定位能力を高める‐成長期のトレーニング-【トレーナーマニュアルvol.162】

定位能力を高める‐成長期のトレーニング-【トレーナーマニュアルvol.162】

いつもお読みいただき、ありがとうございます。
C-I Baseballの佐藤です。

C-I Baseballでは2024.1月より東京都内で小学生を対象にしたアカデミー事業を運営しております。2022年からは東京都内のリトルリーグチームにも帯同をし、多くの小学生の野球に携わってきました。

同活動における小学生選手に関わる中で、打球や送球の距離感や動きの強弱が苦手な選手を見ることが多く、技術練習の中でも克服するのに悩んでいる選手が多くいることを同時に感じています。

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要因は競技の経験値や技術の習得におけるスキル要素など、さまざまにあるかと思います。

そういったケースに対して、運動指導やトレーニング指導をする現場では、どんなアシストができるでしょうか。

その要素を考えたときに、成長期の選手に対し基礎運動の構築やコーディネーション能力の向上を目的とした介入を考えます。

今回はその一例をご紹介していきます。

定位能力

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例えば、内野ゴロをアウトにするためには、自分の位置と送球するベースまでの距離感を認識する必要があります。

定位能力
知覚のはたらきによって方向や距離、あるいは位置関係を瞬時に察知し、それに合わせて身体の姿勢や動きをタイミングよく方向づけ、全身を巧みにコントロールする能力

引用:文献1

言い換えれば、動いているボールの動きなどに対して動きの変化を正確に把握し、調節する能力といえます。ボールの動きにより左右される野球のプレー中では、さまざまな場面で「定位能力」が必要とされます。

野球のプレーでの例で考えていきます。
例えば、内野守備の場面において、
捕球→送球というプレーを想像してみましょう。

①打者が打ったゴロ打球に対して、バウンドを合わせる

②捕球したボールを正確に送球するために、味方選手の位置や動き、相手のランナーの走るスピードなども計算に入れる

これが「定位能力」が必要とされる一例といえます。

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もちろん予測ができないイレギュラーバウンドの処理などは例外ですが、対象物の動き・速度に対して適切に動きの強弱ができるかどうかが、定位能力が試される部分といえます。

視機能の重要性-視空間認知-

定位能力を理解する上で、
視機能の解釈は重要であると捉えています。

先述したボールのバウンドや相手の動きなど、目からの情報入力が欠かせず、視覚機能の貢献が必要であることは言うまでもありません。

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目で物体を捉える能力は、大きく分類し、
①視力
②視覚機能
③情報処理

の3つが挙げられます。

野球のプレーに活かすのはいずれの要素も重要ですが、特に「情報処理・出力」の部分はトレーニングで関われる部分も多いのではないでしょうか。

▶視空間認知
目に入った情報の空間内での位置や方向、
大きさや距離感などを把握する能力
(ボールの落下地点・軌道など)

「(打球に対して)このままのスピードだと弾いてしまうから、少し緩めて動こう」など、自分と対象物(ボール)との位置関係を空間・時間的に把握することができるようになります。いわゆる定位能力につながる部分です。

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自己と空間の相対的位置の把握には視覚-眼球運動系と前庭系との相互作用が不可欠となるといわれております。

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つまり、空間認知に関わる感覚情報としては、視空間認知のための視覚情報、視覚の対象が動く場合は眼球運動によって動きの情報を得ることができ、自己の動きが伴う場合は前庭感覚を含む体性感覚系(運動感覚)も必要とされるということです。

空間認知のメカニズムの説明については、割愛させていただきます。

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視空間認知

眼球運動については以前の記事でまとめておりますので、ご興味のある方はこちらもご覧ください。

成長期に高めるべき定位能力

神経系の発達が著しい成長期の世代の関わりとして、コーディネーション能力の向上が重要であることは以前にもお伝えしました。

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コーディネーション能力の構造図をみるところより、運動操作能力・適応変換能力の両者を併せ持つ「バランス-定位-リズム能力」は運動基礎となる要素であるため、その能力を高めることは重要であるといえます。

いわゆる、これら3つの能力が未発達な状態や統合されていない状態を「上手にプレーできない」「運動神経が悪い」につながるのだと捉えています。

トレーニングに介入すべき要素

ここまで定位能力における目の重要性についてお伝えしてきましたが、同時に運動機能と統合していくことが実際に求められる部分になります。ここでは、運動能力間との関係性としてコーディネーション能力の要素と絡めて捉えていきます。

①識別・連結能力との関係

▶連結能力
手や足など意図する動きに合わせて動かす能力

自分と相手・対象物との位置関係を把握した上で、その距離に応じて、ボールに伝える力を加減する(調節する)必要があり、定位能力との関連性の高い要素になります。

そのため連結能力を高めることは、イメージした思い通りに身体を動かす基礎となり競技の技術的な上達にも欠かせない要素になります。

そのため、トレーニングにおいても自分自身の体を思うように動かしたり、安定して支えることができる連結能力を高めることを重要視しています。

②バランス機能
先述した野球でのプレーをなすための前提条件として、姿勢制御と重心コントロールできる能力が重要です。

特に「バランス機能」はすべての運動の基礎となるため、姿勢や重心のコントロールが適切にできないと、位置情報を司る「定位」にも影響が出ることで、運動の精確性が落ちてしまいます。

成長期の子供を対象としたトレーニングにおいて、これらの能力を高めるには、36の運動基礎にある「姿勢に関する機能の運動」や「重心に関する機能の運動」が選択的にプログラムできるとよいかと思います。

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引用改変:一般社団法人KISSインターナショナルインスティテューツ

以下のnoteリンクでは基礎運動のプログラムもご紹介しております。

また、当団体のアカデミーでは、基礎運動として、パワーポジションの獲得を重要視しており、ジャンプやスローイング、スイングなどの競技に近い動きの前に必ず動作獲得を図っています。

さいご

ここまで、定位能力をテーマにトレーニングの組み立てをまとめてきました。一例として、ご紹介はしましたが、運動経験や動作の習熟度によって、トレーニングの難易度は変わります。

その変数をどのように変えるか。動作速度や感覚情報の刺激、求めるタスクの数など、成人同様にプログラムの調整は常にしながら、現場で指導をしています。

これから成長期の選手やチームに指導する方々のご参考になれば幸いです。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

参考文献

1 動画でわかる サッカー・コーディネーショントレーニングバイブル:泉原喜郎 著
2 「スポーツ万能」な子どもの育て方:小俣よしのぶ 著
3 小野誠司:特集「空間認知能力を形成するメカニズム」に寄せて:バイオメカニズム学会誌.Vol. 41.No.4(2017)

Writter

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|佐藤康
C-I Baseball副代表
理学療法士
NASM-PES
中学部活動指導員
X(旧Twitter):@ko_bmk

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