが重要です。

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前腕では回内外運動に伴い、腕尺関節腕橈関節近位橈尺関節遠位橈尺関節で関節運動が生じます。この様に多くの関節が関わる前腕運動が破綻することによって、投球動作時の肘関節周囲へのメカニカルストレスが増大します。そして肘関節周囲のストレスが増大した状態で投球負荷が繰り返されれば様々な組織が損傷を受けやすくなります。

投球時における肘外反ストレスに対する動的制動機能として、前腕回内屈筋群の機能が重要であることは多くの研究や文献でも報告されています。投球時には内側側副靱帯の破断強度を超える外反ストレスが加わると言われています。ダイナミックスタビライザーとしての前腕機能は障害予防の観点から重要となります。

またパフォーマンスの観点から見ると、手関節や手指の機能は投球動作のphaseの中でも主にボールリリース前後で重要になってくると考えます。

先行研究においても以下のように述べられています。

”ボールに伝えられるエネルギーの大部分は手関節の関節力パワーに起因し、そのほとんどは体幹や肩関節の運動によって生み出されたエネルギーが関節や筋・腱を介して転移することによってもたらされることから、手関節や手指がボールリリースにおけるエネルギー伝達に重要な役割を果たしている。”
宮西 智久,藤井 範久,他:野球の投球動作における体幹および投球腕の力学的エネルギーフローに関する3次元解析.体力科学.1997; 46(1):55-68.

ボールに力を伝えるための最終的な効果器は「手指」になりますので、投球動作、投球障害を語る上で外すことはできません。

後に述べますが、神経障害がある場合は前腕や手指に何らかの症状が出ている場合も多いです。症状としては”肘の痛み”かもしれませんが、その病態を捉えるために前腕以遠の評価は必須となります。

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このように障害を理解する上でも、パフォーマンスの観点からも前腕や手の機能は非常に重要になります。

以上の理由から野球選手においては肩肘のみでなく前腕・手関節・手指の機能に着目する意義があると考えます。肘が痛いからと言って肘の周りだけを見ていれば良いという訳ではありません。

評価

ここからは実際臨床で投球障害肘の選手を担当することになった際の病態把握のための評価について説明していきます。評価の流れの例を下に示します🔽

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あくまで病態把握のための評価であり、介入の際には追加で筋力評価や患部外機能評価などが追加で必要になります。

問診

医療機関であれば基本的に医師による診察があるためリハビリに来る前に情報がある程度揃っていることが多いですが、不足している部分に関しては我々セラピストやトレーナーが聴取しなければなりません。病態把握のために問診は非常に重要であり、問診が正しく行えるとその後のリハビリのプランを決めるための多くの情報を得ることができます。ここでは、最低限必ず押さえておきたいポイントについて記載します。

①基本情報

✅身長、体重、ここ最近の身長の伸び具合、スポーツ歴、利き手…etc.

②野球歴・ポジション・○投○打(左/右)

③疼痛

✅いつから疼痛が出たのか

✅疼痛発症のきっかけ(誘因)▶︎”練習や試合でたくさん投げた”、”遠投をした”…etc.

👦「あの1球で…」➡︎”1球のエピソード”があるかどうか▶︎裂離損傷の可能性

✅疼痛の種類▶︎鈍痛、刺すようなシャープな痛み…etc.

✅疼痛の部位▶︎内側、外側、後方

✅疼痛出現のタイミング▶︎安静時痛、曲げ伸ばしでの痛み、ADLでの痛み、体育の授業で痛いか、投球時痛、MER付近、リリース付近…etc.

👆必ずとは言えませんが内側障害ではMER付近外側障害ではリリース後方障害ではリリース・フォロースルーで痛みを感じている選手が多いです。

✅疼痛の強さ▶︎NRS、VASなどで評価

④既往歴

✅今まで肘を痛めた既往があるかどうか、初発なのか

✅肘以外(肩、体幹、下肢)の障害の既往があるかどうか

⑤治療歴

✅専門医療機関 or 非専門医療機関

✅その時の診断

✅受診歴あればその際にどのような対応を受けたか

✅ノースロー期間、ノースローで疼痛軽減したのか

✅段階的に距離を伸ばし、日数をかけて復帰したのかどうか

⑥チーム環境

✅チーム内の立場(レギュラーか控えか)

✅チーム指導方針▶︎練習頻度・時間、休みの有無、指導者とのコミュニケーション

✅大会日程、目標とする試合や大会があるか

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問診が正確にできれば部位や重症度、どのようなストレスが原因で痛みを誘発しているかを大まかに捉えることが可能です。

💡障害を引き起こしてしまった原因を探り、選手の全体像やバックグラウンドをしっかりと把握しましょう❗️

次項からは身体所見の評価に移ります。

視診・アライメント評価

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問診が終わったら、両肘を伸ばしてもらい外反アライメント前腕尺側筋群の筋萎縮橈骨頭前方偏位母指球筋・小指球筋の筋萎縮の有無などをスクリーニング的にチェックします。合わせて伸展制限の有無や肘伸展運動に伴う疼痛の有無もチェックすると良いと思います。

触診・圧痛

次に、触診・圧痛所見の評価に移ります。

肘関節は小さい範囲に多くの組織が集合しているため触診や圧痛の評価を行う際は指腹ではなく必ず指尖でピンポイントに触るよう留意します。

◉内側

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