投球の『回転軸・回転効率』について【トレーナーマニュアルvol.199】

投球の『回転軸・回転効率』について【トレーナーマニュアルvol.199】

いつもC-I Baseball「トレーナーマガジン」をご購読頂きありがとうございます。

さて、私の直近の担当記事は

投手の『球速』についてと投球の『回転数』についてでした。

※過去の記事は下記を参照してください。

https://c-ibaseball.com/trainer-manual-vol186



今回は、「回転軸(回転方向・ジャイロの角度)・回転効率」についてお話します。

現在、野球の現場では通常のスピードガンだけではなく、ラプソードやトラックマン等のトラッキングシステムが浸透してきています。

まだ、トラッキングシステムがどのようなものか知りたい方は下記HPをご参考ください。

ラプソードHP

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トラックマンHP

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私自身も2022年からラプソードを所有し、500人以上のピッチングデータを測定しています。

そこで、球速以外にも測定可能な項目があり、今回は、『回転軸・回転効率』についてより掘り下げていきます。

野球の現場に関わる方々に『回転軸・回転効率』についての理解をより深めていただきたいと思います。


ここではラプソードの計測を元にお話をしていきます。

1. 「回転効率」とは

「ボールの回転がどの程度の効率で変化量に影響を与えているか」ということなので、100%に近いほど大きな変化量を生み出していると言えると思います。

難しい話はさておき、ラプソードで表示されるデータの中では「ジャイロの角度」が、この回転効率に大きな影響を与えます。

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ストレート(4シーム)でいうと、ジャイロの角度が0°に近づけば近づくほど、回転効率が100%に近づき、縦の変化量もホップ成分が大きくなります。

なのでストレートだけでいうと、ジャイロの角度を0°に近づけることが、最初に取り組むべきことだと言えます。

圧倒的に多いのが右ピッチャーだとプラスのジャイロ角度、左ピッチャーだとマイナスのジャイロ角度が大きく、いわゆるスライダー回転しているケースです。

ジャイロ回転してしまう原因は多くありますが、単純に回内のタイミングが遅く手の平がキャッチャー方向に向く前にリリースしていることもよくあります。

野手(特に外野手)は比較的ジャイロの角度が0°に近い傾向にあります。

おそらく、18.44mよりも長い距離、特に外野手はワンバウンドさせた後も真っ直ぐボールが進むように、普段から練習しているからだと思われます。

そういう意味では、日頃から投手も内外野の送球を行ったり、キャッチーボールでも長い距離を真っ直ぐ投げたりするような練習も大事だと思います。

ストレートのジャイロの角度の目安は右ピッチャーならプラス一桁、左ピッチャーならマイナス一桁、できれば5°以内に抑えたいところです。

ここまでは、ストレートに対する一般的な考え方でしたが、変化球についても少し考えたいと思います。

変化球になるとそれぞれの球種や、自分が変化させたいと思っている方向にあったジャイロの角度で投げる必要があります。

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オーバースローのピッチャーが横に曲がるボールを投げたいと思っているのに、ジャイロの角度が0°だったとしたら横に曲げることはできません。

カーブ系は30°前後、カットボールは40°-50°、チェンジアップやフォークなど抜く系は10°辺りというのがMLBの平均となっています。

スライダーの中でも、ジャイロ回転のスライダー(縦スラ)は、ジャイロ回転がほぼ90°で進行方向に対して真横を向いて回転しているボールになります。

というように、基本的にはストレートや野手といった真っ直ぐボールを投げる必要がある場合にはジャイロ回転の小さい回転効率の良いボールを投げることが大前提です。

しかし、常にジャイロ回転が小さい方が良いかというと、変化球を投げる際にはそれぞれの変化の方向に合ったジャイロ回転の角度があるので、その角度を意識して練習する必要があります。


つぎにジャイロの角度を含めた回転軸のお話をしたいと思います。

2. 「回転軸(回転方向・ジャイロの角度)」とは

2-1. 「回転方向」の定義

「回転方向」とは、投手側から見たときにどのような回転でボールが投球されたかを示し、ラプソードでは時計盤の短針に見立て回転方向が表示されます。

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回転方向は利き腕や投球フォーム、球種によって変わります。

ストレート(4シーム)であれば、基本的にバックスピンとなり、垂直方向から30度ほど回転方向が傾き、右投手なら01:00付近、左投手なら11:00付近で投球されるケースが多くなります。

トップスピンのボールは、バックスピンとは真逆の回転方向になるため、ドロップ成分が出やすくなります。

これらのバック/トップ/サイドスピンはトゥルースピンと呼ばれ、ボールの変化量に寄与する回転となります。

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2-2. 「ジャイロ角度」の定義

「ジャイロ角度」とは、リリースされたボールを上空から見た時、回転軸がどのくらい進行方向側へ傾いているかを表します。

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角度は0°~90°(基本右投手であれば+、左投手であれば-)で表され、進行方向と回転軸が垂直の場合は0°、進行方向と回転軸が一致した場合は90°となります。

ジャイロ角度が大きくなるほど、ボールの回転には“ジャイロスピン”が含まれるようになり、 ジャイロスピンはボールの変化量※1に寄与せず、重力のみで落ちていく軌道となります。

すべてのボールはトゥルースピンとジャイロスピンの組み合わせで投球されています。
変化量の詳細については、次回の私の記事で説明予定です。

3. 「回転軸(回転方向・ジャイロの角度)・回転効率」の活用法

3-1.回転軸、回転効率はボールの変化量に影響を与える要素の一つ

回転軸(回転方向、ジャイロ角度)、回転効率はボールの変化量に影響を与える要素の一つでもあります。

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2-1. 「回転方向」の定義で記述したように、ストレート(4シーム)を投球した際、右投手なら01:00付近、左投手なら11:00付近で投球するケース(投手)が多くなります。

一般的に、0:00に回転方向が近くなれば、ホップ成分の強いストレートになりやすく、回転方向が03:00(左投手なら09:00)に近づくようであれば、シュート成分の強いストレートとなります。

また回転効率も変化量に影響してきます。ストレート(4シーム)を例に取ると、回転効率が100%に近いと変化量が大きくなるため、回転方向に依って、よりホップしたりシュートしたりするストレートとなります。

逆に回転効率が低いストレートの場合、変化量が小さくなるため、ホップ成分やシュート成分は小さくなり、いわゆる”真っスラ”と呼ばれる球質になります。

以下はラプソードを活用しているMLB投手の変化球ごとのデータ一覧です。

「SPIN EFFICIENCY」が回転効率を示しており、ストレートにおいては95%と非常に高い回転効率で投球する投手が多いことが分かるかと思います。

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ただし、回転効率が高くないといけないということが決してありません。

回転効率が低いストレート(真っスラ)を投球する選手はMLBにも少なくなく、ラプソード社のテクノロジーアンバサダーである大谷翔平選手もそのうちの一人です。

真っスラは普段見慣れていない変化量のストレートとなるため、それが武器となります。

変化球に関しては、球種によって目指すべき数値が変わってきます。特にスライダー系の球種は、回転効率が低い(ジャイロスピンを多く入れて投球する)球種です。
自身のフォームや球速、どのような変化をさせたいかで、回転軸、回転効率を調整していく必要がありますので、上記のデータ一覧はあくまで参考に見ていただければと思います。

3-2.自分の球種の回転軸(回転方向・ジャイロの角度)・回転効率を理解する

自身の球種の回転軸や回転効率を理解することで、様々なことがわかります。例えば、0:00に回転方向が近いストレートを投げれるようであれば、一般的には、腕の振りが上から振り下ろすフォームになりやすいため、ホップ成分のあるストレート、落ちる系の変化量(フォークやドロップなど)が投球しやすくなります。逆に横に大きくスライドするような球種は苦手になります。

回転効率が低いストレートを投げる投手であれば、スライド系(スライダーやカットなど)が得意球種であることが多く、シュート系(ツーシームなど)の球種は苦手になります。

このように各球種の回転軸や回転効率を把握することで、自分の特徴を知ることができ、効率良く変化球の取得ができたり、球質の改善をすることができます。

4. まとめ

以上、「回転軸(回転方向・ジャイロの角度)・回転効率」についてお話しました。

投球の質を上げるためには球速だけではなく、前回、お話した『回転数』や今回の『回転軸・回転効率』も非常に重要な要素となります。

ラプソードをはじめとるトラッキングシステムの普及によりピッチングの質をたかめるすべは日々、よくなっていきます。

トラッキングシステムを指導者、選手が測定項目をより理解することによりピッチング練習の質を高めるができます。

次回は『変化量』についてお話します。

引き続きCIBのnoteをどうぞよろしくお願いします!

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